灰
バルルさんのリクエスト?で、色の続編。
てか大まかな千里視点・・・
なんか意味不明になったけど、まぁそんな感じですェ・・・。
その人の腹が、日を追う事に段々と膨らんでいく。不思議にジッと腹を見つめていると、その人が俺を呼んだ。俺の手を優しく掴んで、それから、俺の手とその人の腹が触れる。
「っ……」
ハッとした。
とんとんと、時々ドアを小さく叩いてるような、そんな柔らかな感触がする。ビックリして目を見開いていたら、その人が笑って言った。
「ヒトが産まれて来るんだよ」
俺は、こんな感じに腹の中にいて、そしていつか腹の中から出てきたのか。この人も、この人が好きなあの人も。そしてこの命の塊もこれから――。
俺はその腹をもう一回、出来るだけ優しく撫でてみた。それで、腹の中に宿ったその命を撫でさせてくれたその人がこう言った。
「もうすぐお兄ちゃんだね」
もうすぐこの命が腹の中からカタチを成して生まれて来る。俺が、この腹から生まれてくるその命のお兄ちゃんならば、その腹の主のこの人は、俺の何なんだと。
この腹から生まれてくる命からすれば、この人は『ハハオヤ』で、その『ハハオヤ』からすればこの命は『コドモ』で、じゃあ、この人にとって、俺は何なんだと。
結論はすぐに出た。俺はこの腹から生まれてないから、言ってしまえば『ニセモノ』だ。どっかの誰かの腹から生まれた、誰の血と血が混ざって生まれたかも分からない、『タニンのコドモ』
もしかしなくても、俺はここに居てもいいのか。
もうすぐこの二人はその命の親になるのに。本当の『カゾク』になれるのに、俺はここに居てもいいのか。居てしまっていいのか。居ちゃっていいのか。居ちゃったら駄目だ。居たら邪魔になる。居たら迷惑になる。居たらまた痛くなる。
「君、お父さんとお母さんはどうしたの? もう夜遅いから、帰りなさい」
俺は家から居なくなろうとした。思い立ったら、すぐにその家を飛び出していた。
「家出か?」
そんなものじゃなくて。そういうものじゃなくて。俺は本当に、その家から逃げるようにして飛び出してったかもしれない。その家が俺を追って来なくなるまで逃げた。後ろなんて振り向く暇なく走った。確認はしてないから、多分何一つ自分を追っては来なかったんじゃないだろうか。
それでも走った。
逃げて、逃げまくった。
何が何でも捕まりたくはなかった。
「家はどこだ? 名前は?」
捕まった。
ケイドロで例えれば、『ケイ』の方。帽子を被って、何やら棒を腰につけて、トランシーバも持っていて、何やら完全装備の男が俺の事を誰かに事細かく報告していた。
怖かった。
この人は知っている。俺をあの地獄から救ってくれて、俺を箱に閉じ込めた人達と同じだ。格好も、あの時と何等変わりはしない。
「今から、お父さんとお母さんが迎えに来るから。あんまり迷惑かけちゃ駄目だよ」
交番の中で、完全装備の男の人にそんな事を言われた。
違うよ。あの人達は俺のお父さんでも、お母さんじゃないんだ。俺はあの腹の中から生まれてない。俺はあの人達の子供じゃない。本当の子供がもうすぐ産まれるんだ。これから迷惑かけちゃうから。これは迷惑じゃない。邪魔しちゃいけない。邪魔なんか出来ない。邪魔にはなりたくない。
「千里っ……!」
『もうすぐお兄ちゃんだね』
ふいに優しい声が俺の名を呼んだので、泣きそうになって、必死に止めた。
「どこ行ってたんだ! 心配したんだぞっ!」
腹の中の子供のチチオヤは、柔らかなキミドリ色。
「こんな遅くまで……お腹空いたでしょ?」
腹の中の子供のハハオヤは、優しそうなクリーム色。
初めて会った時から、その色は変わらない。
「「お家に帰ろう」」
優しい言葉が、怖かった。
「家って、……誰の?」
「千里と、母さんと、父さんの家だよ」
2人の家はあそこだ。でも、俺の家はあそこじゃないだろう。
「俺は、オジサンとオバサンの子供じゃないよ」
キミドリ色とクリーム色が、一瞬だけ歪んだのを今でも覚えてる。何を思ったのか、何を後悔したのか、何が悲しいのか、何を間違えたのか。俺は所詮タニンの子。そんな奴を連れてきた、自分等を責めたてているのだろうか。
「ごめんなさい」
一瞬だけ歪んだその色が、妙にグロテスクな色をしていて、訳も無く謝った。余りにも中身が空っぽの謝罪すぎたので、俺は言った後にその謝罪の理由を付け足してみた。
「オジサンとオバサンの邪魔しちゃって、ごめんなさい」
今度はグロテスクな変色ではなく、色の何もかもが透明になって行くのが見えた。小さかった頃の俺にはいままでそんな色の変動なんか見た事も無く、本当に困惑していた。人生で初めての出来事だった。この色が消えちゃったら、人間はどうなるんだろうか。もしかして一緒に消えちゃうとか。透明人間になっちゃうとか。子供の頃はそんなありえない事ばかり頭をよぎっていた。
「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい。ごめんなさい」
謝った。
単純に、色が透明になっていくのは怒っているからだと思っていた。俺に怒りを覚えて覚えまくって、色が消えてんじゃないかと。
「それ以上謝るな」
オジサンのいつもよりも野太い声が振り降りてきて、ビクっと体が震えた。
「謝るな」
もう一度聞こえてきた声をよく聞けば、涙声だった。声が震えていて、何故だろうと顔を見上げてみたら、オジサンが泣いていた。なんでだろう。俺は何かしただろうか。ちゃんと謝ってるのに、それに怒ってるクセに謝るなって、この人は何を言ってんだろうか。
「お前が何と言おうと、俺はお前の父親で、母さんはお前の母親だ、」
力強く。キミドリ色が、強く優しいミドリ色になった。目には俺を写し、そんな事を言った。俺はビックリした。その言葉だけで何故か体の力が抜けるほどの安心を覚えたもんだから。
「千里っ?!」
その場にヘタッと座りこんだ俺を両腕で支える。その手があまりに大きくて、目から涙が溢れだした。温かくて、温かくて、胸が締め付けられるたび、嬉しいなと、そう思った。
「おとーさん、……おかーさん…」
「……っ」
謝るなと言われたので。
「ありがとう」
一生忘れる事は無いであろう、感謝をした。
その日俺は、生まれて初めてこの二人を『お父さん』『お母さん』と呼んだ。
*
それでもう少しだけ月日が流れて、祐太が生まれた。生まれて初めて、生まれたばかりの赤ちゃんをこの目で見た。猿みたいな顔をしていて、その時もまだ俺は十分体も思考も小さかったけれど、それでもその赤ちゃんを見て『小さい』と感想した。
それともう一つ、俺が学んだこと。
「真っ白だ……」
どんな色にもなれる、シロ色。このシロ色はこれからどんな色になるのか、それを見ていきたいとか、ずっと傍に居たいとか。
優しそうなクリーム色は俺のお母さんで。
柔らかなキミドリ色は俺の父さんで。
じゃあこの幸せそうなシロ色は俺の何なのか。結論はすぐに出た。『オトウト』だ。血は繋がってない。だけど俺はコイツの生を見た。優しい母さんの腹から生まれてきた。強くて柔らかい父さんの息子で、だから守りたいと思った。
それからは幸せだった。
親子で遊園地や水族館にも行った。朝早くから映画館にも行って、ご飯を食べて、それから買い物もしたりした。
幸せだった。
「……」
その代価が来たんだと思う。
「……」
あの日より数段大きくなった体と思考で写し見る。目の前にいるのは紛れもなくあのクリーム色とキミドリ色の筈なのに。
「あぁ……」
それからもう俺は知っていた。もうあの色は見れないって事。
だからその思いと、これからの決意。
真っ黒な色をしたその2人を、俺は二度と忘れる事もないだろう。
――死んだら人は真っ黒になるのか。
生まれた赤ちゃんが真っ白ならば、まぁそれも納得はいった。だけどあの色をもう見れないってのは、これからしばらくは違和感を感じるんだろう。
普通の公立の高校に入学させてもらった。それから少したった夏の日だ。俺の両親が死んでしまった。俺と、……祐太も残して。
交通事故。
そんな納得のいかない死を認めてしまった、俺が憎い。
真っ黒になってしまったその2人は、最後に、真っ白に変わった。火葬されて灰になったその二人は、白くなっていた。戻ったのかと、そう思った。もう何色にも変わる事のない白色。赤ちゃんの白色とはまた別の真っ白だった。それでも、真っ黒よりかマシで。
それが何より悲しかった。
真っ白から始まって、人間は人それぞれ自分の色を見つけ、変わり、変わり、そして死んで真っ黒になり、最後には真っ白になる。
生命の循環と言うモノだろうか。
自分もあの真っ黒になってしまうのかと思うと、何故か凄く嫌気がさした。自分の色を忘れたくないと、真っ白になった両親を見た後で、自ら鏡の前にたった。
「なんで……っ」
そんで泣きそうになった。
俺はあの薄い青色さえ身に纏っていた筈なのに。何故それが灰色になってしまっているのか。黒とは程遠いまだ白っぽい灰色でも、それでも黒色に近い色と、そう認識した。
両親が死んだことでこんな色になったのだろうか。それじゃあ、祐太はどうなんだ。あの輝いた黄色も、こんな灰になってしまったのか。
「祐太っ!」
黄色がポツンと一人、居間でプリンを食べていた。
「ちーにぃー、」
安心した。
この子はまだ、何ひとつ変わっていない。俺とは違う。そうだ、この子はあの二人から生まれた。あの心優しい、心強い。だから俺は、これからこの色を、これからの色を、守らなければいけない。俺みたいな灰色ではなく、ちゃんとした、クリーム色とキミドリ色のような優しく強い色を守らなければいけない。
そう決心して、学校を辞めた。
高校にいかなきゃ将来禄な就職は出来ないだろうが、そんな事はどうでもよかった。将来じゃない、俺には今しか考えられなかった。それに、祐太に苦しい思いをさせてたまるものか。そんなのは、俺だけで充分。学校を出て、住んでいた家を売り、一変してボロいアパートへと移った。金はそのまま貯金して祐太の将来からの学費に充てる。これからは生活費用もろもろを貯めなければいけない。幸い学校を辞めた分時間はいくらでもある。なんだか法で、深夜バイトが出来ないのはきつかったけれど、それでも頑張った。
そんな一人で祐太を守っていかなければいけない俺にも、ただ一人、一人だけ友達がいた。
「あんま無理すんなよ」
智とはほんの短い高校生活で知り合い、何故かは知らないが辞めてからも度々会い、少しの時間楽しい時を過ごさせてもらっていた。
「ダイジョーブ、ダイジョウブ」
大丈夫じゃなかった。
楽しすぎて、その反動が辛かった。しょうがない。それが心の弱さで、人間なんじゃないだろうか。なんて思って、でも智を避けるのは嫌で、だからその時だけは、存分に楽しい思いをさせてもらった。どうせ何したって辛いんだし。
だからある意味大丈夫。
それからもう少したって、もうちょっとたったくらいに、俺に転機が訪れる。
それは寒い時期になろうとしている一歩手前の時くらい。バイト帰りに、ある一人の男に声をかけられたのがきっかけだった。声をかけられたと言うか、最初は肩をポンと叩かれた後に、指を1本だけ指し、それからそれをパーの形に変えるのを見せられただけなんだが。
「何それ」
よくよく見れば、珍しい色をしたその男。
「1回5万」
びっくりした。
「5まっ……?!」
月給とか、そういうのじゃなくて、1回5万。さて、それはどんな仕事なのか、俺は切羽詰まって聞き返した。
「簡単だよ。…俺とさ、セックスしてくんない?」
耳を疑うとは、こういう事か。
目の前の男は、目の前の俺に向かってそんな事を言い出した。男で、男で。それで何がセックス?
「え……と…?」
「ん?」
何から聞けばいいかわからない。何を言えばいいのかもわからない。とりあえずあれか、この男は所謂、ゲイって奴なんだろうか。いや、ていうか、そうなんだろう。じゃなきゃ俺なんかにいきなりセックスしない? なんて言ってこないし、ましてや男なんかにセックスで金払うわけがない。
それでも、俺はゲイじゃない。
「いや、…あの……」
「君、お金必要なんじゃないの? 未成年だろ? なのにこんな遅くまで、……」
未成年としっててそんな事を言っていたのか。援交とそんな大差ないとまで思えてきた。
「1回5万」
「っ……」
「悪くないでしょ?」
月に稼ぐ給料分より、2,3万少し少ない程度。その分が1日。しかも1回で稼げる。でも男……。そのかわりにお金がもらえる。
「……」
俺はその日、初めて男を知った。
一生知らないほうがよかったかもしれない。そう思った時はもう既に遅く、だからもう何も考えるのを辞めた。
「君、名前は?」
「千里」
「千里……千里ね。…あ、金。はい、5万な」
男が財布の中から無造作にお札を5枚取り出す。力なく受け取ったその何枚かの1万円は、苦労して1ヶ月働いてもらった給料とは程遠い、何やら味気の無いただの紙切れに見えた。
そうみえても、それでも金だった。
「明日、ここにおいで。金に釣られて同じ男と寝てしまうくらいだ。それ程金に困ってんだろ?」
親はどうしているのか、何故金に困っているのか。そんな事は、聞かれなかった。
「……」
男が今度は何かの名刺を取りだし、渡してきた。どこかの知らない会社名、住所と、FAXと、電話番号。
「何、するとこ?」
「今さっきやってた事より、もう少しマシなこと」
「?」
「男娼とホストの……間? 男も女も相手にする。まぁ女の方が多いと思うけどな、人によっちゃ同性のが多い奴もいるけど」
「金は……大体どれくらい働けば、どれくらいの収入になるの?」
「それは、人それぞれだけどな。トップは月に100万超え、まぁその月々で変わる。最低でも10~20はもらえるだろうな」
「10万……」
偉い金だった。その分で、俺はまだ子供だったのかもしれない。
「……」
次の日、その深夜。
俺は、名刺に書かれた通りの路地裏場所へと向かった。文字通り人通りの少ない、薄暗い、そんな場所。
「あの、すみません」
少し躊躇しながら、正面入り口を通り、社員と思われる人に声をかけた。
「紹介されて、……この人いますか?」
昨日手渡された名刺をその人に差し出す。社員は何か感づいたように目を見開き、俺を中へと通してくれた。
「指名が来る度お金が入る。仕事は体を売るだけ」
奥の応接室で聞かされた仕事内容は、残酷な程に簡単だった。たったそれだけ、体を売るだけで金が入る。自分がそのまま金に還元される。
夢のような話し。
「俺にそんな価値がありますか」
俺は大金が得られるような人間なんだろうか。高校を中退したガキで、成人もしてなくて、バカで、灰色で。そんな俺が、そんな大金。
「得られるように努力すればいい。顔も身体も、金で変えられる世界だ。自分の性格なんて隠してしまえばいい」
努力でなんとかなる世界。
男はそう言った。
「努力……」
金を得る為の努力、祐太を楽させてやるための努力。
「仕事、させてください」
そう、俺は努力した。
誰に気持ち悪いと言われようが、汚いと言われようが、努力した。知らない人と体を重ねて、気持ち悪い物も事もたくさんみた。
努力した。
「……また…」
努力するたびに、自分の灰色が黒々しくなっていった。それでも努力し続けた、黒くなって、黒くなって、智と会って少しマシになって、祐太が笑うたびマシになって、それでも日に黒くなっていく灰色。それがなにより、悲しかった。
「千里、最近売り上げが下がってきたな」
1年とちょっとが経って、慣れまくった仕事。金の得る為の努力の結果が、失われていく。
昼は普通のバイトで、夜は努力のバイト。
「そうですか……」
もう、限界かもしれないと気付くには、案外速かった。
「すみません、叔母さん。突然の電話でごめんなさい。用事があって……――はい」
俺だけじゃもう、だめだった。
「祐太を、……預かって欲しくて」
叔母には散々罵声をあげられた。それはもう苦しくも悲しくもなくて、ただ俺は溢れ出しそうな涙を必死に堪えていた。
蒸し暑いある夏の日。
「俺の負けだ……」
完敗した。
その単語だけで、俺の体は後悔で力が抜けていった。意識が朦朧とする。暑くて悲しくて、後悔。祐太に迷惑は掛けられないのに、これ以上の迷惑をかけてしまう。祐太の将来を踏みにじりたくはない。絶対にそれはしたくない。
そんな意識は遠く消えて行った。
「バカか、お前は――」
水色の混ざった紺色の濃い良い色が、目の前にポツンと灯った気がした。その色が羨ましくて、懐かしくて、その色に手を伸ばしてみた。
「ちぃ兄っ! 大丈夫?!」
「ん……あぁ」
水色の混ざった紺色は少しだけ距離遠く、気づけば赤色が俺の顔を心配そうに覗かせていた。
「…ごめんね、起きた起きた。少し疲れてただけだよ」
祐太の赤色が震えている。チチオヤに似た、あの強い色が消えかかっていて、少しでも早く戻して欲しくて、安心させたかった。
「智」
祐太の涙を拭きながら、顔も見ずに智の名を呼んだ。
「……なんだ」
不機嫌そうな色が、遠くから降ってきて、それが少しだけ可笑しく思えた。
「悪いんだけど、今日だけ。裕太泊まらせてくんないかなぁ?」
「嫌だよ! 俺ちぃ兄の傍にいるっ!」
強い赤色。
「困ったなぁ、お願い裕太。今日だけだから…」
「嫌だ! ここにいる!」
強くて強くて。
「兄ちゃんの事困らせないでよっ…ね?」
「……っ。分かった。…でも今日だけだからなっ!」
ハハオヤに似て、優しかった。
鼻水を吸い、また今にも泣きそうな顔で強気な顔をする。
「良い子だね、強い赤色」
それが嬉しくて、こっちが安心してしまった。
「分かったが、…俺はすぐ戻ってくるからな。バイト行ったらお前も俺ん家行きだ」
お人好し、人の事を考えてくれて、周りを良く見てくれていて。
「わかったわかった」
羨ましい色は、目まぐるしく濃くなったり薄くなったり。怒りを必死に抑えている様子だった。
「行くぞ、祐太」
「うん、……」
祐太の手を引き、軽くバタンと戸が閉まっていく。カンカンと、二人分の階段を下りる音が聞こえ、もう少しだけして、シーンと、静かな音が響いた。
「……」
隙にバイトに行ってしまおうかと考えたけれど、濃い良い色がダメだと言ったので、行くのを諦めた。別に怒られても泣きたくも悲しくもならない。少しだけの謝意が生まれるだけ。
「ははっ」
なのに何で行かないのか考えたら、その答えに笑えてきたもんで。俺は薄気味悪く一人で笑っていた。
なんで倒れたのか、多分それはただの疲労だったんだろう。少しの時間寝て、ごはんを食べて、それからはずっと仕事をしていたもんだから。
倒れたときに、俺は少しだけ、もう終わってしまいたい。なんて、そんな事を考えた。その後ろに想ったのが、キミドリ色と、クリーム色。あの二人は終わった時に、真っ黒になって、真っ白になった。俺は真っ黒になるのが本当に嫌だ。嫌でも、その後に真っ白になれるのならば、それならそれの方がいい。
灰色。
どんどん濃くなるその色は、良い色なんて到底呼べる物じゃない。真っ黒はそれ以前の問題で、何色にも変わらない色は、悲しい色。『変わる』と言う希望も奇跡なく、ずっと白であり続ける。何色にも変われない。
「それで、いーんじゃん」
悲しい色でも、黒色にはならない。それでも、白以外の色を纏えない。
俺はいままで、どんな色を纏ってきただろうか。
「変わるシロと、意味を含めないアオムラサキと、幸せなオレンジと、薄いアオと、汚いハイと」
たった5つ。たった5つで、それだけで終わってしまっていいのか。このまま灰色が黒濃くなり続けるなら、終わってしまった方がマシだ。
「――」
それでも、俺は。
「馬鹿か、お前は――」
色が、目の前にポツンと灯った。
「お前が死んだら、祐太がお前の色になる」
「……祐太が、灰色…」
絶対に阻止したい未来。
それでも、じゃあ、俺はどうしたら……。
「俺は、灰色じゃない、違う色になれるのかな?」
「得られるように努力すればいい。努力すれば手に入れられるのは、何も金だけじゃない。変えようとすれば、その色だって少しくらい答えてくれるだろ」
努力。
努力すれば。
「どうやって……」
「――」
答えを教えてはくれなかった。そのままジリジリと今にも消えていきそうなその灯った色を、俺は泣き出しそうな目で見つめていた。
「バカか、お前は――」
泡のように消えていく色と変わるように、水色の混ざった紺色の濃い良い色が、目の前にポツンと灯った気がした。その色が羨ましくて、懐かしくて、その色に手を伸ばしてみた。俺はいつしか、こんな濃い良い色になってみたいんだ。
「……」
それは、些細な夢、だったんじゃないだろうか。
*
祐太を叔母さんのところに預けたのは、その1週間後の事だった。ちゃんとした説得はしていない。ただ少しの説明と、最後の別れ。
それだけで、祐太の強い赤色が暗くなっていくのが目に見えて分かった。気持ち悪くなったので、その場から早々と離れた。
あれで良い。
これで良かった。
邪な気持ちを必死に遮った。きっとこれが最良な選択。暗くなったって大丈夫。あの強い色はきっと衰えることなんか無い。あの二人の子供なんだから。
だから祐太は大丈夫。
「さてと……」
気持ちを抑えて、俺は最後の準備に取り掛かった。
あらかじめ今月末で辞めると伝えた全てのバイト先へと向かい、制服を返したり、最後に給料をもらったり、最後の挨拶をしたり。一区切りついた後に、俺は疲れ果てた体で濃い良い色と会った。
「祐太は行ったのか?」
「うん」
目に程よく落ち着く色。
声も、存在も。
「……泣きたいなら、別に泣いてもいいんだぞ」
優しい声に、ついつい甘えたくなった。
「泣かないよ、」
俺は絶対、泣いてなんかやらない。智のような濃い良い色を身に纏って、そしたら、おもいっきり、存分に、溜めてた思いを吐き出してやる。
絶対に泣かない。だから、俺は胡散臭いくらいに満面の笑みを作ってやった。
「じゃあ、俺行くね。」
「あぁ、おやすみ」
「うん。サヨナラ」
最後の挨拶は、1秒も経たずに過ぎていった。
「……」
自分の色を見つける為に。灰色が完全に黒くなってしまわないように。そうだ、努力。その為に俺はまず、弱音何か吐いてやらねぇ。
それでも最後に何か一つだけ弱音を吐いてもいいとするならば。俺は多分、あの濃い良い色も、それを纏うその存在全てが。
好き、だったのかもしれない。
千里が何もかもを辞めてその街を出たのは、自分の色を自分自身で見つけたいってのと、その為の努力は、思い出の多いこの街ではできないと思ったからじゃないでしょうか。あと、ちょうどその時にちゃんと仕事しないかって夜のお仕事から誘われてたって設定です・・・。
千里をその仕事に誘った男は、珍しく2つの色を身に纏ってます。ウチもこないだ初めてみましたw学校の先生なんですがwテンションあがったwww
下半身が青で、上半身が赤。
その男も、そんな感じの2つの色を持っていて、千里は興味を示したんじゃないんでしょうか。多分智みたいに濃い良い色をしていたんじゃないかと・・。
てか書いてて思ったんだけど、親が二人ともいなくなって、誰か育ててくれる身寄りがいないんなら、施設行くんじゃん・・・。
だって千里高1ェ・・・・
まぁ、小さな事は気にしないで・・・・・。
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