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ルフルの朝1




 人々から存在を忘れられた巨石の古城から遠く、他の大陸や島々には多くの森や草原、砂漠が広がっていた。そしてその所々に人間の住む国が点在していた。国の境なんてはっきりしない。海、広い大河、大きな湖や深い森や深い谷、それらが暗黙の国境となっていた。


 そのうちの一つの国の村、ここ『ルフル』と言う小さい村は、北を海に面し、周りを森に囲まれるという比較的恵まれた環境下にあった。


「ったく、どこに行ったのかなぁ?」


 石作りの家や塀には、海からの潮風で赤いレンガが痛まないように面する壁に木の板を貼り付けてある。そんなこの村独特の風景の中、長いこげ茶の髪の毛のポニーテールを大きく揺らしながら一人の少女があたりをキョロキョロしながら走っていた。


「あ、おはようございます!」


「あら、おはよう。今日も元気ね」


「あ、はい!」


 すれ違う村人にも元気に挨拶をしているが、クリッとした目だけは辺りを探すのを止めない。


 年は13、4。背はその歳の平均からは少し低いぐらい。一部袖の短い袖の厚手のワンピースのような服から、スッとした両腕は伸びていた。服には小さい肩パットが入っているが他の人の服より短い袖はとても腕を動かしやすそうだ。


「もう! 今朝言ったこと、もう忘れちゃったのかなぁ……」


 腰に両手をあて首を傾げた。その首には大きな赤い石の入ったネックレスをしている。下もやはり動きやすいようにだろう……ダボッとした長ズボンを履いている人が多い中、彼女は太ももまでのピッタリとした短いレギンスような薄い生地のものが見え隠れしていた。代わりに森を歩き回る時に怪我をしないように、膝下からは少しだぼついたブーツのような長めの靴を履いている。


「ミルル! オッス。さっきから走り回っているようだが、どうした?」


 少女に声をかけたのは髪の短い少年だった。年齢は同じぐらい。でも、背は平均より高い。彼の左の袖は手首まである。右は標準的な長さで、肘上ぐらいまでだ。男でも大きな布の服を頭から被り、腰の辺りをヒモで閉め、固定する、ワンピースのような格好がこの国では一般的である。


「あ、マクラル……。おはよう。ね、お兄ちゃん、見なかった?」


「あ? カラルか? 今日は見てないな。俺は朝っぱらから狩に行っていたからな」


 そう言いながらマクラルは背負った大きな弓に括りつけてある大きな麻のような袋を、自慢げに見せた。


「すごーい。今日も二匹仕留めたの? 会心ね!」


「ま! まあな!」


 マクラルは、細い目を一段と細くしながらしたり顔だ。


「お兄ちゃんもマクラルの半分ぐらいでいいから狩が出来たらいいのになぁ」


「カラルの剣や魔法はまあまあじゃないか?! ま、本番に弱すぎるけどな」


「そうかなぁ、そうなんだよねぇ……」


 二人はちょっと小さく肩をすくめながら笑った。


「じゃ、二匹あるから、また、後で一匹もって行くな」


「うん。お母さんも……お父さんも喜ぶと思う」


「お父さん? あ! 今日か!」


「そう! だからお兄ちゃん探しているの! 見つけたらすぐ家に帰るように言って! じゃね」


 そう言うとミルルは、海のほうに向かって走っていった。


 それを見届けたマクラルは、「さて」と、声を出し、あて(・・)のある方に少し小走りで向かった。





        【第一節 迎えに】





「よう! カラル!」


 森の少し奥、使われなくなった昔の家の跡だろう。木々に囲まれて、古びたレンガで出来た壁がいくつか残っている場所がある。


 その壁の裏側に丸太が何本も立てられていた。その丸太には何重にもロープが巻かれ、そしてところどころ乱暴に切り裂かれていた。


 その丸太の前に、マクラルと同じ年ぐらいの少年が立っていた。髪を隠すようなフードのような帽子を被り、額にはミルルのペンダントと同じ様な大きな赤い石の飾りがついている。そして手には、短剣を構えていた。


「あ、マクラル。どうしたの?」


 少年はマクラルに気が付き、剣を下げ、汗を袖で拭いながら、驚いたように返事した。驚いて見開いた目はミルルそっくりだ。


「今日は一人なんだな」


「うん、自主トレ。トトム先生はお城に行っちゃったよ」


「めずらしい。なんで?」


「魔族? 魔物? ……の動きがおかしい、とか言っていたけど、よくわかんない」


「ふ~ん。……あ、そんなことより、ミルルがお前(カラル)のこと探していたぜ」


「え? ミルルが? なんだろう」


 カラルはまったく覚えていないのだろう。下唇にコブシを当てて首をかしげている。


「見つけたらすぐに家に帰るようにってさ。なんか、お父さんが……ってさ」


「あ~っ!」


 カラルは大きな声を出し、慌てて広げていた荷物を片付け始めた。


「そ、そうだった、そうだった。今日だった、今日だったよ。ありがとう、マクラル」


 慌てて荷物をまとめながらも、小さなパンを出し、それを砕き、石の上に置き始めた。


「あ? カラル、なにやっているんだ?」


「あ、これ? さっき怪我した小さい魔物がいたので治療したんだよ。で、まだ寝ているから……」


 そう言いながらカラルが見たほうには、体の半分ほどの羽を持つ、小さな緑色の魔物が丁寧に敷かれたわらの上で静かに寝ていた。


「ふ。相変わらずだな」


「魔法の練習にもなるし、ね。じゃ、また」


 カラルは荷物を背負い、マクラルの横を駆け抜けていった。少し行った時、突然振り向いた。


「あ、この場所のことは……」


「ああ、ミルルには言ってないさ」


「ありがとう。それじゃ、また」


 そう言って走っていった。重い短剣と額当てのせいだろう、すこし走り方はぎこちなく、そして、遅かった。


「ふう。あの双子はめんどくさいなぁ。隠れて練習しているなんてよ」


 マクラルはひとりごちながらフッと笑いながら、ゆっくり村の方に戻っていった。




    ◆




「た、ただいま……」


 カラルは自分の家にも関わらず、小さく声を出してこっそり入っていった。


「にーた!!!」


「はいっ!」


 カラルが声の方を向くとそこには仁王立ちのミルルが立っていた。二人は同じ身長のはずだが、この時ばかりは明らかにミルルのほうが大きく見えた。


「もう!」


「ゴ、ゴメン。忘れてた、忘れてた」


「朝ごはんの時も言ったのに!」


「ちょっと考え事してて……」


 カラルはちょっと苦笑いしながら小さく謝った。


(今朝は魔法のヒントを思いつちゃったから、実践してみたくて……なんて、いいわけだよね)


 家の奥に向かいながらそんなことを考えていた。


    コンコン


    ギギッ


 家の外装はレンガ作りだが内装はほとんどが木で作られている。それほど密に組まれて無く大きな開口部を閉めていても、ほんのり明るい。それほど寒くないこの地方では多少の隙間風があっても気持ちがいいぐらいだ。


 当然扉も木で作られている。その扉を開けると、広くもないその部屋には一つだけベッドがあり、そこに一人の女性が横になっていた。


「ゴメン、お母さん。ちょっと……」


「お母さん、お待たせ!」


 先に入ったカラルが遅くなったいいわけをしようとしたが、後ろからミルルにかき消された。


   ギュ


 そしてぴったりと横に並んだミルルはカラルの足をこっそり踏んでいた。カラルはほんの少し顔をゆがめた。


 そんな二人を見ながら女性はゆっくりと体を起こした。


「カラル、ミルル。今日は何の日か覚えている?」


 母の言葉に、カラルとミルルはチラッと顔を見合わせた。そして小さく頷いた。





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