ネットダイアリ-47- 偽者昴発見 -2-
地下の作戦室に下りた3人は、並んで座った。
「おっちゃんが井出さんになっていたな」
クスッと笑う美柑さんを横目にして、
「格好だけじゃなく、僕とか美柑さんも、バル君とか美柑ちゃんと呼ばなかったね」
「そういえばそうだ。気がつかなかった」
「井出さんは、きちんとした仕事をしている人だったんだなと実感したよ」
最初から、ただものでないことを昴は感じていたが、こんな風に目の当たりにすると、このままグランソフトで働いていいいのか不安になる。
「ね、ね、昴君。GNAのやり方教えて」
甘えた声で昴にねだる美柑さんに対し
「美柑さんは、イラスト描くんでしょ」
「もう、だいたい終わった」
亮が自分のモンスターをほっといて、
「見せて、見せて」
「亮君には秘密・・・」
笑うしかなかった昴であった。
仕方がないので、美柑さん用にシビリアンを作ることになった。
「まずは、どんな戦い方が好きかと言うことから考えましょう」
「そんなのはいいの。可愛いやつない?」
「それだと、みんなと一緒に戦えないよ」
もともとゲームに対する取り組み方と価値観が違う人に、ゲームの何たるかを語ったところで時間が無駄なので、昴は妖精族から、シルフを選んだ。シビリアンで妖精族を選ぶ人は多くない。
「これはどう?美柑さん」
「うん。いい。いい」
シルフを見て、美柑さんは、単純に可愛いだけいいんだなと昴は思った。
「今度は、名前をつけないと。これ妖精のシルフだから風に関連する名前がいいかな」
「昴君はなぜバルなの?」
また、亮が割り込んできて、
「ス・バ・ルのバルだ」
「あ~、覚えやすい。だから、井出さんがバル君って言うんだね」
「俺は、グランザッキー。かっこいいでしょ」
困った顔をした美柑さんは、
「まあ、そうね」
と流した。
空気を察した亮は、席に戻り、また、モンスターを始めた。
「シルフだから、シルフって言うのもかわいそうだし・・・。名前付けるのって、案外難しいのね」
「例えば、美柑さんの名前、ご両親がつけたのでしょ。いい名前じゃないですか」
「ありがと。私も気に入っているんだ。早乙女ってなんか厳格な感じがして、自分じゃないみたい」
美柑さんは少し考えて、
「みどりんってどう?」
「ミドリンですか。意外と安直ですね」
「え~。バルよりましじゃない」
「そういわれると・・・」
「みどりんでいいと思う。うん」
美柑さんは、「みどりん」と打ち込んだ。
「すでに使用されている名前です。他の候補をお選びください」
画面からのメッセージが出た。ゲームのキャラ名を決めるときに良くある壁の一つである。
「みどりんは、よくありそうな名前だからね」
「でも、ほかの名前にすると愛着がなくなる~」
こういったゲームにありがちなことである。ここで、あきらめて違う名前を安直につけると、すぐにゲームをやめてしまう要因になる。昴の経験から、長くゲームを続ける人は、意味のある名前をつけているように思う。
「よく使うのは、カタカナにするとか、カタカナとひらがなを混ぜるとか、ちゃんとか、たんとかをつけることが多いかな」
美柑さんは、さっそく試してみた。
「やった~。ミドリンで行けた」
意外。美柑さんはついているんだなと思った。
初期のシルフは、攻撃魔法「ウィンドアタック」。あとは、支援系魔法の「ウィンドウォーク」であった。ウィンドウォークは、移動速度を上げる魔法だ。狩りしているときに利用しやすそうだ。追いかけるときも、逃げるときにも使える。初期状態では、単体プレイヤーにしか使えないようだが、レベルが上がると複数人に魔法をかけることが出来るだろう。
「昴君、それで、どうするの」
いちいち教えないといけないと思うと、少しイライラするが、美柑さんの匂いに誘われた蝶のように、美柑さんの要求に従う昴であった。
しかたがない、少しは、付き合うかなと思い、美柑さんに狩りを教えた。
「昴、そろそろ帰ろうか」
亮が声をかけてきた。
「そうね。私も帰るかな。シビリアンをやってみて、少し気がまぎれたから。
それと、プレイヤーから見た風景やモンスターの感じがわかって参考になったわ。
この感覚から、イラストをどういう風に描くかの感じがつかめたような気がする」
偽者の昴のことが気になるが、こんな時間は、心を軽く感じさせる気持ちなった昴だった。
帰ろうと、3人でエレベータに向ったところ、エレベータが開き、井出さんが出てきた。
「昴君、ごめん。捕まえられなかったよ」




