大馬鹿者が見た日本の原風景7
「まず、あなたがどこに居るのかを説明します」
一呼吸置いて、早苗さんは話を切り出した。
「……ここは『幻想郷』といって、現代で忘れ去られた存在や概念が集まる隔離された世界です。正確には違うのですが、簡単に『異世界』と思ってもらって構わないかと思います」
異なる世界と書いて、異世界。
「……………………………………」
その言葉の意味と早苗さんが言ったことを脳内で反芻した。
「…………冗談ですよね?」
ぎこちない笑みを浮かべて尋ねる。が、早苗さんは毅然として言った。
「そう思われるのが普通です。ですが、冗談ではありません。これはドッキリでも何でもなく、今あなたの身に起こっていることなんです」
早苗さんは俺の目をまっすぐ見据えて続けた。
「そして何故この事を説明したかといいますと、笹一さんにはくれぐれも注意して欲しいことがあるのです」
「……何でしょうか」
「妖怪です」
「…………………………………」
再び出てきた単語『妖怪』。
なにやら気味が悪くなってきた。気味が悪いし、意味もわからない。
よくある怪談の中には、人里離れた場所で、その土地ゆかりの何かしらによる祟りだとか、言い伝えだとか、あるいは民族的な儀式などあれやこれやでトラブルに巻き込まれる、という話がある。
そういった現代社会では『異質』なものが浮き彫りになる話は、あまりに自分達の生きる世界とは乖離しすぎているために恐怖や畏怖の対象となる。
が、そしてその『異質』がまかり通る世界は、そういった意味では『異世界』だと言えるのかもしれない。
そして同時に俺は静かに悟った。
あ、これ夢だわ。
だってそーじゃん! 緑とか水色に髪を染めた人が異世界やら妖怪やら言っちゃうのはタチの悪いドッキリかストレスが原因の夢でしかない!
夢。これは夢。夢夢。
夢という単語がゲシュタルト崩壊を起こしそうなほど頭の中で思い浮かべ、頭の中を整理をすると、不思議と霧が晴れるように胸のモヤモヤが晴れていくような気がした。
夢の中で「これは夢だ」と自覚したり、ここまで悶々と考えることのできる夢というのは初めてだが、今聞いたアリエナイ話も、夢の中の話だと思えば別に不思議ではない、はず。
開き直りと同時に、気分も軽くなった。
「なるほどなるほど、妖怪ですね」
「そうです。これもあなたにとってとても信じられる話では……ってあれ? それは信じちゃうんですか?」
「ええ、妖怪。別に(夢の中だから)不思議ではありませんよ。それに妖怪リモコン隠しなんかはよく家にも出現します」
俺の発言に、今度は早苗さんが当惑している。
困ったような表情でどうしようかと思案している様子だ。
「あー、えっと、そういうのとはちょっと違うんですけど……最悪の場合、食料にされかねないので……」
「はっはっは。高温でサッと炒められるんですかね」
「いえ、生のままで食べられるのが殆どです」
「……な、生で、ですか」
夢の中とはいえ、その表現に少したじろいでしまった。