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マログリフルにて2



「さっきの白いの、なんだろうな」


「でっかいキノコにも見えたけど」


「あんなところにないだろ、普通」


 そんな会話をしている二人組の旅人に、ミルルは思わず声をかけた。


「あの! すみません!」


 それを見てカラルは慌ててミルルの腕を引っ張った。


「もう! なに?」


 急に引っ張られてムッとしたミルルはちょっとふくれっ面だった。


「ミルル、竜じゃなくてキノコみたいなモノの話しみたいだよ?」


「なんか『白い』ってもの、気になるじゃない? それっぽい情報は聞いておかなきゃ」


「あ、うん、そうだけど……」


 カラルがそう力なく言うと、ミルルは旅人の方を振り返りながらふくれっ面を笑顔に変化させた。


「あの、すみません。その白いのってなんですか?」


 元々高い声をより一層高くし、丁寧に質問した。カラルはらしくないそれを聞いて後ろでプルッとしていた。


「ん? 白いの? ああ、すぐそこだよ。あの店の裏。子供の頭ぐらいの大きさの白いやつ」


「ああ。なんかちょっとばかり動いていたような……なんだかわかんないから、気をつけてな、ははは」


「そうそう、気を付けて気を付けて、ははは」


 お酒でも入っているのだろう。二人とも装備は立派だが、着崩れし、顔が赤かった。そしてお酒臭く、何より、意味もなく笑って去っていった。


「酔っ払いの情報……どうする?! 一応、見てようか……」


 カラルはお酒臭で渋い顔のままのミルルの手を取り、酔っ払いの指差した店の方に向かった。




 その店は二階建ての大きな宿だった。


「にーた、ここはさっき覗いたね。……お父さん、居なかったよね」


「うん、ロビーには居なかったし、まさか宿泊するはずもないしね」


 父が前日に到着していたら、そのままルフルの村まで来るだろう。わざわざ泊まる必要はないはずだ。


「この店の裏って言ったね、あの酔っぱらい」


「うん、酒臭くてびっくりした」


 そう言いながら二人はその宿屋の入り口から離れ反時計回りに建物を回ってみることにした。


 建物は結構横に長かった。移動中、上を見上げると、そこはバルコニーになっているらしく、宿泊者の肘や頭が見え隠れし、笑声が聞こえていた。お酒を飲んでいる人も多いのだろう。馬鹿笑いも聞こえてくる。足元にはところどころに食べかすや割れた皿が落ちていた。おそらく上から落ちてきたもの。


「酔っ払いが落とすんだね。気を付けて、ミルル」


「もう、酔っ払い、嫌い……」


 建物の端っこが見えてくると、足元のごみも無くなり、上からの声も聞こえなくなっていた。


「うわ、ミルル。結構な藪だよ」


 建物の横はほとんど手入れしていないらしく、腰ぐらいまでの雑草が多々生えていた。確かに、ここまでくる客もそうはいないだろう。


「ほんとだ……でも、なんか人が歩いた跡はあるね」


 確かに雑草が一筋に踏み倒され、土もそこだけ踏み固められ、いわゆる獣道になっていた。建物の裏は、森になっており、大きな木が建物を覆うように生えているせいもあって、まだ昼だというのに、この辺はすこし薄暗かった。


「な、なんか薄気味悪い……」


 ミルルはカラルの後ろに隠れるようにその藪をのぞき込んでいた。その表情はかなり不安げに見えた。


「そ、それじゃあ、ちょっと僕が覗いてくるよ」


 カラルも薄気味悪さを感じていたが、なんとなく雰囲気で建物の裏がどうなっているか想像も出来、ミルル()に見せない方がいいように感じていた。


「にーた、大丈夫?」


「うん、町の中だし危険はないと思うよ。それに白いやつが気になるしね」


 そう言うカラルもすこし笑顔がひきつっていた。そして一歩、前に進む。


「うっ」


 カラルが顔をしかめ、予想通りと確信した。もし白いものの情報がなければ、このままUターンして立ち去るところだ。


「にーた?」


「らいりょうふ。みへくる」


 鼻をつまんだままそう苦笑いして、手でそれ以上来るなと制し、ミルルの視界から消えた。


 ミルルは小さく祈るように手を重ねて耳を澄ましていた。しばらく土を摺り足で歩くような音が続き、そして、しばらく静かになった。それほど長い時間ではなかったが、ミルルにはとても長く感じた。


「にーた?!」


 待ちきれなかった。思わず、一歩目を踏み出したときだった。


「うっ」


 鼻につんとした妙なにおいを感じた。


「これは鼻、つまむよ、なにこの匂い!!」


 思わず顔をゆがめ、手で口と鼻を塞いだ。それでもがんばって足を進めようとしたときだった。


ヒルル(ミルル)! あったよ白いの!!」


 カラルが目をしばしばさせながらピンと伸ばした両手のひらの上に、ちょうど自分たちの頭と同じぐらいの白いボールを持っていた。それを自分の顔からも、ミルルからも遠ざけるように掲げながら表に出てきた。


 ミルルは『兄が無事に帰ってきた』という喜びよりも先に、その行動と表情に思わず三歩下がってしまった。


「なになに?」




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