ネットダイアリ-40- 新たな問題 -1-
おっちゃんは、亮の態度には特に反応せず、アルバイトのことを説明した。
「バル君、亮君には、ここの入り方と認証の方法を教えてあげてくれ」
「わかりました」
「亮、今からログインだけで教えておこうか?」
「遅いけど、この勢いで行くかな」
一旦、地下へのエレベータを開け、亮とエレベータに乗った。
「外にあるのか」
「まあ、付いてきて」
二人でエレベータに乗って例の地下作戦室へ。
「あのおっちゃんが本当に社長?」
「亮はさすがだね。そのまんま、あの人の前でおっちゃんなんて言うなんて」
「だって、どう見てもそこらのおっちゃんじゃん」
「まあね」
「GNAを遊ぶだけっていうのも納得だな」
変に納得している亮だが、昴の場合、ネットダイアリの件もあって、おっちゃんを見た時に危険すら感じていた。
エレベータが開いて、
「なにこれ、外じゃない。ここどこだ」
亮は驚いていた。
「ふつう驚くよね」
「かっこいい。こんなものがよくここにあるね」
「僕も最初驚いた」
「それで、いろいろ言いたくても言えなかったんだ」
亮は、昴がすごいアルバイトをやっていて、言いたくても言えなかったと、別の解釈しているようだ。
昴は、亮の誤解は、あとで説明することにして、一つの端末に座り、GNAのログインを説明した。
「手をかざすだけでログインなんてかっこいい。すごい」
「これで、グランソフトのサーバにデータが自動バックアップされるみたい」
「続きを家でやれるってことか」
「家で進んだ分は、ログインしたときに同期するらしいんだけど」
「同期って何」
「家でやって、GNAに残った情報を、ここのサーバと情報を一致させることだよ」
「へぇ、なんかわからないけどすごいな」
わからずに、すごいというのが亮らしい。
「ああ、わかった。武装ゴブリンはここで見たんだな」
「うん。実はそうなんだ」
「僕のウルフは、いま、ウルフソルジャーに進化していて、北側に狩りに行っていたんだ」
「なるほどね。え、ウルフ進化したの。それも、言えなかったんだ」
「今は、音声認識チャットはないけど、そのうち付けてくれるって」
「もしかして、あのおっちゃん金持ち」
「かもね。GNAにこれだけのお金を懸けるなんて、かなりのマニアかもね」
「いいな、大人になっても、仕事と遊びが一緒なんて」
「そうだね。僕もそんなふうになれればいいなと思う」
実際は、謎の監視室だとはまだ言えない。
ただ、こんな風に、気軽に話ができるようになったことは、昴の心の重石を軽くするものだった。
「お、昴、戻ってきたかな。女の子のことはあとでいいから、教えるんだぞ」
「わかった」
と昴はいい、周りを見渡した。まだ、数人が残って仕事しているようだが、美柑さんの姿はなかった。
「遅い時間になったから、家に帰るか」
「アルバイトの件、ありがとね」
「いや、これは、ありがたいよ。GNAでお金もらえるなんて」
実際は、ロシアやら中国やら怪しい国からの攻撃があったことについては、あとで話すことにしよう、と昴は考えていた。
「帰り方も、携帯でエレベータを開けるんだ」
とグランソフトへの出る方法と入る方法を亮に説明して、お互い家へ帰った。
昴は家に着き、いつもどおり、パソコンを点け、ネットダイアリを立ち上げた。特に異常はなかった。もちろん、今日の内容は、書かれておらず、問題はなさそうであった。
「そういえば、GNAもパソコンでやるようにって、おっちゃん言ってたんだっけ」
昴はそう思いながら、画像収集アプリを走らせた。
昴が、ゲーム機から、音声認識するための装置をパソコンに戻し、ネットダイアリ用に画像を探していた時おかしな画像があった。
「これって、校舎裏の雑木林のところかな。今日そんなところ行ったことないけど・・・」
不思議に思いながら、よく画像を見ると、自分以外の人の影が写っていた。その陰から察するに、女性と思われる。
「これは、僕じゃない」
昴には、女性と会った記憶は全くなかった。しかし、画像は昴である。
最近の顔認識技術は発達しているものの、100%一致するわけではない。それを見越して開発したのが、昴専用の画像収集アプリである。
「それなのに、なぜこんなところが写っている。そもそも、校舎裏にカメラあったかな」
また、厄介なことになってきたようだ、と昴は思った。
「おっちゃんに相談する前に、まず校舎裏のカメラを確認しておこう」
「せっかく、亮とグランソフトで一緒に働くことによって、心の重石を軽くしたはずなのに」
と憂鬱になる昴であった。




