カッターみたいな男に関する考察
突発文。
幼馴染にプラス教師と生徒、みたいな関係があったらどうなるのかな。
みたいに思って書いてみました。
でもそれだけじゃ浅い文になったと思ったので、登校拒否をプラス。
あとがきに説明書いときます。
へぇ…、と、部屋の窓から声がした。
熱い夏にクーラーも扇風機も故障。朝昼晩、出かけていない時以外窓は開けっぱだった。丁度、そんな夜。
男は昔から、特定の人物に「ひよこ」と呼ばれていた。別に全身黄色でもないし、ひよこみたいな顔でもないし、ひよこでもない。男がバンドにはまっていたとき、似合わないと周りの反対を押し切り、髪の毛を赤くし、てっぺんの毛をピンとたて、ワックスとスプレーでカチカチに固めた。それ以外の毛はバリカンで刈り、所謂モヒカンだった。
その時に、男はその人物に「にわとり」と言われた。それからはその髪型はやめた。ひよこよりも、とんでもなく恥ずかしかったから。周りの髪の毛を伸ばし、赤を黒く戻し、普通に戻った頃、また「ひよこ」と呼ばれた。
「お前、結構ちいせぇな」
笑いながら、男のイチモツと顔を交互に見やる。
彼女と別れて数ヶ月が経つ。悲しいと言う気持ちはもう何もないが、健康的な男子にはいつもの悩みが残った。部屋に鍵をかけ、急に親が入ってこないようにする。窓もカーテンもしめる。それがいつもだった。だけれどこの年は冷房機器が壊れてしまったためにどうしようもない。カーテンは外の風を遮るし、どうしようもなかった。
「どこもかしこもひよこサイズ」
男を「ひよこ」と呼ぶ唯一の人物は、男の自慰最中に、窓からそれを覗いていた。
ひよこ男の目の前にはいつもの顔がポツンの一つ。ひよこ男はわけが分からなかった。わけがわからないままに、ついつい手に力が入る。
なんだかそれが丁度とても良い感じの握り具合だったのか、一気に何かが押されるように流れ出した。
「うわ、わ、っわ!」
たらたらと手を伝うそのナニかは、いつもよりも少しだけ熱い気がする。ひよこ男はますますわけがわからなくなった。わからないままに、ひよこ男は視線をソレに落とす。
「……、」
「何、見せつけてんの?」
「……」
「おい、なんか言えよひよこ」
黙ってそのイツモツを握る手もどかさない。ただ一点だけを見るひよこ男に、男はそう言った。
ひよこ男が握ったままのそれは、どんどん縮んでいく。それと同時に、ひよこ男はポツリと呟いた。
「何でそこにいんの」
そんなぽそりとした小さい声にも窓の向こうの男はきちんと聞いた。聞いた後に、普通に答える。
「だって仕事終わりだから。暑いしとりあえず窓開けたら、お前が大胆にも窓開けながらオナってるから見てやろうと思って」
――見てやろう? こいつ、何様のつもりだよ……。
突っ込むところはそこじゃない。なんて見えない誰かに突っ込まれている感じもしたが、わなわなとした怒りがひよこ男を追い詰める。
「学校で習わなかったのか? 人の自慰を見ちゃ犯罪だ」
「ほーぅ、そうなのか。俺はそんな事習わなかったが、初耳だ。じゃあ今からおでん食わしてやるよ。罰金代だ」
「暑いのに食えるか、いらない。ていうかもう覗くな、見るな顔見せるな」
「それは無理な話だなぁ。だって、俺お前の事大好きだから」
無邪気で可愛くもない笑顔でそう言われる。昔はその笑顔も好きだった筈なのに、いつからかそれは嫌悪に変わった。ひよこ男はもうその好きがいつの頃から嫌悪になったのか分からない。
多分、中学生特有の思春期に良くある『アレ』の頃だ。
「中二病に掛かる前まではお前も素直で可愛かったのになぁ。かかった途端に全身ダークでドクロな服きたり、ドクロのチェーン腰にぶら下げたり、ベルトもピアスもドクロだよ。お前はネクロマンサーにでもなりてぇのかって思ってたら、急に『俺はバンドで天下とるんだー』とかいってネクロマンサーの次はにわとりになったり……俺ぁ悲しいぞひよこ」
「いちいち説明いらないってば。今悲しいのは俺の方だ」
あらかじめ自分の近くに置いておいた箱ティッシュから数枚取り、手やらナニやらを拭く。それからノロノロとパンツを履いて、スウェットを履いて、窓の向こうの人物を無視して洗面所に行った。手を洗った戻ってきたとき、そいつはまだその場にいて、ひよこ男はため息を吐いた。
「なんだよ……まぁだ俺の生活の監視すんのか『せんせー』?」
「外で『先生』はやめろっていつも言ってんだろ、『ひよこ』」
「じゃぁアンタもひよこって呼ぶのやめろって、俺ずっと言ってんだろ」
「だってさー。お前にはひよこってのが似合ってんだよ。ネクロマンサーでもにわとりでも無ぇ。ひよこが一番だ」
またまた無邪気な笑顔に、ひよこ男は今月一番のため息を吐いた。
「そうだひよこ、こっち来い。色々と話がある」
「ガッコーの話し? おでん?」
「どっちもだ」
ひよこ男と男は、言うなれば年の離れた幼馴染だった。小さい頃から面倒見の良い男に、ひよこ頭はずっとひょこひょこと後ろを付いていった。男は非常に優秀で、公立の進学校に通い、そこそこ良い国立の教育大学に進学し、ひよこ男が通う高校の教師になった。
それに引き換え、ひよこ男は中学の時に中二病にかかり、『俺は一匹狼になるー』などと意味の分からない事を決意し、登校拒否になって遊びまくった。高校進学には男の粘着な推しでなんとか全日制の高校に行けたものの、学校も行かずにフラフラ。
そんな俺を嫌いになるだろう。なんてひよこ男は思ったが、男は何も変わらずひよこ頭と接した。時には幼馴染として、時には教師と生徒として、時には人生の先輩として。男はひよこ男をどうしたって見捨てなかった。
だからひよこ男も、男にはグレられずにいる。ご飯もたまぁに一緒に食べるし、勉強も教えてもらうし、定期テストには男に連れられ一緒に学校へ行くし。
「でも自慰まで監視される必要があるかって聞かれたら、ないよな?」
「俺が見たかったんだ、だから見た。……勘違いするなよ、たまたまだ。た・ま・た・ま。おっ、タマタマと言えば、ほらひよこ。たまご食え。好きだろ。タンパク質出したらタンパク質取らなきゃな」
夏なのにアツアツのおでん。たまごをオタマですくい、男はひよこ男の取り皿にたまごを入れた。
「飯の最中にそんな話するなよ。それでも教師か」
「なぁに言ってんだひよこ。俺は生徒を気遣って飯はたくさん食えと言ってるだけだぞ」
「……で、…がっこーの話ってなに」
外では先生扱いするなと言う男が、自分を生徒扱いする。でもまぁ、ひよこ男は黙ってその先生の話を聞く事にした。
「こないだの期末試験の全部の結果」
「あぁ、……何点だった?」
「気になる?」
「さっさと教えて」
男はテーブルの下にあったファイルから丸のたくさんついたテストと順位の書いてある小さく細い紙を取り出した。
渡しながら男はいつも通りの口調で言った。
「赤点は無し、学年トップだ。政治経済のミニ論文、良く書けたなって褒めてたぞ」
「その日の朝ニュースで言ってた事書いただけ」
「それでもいいさ。最近はニュースを見ない若い奴が多い」
ひよこ男は、学校には余り行かないが勉強は普通に、それ以上に出来た。それは元々の真面目な性格だったり、男に教えてもらったりしていたから。昔はよく男に張り合おうと頑張って勉強していたものだ、なんてたまに思い出しては口の中が苦くなった。
「そろそろ学校に来い。みんなそれを望んでる」
「みんなって、それ、先生達だろ?」
急に話しが重くなった気がして、ひよこ男はまたたまごをカジった。
別に意味も無く登校拒否になっている訳でも無いし、付き合って別れた彼女が同じ学校にいるからって訳でも無い。それでも何故なのか、と聞かれたら、目の前の男には話したくは無い話しだった。
この、目の前の優秀な『先生様』には。
「特進の空気にウンザリか? それなら普通科に転科してもいいんだぞ。普通科だけじゃなくて、情報科でも、外国語科でも、定時制でもな」
「俺は結構……定時制向きかもしんないかな」
「そう思うのに何で特進に行った? 俺が勧めたからか?」
「それもある。だけど、最後に決めたのは俺だから。特進に行ったのは全く間違いじゃない。ただ……」
「ただ?」
「目が辛いんだ」
ひよこ男がそう言ったので、男は片眉を顰めながら聞き返した。
「目?」
「教師の目と、俺をウザったいって思ってる奴等の目」
『目』と言われて、男の目が点になる。
「お前……え、…ネクロマンサー再発?」
「おちょくるなよ! 違うってば!」
「すまんすまん」
本当にキレそうな感じにひよこ男が否定したので、男は困ったように謝った。そうなってしまったら、自分の「ひよこ」はまた、可愛くなくなってしまうと思ったから。結構ガチで聞いた質問だった。
「それで? そうじゃないとしたらなんなんだ?」
「ほら、俺って何気結構頭良い方だから」
「自慢?」
「あんたに自慢したって意味ないだろ。俺が言いたいのは、その俺に対しての信頼の目と、そんな目を向けられてる俺に対しての、憎悪の目」
つまり言えば、信頼の目が教師で、憎悪の目が生徒。その目ん玉達に圧縮されて潰す前に潰されてしまいそうだと。
生徒がどうだかは知らないが、教師は確かにあるかもしれないと男は思った。今日の放課後にひよこ男のテストを一斉に返してもらった時も、皆がひよこ男を褒めていた。信じていて、頼っていて、何よりひよこ男を価値あるものとして尊んでいた。
「居心地が悪いのは何でかな。ホントは喜べる目の筈なんだ。『俺はお前等の誰よりも教師からの信頼も熱い。そんな嫉妬目は俺にはウハウハだ』……なぁんてね。でも出来ないんだ、なんでかな」
分からない説明をされて、なんでかな何て質問をされて男は思った。
「俺の目はどうだ。俺の目は、お前の目にどう映ってる」
「あんたの目?」
少し考えてから、ひよこ男はきょとんと答えた。
「あんたは周りからしたら普通に俺を見てるけど、でも普通じゃない風に見てる」
「?」
「俺の事、好きって目ぇしてる」
「良く分かってんじゃん」
そんな模範回答通りの答えを言われたもんだから、男は苦笑しながらひよこ男の頭を撫でた。
「情報科の2年にな、お前みたいな奴がいるよ」
「俺みたいな?」
「そう、お前みたいに可愛いくはないし、中二病にもネクロマンサーにもなった事のないような真面目に学力を学校に貢献しているような奴だ」
男はちくわぶを箸で一口サイズに切りながらそう呟いた。
「良い子だし、先生の言う事も良く聞くしそれに、みんなから信頼もある。それこそ、お前に嫉妬するような生徒にもだ。でもお前みたいに余りニュースも見ないだろうし、テレビ自体も見ずに勉強だけをしている奴だろう。そんな最近の流行りもしらないような硬い奴なのにな。なんでだと思う?」
「なんでだろう……」
男ががんもどきをまるまる食べ終わるまで、ひよこ男は考えた。男がその最後を飲み込んだ時に、ひよこ男は口を開く。
「ちゃんと話を聞くからだと思う。分からない事は徹底して考えると思うし。ちゃんと聞いて、良く考えて。……コミュニケーションに一番大切なのは、そういう事だろうから」
男は思った。なんでそんなに考えられてちゃんと伝えられるのに、自分の事は分からないのか。
「なんでその情報科の人は、勉強しようなんて思ったのかな?」
「なんでって?」
ひよこ男の質問を、男は逆に聞き返す。
「たくさん勉強をして、良い大学を出て、でも就職できない人がたくさんいて……、そんな現実がたくさん目の前に転がってて、それで何で勉強するんだろう。……あんたはなんで勉強してたの?」
なんで? と聞かれたものだから、男は頭を掻いた。男は別に良い企業に就職したくてたくさん勉強をしたわけでもなければ、元から教師志望なわけでもなかった。たまたま教育大学に入ってたまたま教員免許を取ったからなわけで、別に……。
「お前はどうして勉強した?」
男は自分が何のために勉強してたかを言う前に、ひよこ男の話を聞きたかった。
「俺は……」
でも、ひよこ男はなかなか話さなかった。学校に行かない理由よりも、この話しのほうが男には話しづらかった事なので。
「言わなきゃだめ?」
「人の話しを聞くならまず、自分から話さなきゃな」
「……」
「ひよこ?」
「…………から…」
「へ?」
「あんたに、褒められたかったから」
男はドキンとした。
「アンタ、昔から良く勉強教えてくれただろ。そん時の、問題解けた時の俺を褒める顔が好きだった。運動会で1位とった時も、学芸会で主役とった時も、アンタはすっげぇ褒めてくれて。それが嬉しかったから……勉強したんだ」
ネクロマンサーの時も、にわとりの時も。
大きくなるに連れて、それに連れて、あんたに褒められる場面てそれくらいしかなくなったから。
ひよこ男はボソボソと顔を下に向けながら言っていた。
男はドキンとして、……でも何故か心の底からホッ、と温かく感じた。
「俺も同じだよ」
「は?」
「お前に勉強教えるために俺は勉強した。今だってお前に教えるためにそれ以上に頑張って勉強してるよ」
「……教師が一人を特別扱いしちゃだめだろ」
「今は教師じゃない。プライベートなんだから、俺がお前を特別扱いするのはあたり前だろ?」
「……そうかな」
「そうだよ。学校に行けばお前だって対等だ」
「じゃぁ、……行ってみようかなぁ。学校」
「俺の平等を噛み締めるために?」
おちゃらけた風に男がそう言うので、ひよこ男は笑った。
「違うよ」
「知ってる。どーしてだ?」
「あんたが教えてくれたこの知識をさ、もっと自慢してやりたいって少しだけ思った。でもやっぱあの目ん玉達には挫けそうになるかもだけど」
なんだそんな事まだ悩んでるのか。男は言った。
「俺のプライベートの胸に飛び込んでこい」
特別扱い。
「ふはっ」
ひよこ男はとんでもなく安心した。男のその一人勝手の満足気な笑顔と、年上らしい大人の言葉と、幼馴染の信頼の証と。
ひよこ男はやっぱり、『コイツの笑顔は嫌いだ』なんて思って、笑った。
「あっ。そうだ、あのね」
「なんだ?」
ひよこ男は、
「昔はアンタのそういうの好きだったし、笑う顔も褒めてくれる顔も好きだったけど、今は別にそんな事はないんだ」
なんて、素直に口にした。
「……は?」
男の心の奥底の温かい部分が冷めてく。
「アクマで、昔は……って話しなんだ。今は別に好きでもなんでもないからな?」
念を押すようにひよこ男は追い打ちをかける。
男の心の奥底の温かい部分はみるみるうちに氷点下を下回り、シベリアに行ったような、北極に投げ捨てられたような、液体窒素にぶち込まれたみたいにカチコチに固まった。
「もう、好きじゃないからな」
そんな言葉の槍を投下され、男の奥底はコナゴナになってしまった。
ユラリと立ち上がり、男はユラユラとひよこ男の目の前に被さった。
「な、なに?」
何故かいきなり間近にある男の顔に、ひよこ男は愕然とした。
「ふぐっ!?」
仕返しだ。みたいな感じにひよこ男の唇にキスが投下される。
逃げられないし、意味分からないし。
ひよこ男の脳みその中に、ピヨピヨとひよこが飛んだ。
長いキス。ようやく唇を離されたとき、ひよこ男はもう何がなんだかわけが分からなかった。
「なんだよ、なにすんだ」
「仕返し。なぁひよこ、『ちゃぁんと』、『明日』から、『ガッコー』に、来・る、……よな?」
不敵な笑みでそう言われて、これは質問とかじゃなくて、絶対事項なのだろうと心の中で悟る。
「対等以上に扱ってやるから、ちゃぁんと来いよ? ひよこ」
対等以上とは、それはもう男のプライベートの時の接し方と変わらなくなるんじゃないだろうか、なんてひよこ男は思った。
でも男はそんな事はしないと言った。じゃぁその逆で奴隷並に扱われるのならなんて悲劇だろうか。ひよこ男は青ざめた。
目の前にはさっきとは打って変わって人格さえも変わってしまったんじゃないだろうか、なんて思ってしまうほどの笑みを浮かべた男がつっ立っている。
「たーのしみだなぁ」
何が楽しいのか。
「なぁ? ひ・よ・こ」
苦難というのは、学校の目ん玉を気にするよりも、男の笑みを嫌いになる事よりも、もっと他にあったって言う事を、ひよこ男は今知ったきがした。
それでも、もう改善には遅い状況なわけで。
「んー……」
だからひよこ男は、頭を抱える。
この目の前にいる男を、なんと例えればいいのだろう。教師でも、幼馴染でも男の全ては例えられないだろう。台風? シャチ? 牛? でもひよこ男は、台風の恐ろしさを分かってはいるが、あまり被害にはあっていない。シャチにも牛にも被害にはあっていない。
ひよこ男はふいに目線を男から外した。
男の机の上の収納ケースにそれを見つけた途端、思った。
そう思って、男をもう一度見やる。
例えば、カッターみたいな男。
限りなくアホに出てくる、書道の先生。が、多分作品中の『男』です。
アホの主人公の真水がどうしても行きたくなかった特進の生徒がひよこ男。
ひよこ男と真水は接点は無いけど、秋穂とは接点ありそうかなーって思います。
よく分からないですけど笑
カッターに例えた理由は、
たまーに使うカッターは、刃が出てなきゃ危険性はあまりないけど、
刃が出た途端凶暴になるというか、何回かみゅうじん。が痛い思いをしたので…笑。
して、男もひよこ男も名前が決まってないと言うね笑
続くかなぁ……?