妹なんているはずない2
ズズズ…。
お茶をすする音が、アパートの一室の居間全体に響き渡る。
玄関にいた少女と話すべく、俺は少女を家の中に入れた。
「ぷは~~!やっぱり兄貴が入れるお茶はうめぇなぁ!」
大きな声で俺の入れた緑茶を褒め称える少女。
しかし、そんなのお構いなしに俺は話し出す。
「んで。お前誰?」
そう俺が聞くと、少女はきょとんとした顔になる。
「嫌だなぁ。兄貴は、かわいい自分の妹の顔も思い出せないのか?」
バン!
机をたたく音が居間全体に広がり、場は静寂に包まれる。
「だから、お前は誰かと聞いている!」
「………兄貴」
少女は少し怖かったのか体を縮めて、心なしか震えている。
「………いるはずねぇんだよ。あいつは。………………夕はどこにもいねぇんだよ!死んじまったんだ。2年前に…」
そう。もう一人の妹、時雨夕。歳は紅葉と同じ14歳の中学2年生。
苗字が違うのは、親父の浮気が原因。いわゆる、腹違いの妹。
俺のお袋が紅葉を身ごもってるのと同時に、夕の母親も身ごもった。そして、紅葉も夕も全く一緒の日に出産された。
しかし、俺と紅葉のお袋は紅葉を生むと同時に他界。帰らぬ人となった。
そのまま俺と紅葉は親父に連れられて住むことになった。
夕も一時の間は母親に連れられて幸せに暮らしていた。
しかし、ある日突然、夕の母親は失踪。
夕も、俺と紅葉と同じように親父に育てられた。
こういう生活も悪くはなかった。
だが、そう思ってるのは、俺と紅葉だけかもしれない。
俺は兄妹のなかで血筋が通ってない夕を気遣い、夕に優しくした。優しく、優しく、とても優しく。
いつの間にか俺は紅葉のことに無関心になっていた。
そんな中2の秋ごろ。
紅葉は夕に…。
ドン!
「…兄貴?」
その一言で我に返る。
「………夕」
俺は思わず妹の名前を口にしてしまったが、こいつは妹の外見をしていて、妹じゃない。
「……夕じゃないよな?」
今度は優しく問い詰めてみた。
「兄貴はほんとに感がいいね。あたしが夕じゃないってすぐに見破るんだもん」
彼女は夕じゃなかった。
一瞬、そのことでホッとした。だが、同時に悲しみもあふれてくる。
「………そうか。夕じゃないんだな。なら、お前は誰なんだ。」
「ふふん。知りたいかい?」
「いいから、話せ」
「…ハァ。ノリ悪すぎ!」
少しため息をつきながら彼女は自己紹介を始めた。
「あたしは神様。あなたの亡くなった妹の意思を引き継いだ神とでも言おうかしら」
こいつは何をいってるんだろう?
神様なんて、いるはずないのに。