大馬鹿者が見た日本の原風景5
……いやいや待て待て。
冗談はさておき、そもそも妖怪というのは、フィクションの世界とかお化け屋敷の世界の住人でありまして。少なくとも現実の世界にはいない訳でありまして。
にも関わらず、俺が妖怪扱いされているのは何故なのか、あれか、これは遠回しに
『お前の顔面って、なんかモノノケみたいだよな(笑)』
という遠回しなメッセージというか言葉の暴力が込められているのだろうか。確かに顔に自信があるとは言えないが、それを初対面の人に第一声で言い放つというのは、なんというか、こう……。
「あ、ごめんなさい、妖怪さんっていうのは冗談です」
俺がポカンとしていると、その女性は軽い微笑みを浮かべながら、女性は障子を静かに閉じ、そのまま布団の傍にいる小傘さんの横に座った。
「始めまして。東風谷 早苗と申します。よろしくお願いします」
「え、あ、綿屋 笹一って言います。よろしくお願いします……」
冗談を言ったかと思えば、急に丁寧な挨拶をされたので少々面食らってしまう。
「一応の確認なんですけど……あなたは人間の方ですか?」
「……人間以外の何に見えるんですか」
「人間みたいな妖怪?」
「人間みたいな人間ですッ!」
「冗談、冗談です」
早苗さんは口元を隠してウフフと笑っている。その所作からは気品のようなものが漂っており、良い所のお嬢さんかと思わされる。更にその整った顔立ちにより、より上品さが際立ち、俺は図らずともドキリとさせられた。
が、初対面の相手に妖怪呼ばわりする冗談をかますなど、同時に中々にフリーダムな方だと思わされた。
そして、その格好もフリーダムというか、何というか。
まず髪の色が緑一色だ。緑て。紫蘇の葉とかキャベツとか、伊◯衛門とか綾◯と同系統の髪色だ。
そしてそのお召し物も……ダメだ俺じゃ説明できない。青いラインの入った巫女服のような服に……肩が出ていて……うーん……。
……というかこの二人は学校で何も言われないのだろうか。
小傘さんも早苗さんも、その髪色を先生とか友達とかから指摘されなかったのだろうか。
もし俺が彼女らの学校の風紀委員であれば、あまりのフリーダムさに絶叫して頭を掻き毟る事になるかもしれない。
俺が一人黙々と考えていると、小傘さんが口を開いた。
「うーん、やっぱり人間かー」
「そうですよ。『小傘さんの能力』で驚いたんですから、間違いなく人間です」
「?」
二人の話が全く読めない。
俺が困り顔をしていると、小傘さんがこちらに向き直って言った。
「あー、えっとー。私の能力は『人間を驚かす程度の能力』だから、気絶する程びっくりしてた君は間違いなく人間だし、私も最初は人間だと思って驚かしたの」
能力? 何かの設定なのか。
小傘さんの話は続く。
「けど後々よく考えたら、あの時間の山の中にいるのが人間ってのも考えられないし……結局、ついさっきまで君が人間か妖怪かわからなかったのよ」
「………………えーっと………」
早苗さんがフォローを入れるように言った。
「あなたは人間の身であるにも関わらず、暗闇の中、何故妖怪の山に居たのかが不思議だということです」
「…………妖怪の、山?」
「え、なに、知らないで入ってたの!?」
小傘さんが心底びっくりしたように言った。早苗さんも目を丸くしている。え、俺そんな驚かれるような事していたの?
「……あ……もしかして…………」
早苗さんが、何かに気づいた様に呟いた。