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君の為に宇宙は回る  作者: みゅうじん。
平凡人×幽霊男 …
15/20

君の大切なアレやソレ

幽霊男×平凡人


また少しオカルトチックなものになってしまいました

少しだけ連載します。


挿絵(By みてみん)

「ねぇ、聞いた? 2年の男子がこないだ死んだって!」「あ、聞いた聞いた。2組の子でしょ? 名前なんだっけ?」「イワシロよ、イワシロ ホクト!。有名だったじゃない、陸上部の」「あぁ! 大会とかでいっつも賞取ってる人?」「そうそう! でもさぁ、あの人って……あっ。チャイムなるじゃん! つぎ理科だよ」「やっば、移動しなきゃ!」

 夏。

 違う教室の女子がそんな会話をしていた。男のクラスの女子もそれと似たような会話をしている。男も何度かそんな会話を友達としていたけれど、実際興味も何もなかったので軽く返事をする程度だった。

 男はその時中学1年生。帰宅部で上級生とは何の接点も無し。だから『イワシロ ホクト』なんて名前の2年生は顔も知らないし、多分その人が生きていたんならきっとその名前さえも呼ぶ事は無かっただろう。『陸上部のエースで、なんかすごいやつ』それくらいには始業式終業式、他様々な式の全体表彰でいつも体育館ステージに登っているそいつを、棒人間に見えるような遠さから見て、思っていたのかもしれない。

 記憶なんかには残らない。それくらい点と線の繋がりも無い存在。

 そんな奴が死んだって、特に何も思わない。死因だって知らないし、別に知りたいとも思わない。なんたって何の関係も無いのだから。あるとすれば、同じ制服を着て、同じ学校に通っていたと言う所だろうか。それでも600人近くいるこの中学校の1人。だから死んだって男は知らん顔でいつも通り日々を暮らした。

 1月2月も経てば、それから周りの口からも『イワシロ ホクト』の名前を口から出す奴はいなくなった。男だってもうその名前すらも憶えてはいないし、だから存在が消えれば忘れられる。

 人間とはそんな脳みそだ。

 親や身近にいた奴は度々思い出すだろうが。

 生憎男を含め周囲は好奇心でその名を出していただけなので、それから卒業まで、その名を出す奴はいなかったと思われる。

 辛くも楽しかった中学を卒業し、男は普通に高校に進学した。

 一緒の中学から同じ高校に通う奴も多々。新しく出会った奴も多々。卒業と同時に始めたソーシャルネットワークサイトの友達登録人数は200人を越した。

 夏。

 もうすぐ期末試験で、高校1年の最初くらいは頑張ろうと精一杯に勉強をしていた。いつも深夜1時2時になるまで勉強をして、寝る。そして朝になれば起きて、学校に行く。そんな普通の学生らしい生活を送り続けて、あっという間に3年生。そんな普通の生活に、突然何かおかしな事が起こる。

「ま、たか…」

 朝起きたら閉じていた筈のタンスが全部開いていたり、本が散乱していたり。

 男はソーシャルネットワークでつぶやいてみた。「自分でやってんじゃね?」だとか「家族のいたずらじゃね?」だとか。

 それでも、妹か弟の仕業かと問い詰めても中々首を縦にはふらないし。親もそんな事はしていないという。

――真夜中に俺が自分でやってる? まさかそんな事も無い。毎日毎日。直してる俺の身にもなってみろ。うんざりしている理由を自分自身で作っているのか?

 男はうんざりしていた。

「幽霊じゃね?」「ポルターガイストってやつ?」「そうそう、怪奇現象的なさ」

 これは怪奇現象だ。

 男の周りにポルターガイストだとか、怪奇現象だとか。そんなものは今まで起こった事はなかった。別に信じてもないけれど、怖いとは思う。映画だって動画だってドラマだって。そういう系のモノは苦手と言われるような分類だった筈。

 起こらないならそれはそれで平和で、出来れば一生起こらない方がいいと思っていた。

 それが起きてしまった。残念な事に。

「いーかげんにしろ……」

 最初こそ恐怖はあった。なんなんだとも思った。でもここまでくれば、恐怖なんかで済む問題でもない。しつこい。ウザい。ただのお遊びなら他を当たれと言いたい。でも怪奇現象を起こしている相手は男の目の前に形を成して現われてはくれない。じゃあどうすればいいのか。

 わからない。

――俺はいつ、どこまで、あとどれくらいこの現象を我慢しつづけなきゃならない。どれくらいうんざりしなきゃいけねぇ。

 果ての無いような気がして、無気力に力が抜ける。

 ベッドに横たわりながら、男は目を閉じた。

「あ、……お? きた? きた、きたっ。すげーな。ははっ。なつかしー」

 たしか4、5分程目を閉じていた。別に眠っても無い。ただ目を閉じて横になっていただけ。まぁもうすぐ寝てしまいそうな気もしていたんだけれど。そんな微睡(まどろ)みをぶち壊すかのような気の抜けた台詞が男の耳に響いた。

「おい、起きろ。寝てんなって。あ、触れはしねぇのか」

 男の声だった。

 知らない男の声。妹だって弟だって、こんな声はしていない。両親だってこんな声はしていない。じゃあ誰だ。友達でもない。

「お前起きてんだろ。目ぇ開けてみ」

 じゃあ誰なんだと、その言葉通り、男はゆっくり目を開いてみた。

「あっは。おはよーさん」

 男だ。

 知らない男。家に上げたつもりはないし、部屋に入れたつもりもない。ていうか、入る音なんか一ミリもしなかった。窓だって開いていない。

――なんだ、なんだ?

「ちょ、……どっからはいって…どろぼうか?」

「ちげーよ。とりあえず、何もほしーもんはねぇ」

「とりあえず?」

 とりあえずとはどういう事なんだ。今は欲しいものはないけれど、これから欲しくなるかもって? これはもう警察に電話した方がてっとり早いんじゃないだろうか。

「……携帯」

「まって、待てって。お前、俺の事犯罪者に仕立て上げんなよな。ていうか俺、犯罪者になりたくてもなれねーんだって。」

 知らない男改め泥棒は、何故か意味のわからない事を男に述べ、頬をぽりぽりと掻いた。

「ふざけんなてめー! 馬鹿にしてんのか。警察に連れてってやるっ」

 男はまるで殺人犯のような目つきで泥棒を睨み上げた。どちらが悪いかは分からない。

「いや、やめとけやめとけ。それは無理だ」

「てめぇさっきから何言ってやがる!」

 男はとうとうキレた。いや、さっきからキレてはいたけれど、それ以上にキレた。

 突然自分の部屋に入ってきて、勝手にテンション上げ、そのくせ警察の通報すると言えば悠長な声で拒否する。

 そんな泥棒にとうとうキレてしまった男は、泥棒つ掴みかかろうとした。

 でも出来なかった。

 男の体は泥棒の体をするりと抜け、勢い余ってタンスにぶつかってしまった。

「ぶ、っははははは!」

 滑稽な男の姿を見て、泥棒は笑う。

「なんだ、てめぇ。どこのマジシャンだ」

「あ? 違うって。だから言っただろ、警察に言っても無駄だし、犯罪者にもなれないって」

 笑う泥棒はゆっくりと男に近づき、男の頭に触れようとした。

 その手は男の頭を撫でた。そこで男は違和感に気づく。

「なんで感覚がねぇんだ」

 撫でられている感覚が無いのだ。全く。

 泥棒は笑い。

「ほら、見てみろ」

 それから、男はびっくりした。泥棒の手は男の顔の中にするりと入り、自由に動き回っている。首に、食道に、肺に。心臓に。

 それでもどこもかしこも感覚はない。

「なんだ、何なんだお前」

「俺? 俺か、俺はな、幽霊だ」

「俺は5、6年前に死んでな、最初は魂が彷徨ってるだけで俺自身の個体はなかったんだ。それでもだれか見つけてほしくて、見つけてくれねぇかなーて、タンスあけたり、色々いたずらしてた。気づいて欲しかったんだ。そしたら突然個体が現れて」

 泥棒改め、幽霊は、ここに現れた経緯を全て話した。

 ポルターガイストは全部幽霊のせいだという。男はまたしてもキレて幽霊に掴みかかろうとしたが、それは幽霊なので触れる事はできず、またタンスにぶつかった。

「なんで見つけて欲しかった。暇だったからか?」

「ちげぇよ。幽霊がここに居るときは何かあるんだ。ただのいたずらか、未練があるかだ。ただのいたずらなら見つけてほしいなんて思わない」

 それもそうか? なんて、男は妙に納得した。

「会いたい人がいる」

「会えばいい」

「俺だけじゃ無理なんだ」

「どうしてだ」

「彼女に俺は見えないから」

「あ?」

「霊感がないんだ。いままで何百の人に俺の存在を分からせようとしたけれど、無理だった。彼女もその一人。……だから、気づいてくれたのはお前だけだ」

 男は頭を傾げた。男にだって、いままで霊感なんてなかったし、これからも無いつもりだ。

「お願いだから、一生のお願いだ」

 男はそのまま黙ってしまった。なんて必死な顔でお願いをするのだろうか。この幽霊は。自分の『一生』はもう死んでなくなったのに、それでも懇願する。

「これが叶わないと成仏できない」

 幽霊は言った。

「彼女に一言、それだけ伝えたい」

 悲しそうな顔で笑うから、男はそれ以上何も言えなくて、それから小さく頷いた。

「お前、名前は?」

「イワシロ ホクトだ」

「ふぅん」

 なんか聞いた事あるなぁ、なんて思って、男はただそれだけ。

「俺はナナセだ」

「ナナセか、よろしくな」

 幽霊改め、ホクト。

 なんとなぁく自己紹介を終え、二人はなんとなぁく外へ出た。

「まずは俺の知り合いのとこに行こう」

「知り合い? お前の言う彼女に会いに行くんじゃないのか。ていうか、そいつの名前は?」

「マリコ」

「マリコ? 知らねぇな」

「だからだよ。接点のねぇお前が会いにいっても仕方ねぇだろ」

「それもそうか? ていうかマリコって女に接点もねぇなら、お前の知り合いのところに言っても仕方ねぇんじゃないのか?」

「大丈夫だ。その子は幽霊とか大好きだから。説明すれば多分力になってくれる」

「幽霊が好き?」

「霊感とかもあるらしいんだけど、やっぱり俺だけ見えなかった」

 知り合いの幽霊を連れて二人でその子のところに言ったんだが、もう一人の方しか見えていなかった。

 不思議な気持ちになった。ホクトがそういうので、ナナセもなんだかそんな気持ちになってしまった。どうして一人は見えてホクトだけが見えないのか。

「だからその子に伝えて欲しいんだ。俺の事」

「……分かった」

 ナナセは多少呆き呆きしながら了承した。

「その知り合いの名前は?」

「マイコだ」

 なんだかホクトに悲しそうな顔で頼まれれば、なんでも了承しないわけにはいかなかった。脳が勝手にOKサインを出してしまった。

――意味分かんねぇ。

 文字通り意味が分からなかった。

 意味が分からないままにホクトについていき、意味の分からないままにそのマイコという女の家に付く。意味が分からなくて、とっとと済ませたくて、ナナセは構わず家のインターホンを押した。

「はーい」

 はっとした。

 マイコという女はホクトの知り合いではあるけれど、別にナナセの知り合いではない。

「あ、えと。……マイコ、さんの知り合いなんですけど。いますか?」

「えと、私ですけど、……お名前は?」

「ナっ……」

 はっとした。

 何度もいうが、知り合いではない。俺の名前を聞いたって、知らん顔でいたずら扱いされてしまうだろう。

「ナナセ、俺の名前を言え」

 耳元で声がした。

「……ホクトです」

 なんだか嘘を吐いたのは悪い気がしたが、それでも本人が言うのなら仕方がないことで。

 少し待っていると、ギャアアアアと言う悲鳴と、バタバタという騒音が聞こえて、思い切り家の扉が開いた。

「ホクトっ!? いるの!?」

 余りの突然にナナセは目を開いてそれを見つめた。

「マイコ!」

 ホクトは騒音の元凶を目の前に目を輝かせ、思い切り女に飛びつこうとした。だけどその体は女をすり抜けていく。

――アホか。

 すり抜けたホクトはそうか、と思い出し困ったように笑い、頭を掻いた。

「ホクトじゃない……、あなた。だれ?」

「あぁ、えと。俺は――あいつの知り合いだ」

「知り合い?」

「さっきホクトって言ったのは、俺の名前を言っても知らないと突き返されてしまいそうだったから」

「あなた、本当にホクトの知り合い?」

「あぁ、あんたに伝言があってきた」

 そういうと、さっきまでアホな事をしていたホクトの顔が、急に真剣な目つきになった。その顔に少しだけドキッとする。

――意味分かんねぇ。

 ナナセはそのままマイコの家に上がった。マイコの部屋はなんというか普通の女の子な部屋で、特に思いつくような感想もなかった。

 お茶を持ってきたマイコは、そのままナナセの向いに座る。

 お茶の入ったグラスは二つ。

 俺の隣にいるそいつは、なんとも言いようのない顔でそれを見つめた。

「それで? 伝言ってなに?」

「伝言?」

 そうだ。口任せに伝言があると言ったけれど、思えばその伝言をこいつから聞いていない。

「おい、言いたい事があるんだろ、何なんだ」

 横に居るそいつに問いかければ、きょとんとした顔でマイコはナナセの隣を見つめた。見つめたって何にも、誰もいない。

「誰かいるの?」

「あぁ、ここにホクトがいる」

「ホクトが? 見えないわよ」

 確かマイコには霊感だかがあると言っていた。それは果たして本当なのかは、ナナセには分からない。一緒にいた幽霊の友達だけを見て、ホクトだけが見えなかったというのは、なんとも不思議な話しだったが。

「マイコに霊感があるのは本当だぞ」

 マイコには見えないそいつがそういう。

「あなた嘘吐かないでよね、いないじゃない」

 元々は見えるそいつが、元々は見えない俺にそういう。

「霊感があるのは嘘じゃない」

「嘘吐かないでよ、冷やかしなら帰って」

 なんだか二人にサンドイッチのように挟まれて、なんとも窮屈な。とナナセは思う。

――意味分かんねぇ。

「じゃあ、何か質問してみろ。お前と、ホクトにしか分からない質問だ。俺はその質問に答えたホクトの答えをお前に言う」

 訳が分からなくて、ナナセはそんな事を言った。

 冷やかしだとここまで来て返される方がアレだっただけ。

「そう、ね……。それは良いわ。じゃあ、私の姉にはこめかみに傷があるけれど、それはいつ、何でできたの?」

 その質問に、ホクトは答える。

「小学校のとき、学校帰りに野良猫を抱き上げだときに引っ掻かれた傷だ」

「小学校の帰り道に猫に引っ掻かれた」

「……誰から聞いたの?」

「だから、俺の横にホクトが居る。俺は今、そいつから聞いた」

「じゃあ、! 私の幼稚園児の頃のあだ名は!?」

「東京タワー」

 真剣な顔をして淡々と答えるホクトを見て、ナナセは驚いた。

「と、東京タワー!?」

 幼稚園児にしては凄いあだ名を付けられたものだと褒めるべきなのか、幼稚園児並の簡素な答えと呆れるべきか。

「なんで知ってんのよ!?」

 赤面して大きな声で訴えるマイコがなんとなく面倒臭くなってきた。

――いや、知っているもなにも……。

 目の前に居る女はナナセしか見えなくて、ナナセはマイコとホクトの二人が見える。見えない奴を信用させるのは、難しい事だなとナナセは思った。

「ナナセ、君だったっけ……」

「あぁ、ナナセで良い。ホクトが今、ここに居るって信じてくれたか?」

「まぁまぁ、ね」

 五分五分というところだろうか。

「東京タワーの事は忘れなさい。…それで、……ホクトは…ナナセの隣にいるの?」

「あぁ、ここだ」

 この目でホクトを写す。鏡に映らないものを、だ。

「不思議ね。誰もいない。私霊感は良い方なのに」

 霊感が強くて幽霊も見える。それなのにホクトは見えない。突然現れたナナセが隣にホクトが居ると説明しても、信じきれないわけだ。

「それで、……ホクトは何故ナナセを連れてここにきたの?」

「それは俺には分かんねぇ。さっきいきなり目の前に現れたんだ。最近怪奇現象にあってて、それはこいつの仕業。見つけて欲しかったんだと。本人が言ってた」

「見つけて……? 私はてっきり……もう」

「え?」

 マイコは何かを考えながら、言っていいのかすこし迷い、ゆっくりと口を開いた。

「だって彼、」

「6年前に事故で脳死判断されたのよ」

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