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元勇者候補君の世直し漫遊記  作者: 77493
第一章 窮国のきみに花束を
26/37

おーまいりとるぷりんせす、きみに名前を贈るよ!

「さて。で、だ。そいつはイルミアとフォルトゥナの子なんだけど、名前がない」


 食後、いつも通り茶を飲みながら保留していた話を切り出す。

 今日の茶は緑茶、というらしい。

 リュフェで好んで飲まれる茶だ。

 これまで味わった事のない風味、全くそんなことは思わないのだが、あえて悪く言うのなら青臭いという難癖が付けられなくもないかという味だ。

 当然、俺自身青臭いなんてことは思わない。

 それどころか、飲み慣れる頃には定期的に飲むのも吝かではない程度には気に入ってしまっていた。

 と、それは良い。

 まず、チビのことからだな。


「精霊の中で生活してたこれまでならそれでも問題なかったんだろうが、これからこいつは俺らと一緒に行動することになる。

 言ってみれば、人の中で生活するってことだな。

 そうなると、やっぱ名前がないと不便だと思うんだよ」


 ミグが妙な顔をしている。

 何か気になることでもあるんだろう。

 いや、その辺りはなんとなくわかるよ。

 俺が気にすることって大抵、ミグが気にしていたことだ。

 多分、俺が気にしてたことを気にしてるんだろう。


「ミグ。どうした?」

「その子、何歳なの?」


 そして大きな変化が一つ。

 初めこそたどたどしかったが、口調が幼い頃のそれに戻りつつある。

 俺以外の相手が居ると少し恥ずかしいのか、発言の後は目をあちこちに走らせていたりするんだけどそれも可愛い……。

 ではなく、どういった心境の変化か二人きりの時と同じように話そうとしているのだ。

 俺個人としては好ましい変化だと思っている。

 (かね)てから、以前のミグの口調は無理して作っているものだと俺は感じていた。

 その無理をやめようとしているのだ。

 頓挫するか開き直るか慣れるか、動向をそっと見守っていたいと思う。

 俺が変なことを言って、余計に無理をさせては元も子もないのだ。


 さて、ミグが気にしているのは結局、イルミアが何歳の頃の子なのか、というところだろう。

 確かに、イルミアとチビを見比べれば親子というより姉妹、更に言えば親戚同士か何かといった印象だ。

 似ているというよりは、面影に通じるところがあるという程度で、直接の親子や姉妹というにはどうしても違和感がある。

 いや、ここで重要なのは似ている似ていないではなく、見た目の年齢が近すぎる点なのだろう。

 精霊が人と同じような、もしくはそれに近い成長の仕方をするのなら、チビの見た目の年齢から逆算すると子供など作りようがない年齢の頃に生まれていることになるからな。

 この辺りは、直接聞いてきた俺かアゲハが答えるのが一番良いだろう。


「七歳だそうだ。イルミアがクルクスに発った頃、七歳の頃の子らしい」

「な、七歳? 精霊ってそんな頃から子供ができるの?」

「精霊側がある程度の能力を持っていれば可能です。

 ただ、精霊側が余程成熟していなければそれもできませんが。

 付け加えるなら、精霊の成熟とは即ち、精神の成熟。

 親の精霊のさじ加減次第ですが、生まれた頃から成体の精霊などざらに居ますよ」


 ミグの疑問にアゲハが即答する。

 その逆ではどうなるんだろうな、などと考えていると即座に察したアゲハが付け足す。


「もし親の精霊が未熟なら、子を成せず生まれ変わりが起きます。

 それも、双方の特性を不完全に継承した子として、です」


 ふーむ。そうなるのか。

 ただ消える、なんてことはないんだな。


「力ある精霊の場合は、それを使って強者と交わり、生まれ変わり、力を増していこうとする者もいますよ」

「ん? 生まれ変わりが起きるのは精霊が未熟な場合じゃないのか?」

「未熟ならそれを防げないだけです。

 意図的に生まれ変わりを起こそうと思うのなら、自身の精神をつぎ込めば良い。

 精霊の繁殖行動は他者との精神の交わりなのですから、精霊にとってその加減を変えるなど造作もないことでしょう」


 尤も、相手が未成熟なら精神に何らかの変調を起こすこともあるのですが、とアゲハ。

 俺に子を作らないかと持ちかけたフォルトゥナを思い出す。


『おにーさん強そうだし、ちょっと子供作っても良いなら触ってみる?』


 うん、惜しいことをしたと思うんだ。

 ではなく、フォルトゥナはより強い生物への転生を望んでいる……?

 無気力に過ぎるあの様子からは想像できない。

 大きすぎるくらいの齟齬を感じる。


 何故俺と子を成そうなどと考えたのか。

 冗談、にしては、重すぎる話題のように思える。

 いや、冗談みたいに子供を作りまくっている相手のことを考えると、案外暇潰しか何かという感覚で持ちかけた話だったのかもしれないけどさ。


 ……まあ、今考えても結論なんてのは出ないか。

 話を先に進めよう。


「とりあえず、この子には名前がないんだ。

 だからまず名前を考えようと思うんだけど問題ないか?」

「名前がないと呼ぶのも不便だし、関を越える時にも面倒だからね。

 ……名前がないっていうことは、戸籍もないの?」

「ないだろうなぁ。少なくとも人間側に人間以外の戸籍があるとも思えない。

 ってーと、密入国させるしかない……か?」


 戸籍なんてものが何故必要なのかをシェル姉に聞いた時の回答を思い出す。

 返事代わりに返ってきたのは無戸籍者が出入国する際の手続きに関する仔細。

 戸籍証明書の発行手続きと費用。

 それと、戸籍を取ることと取らないことのメリットとデメリットの詳細だった。

 締めくくりは確か、


『故に、今お前に渡した戸籍証明書を失くすと最悪死刑になる場合すらあるのだ。

 特に有名な貴族であれば、本人や縁者を騙る者も多いからな。

 絶対に失くすんじゃないぞ。何より私が面倒だからだ』


 二枚目の戸籍証明書を貰った時の話しだ。

 二代目はまだ俺の鞄の中でしっかりと眠っている。

 証明書の発行者、身分の保証人、戸籍証明書の登録者、更に、発行国国王。

 戸籍証明書には、その四人の魔力が契約魔術を応用して刻み込まれている。

 印やサインでは偽造物が横行するから、だそうだ。

 関では発行者、貴族、国王の魔力と証明書が帯びる魔力パターンの照合が行われる。

 証明書を発行でき得る人物の魔力パターンを記憶した魔石が必ず常備されているのだ。

 更にはその証明書を持つ本人の魔力パターンと照合し、問題がなければ身分に応じた出入国料を払う。


 などという手続きも、実は証明書を持っている人間だけが行う。

 設定された出入国料の最高額さえ払えば証明書などなくても関は素通りできてしまうのだ。

 だからこそ、金があるなら証明書など不要ではないのかと開き直った。

 命知らずにも、シェル姉に直接教えてもらっていたことをすっかり失念して、だ。


 戸籍証明とは単に出入国料のみに有利に働くものではない。

 何気なく国を跨いだ際にすら国賓として扱われるか否かが変わる。

 特に低年齢者が国を移るなどすれば、犯罪の類に巻き込まれる危険性も高くなる。

 そういう場合、貴族階級であれば無償で護衛を依頼することすらできてしまうのだ。

 結果から言えば俺には必要ないものばかりだったのだが、そんなことは関係ない。


 重要なのは、シェル姉直々の教えを聞き逃していたというただそれだけなのだから。

 そこから数日、可能か不可能かは、必要か不必要か以上に重要なのだと叩き込まれた。

 そこで学んだことは今日までの俺の平穏に大きく寄与しているといえるだろう。

 シェル姉の教え、忘れるべからず。

 最重要のその命題はその数日間に俺の魂にまで刻み込まれていることだろう……。


 あー、あの時のことを思い出したらあの人攫い共に怒りがわいて来た……。

 今は関係ない、とりあえず忘れろ。


「というか、戸籍どうこうで言うならアゲハの戸籍もないんじゃないのか?」

「ありませんね。私がリュフェを発った当時の王朝は残っていませんし、そもそも戸籍を登録していません」


 あー、となるとアゲハにチビを任せて密入国って流れか。


「……何か良からぬことを考えているようですが、そんなケチな犯罪など犯しませんよ?

 戸籍がなくとも出入りくらいはできるのでしょう?

 いえ、できなければ王座まで話し合いをしに行くだけのこと。

 そこで認めさせれば良いのです。

 何ならそこの王に証明書を発行させれば良いのですよ」

「人の領地の最奥で第二の魔王にでもなるつもりか? やめてくれよ。

 とりあえず、俺からシェル姉にあてがないか聞いておく。

 証明書の発行は手順が多すぎてシェル姉でも嫌がるんだ」


 アゲハは時々ものすごい脳筋なことを言う。

 主に、アゲハ自身が面倒だと感じたときにその傾向が顕著になるのではないかと睨んでいる訳だが……この考察もどうでも良いか。


「どっちにしてもチビに名前だよ! 何ならチビって名前にしとくか?」

「それは可愛そうだよ」

「シュリト様、せめてもっと可愛い名前にしてあげませんか?」


 ミグとイルミアから非難の声が上がる。

 まあ、そうなるよな。

 そしてイルミア、その言葉を待っていたんだ。


「なら、イルミアの子らしいしイルミアが付けてやれよ。頼むぞ」

「えっ? あ、あの……。どのような名前が一般的なのか、よく分からないのですが」


 早くも頓挫の兆し……か?

 関係ないな。

 迷うようならフォルトゥナとでも相談して欲しいところだ。

 と、思っているとチビが俺の袖を引っ張った。

 少し怒ったようにふくれているが、それよりも興味を惹く単語があったようだ。


「名前?」

「そう、お前の名前だ」


 チビは少し考えるように視線を彷徨わせ、改めて俺に目を向ける。


「付けて」

「イルミアに言え」

「付けて」

「……」

「……」


 何故俺に言うのか……。

 言っておくが俺は他人だぞ?

 なんで他所の子の名前を考えないといけないのか。


「チビって言った」

「チビじゃん」


 俺の返事が気に入らないのか腕を突ついてくる。

 これは、傍から見ると微笑ましいような絵面になったりするんだろうか?

 当然痛くはないんだが、さて、なんと宥めたものか。


(わたくし)からもお願いします」


 イルミア、ギブアップが早すぎるぞ。

 せめていくらか案くらいは出しても良かったんじゃないのか?

 にしても、親から許可が出てしまった。

 どころか、こっちに丸投げしてきやがった。


 ふと周りを見ると、全員もう俺が名付けるで確定しているような顔してやがる……。

 ……ま、名前どうこうを言い出したのは俺なんだけどさ。

 しゃーない。


 それにしてもフォルトゥナめ……面倒を押し付けやがって!

 今度会ったら礼に少し触らせてもらうからな!!

 少しだけ!

 ミグにバレないようにこっそりとだ!


 まだ機嫌の直らないチビの頭を撫でる。


「わかったよ。名前付けるから落ち着け。そうすりゃもうチビなんて言わねーから」

「……ん」


 ちょっとだけ機嫌が直ったようだ。

 とりあえず語感やらチビの感触を見る意味でも声に出して考えをまとめてみようか。


「んー。なら、安直だけど地名とかから使えそうな音確かめてみるか。

 まず、この国ファルマ。

 で、場所はリュフェだな。

 所属は一応フィリプス領、リュフェは自治区って扱いだけど。

 元々チビが居たのはミラシアの王都。

 あの都の名前もミラシアって名前なんだよな?」

「ああ。王都の名もミラシアと言う」

「さんきゅ、……正直地名は使えそうなのないな。

 後無視できないのは親の名前か?

 まずはイルミア。

 イルミア・ルナ・シャンティ・アド=ミラシア。

 イルミアは花の名前だとして、それ以外の節に意味とかあったりするのか?」


 言いながらイルミアの方を見る。


「ルナは月明かり、シャンティは心の平穏を意味する言葉だと聞いています。

 何代前なのかは覚えておりませんが、それぞれ王が娶った巫女と歌姫の名を取ったそうです」

「ルナに、シャンティですか。彼女達は……覚えていますよ。

 そうですか。イルミアは彼女達の子孫になるのですね」


 イルミアの先祖はアゲハと面識があるらしい。

 当然、二人とも故人なんだろうけれど……。


「アゲハ、一応聞いておくけどフォルトゥナに家名とかは……」

「ありませんね。そういったものを名乗る精霊は……王か余程の物好きくらいでしょう」

「だよな。ならその辺りから五つくらい名前捻り出してみるか。

 気に入ったのがあったら言えよ?」

「ん」


 僅かに期待の色が強くなるチビの瞳。

 まあ、良いんだけどさ。

 そんなに猛烈にセンス良い名前とか期待されても出てこねーぞ?

 と言っても、とりあえず宣言通り名前の候補を声に出してみる。


「まずイルミアの捩りで、ルミア、とかかな。

 イミアってのでも良いと思う。

 後は頭文字を順に取っていって、イルシアとか?

 ああ、ミラシアの読みだとエルーシャになるか。あれ、エルザだっけ?

 なんならルシアとかでも良いな。

 あとはー、フォルトゥナからも取ってきて並び替えて、フリシアとか。

 んー、もしくは縮めてフィリとか、かな」


 ざっと思いついた名前を挙げていく。

 何かにちなむ、なんて物も思いつかない。

 着物……とかにちなんだとしても含蓄がないのだ。

 ちなみようがない。

 仕方ないから親二人の名前で遊んでみたのだ。


「ルミア、イミア、イルシア、エルーシャ、エルザ、ルシア、フリシア、フィリ。

 しゅーくん、渋ってたわりにノリノリだね。八つも出てる」


 ミグが茶化してきた。

 自分の子だったらもっと拘ったりしたのかもしれんがね。

 なんとなくミグの頭を撫でた。

 ふむ、頬を染めて受け入れの体勢……悪くない。

 チビが裾を引っ張ってきた。


「んー!」

「はいはい」


 こっちも頭を撫でておく。

 ……イルミアの目が羨ましそうな気がするんだが、気のせいだよな?

 気のせいということにして視線をチビに向ける。


「何か気に入ったのあるか?」

「……ふぃり」

「フィリ?」

「ん」

「なら今から、フィリだな」

「ん!」


 なんか、アゲハの奴がにやにやしてるんだが……何かあるのか?

 んー、後で聞いておくか。


「んじゃフィリ、改めてよろしくな」

「フィリ、良い名を貰いましたね」

「フィリちゃん、よろしくね」

「フィリー」

「姫様の子、か」

「……よろしく」


 俺の腕を捕まえて影に隠れるようにしながら返事するフィリ。

 まず、その微妙に人見知りっぽいところから直さないとな。



 恥ずかしがる精霊の子の将来を少し心配しながら、俺こと元勇者候補シュリト・シェルム・ノーグレイスは割とあっさりとその精霊に名前を付けた。

正直、名前を考えるのは苦手です。


ここ数日、思ったより話が進んでいない!!

予定ではそろそろ盛り上がりに……入るはずだったんですが。

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