ネットダイアリ-10- コンピ研は異常
「なにがあったんですか」
昴は驚いて部室のみんなに向かって尋ねると
「すばらしいマウスなんだよ」
戸村が昴に向かってマウスを差し出した。
つまり、コンピュータ用のマウスである。
江原が既存のゲーム用マウスに手を入れて、戸村用に作ったものであった。
5対5の対戦用のマウスなのだが、通常、キーボードとマウスで操作するところ、キーボード操作を補完する機能をつけたのである。見た目でなく、マウス内のスイッチにあたる部分を特殊なセンサーに変えたそうだ。加えて、センサー感度の調整をゲームをしているうちに調整するAIを御影さんが作ったという。
「ここのコンピ研だけで会社ができるな・・・・」
先に来ていた有坂が顎に手を当てながら、ブツブツと言っていた。何やら、採算とか宣伝とか言っている。
「戸村さん、よかったすね」
「さっそく、試してみっか~~」
「戸村さん、勘弁。今日はパス」
江原が言った。横にいた御影も頷いていた。
「じゃぁ、俺一人で試してみる」
不思議と昴と有坂には声がかからなかった。
戸村の対戦を見てみたいと昴は思ったが、自己嫌悪に陥りたくない気分もあって、有坂に今度のGNAについて聞いてみた。
「有坂は、登録した?」
「俺、選考に受かった」
耳を疑った。有坂は選考に応募してたんだ。そして、受かったって。
「俺、前々から狙ってたんだ。カミンという役割。お金も入るしな」
有坂は自慢するわけでなく、淡々と話す。
「どんな仕組みなんだい」
昴は、カミンの機能が知りたくて有坂に食いついた。
「機密事項にあたるんだ。創造主は見えたらいけないんだよ」
羨ましすぎる。昴は、すぐそこに届きそうで届かないものがあることにイラッとした。
「GNAなら、俺、プログラム書いたよ」
昴が座っている後でまた爆弾発言。御影である。
「あれ?去年言わなかったっけ」
昴のショックを覚ます発言が返ってくる。この人はなんてボケたことを。
「僕と有坂は、1年生ですよ。去年っていないですよ」
有坂も昴と同じように驚いていた。
いくら御影が天才プログラマーだと言われても、まだ、当時、高校1年だぞ。プロの制作に混じっているなんて。
「単なる在宅アルバイト。儲かったよ」
軽すぎるリアクション。
ゲーマーの戸村は知っていたはずなんだけど、戸村も登録していたのかと昴は思ったが。
「そういえば、御影、バイトしてたな。でも、ゲームの内容を聞いていたら俺好みじゃないんだよな」
戸村は、対戦しながら、昴のこころの声に返事していた。
それにしても、ここのコンピ研は異常だと昴は思った。有坂は、まあ、普通だと思うが、戸村と御影は、異能者ではないか。もしかしたら、江原も、かと思うとコンピ研に通うのが憂鬱になりそうだった。
対戦を終えていた戸村は、江原に何らかの注文を出していた。半分、その話に御影が加わり、半分は、GNAの開発秘話を有坂と昴に語り、その日のコンピ研の活動は終わった。もちろん、有坂はゲームの内容をまったく話さなかった。
今日のネットダイアリのトピックは、もちろん、コンピ研でのGNAの話である。有坂の話と御影の開発秘話が中心だ。戸村ネタはカットした。案の定、御影の発言に驚いた昴の画像がしっかりあった。
「今回は意識してなかったから、リアル驚愕の顔が撮れてた。自分が見ても笑える」
今日のネットダイアリを閉じた。