おーまいふぁみりー、一緒にお散歩しようよ!
※※この回は下ネタを含みます※※
※※ストーリーの展開には一切関係がない部分なので嫌いな方は 弦慈公 を検索し、そこから読み進めてください※※
「どうしてこうなった……」
思わず天を仰ぐ。
一面の紅、時刻は夕暮れ。
東を見れば僅かに夜が這い出している。
「嫌いじゃないんでしょ? 良いじゃん良いじゃん、役得だと思って」
覆いかぶさるように覗き込む十代半ばにしか見えない少女が言う。
彼女、コダチの推定年齢は百歳前後になるだろうか。
剣持家の当主だそうだ。
確かに嫌いじゃない。
嫌いじゃないが、目を瞑る。
「目のやり場に困るからタオルくらい巻いてくれませんかね?」
場所は剣持家の露天風呂。
あの後彼女達は、ろくに動けない俺を本当に風呂まで担ぎ込んだ。
この場にはミグ、ミラ、イルミア、リシア、フィリ、そして続々と増え続ける剣持家の面々。
連れの五人は流石に羞恥を覚えたか少し離れた所で大人しく湯に浸かっている。
頼むからちらちらこっち見るのやめてくれよ……。
ちなみにアゲハは俺と斬り合って満足したのか妙にテカテカした表情で自分の神社に帰っていった。
……また剣持家の人間らしい人が風呂場に姿を現した気配がする。
ってか、何で女ばっかなんだよ。
疑問が完全に顔に出ていたらしい。即座にコダチが答える。
「何か、私達の遠い遠いご先祖様なんだけど、その人がおいたしたみたいでね。
精霊に呪われて女の子しか生まれなくなっちゃったみたいなんだよ」
「……何したんだよ…………」
「鬼と精霊と神獣相手に三又したんだって。凄いよねー、ちょっと憧れるよ」
……身につまされるってのはこんな気分なのか?
いや、相手はそんな大仰なものではないんだけども。
頼むからこれ以上増えてくれるなよ…………主に、俺の命と尊厳のために。
「憧れねーよ。一人で十分だろ。俺、もう心に決めた人が居るから」
「またまたそんなこと言ってー。聞いたよ? あの銀髪の子と精霊の子でしょ?
もう手とか出したの? ねえねえ」
「うっせーほっとけ」
つれないなーとか言いながらコダチも湯に浸かった。
「……おい」
なんで隣に陣取ってんだよ。
余所行け余所に。
そう口を開こうとしたとき、コダチの手が白い湯の中を伸びてきた。
「っ!!」
「何? 思ったより逞しいね。うんうん、一皮剥けちゃってー。
沙耶ちゃんも来てみなよー! これなら満足でしょ!」
「ちょ、やめ」
サヤが音もなく隣まで移動してくる気配を察して冷たい汗が流れた。
「なにやってるんですか母さん。……あら、思ったより男らしい」
「さ、触るな! やめろよ!!」
こんな状況だよ、ナニがドウなってるか分かるだろ?
立つに立てない境地に立ってるんだよ!!
言わせんなよ恥ずかしい! いや、言ってもないし思ったのは俺なんだけど。
それを無遠慮に撫で回す最年長の二人組みが、いやコレはマズいだろ!!!
湯が透けてなくてよかったとかそういう問題じゃない!
本当なら一目散に退散したいところなんだがそれも憚られる境遇なのだ!
こんだけ素っ裸の女の人に囲まれたら逃げるにも動きようがねーんだよ!!
「ふっ!?」
「身体もしっかりしてるよね。ますます貰って欲しくなっちゃうよ」
「ええ、本当に。見誤っていたようです。しばらく見てないとだめですね」
二人がしなだれ掛かって……や、柔らか、じゃなくて!
見咎めたミグがいつのまにかコダチの背後に居た。
「あー。時間切れかな?」
「何をやってるんですか?」
「ちょっと人肌の温もりを」
ミグが二人の頭を掴んで引き剥がす。
「いたたぁ! ごめんごめん! ふざけすぎたよね? もうやらないから!」
「やぁ、割れる割れる! 離して! あ、でも……やっぱり痛いです!」
「二人とも、近付いちゃだめですよ?」
掴んだ頭をぐるりと自分の方に向けて、子供に言い含めるような声でミグが言った。
その目を見た二人はがくがくと壊れた人形のように頷く。
ってか、あの小さい手のどこにそんな力があるんだ……?
ミグが手を離すと脱力して倒れこむ。
互いに前のめりに、抱き合うようにして止まった。
「へへっふぇ。絶対に勝てなそうな人初めて見たのに二人もいたよー」
「どうしよう。母さん、私女の人も良いかもしれない……」
背筋がぞわぞわとざわつくような笑みを浮かべながら声を上げる二人……。
とりあえず、湯に浸かったまま移動しよう。
なんか寒気するし、あの空気は間違いなく今の俺には毒だ。
俺の牙が完全に臨戦状態に入ってしまっている。
何か、収める手はないか……。
最悪冷水にでも飛び込むしかないか。
「あのー、ミグさん? なんでついてきてるんです?」
「離れたらまたあんなのが近付いてくるよ?」
まあ、ご尤もで。
たださっきの一幕から、それまで俺だけが受けてた視線の何割かはミグにも注がれてるぞ?
まさか気付いてないって訳でもないよな。
「威圧、してるんだけどね。なんなんだろ、ここの人たち」
威圧、してますね。
普通にちょっと引くくらいのを。
ただ、威圧受けて余計に目の色が妖しくなってる人らも居るんだよ。
何なんだ? 強ければ男でも女でも関係ないとかそういう人らの集まりなのか?
「あ、ぁのー」
そんな威圧の中、勇気を出して近付いてきたらしい二十歳になるかどうかという女性。
これは、無視した方が良いのかね?
ミグは完全に無視する方針らしい。
「あ、あの!」
えらく決死の色が混じった声を振り絞っていらっしゃる。
ミグに目を向ける。
……うん、完全に俺に丸投げする気の目だな。
あー。ま、ミグが居ればさっきみたいなことにもなるまい。
振り返る。
声を掛けてきたのは黒い髪を肩口で切り揃えた綺麗系の女性だった。
ここの人らに多い中性的な顔立ちからすると珍しい感じだ。
湯から僅かに顔を出す双丘を見るになかなかの……っと、ミグがいるんだった。
ミグと、ついでに周囲の纏う空気が濃くなる。
……いや、これは無視しておこう。
「何か用っすか?」
なんとなくおざなりな返答になってしまった。
まあ良いだろう。この感じで通そう。
これ、思いの外軽くて抜けてる感じがする。
ここの人の好みとは真逆なんじゃないかとか淡い期待を抱いてみる。
「シュリトさん、ですか?」
「あー、そーっすけど何すかね?」
僅かに振り返る黒髪さん。
まあ、ここの人ってかリュフェの人は黒い髪の人が多いんだけどさ。
振り返って様子を探っているのは、さっきの二人の方か。
何だ?
何やら意を決したような空気。
向き直り、何度か呼吸を整える。
そして口を開いた。
「私、樋高って言います。側室でも何でも良いです。私をお嫁さんにしてください!」
……、ミグ。その殺気、何とかなりませんかね。
俺の後ろの方で湯に浸かってる何人かが卒倒してるっぽいぞ。
理由は知らねーけど。
それにしても、ヒダカか。何度か聞いた名前だな。主にコダチの口から。
悪いがここは断りの一択だろう。
「コダチに嗾けられたか」
「小太刀お婆ちゃんは関係ありません! 一目見たときから決めてました!!」
「一目惚れってか? いや、ここはつついても仕方ないか。
悪いけど、そういうのは間に合ってる。
そもそも大して知り合ってもないのに、んな大事決められねーよ」
うん。殺気が和らいできた。そんな誰にでもオーケーしないって。
少なくとも俺とミグが、あと、フィリもか。全員が良いと思う相手じゃないとな。
返事を聞いてヒダカが項垂れる。
何なんだろうね。めちゃくちゃ悪い事をしてしまったような気がするのは。
そんなに間違ったことは言っていないはずだ。
確かに見合いとか政略結婚とかで本人の意思やらそういう過程をすっ飛ばして結婚することはある。
でも、そういうのをしちゃいけないって理由でもない限り積み上げた方が良い過程だと思うんだ。
などと考えていると、ヒダカか顔を上げた。
「なら、まず知り合うところから始められませんか?」
そういう言い方されると断れねーよな……。
それを理由に断ってる訳だし。
なら後できることは相手の意思を問うだけ、か。
「俺にはもう婚約者が一人、と、婚約者候補が一人居るんだが良いのか?」
「はい」
「俺はその二人を大事にしたいと思ってる。
二人が許さない限り多分結婚なんてのはしないけど良いのか?」
「……はい」
「あとは、そうだな。俺ってお前が思ってるような良い男じゃないと思う。
そんな男に貴重な時間を使うことになる訳なんだが良いのか?」
「そんなことないです! シュリトさんのことを知っていく時間なら、きっと素敵だと思います!!」
「そ、そうか……。なら好きにすると良い」
最後の断言は何なんだよ。
こっちが赤面するわ。
なんというか、例の二人のひ孫とか玄孫とか言われてもしっくりこない。
何なんだろうな。血が薄まった、とかそういうことか?
「はい! それじゃ早速お背中でも流しますよ!!」
「いや、それは断る」
訂正、こいつやっぱあの二人の子孫だわ。
気付けばミグ以外の四人も近寄っていたようだ。
フィリが俺の手を引く。
引っ張る物がないとそうなるのな……。
「どうした?」
「背中、流す?」
「いや、良い」
何影響されてんだコイツ……。
後ろで良い笑顔してるコダチとサヤ、後で覚えてろよ。
ああ、そうだ。
コダチかサヤ……に聞いたらまた何か絡んできそうだよな。
ヒダカに聞くか。
「水風呂とか、ないか?」
「えっと、こっちです」
……後ろでにやにやしてるお前ら…………お前らのせいだからな?
後でどうしてやろうか。
間接でも極めるか?
「あそこです」
「ああ、ありがとな」
考えてる内に水風呂に到着したらしい。
一段上がって床に置かれた木樽。
上から滝が落ちている。あれが冷水なんだろう。
湧き水か……これはかなり冷たそうだ。
重畳重畳。
湯船の縁からの距離は……大体二十歩か。
隣にサウナ。
水風呂には誰も居ないが、サウナからは三人分の気配が感じられる。
さっさと入ってしまわないといつ誰が出てくる分からないところがある。
で、俺の暴れん坊。こいつを隠しながらこの距離を歩く?
冗談じゃないね。
見つかったらまたそれで絡まれるだろ。
とにかく今はこの荒ぶる御魂を鎮めることを考えなければなるまい。
……限界を突破した身体強化を試してみるか?
確かに一刻なんて長時間行使すれば死にかねないような無茶ではある。
だが、瞬間的に使うならそう悪い手でもないように思う。
一瞬でも身体を痛めそうな気がするってのはあるけどな。
ただ、あれならこの中の誰の目にも留まることはない。
多分ミグですらはっきりと姿を捉えることはできない。
体力も気力も半分程度まで回復している。
魔力にはそもそも余裕があった。
身体強化以外だと、迅閃と気閃くらいでしか使わなかったからな。
ぶっ倒れた時点で魔力の残りは半分程度。
ん、もしかして治療術を覚えればもう少し長くあの状態が維持できるのか?
暇があったら治療術も覚えるか。
折角余力があるなら、魔力を遊ばせるのはもったいない。
頭の上に置いた手拭を腰に巻く。
一つ、集中。
これまでの最大限まで精神を潜って行くと、もう一段、先があることが分かる。
この時点で刹那を読み分けるだけの時間感覚。
もう一つ奥に行けば夕刻の感覚が甦るだろう。
一呼吸息を吸う。
よし、行くか。
更に深く集中する。
一際遅くなる時間。
この集中にも、慣れる必要があるだろう。
そして全力の身体強化。
胸を一際強く打つ鼓動。
それが広がると同時に満ちる全能感と、身体の全てから上がる悲鳴。
一歩。それも歩き出すような気軽な一歩で十分だ。
流れる景色。
衝撃波を起こさないよう空気の合間を縫う。
ふと目をやると、俺を見ていた人間全てが怪訝な顔をしていることが見て取れる。
そりゃ、湯船に浸かって急に深呼吸なんてすりゃそうなるよな。
ただ、それは逆に以前までの速度であればその誰もが見て取れているという証左に他ならない。
水風呂の木縁に手を置く。
壊さないように慎重に。
問題ない。
速度を殺すために力を加える。
僅かに軋む木樽。
手をもう一つ添える。
足りないか。
足を滝の岩肌に添える。
少しずつ力を逃がす。
衝突のエネルギーが浸透していく様を幻視する。
いや、これは幻視ではない。事実そうして分散しているのだと理解できる。
横方向の力を全て逃がしきり、木樽を持ち上げる。
下方向への推力を無理矢理に作り、足から水に入る。
問題なし。
波一つ作らないよう慎重に水底へと足を進める。
腰まで木樽に隠れた事を理解し、次は上方向への推力を得る。
ここで、僅かに肩に走る痛み。
ああ、今朝壊したところか。
思い至り、片手で推力を操作する。
肘に痺れが走る。同時に足が木樽の底についた。
残りはそちらで押し殺す。
この程度の力なら木樽も壊れまい。
集中を解く。
「っ、冷てっ!!」
今更神経が冷たさを伝えてきた。
急激に身が引き締まるのを感じる。
身体強化の影響で温度感が過敏になってるな。
今はそれも良いか。
「……何やってるの?」
ミグの怪訝な顔。
うん、我ながら能力の無駄遣いだと思うよ。
だが必要な無駄だった。
分かってくれなくても良い。
ただし、ここは誤魔化しておこう。
「夕方の、感覚忘れない内に慣らそうかと思ってな。
あの身体強化も一瞬だけならなんとか体が持ちそうだ」
怪我したりするとどうなるか分からんがね、という言葉は飲み込む。
わざわざ心配させることもないだろう。
ちなみに維持できる時間は一瞬も一瞬、ミグの反応を見るに二、三の刹那という長さが限度だ。
後のことを考えるなら、だが。
「……折角の若いお尻が」
……シノギさんよ、身体強化の余韻でばっちり聞こえてるぞ。
ミグには聞こえなかったみたいだが。
ってかあんた、いつの間にコダチと合流したんだよ。
そんなことは良いか。
ようやく俺の紳士が帰って来たようだ。
冷やすというのはやはり効果覿面である。
というか、少し冷えすぎている気もする。
「さて、俺は上がるよ」
俺の紳士がまた席を外す前に、という言葉は飲み込む。
水風呂から上がる……と、九人も同時に湯船から上がった。
というか剣持家の面々よ、タオルくらい巻けとあれほど……、と思っているとミグが即座にタオルで締め上げた。
よくやったと言いたいような、残念だと思うような。
どうでも良いか。
ばっちり見えたんだけどね。瞬時に頭に焼き付ける。
……っと、紳士が仮面を外す前にさっさと服を着よう。
「今日はもう宿も受付終わってるだろうし泊まっていきなよー」
ミグに締められすぎているのか、少し顔が青いコダチが声を掛けてきた。
「んー、それで良いか?」
「アゲハさんの神社次第じゃないかな」
あー。確かに、もしかしたら用意してるかもしれんね。
「湯上りに軽く散歩でもして様子見てくるか」
「そうだね。フィリちゃんも行く?」
「ん」
「なら三人で行こう」
四人程、あからさまに残念そうな顔をしている。
……すまんね。後で埋め合わせくらいはしよう。
「今日は挨拶伺いに来る者が多いでしょうから、この家で持て成しはできません。
剣持に泊まるなら是非そうしてください」
「そか。それじゃ、コダチの言葉に甘えるとするか」
「そうだね。この時間じゃ宿に入っても夕食出ないだろうし」
「ん」
弦慈公の神社でアゲハと話を付ける。
ってか、神社の前に凄い行列ができてるんだがあれ全部お目通り希望者って訳か?
「何、軽く酒を煽って二、三言の挨拶を交わすだけです。
リュフェ全ての旧家が集まっているのでしょうが、夜半には終わるものですよ。
そこから瘴気を祓う香を作りましょう」
「ああ、頼む」
軽く酒を煽る、ねぇ。
多分その手に持ってる杯になみなみだろ?
全然軽くねー。
大きさは、手のひらを広げて四つくらいか。
人の胴体くらいなら楽々隠せる。
いや、バカデカいね。
デカいだけあって底も深い。
多分、一升瓶って奴を一本全部注ぎ込める大きさだ。
ま、何も言うまい。
これが鬼の常識なんだろう。
「んじゃ、戻るか」
「明日の鍛錬の時間に顔を出しますよ」
「……それ、いらねーかな」
いや、本気で。
アゲハ、お前何にやにやしてんの?
あんな死にそうな鍛錬本気でいらねーからな?
「そうですか。朝食の頃に一度顔を出します」
「へいへい」
酷く不安だが、とりあえず戻ろう。
と、歩き出すとフィリが服を引っ張ってきた。
「どうした?」
「ん」
はいはい、手を繋げ、ってか。
「ミグも繋いどくか」
フィリの手を左手で、ミグの手を右手で握る。
「え? あ……うん」
どっちも小さくて柔らかいな。
特にミグ、この手であの拳の威力って何がどうなってんだ?
にしてもこれは……、
「両手に花、ってやつか?」
身長差がありすぎてなんとなく引率してる気分にならなくもないけどな。
「花?」
「……」
珍しくミグが無言か。
「お、そろそろ星が出てきたな」
「そう、だね」
久々に見た一番星、ってやつだろうか。
西の向こうはまだ紅い。
最後に一番星なんてのを見たのはいつの頃だったっか……。
多分、親父がまだ生きてた頃か?
ミグと居ると、ゆっくり空を見上げる頃にはもう真っ暗だったしな。
……親父、か。
「俺ら、家族に見えるかな……?」
「見えなくても家族だよ」
「家族」
「……そーだな。フィリ、肩車でもするか?」
「いらない」
「しゅーくん、それ子供にすることだよ」
「ん!」
「ああ、悪い悪い」
なんとなく胸の中をくすぐるようなものを感じて少しふざけたくなる。
俺も、いつか親父みたいになるんだろうか?
参列を尻目に込上げる懐かしいような感覚に戸惑いながら、俺こと元勇者候補シュリト・シェルム・ノーグレイスは婚約者の二人を家族だと思い始めていることに気が付いた。
セクハラ一家剣持家の本領はまだまだこれから。
痴女と痴少女コンビの猛攻はまだまだ続く……かもしれない。
※今更章タイトルつけてみました。




