ネットダイアリ-35-
その後、美柑さんのリスについて、いろいろと話をした、昴は、各モンスターの進化した姿が必要だとか、モンスターにも社会が出来、街が出来る話をし、美柑さんからは、GNAソフトでは、動きも自動設定されるということと、モンスターそれぞれの動き方について昴に聞いていた。
「遅くなってきたから、帰る準備するね。いろいろとアリガト」
首をかしげるような感じで昴のほうを見た美柑さん。
「いえ、楽しかったです」
素直にいう昴。
内心、ドキドキしていて、声が上ずっていたりしなかったかなと心配するところもあった。
これまで昴は、女性に対して、あまり関心がなかった。あまり話すこともなかったし、話す必要もなかった。
「よし、帰るかな。昴君を待って」
昴は、ネットのケーブルをパソコンに指すだけの作業だが、うれしかった。
異性として、意識する初めての女性が美柑さんなのだろう。
「お待たせしました」
「はい」
いつものように、エレベータに乗り、ビルを出て、美柑さんと別れた。
なんとなく、わくわくしている自分に恥ずかしいという感情と、なにやっているのだか、という侮蔑が入り混じっていた。
家に戻り、GNAを始めた。
家庭用ゲーム機での始めてのプレイだ。
「パソコンの件は、亮に言わないほうがいいけど、操作がうまく出来ないぞ」コントローラをいじりながら、ブツブツとひとりごと。
「バル、いたか」グランザッキーである。
音声入力装置は、パソコンについていたものをゲーム機に付け替えていた。
「はい、はい。今日はなににする」
といつもどおり言ったが、何とかして、簡単な場所で狩りしたいところだ。
「また、武装ゴブリンいくか?」
「ちょっと、動きの練習したいかな」とごまかす。
「なんか、見つけた?それとも、新しいスキル開発した?」
「特に何もないけど、ちょっと疲れているからというのが本音かな」
「そういえば、疲れているといってたな。昨日もつないですぐやめたしね」
「まあね」
東側のウルフあたりを狩りはじめた。
「この辺じゃ、経験値全然ないよ」
「ごめん。ちょっと今までのおさらいをしたくて」
「確かに、動きが悪いね」
ネットゲームとはいえ、動きを見てうまい下手がわかるものである。もともと、昴は、ゲームが変わっても、過去に経験したゲームの操作にあわせて、ゲームの設定か、マウスやキーボードの設定を変えて、最適化するので、すぐにゲームの動きに馴染む。
ゲーム機では、その汎用性がなく、ゲーム機器に自分を合わせないといけない。
「ちょっと、調整していて」
「あ、また、あれか。キーの設定し直しか。でも、今までの動きに悪いところはなかったと思うけど」
「そうかな」
「あ、そういえば、1回俺、倒れたっけ」
「あの時は、ちょっと考え事。操作をし忘れただけ」
「恋の悩みなら聞くぞ~~」
美柑さんの顔が浮かんだ。
「え、本当に恋の悩み」
間が出来たのがバレバレである。
顔が見られていないのが幸いしている。
「ちょっと、キーをいじっていてね。恋の悩みって、グランザッキーのことか」
返したつもりだった。
「いや、最近、なんか変わった感じがするぞ」
まあ、GNAがらみでいろいろとありすぎて、変に忙しい高校生活をしていたからだろう。
「ほら、いろいろとGNAのことであったでしょ」
「でも、この前は、吹っ切れた感じだったけど」
ゲームしていると相手の動きだけでも、相手の機嫌がわかるようになる。
「これは、ちょっと時間かかるかな」と昴は思いつつ、ゲーム機で練習した。
「最近、コンピ研に顔出してないなぁ」と思い、放課後、コンピ研を覗いてみた。いつものように戸村さんの大声が聞こえるはずが、ドアの前まで来ても何も聞こえない。しかも、教室の電気がついていないのだ。
昴が、教室の部屋を開けようとしたが、ドアには、鍵がかかっているようだった。
「そういえば、コンピ研の掲示板見てなかった」
昴は、コンピ研の掲示板を確認した。
当面、コンピ研部室での活動はお休み。各自、大会までの練習を自宅ですること。戸村
有坂と昴が来れなくなって、戸村さんの楽しみが減ったのだろう。
江原さんや御影さんは、自宅で十分楽しめるだろうから。
仕方なくというか、少しほっとして、3階の廊下を下駄箱方向へと歩いていった。ここらは、3年生の教室があるところだ。
「戸村さんいるかな」と昴は思いつつ、キョロキョロしながら歩いた。
ふと、覚えのある匂いが通り過ぎた。
ん、これは、と思い、振り向いたら、髪を後ろに束ねた女生徒が歩いていく。小柄だがどこかで会ったことがあるような気がした。
昴は、気になって、その子を追った。
その子は、屋上へと向う階段を登り、屋上へのドアに手を掛けた。
「あ、これは、行き過ぎた」と昴は思い、引き返そうとしたとき、
「昴君、ストーカーだよ」
美柑さんの声だった。
「あ、ごめんなさい」
「冗談よ。君、よく気がついたね」
「あ、いえ」
「屋上で、はなそ」
「はい」
屋上に行き、美柑さんが振り向いて、昴は驚いた。
めがねがない。背が小さい。幼い感じの女の子だった。
「あ、今、ちっちゃい女の子だと思ったでしょ」
「は、いえ、すみません。はい」
「正直でよろしい」いつもの感じの美柑さん。
「で、どうして、私ってわかったの。職員室にでも行って調べた?」
「いえ、・・・・」
昴は、匂いがとは言えなくて
「雰囲気が似ていて」とごまかした。
「ふ~ん。・・・・・うそでしょ」
「え、なんで」
「だって、私のほうに向って歩いているとき、ぜんぜん気づかなかったのに」
匂いのことを言うと美柑さん気にするだろうか。それとも、昴が変態扱いされるのか。二択ではないだろうが、あまり、いい選択肢ではない。
「ほら、よく、通り過ぎた人が知っている人だったかな。みたいな思い出すやつです」
「めがねかけてないのに?」
昴の目が泳いでいるのだろう。
「本当は、私を探しに来たんでしょ」
本当に、それは違うのだが、
「白状すれば楽になる」というのは本当なんだろうなと思いつつ
「いえ、コンピュータ研究部の先輩がいるかなと思って歩いていただけです」
そこは、本当なので、美柑さんの目を見て言えた。
「で、なんで、私をストーキングしたの」
美柑さんが小悪魔になる。完全に美柑さんのペースにはまってしまった。
「さあ、もうそろそろ、言う気になった」
いや、勇気がない。
「私の目を見てごらん」
「・・・・」
「うんうん。その感じもいいかな」
また、変な。
「よし、あとで教えなさい」
美柑さんから開放された昴だった。そこには、美柑さんの残り香があった。
「これが、犯人なんだけどな」と思って、屋上を後にした。




