音
年下軍人×年上区役所職員
※注意
この話には、色々と適当な適当話が盛り込まれています。このような物が嫌な人は、見ない方が良いとおもいます。
私の書く小説の中でも結構ずっしりとした重めの話です。
浅い知識の中で作り上げているので、そのような批判的かそれっぽい何かは編集(勉強)するので(多分)言いたい人は言っちゃってください。
(資本主義とか共産主義とか、そんな経済面の歴史の方しか得意じゃないので分かりませんのです)
そんな感じでお願いします。
いくら静かにしたって血液が流れる音や脈音。微かだろうけど確かに音をだしていて、カメラを設置して、無人で人のいない部屋を観察していても、カメラを機能させる電気が音を出している。結局無音なんて、実際誰も経験した事はないんだと。そもそも無音なんてのは本当にはなくて、架空の存在なんじゃないんだろうかと。そんな風に思ったわけです。
*
そもそも何でそんな事を考え始めたのかと聞かれると、それは遠い昔。まだ俺のおばあちゃんが生きていた時の話。
「おばあちゃんにはね、前世の記憶があるの」
「ぜんせってなに?」
まだ幼稚園かそこら辺の時。親よりも学校や幼稚園の先生よりも俺の「先生」だったおばあちゃんの話。「自分には前世の記憶がある」なぁんておばあちゃん先生は言った。さて、前世について幼稚園児でも分かりやすい解説をしてくれたおばあちゃんは、次に奇妙な事を口にした。
「おばあちゃんにはね、前世のおばあちゃんが死ぬ時の記憶『だけ』があるの」
なんだかややこしい話だったけれど、その頃の俺はメルヘンな脳みそで目をキラキラさせながら話の続きを聞いた。
「おばあちゃんが死ぬ前に、凄い大きな音がドカンドカンって鳴り響いてたの。耳が聞こえなくなりそうなくらいによ」
「おおきい音がなったらみみがきこえなくなるの?」
「そうね。人間って不思議なの」
おばあちゃんの膝の上に座っておばあちゃんの話を聞いて当時の俺は、何だか怖くなって耳を塞いだ。背後から聞こえるおばあちゃんの声が、今まさに聞こえなくなってしまいそうで怖かったから。子供は至って単純なのである。
「大丈夫よ」
耳を塞いだ外から微かに聞こえたおばあちゃんの優しく包むような声に誘われて、手を下ろす。
「でもね、前世のおばあちゃんはその時に、ふと何も聞こえなくなったの」
「……みみがきこえなくなったの?」
「違うわ。生きている時と死んじゃう時の間の時間。ほんの一瞬だけ。死んでしまった時の記憶は死んじゃったら残らないから、これは生きている時の最後の記憶。死んじゃうほんの一瞬の記憶。おばあちゃんは『無音』を聞いたの」
「むおん?」
「何も音がしなくなるって事よ。おばあちゃんはもう一度それを確かめるために生きてきたの。多分ね」
その数日後。おばあちゃんが死んだ。
俺は人と言う死を初めてみて、泣きも笑いも出来なかった。ただジーッと箱に入れられて白く固くなったおばあちゃんを見ていた。見つめ続けていた。おばあちゃんは『無音』を確かめられたのだろうか。『無音』を聞けたのだろうか。
そんな事を思ったここまでが回想。
ここからが、俺が無音を聞く数日前のお話。
*
おばあちゃんの死からもう数十年が経って、おばあちゃんの事も思い出す事は希で、無音の事については記憶の片隅にも無かった。ただ日々生きていく事が大事な、そんな時期時代。
「218番の方、3番窓口です」
時代が荒んでいる、そんな時期時代。
俺の仕事は公務員で、主に区役所で物資支給窓口に勤めていた。つい3年昔ならばこのお仕事もきっかり8時間勤務、土日祝日が休みで、リストラもない。なーんて夢のようなモンだった。「モン」だったのだ。
現在2017年。第3次世界大戦勃発による、人口減少。人口減少の中ですら自衛隊に駆り出される人間もいる。まぁその中には今の今まで公務員だった奴もいるわけで、全国の公務員の数は開戦以前の約7%から2%にまで減った。まぁでも、公務員だけが減るだけではなく、日本総人口も8000万にまで減ってしまったので、あまり仕事の過多はない。医療を含む技術文化等が発達したにも関わらず第二次世界大戦時の総人口と同じくらいとは、政府は何をしているんだろうね。
そんな事を物資支給待ちのご老人方がお話なさっていた。
そもそも第3次世界大戦開戦の引き金となったのは、他国との領土問題の争いについてである。日本は3カ国と領土問題について色々と緊張状態にあった訳だが。有名などこかの都知事さんが「俺の都が買うよ」みたいな感じに勝手に自主行動に向かってしまったためにもっと関係が悪化したこともあった。まぁ問題なのはそんな事じゃあない。
引き金を引くための弾は、どこかの独立国家が日本にミサイルを落とした所から始まる。まぁまぁ日本もそれなりにダメージを受けていた。でも色々忙しいかとは思うが日本の軍事力はそちらより上回っており、まぁ大丈夫。なぁーんて思って、日本以外の国々で問題となっていた時。当時の使えない総理大臣さんは日本に大事な大事な指示を出すのが遅れ、その遅れの間を良しとしてどこかの国が攻めてきちゃったのだ。誤文、どこかの国々である。まぁそのどこかの国々と言うのが、日本と領土問題で争っている国に他ならないのだけれども。
そんなわけで、第3次世界大戦が開戦した。
対立国としては、露中韓VS日米なんてところだろうか。そこに安保条約的な何かによって色々国が混ざり合ってきているが、説明は長くなるので省いておく。各して、第2次世界大戦とは少しを大きく違った組み合わせの第3次が幕をあけた。それから3年後の、2017年、冬。
1日の大半を、区役所内で過ごす。近くに空襲があった場合には1週間は有に区役所で過ごす事もある。今日は家に帰れるのか、と考えて、もしかしたら自分の家よりも区役所の方が安全なんじゃないかと思ってしまう自分がいた。そんな風に日々をなんとなくな危機感を持って過ごしていたその日、男はやってきた。
「日向さん」
暗い区役所の窓口に、ポツリ。
「あぁ、明日か?」
「はい」
目の前に居たのは、自衛隊服を着た若き男の姿。
「配属は?」
「空軍です」
「お前にピッタリだな」
この年になって言うのもなんだが、そう言ってイタズラっぽく苦笑いをしてみれば、若い男は眉を上げた。
「水、飲むか?」
「いや、俺は……」
何か躊躇したように困った男。
「お前は軍に行くまではこの区の住民だ」
物資支給窓口、言わば配給窓口に勤めている俺には、区住民の1人でも多く食わせ飲ませ生かせる事が義務付けられていた。
配給記入欄に若い男の名前と、支給物などを記入し、男の親指で印を押した。
「ちょっと、待ってろな」
奥の配給倉庫から水とおにぎりを持ち、再度若い男の前へと戻った。
「食べろ」
「日向さん……」
「今のお前に拒否権なんてあると思うな。『食う』んだ」
真剣に睨みながら男にそう言うと、何故だか穏やかな顔付きになり、俺の手からそれを受け取った。そんな穏やかな顔をするのは俺の周りにはこの男だけで、この男はこの社会の救世主にでもなってくれるんじゃないか、なんて男に重荷を積んでしまう。
「食う事は1日の生に値する。学校で習ったろ。お前には重荷がでかいかもしれないが、軍に行く以上お前にはこの国の生がかかってるんだ。それ食って、生きろ」
そう言って、男の名前を思う。空軍に配属されたのはどうしてか、と思って、納得が行くような所もあった。
男の名前は、
「飛鳥」
空を自由に飛ぶ事のできる鳥。どこにでも行く事のできる鳥。大層男に似合った名前だった。俺は今のこの世界で、この男とその名前が、一番美しいだろうと思う。
「どうした? 食わないのか。お前に拒否権は……」
「痩せましたね」
飛鳥の細めた目に、ドキっとする。
「そうか? てか、このご時世で市民に太ってる人はいないだろ」
政治家はどうだか知らないが。
「日向さんは皆に食べろ食べろと言いますが、実際食べてないのは日向さんじゃないんですか?」
「今日はいつにも増して生意気だな」
「俺も明日で18です。あなたと年は10も離れてはいますが、国民を守る義務を授かったわけですから。……その国民ってのには日向さんも含まれているわけです」
「そうだなぁ……、でもな飛鳥。お前とはプレッシャーもクソもないが。俺にも守る義務があるってのには変わらないんだ」
「……」
「俺は区住民に食わす義務がある。それこそ健康の人達も、負傷を負った人にも、明日徴兵されるお前もにだ。一人でも多く。その一人分のためになら、俺は食わんでも良い。ずっと座ってるだけの仕事だからな。今の公務員てのは、楽なんだよ、軍以外はな。楽して飯を食うなんて、今の時代がそれを許してくれるのか?」
「俺には、日向さんが楽しているようには見えませんが。まぁ、いただきます」
「おう、さっさと良く噛み締めて食え。そんでお前の血とか肉とか骨に取り入れてお前や俺を支える人達に感謝し――」
「感謝しろ」なんて長々と言う俺の口が塞がった。驚いて口を離そうとしてみれば、頭を抑えられて動く事すらできない。そうこうしている間に、俺の口には生ぬるい透明なソレが口から口へと注がれる。口に注がれるとめどないそれを拒否出来ずに飲み込んでしまってから、口の自由は訪れる。
「感謝しろと言うのなら、それは日向さんも同じじゃないんですか?」
怒り口調のソイツを俺はただ見つめていた。
「今日はいつにも増して生意気だなぁ、ほんとに」
「俺が何で今日ここに来たかわかりますか?」
「さぁ、どうしてだ?」
「あなたに俺を刻み付けて、俺にあなたを刻み付ける為です」
……。
「それはそれは、……ロマンチックだなぁ」
「茶化さないでください」
どこが茶化していると言うのか。
「まぁ、いいんです。今日は俺の生意気デーって事で、勘弁してください」
「なんだそれ」
「誕生日プレゼントください。明日は多分、会えないでしょうから」
そう現実を突きつけられて、俺は思う。ロマンチックな脳みそは俺の方だなぁ、なんて。明日も明後日も、明々後日もコイツと会えるんだと思いこんでいるその脳みそ。
「お別れ会でもしろってか」
それは、嫌なんだよなぁ。どうしても。
「お別れじゃないでしょう。もう会えなくなるわけじゃあるまいし」
そうかなぁ。本当に。
「だから、次会うときには、もっと日向さんからプレゼント欲しいです、俺」
「金なんて無いぞ」
「お金がなくても、俺はあなたから欲しいものがたくさんあるんですよ」
「例えば?」
例を上げろと俺に言われて、飛鳥はどうしてやろうもんかと困った顔をした。本当はそんなに俺から欲しいプレゼントは無いんじゃないか、なんて思って。
「例えば――」
髪にキスされて、胸が鳴る。
「これとか」
鼻にキスされて、震える。
「これとか」
手にキスされて、動じる。
「あと、」
口にキスされて、――。
「これとかね」
「……お、前」
「もちろんこれ以上に欲しいものもあるっ……てかあれ、日向さん。茹でダコみたいだ。顔真っ赤」
「見んなっ!」
10も年下の奴にときめく何て。恥ずかしくなった。その顔を見られたくなくて、顔を伏せる。
「あ、隠さないでくださいよ。可愛いですね、日向さん」
可愛いと言われて嬉しく思う男がいるか。
「もうお前は可愛くない」
「俺にはそう思われて好都合です。格好良いでしょ?」
「嫌いだ」
「本当に?」
「大嫌いだ」
「じゃあ、それは俺の目ぇ見て言ってください。じゃないともっと悲しいです」
無理やり顔を前へ向けさせられて、俺の心臓は死んでしまうんじゃないかと思うほどに大きく波打った。
「本当に嫌いですか?」
「っ……」
「大嫌いですか?」
「~~っ…」
「言えないんですね。じゃあ、俺の事は嫌いじゃないって事ですよね」
いつから、いつからこんなにも生意気になったのか。いつからか背が伸びて、いつからか自立して、いつからか立派になって。
「じゃあ、俺の事好き?」
いつから俺は、こいつの事をこんなにも愛おしく思ったのか。いつから俺は、子供を愛でるそれではなくて、一人の人間としてこいつの事を愛しく思ったのか。
「大好きだよ、……でもお前なんか大嫌いだ」
「それ、今の。それって俗に言う『嫌よ嫌よも好きのうち』って事ですよね?」
「可愛くない……」
「日向さん、それ褒め言葉です」
飛鳥はいつのまにか口調も子供の時のぎゃあぎゃあとしたソレではなく、穏やかになっていった。そうだ、そんな時期から、こいつの顔立ちも穏やかになっていった。その顔を見るたびに、俺にも穏やかが訪れる。
「好きです」
俺はいつから、こいつが傍から離れる事を恐れたのか。
「すっごい好き」
こいつはこんなにも、未来へ向かおうとしているのに。
「飛鳥」
こいつより遅れてしまった決意を。
「はい」
飛鳥より10年も長く生きてきて、3年前から出来ていなかったソレを。
「やるよ、お前に」
「へ?」
誰よりも死を恐れたのは、
「誕生日プレゼントだ」
俺だ。
続きます
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