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元勇者候補君の世直し漫遊記  作者: 77493
第一章 窮国のきみに花束を
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おーまいえんぷれす、一人でお散歩させてよ!

「度胸が足りない!」


 あのあと、俺とミグは同じ寝具、布団と言うらしいそれで眠った。

 言葉通り、文字通りの意味だ。

 何も含まず、ただ惰眠を貪ろうとした!

 だが、一睡もできなかったのだ!!

 互いに互いの身体が触れ合う度にびくつき、目を合わせることすらできなかった。

 悪いか? 据え膳どうとか、実際そうなってみりゃ分かるよ!

 そりゃ、商売女ならそんなこと気にせずやることやって清清しいような朝が迎えられたのかもしれないさ。


 俺はミグを大事にしたい。

 言い訳だってのは分かってるけど、だからってそれが本心じゃないって訳じゃない。

 今はまだ早い、互いにもう少し準備ができてからだ!

 くそッ! 口付け一つできやしない!!


「自分の得意な距離で戦おうとするな!

 格上相手なら、相手の得意な距離を潰せ!

 どんな距離でも戦えるようになれ!!」


 だからって、自分の不甲斐なさの八つ当たりって訳じゃない!

 断じてそれだけは違う!!

 今はリシアとミラの訓練中なのだ!


 リシアはどうしても自分の距離で戦おうとする。

 その距離は、体格にもよるが同じ獲物なら相手の距離でもあるのだ。

 もし実剣での実戦ならそれで俺に一太刀でも入れられる訳がない。

 相手が徘徊する残夢(ウォーキング・グリム)なら、踏み潰されるか手で掴まれる距離だ。

 実戦では何よりも、相手の武器を潰さなければ話にならない。

 潰しきれなかったからこそ、俺は狼程度の爪を受けたんだから。

 そしてなによりこの二人は……、


「綺麗に戦おうとしてはだめですよ。

 シュリト様やオウロの戦い方に華があるのは、その動きが完成されているからです。

 二人とも、誰かに見せるために戦っている訳ではありません。

 綺麗に戦うよりもっと速く、効率的に武器を使うことだけを考えてください」


 そう、この二人は型や見栄えを気にしすぎている。

 戦い方に綺麗も汚いもない。

 勝ちか負け、もしくはなんとか引き分けに持っていくかのどれかしかないのだ。


「もっと近寄れ! そんな距離じゃ弓か魔術で狙い撃ちだぞ!!

 だが、そう容易く懐に入れてもらえるとも思うな!

 自分の剣で道を作れ! 逃げようとする相手の足を潰せ!!」

「近寄っても感知を疎かにしてはいけませんよ。

 ある程度の技量を持っていれば、味方を巻き込まない遠距離攻撃なんていくらでもできるんですから。

 ほら、まず射線を特定。最小限の動きで無効化するか逆に利用する方法を選ぶんです。

 ミラ、あなたは自分の弓で狙えない動きをイメージしてください」


 魔術の狙撃で誘導し、リシアの木剣がミラの首元に、ミラの木剣がリシアの胸元に当たる直前でその動きを止めさせる。


「それまで」


 アゲハが涼やかに勝敗が決したことを告げる。

 リシアとミラは息を乱して膝を衝いた。

 俺とミグはやはり汗一つ流していない。


「昨日よりちょっとはマシになったかな」

「ちょっとどころか、ランクCからランクBになるくらいには二人ともよく動けてましたよ」


 そんなもんか、と一言。

 冒険者ランクで言えば、Cランクからはワンランク毎に大きな壁がある。

 一日でそれを一つ突破できたか。

 だが、この先また面倒な相手が出ないとも限らない。

 リシアには、少なくともあと七日以内にAランク上位くらいの身のこなしをできるようになってもらわなければ安心してミラシアを発つことができないのだ。


「一日でCからBへ、ですか。

 確かに先ほどの二人の身のこなしはBランクの魔物や冒険者と同等でしょうが、本当に一日でそれほど上達するのですか?」

「二人とも、元の能力がそう低いって訳じゃないからな。

 死ぬ気で実戦形式の訓練を潜り抜ければ、Aランクくらいまでならすぐに手が届くだろ」

「そうですね。ただ、ミラは近距離戦闘か無詠唱魔術のどちらかをもう少し練習しないと近距離戦は任せられませんけど」

「だなー。弓ばっか使ってたからちょっと身体のバランスが悪いのかもしれん」


 青色の音色が混ざる息を整えようとする二人。

 大の字に倒れこんでいるが、仮にも女の子がそれはどうなのよ、と思わなくもない。

 まあ、これだけ消耗していても目に見えて剣筋の乱れが小さくなっているのはそれだけ精神力を使っているということだ。

 『やめ』の声の後にまで気を回せというには、まだまだ体力の作り込みが足りないってことだろう。


「ま、走り込みの時と踏み込みの時の足元に意識持って行ってればすぐ良くなるだろ。

 そうすりゃ、もしかしたら弓で接近戦なんてのもできるようになるかもな」

「そうですね。少し弓の素材を選べば弓自体もそう悪い武器ではありませんし」

「弓で、攻撃する、の?」

「はい。関板(せきいた)のところを鞭みたいに使ったり、弦で上手く擦れば多少の金属なら切れたりします」

打根(うちね)という武器を使う手もありますよ。

 単体でも分銅鎖や投擲に使うこともできますが、弦が切れた時に末弭(うらはず)に取り付けて槍のように使うのです。

 もっとも、道場では『弦慈公(げんじこう)』を使っていたので打根の使い方を教えることもありませんでしたが」


 槍みたいに使うってことは、刃物なのか?

 それを紐か何かに括りつけて分銅鎖みたいに使う、と。

 上手く使えば広範囲に攻撃できそうだな。

 難点は、それなら近付いて剣で切った方が威力が高そうってところか。

 あと、近くに仲間は置けないな。

 いや、一人で雑魚を殲滅するって時なら便利なのか?

 ま、どっちにしても俺には要らないか。


「さて、それじゃ俺も俺の方の訓練してくるよ」

「はい。一刻後に朝食の準備をしておきますね」

「ああ、頼むよミグ」

「今日はどちらまで行かれるのですか?」


 リシアとミラにタオルと飲み物を持ってきたイルミアが尋ねてきた。


「んー。今日はミラシアまでの道と、ミラシアがどうなってるかちょっと見てこようと思う」


 そろそろシェル姉の間者が何か掴んでるかもしれないし、その辺りも聞いておきたいからな。


「……そうですか。シュリト様、お気をつけて」

「どーってことねーよ。それじゃ、行ってくる」


 今日は限界の身体強化で、縮地を一番短くして進むことにする。

 限界の身体強化で集中力を要する細かい動作を継続する。

 一歩で進む距離は九千歩ほど、まだまだ制御は甘い。

 ……と、いうか。


「なんで付いて来てるんだよ、アゲハ」

「ちゃんと鍛えているか見ておこうかと思ったのですよ」


 僅かに歩調が乱れる。

 一歩で一万歩余り。

 喋る程度でこの乱れ、やはりまだまだ縮地の制御が甘い。


「……まあ、良いや」

「それより、おめでとうございます。と、言っておくべきですか?」

「っ! まさか聞いてたのかよ!!」

「『俺と、家族にならないか?』でしたか?」

「おっ、お前!!」


 また縮地が乱れた。

 一万五千歩程度を進んでしまった。


「ふむ。集中力が足りませんよ」

「お前が乱してんだろうが!!」


 意地で縮地を制御する。

 よし、だいぶ良くなった。

 九千五百歩程。


 ……そういえば、折角アゲハが居るんだから前々から気になってたことを聞いてみるか。


「そういえばさ」

「なんですか?」

「鬼と魔族ってのは、どう違うんだ?」


 よし、ようやく話しながら縮地をコントロールするのも慣れてきたな。


「それほど違いのあるものでありませんよ。単に、人間と出会った時期や接し方が違っただけです」

「ってーと、鬼も魔族だってこと?」


 アゲハを見ると、指を一本立ててこちらを見ていた。


「魔族という括りが曖昧なのですよ。

 言ってみれば、人間が勝手に引いた線引きですから。

 その括りは、人間に友好的かそうではないか、その違いでしかありません。

 精霊や悪魔となれば精神やその身体の構造から違うので間違いようがありませんがね」


 木が体のすぐ横を通り過ぎた。

 互いに余所見してても遮蔽物に当たるなんてことはない。


「へぇ。ってことは、書物ごとに魔族の特徴が違うってのは」

「種族が違うのです。

 我々鬼のように角のあるもの。代わりに宝石のような器官を持つもの。

 肌の色が違うものや耳の形、体格が少々異なるものも一括りに『魔族』と呼んでいるのでしょう?」

「そうだな。獣みたいな特徴を持つものも、肌の色くらいしか違いがないものも全部まとめて『魔族』って呼んでる」


 ある書物ではその小さな身体を生かした戦術が描かれ、別の書物では大岩すら持ち上げる巨漢として描かれている。

 途中から読むと、どんな魔族だか分からなくなるんだよな。


「……初代の魔王が『魔族』だったと聞きます。

 恐らく、未だにその魔王の名乗りで呼称しているのでしょう」

「『魔族』って種族も居るのか?」

「居ますよ。我々鬼と同程度に強い種族ですね。

 青い肌を持ち、眼球の、白目の部分が黒く、赤い虹彩を持った種族が『魔族』と呼ばれる種族です。

 生来、魔眼を持つものが多いのですよ」


 ほー、それが『魔族』って種族なのか。

 ってことは、人間が『魔族』って呼ぶのはあれか、初めて食った果物がリンゴだから果物全部をリンゴって呼ぶようなものなのか。

 そう考えるとかなり間抜けだな……。


「それ以外は何ていうのが居るんだ?」

「まず人間、我々はヒューマンと呼んでいますが、それが呼称する『魔族』全体のことを我々は『亜人』と呼んでいます。

 ヒューマンと『亜人』全てを含めて『人間』と呼んでいますね」


 人間も『亜人』には違う呼ばれ方をしてるのか。

 ヒューマン、か。

 何か意味がある言葉なのか?

 まあ、今は良いか。


「ふんふん。『魔族』も『鬼』も獣っぽいのも『亜人』だと」

「そうです。次に獣の特徴を持つものを特に『獣人』、その中で更に特徴毎に動物の文字を取って名付けていますね」

「例えば?」

「『猫人』、『犬人』などはどんな見た目か分かり易いでしょう?」


 これは読んだことがあるな。

 特徴に見合う感覚や能力が高いんだとか。

 『犬人』ってのと俺と、どっちの鼻が良いんだろうな。

 それも、今は良い。


「猫とか犬の耳や尻尾を持ってる訳だな」

「はい。その他に、長く尖った耳を持つ長耳人(エルフ)、背は小さいものの頑強な肉体を持つ火打人(ドワーフ)

 あらゆる亜人の中で最も身体の大きい巨人(ジャイアント)、逆に成体になっても他種族から見れば幼く見える小人(ホビット)

 その他に、ヒューマンから進化した亜人や精霊、悪魔の血を引く種族もその血の濃さ次第で『亜人』に含まれますね」


 アゲハは一度言葉を切り、こちらの理解度を見ているようだ。

 思いのほか種類が多いが、理解できないほどでもない。


「『人間』は全て、何かを契機に進化することがあります。

 神の眷属の血を引くと言われている大きな翼を持つ翼人(エウリュアル)

 それが魔力を高め額に宝珠を持つまでになった天翼人(セレスト)

 魔力が高いものは、身体のどこかにそういった光る器官が現れることが多いですね」


 翼を持つ種族、か。

 行軍中、空から夜襲があったなんて書物があった気がする。

 もしかしてそいつらが夜襲をかけたのか?

 で、何か条件を満たせば上位の種族に進化する、と。

 というか、ヒューマンから『亜人』に進化することもあるのか……。

 あれ、進化ってもしかして、他種族との間にできた子供とかなのか?

 すると人型の魔物って……。


「……あー、魔物の中にも人型のヤツがいるのは、もしかして『亜人』?」

「基本的に、人と子が成せるものは『亜人』ですね。

 醜人(オーク)や、小鬼(ゴブリン)有色鬼(オーガ)暴食人(トロール)魔歌姫(セイレーン)谷飛人(ハーピィ)石蛇姫(メドゥーサ)、全て『亜人』です。

 ただ、彼らは我々としても手が掛かりすぎる相手ですがね。

 ヒューマンと、『亜人』。双方に敵意か害意を持っているから、魔物という括りになっているのでしょう」

「つまり、ファーストコンタクトが最悪で和解できなかったのが『亜人』。

 和解しようがないのが魔物として扱われてるってことで良いか?」

「そうですね。『亜人』側からも魔物と同等の扱いを受けていますから、彼らを『亜人』として数えるのは難しいかもしれません」

「その、魔物の括りの奴らはどうやって生まれた、とか……」

「多くは狂った『亜人』やヒューマンが変異したものだと言われていますね。

 強い呪いの影響で変質したものも居ます。

 変り種としては、メドゥーサの上位種、ラミアと呼ばれるものが海を気に入って住み着いたのがセイレーンの祖だとか」


 あー、うん。

 特にオークやらゴブリンとかと元は同じかもしれないと言われると、あんまり良い気分にはならんね。


「我々の文字ではゴブリンやオーガの名前に『鬼』の字が入るのですよ?

 名付け親を(くび)り殺してやりたい気分です」


 アゲハもその辺りは変わらないらしい。


「っと、話してる内に見えて来たな」

「まだ国境を越えたばかりですが……よくよく考えるとこれは不法入国ではないのですか?」

「ん? まあ、すぐ帰るし大丈夫だろ。

 実際、戻って馬車で通る時には関も通るしな」

「……深くは考えないことにしておきましょう。それはそうと」


 アゲハは一つ手を打ち、こんなことを言った。


「ミグとはいつ子を作るのです?

 その子が育てばきっと良い戦士になるでしょう。期待していますよ」


 俺は思わず足を踏み外し、ミラシアの逆側の国境を超えた。

 ……特に気にした感じもなく普通にそこまで付いて来たアゲハは何者なんだよと言いたかったが、とりあえず言っても無駄だと飲み込むことにする。

 当代八代目弦慈公にして現鬼の王に何を今更、という感じだしな。

 ちなみにミラシアを横断するこの距離、普通に縮地で進んで計ったところ大体二百二十万歩といったところの距離だった。


 とりあえず、努めて冷静に返すことにしよう。


「ま、まだああわあわわてるような時間じゃない!!」


 その『してやったり』みたいな顔はなんなんだよ!!



 所々で弄ってくる鬼の同行人に苛立ちを感じながら、俺こと元勇者候補シュリト・シェルム・ノーグレイスはいろいろと警戒を深めた。

種族の説明回ですが、しばらく説明した種族は出てきません!

三章はよ!!

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