ネットダイアリ-25-
ステテコのおっちゃんに連れて行かれた場所は、別世界だった。
おっちゃんに促され、天井の高い、よくある作戦室みたいな円形状のこの空間を、昴は左右上下をゆっくりと見ながら、階段を少し降りた。現実のものとして感じられない。
「そこ空いているから」
おっちゃんが指をさした場所には、正面に湾曲した画面、机はガラスなのか正面の画面が反射している。キーボードらしきものもない。
「一応、指紋認証形式なんで、机に手を当てて」
つるっとしたガラス面に手を当ててみた。
光が点滅し、音声が流れた。画面からである。
「再度認証します」
昴は、再度手を当てる。
画面に「ERROR」と出て、
「再度認証します」
昴は、自分の手を一度見て、再度、手を当てた。
「確認しました」
「次に声紋認証します。お名前を」
昴は言われるがまま
「黒野昴」
と言った。
画面が光り、いきなりGNAのログイン画面になった。
机には、普通のキーボードのような表示が現れた。
「おっ!!」と、声には出さなかったが、驚く昴。
おっちゃんが
「一応、セキュリティの関係で、GNA専用に改良してある。ログイン作業は、最初だけだから」
昴は、だんだんと驚くことから、呆れる感覚が強くなってきた。
「一つのゲームでここまでするプレイヤーがいるのか・・・」
気持ちはわからないでもないと昴は同調しながらも、一般人の昴には、到底ついていけない。ただ、おっちゃんが最初に言っていたとおり、もともとここは、情報監視施設なのだから、このくらいは当たり前なのだろう。
ログインした昴は、いつもとは違い、立体感のある視界からか、ゲーム世界に吸い込まれるようだった。大きいと思っていた自分のパソコン画面がすごく貧弱に感じた。
「どうだ。バル君の装備とかに変わった様子はないかね」
「ええ、ないと思います」
「よかった。ゲームの方には被害がなさそうだね」
「被害ってなんですか」
「いわゆるアカウントハックだよ」
一時期新聞でも報道された、他の人のゲームアカウントを乗っ取ることだ。
「ネットダイアリのことですね」
「うん。そうだね。こっちでも監視はしていたのだが、まあ、何もなくてよかった」
「それで、僕はどうすればいいんですか」
「さっきも言ったとおり、バル君の育成とモンスターの育成だよ。普通にここにきてGNAをプレイしてくれればいいんだ」
「家でするなってことですか」
「いや、問題ないよ。いざというときは、ここのバックアップでカバーできるから」
おっちゃんは少し考えた後で
「一応、毎日、ここにきてゲームに入ってもらえるといいかな。ネットダイアリの件が片付くまで」
ネットダイアリがおっちゃんや警察以外にも見られているなんて、恥ずかしいをとおりこしている。
「そういえば、なぜ僕なんですか」
「いや、君がネットダイアリを作っていたから狙われたんだよ」
おっちゃんは、昴がハッキングのターゲットになった理由と勘違いしたようだ。
昴は勘違いされたと思ってもう一度聞いた。
「いえ、なぜ僕がアルバイトの候補になったんですか。ほかにも。たとえば、友達の神崎亮も警察にいったでしょ」
「ああ、そっちか。バル君はパソコンやネット関係に強いからだよ」
「でも、他にももっとすごい人がいるでしょ。うちの高校のコンピュータ研究部の部員なんかも」
「そうだね・・・」
おっちゃんは、少し考え込んだ。
「まあ、同じ駅だからかな」
確かに、上の学年の人たちは、反対側の駅なのだが。そういえば、有坂はどこに住んでいるんだろう。昴は、有坂のことをGNAとコンピ研関係以外の情報はまったくと言っていいほど知らなかった。
「そうですか」完全に納得したわけではないが、昴は、わかったかのように答えた。
昴はゲームの操作をしながら、
「井出さん、ここにいる人たちに話しかけていいんですか」
「構わないよ。情報監視の任務もしているので、無視されることもあると思うが、この場所に来た以上、何もしゃべらないのも苦痛だろうからね」
おっちゃんがそんな話をしていても、室内の人たちは、本当に何か重大な任務に着いているかのように、画面に向かっていた。異様なのが、その真剣に見ている画面がGNAだということだ。
「ネットダイアリだけど、データ渡そうか」おっちゃんが言ってきた。
「実は、USBに暗号化して保存したんですよ」
「ほう、暗号化ね。それは用意周到な。でも、市販の暗号化ソフトなんて、誰でも持っていそうだから危ないぞ」
「いえ、自分で作ったんで、まだ、安心だと思います」
「ほう、暗号化ソフトも組めるのか。戦力だな」
暗号化ソフトと言っても、大したものではなく、ちょっと考えれば誰にでも、解ける程度のものだろうが。
「バル君は、早めに帰って、ネットダイアリをパソコンに戻したほうがいいな。まあ、相手もバル君のパソコンとネットの知識があることは、ネットダイアリを見て知っているだろうから、一時的ネットダイアリが消えていても不思議がらないと思うけど。これはお願いだけど、その自作のセキュリテイを少し甘くして置いてくれないかな」
昴は、帰り際、おっちゃんから小さなチップをもらった。
「これには、ここに入るための携帯キーが入っていて、携帯の電源を付けた時に表示される番号が地下への番号だから。あと、GPSは自動オンされるから、GPSを切っても、定期的に位置情報を記録・送信するようになっているから、怪しまなくても大丈夫。失くしたときのセキュリティも兼ねているよ」
「これを携帯に組み込むんですか。僕でもさすがにそこまでは出来ないですよ」
「携帯に差し込むだけだよ。自動的にインストールされるから。使い終わったチップは、二度と使えないように壊してね」
昴は、その場ですぐにチップを携帯に差し、インストールをした。
チップをおっちゃんに返し、帰ることにした。
エレベータを開けるために携帯を付けるが何も起きない。
「エレベータの番号が出ないんですが」
「会社の番号にかけるんだよ。そうすると、表示されるよ」
先にそういうことを説明してほしいと思う昴だが、ツェットもおっちゃんもめんどくさがりなのでそれ以上追及しても、自分がイラっとするだけなので、気持ちを切り替えて、会社の番号にかけ、表示された番号を押した。エレベータが開き、昴はエレベータに乗り、外に出た。
「こんなビルが、あんな設備を持っているなんて驚きだ」
外から見たら、普通の中古ビルである。
「テナントとして入っている人たちは何の疑問も持たないのだろうか」
そんなことを考えながら、家に帰った。
15日連続アっプです。いつまで続いてアップできるんだろう。このプレッシャーがストレスになるかも。薄い毛がますます薄くなる。




