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君の為に宇宙は回る  作者: みゅうじん。
過去人間×女体化男
14/20

丘の上で待ってる 7

 長い間、夢を見ていた気がする。

「どんな夢?」

 どうやら俺は少しの間植物状態と言うか、意識を失くしていたらしい。動かないし、喋りもしない。家族も諦め、もう楽にさせてあげようと医者を呼んだところ、奇跡的に意識を取り戻したらしい。

 とんだ波乱万丈もあったものだ。

 意識も取戻し、医者にも何も問題がないと言われた。ただ体を動かしてなかったので筋力が低下していると言われた。妹が優しい事に毎日数分間手足を動かしてくれていたと言う。ちょっと嬉しかった。意識を取戻してから数日後からリハビリも毎日していた。

 1ヶ月くらい経った今では、なんとか松葉杖でゆっくり歩けるようになった。会社の人も心配してたまにお見舞いに来てくれる。部長も見舞いに来てくれた。あの時の「飲みに行こう」はまだ有効らしい。

 良かった。

 早く復帰してーなーと言う時に、医者の診察がかかった。体に異常は見当たらないし、大丈夫とも言われた。じゃあ何なのだろう。

「意識がなくなってた時の記憶って、…あるかな?」

「記憶、……ですか?」

 心理的な問題や夢分析などを専門的に研究している、心理学者、みたいな人らしい。

 実はと言うと、意識が戻ってから、1ヶ月。あの時の事はすっかり忘れていた。医者に聞かれて、はっと思い出す。

「長い間、夢……? なのかな、…見てた気がする」

「夢? どんな夢?」

「えと……」

「ゆっくりでいーよ」

 記憶が混乱してると思ったのか、医者が優しくそう俺をさとす。だけど俺は混乱してるわけじゃなかった。この事実を話したって、医者はきっと信用してくれはしないだろう。

 ロビンだった最初、俺の事をあまり信じてはいなかった。それでも、少しでも信じてもらいたかった。ロビンや、汐の事を。

「最初、目が覚めた時に、病室に居ました」

「病室?」

「はい、……幽体離脱って奴です。重症な体をした俺も、両親と兄妹が俺の周りに曇った顔して座ってて、どうしたんだろうと横切っても、気付かなかったので」

「……」

 医者は黙ったままだった。

「まぁいいかって、もう一回寝ようかと思い、俺の体の横に横たわって寝ました。そしたら何故かフワフワと浮かんで、白い空間に居たんです」

「くうかん……?」

 俺の部屋の居間と同じでした。そこには一人の女の子が居ました。「汐」って名前の女の子です。彼女は、ちょっとこの現代とは遠い、……鎖国していた時代に住む女の子でした。初対面でも全然きまづい感じにはならないで、2人でいろんな事を話しました。彼女は今、その時に、売春船に拉致されていると聞きました。死にたいとも言ってた。俺は死にそうな状態にあったんで、彼女を助ける事にしました。

「どうやって?」

 俺が、彼女の体に入り込むんです。その時の俺は魂だけの状態だったんで。

「で? 入り込めたの?」

「はい、……信用してないでしょ?」

「いやいや。…興味深いよ。続き、話して?」

 入り込んで彼女の姿になって目を覚ますと、売春宿でした。日本人の女の子が他数人居て、汐も皆、ボロボロのズタズタでした。鞭で打たれたり、殴られたり。かなりの鈍痛が響いてました。とりあえず、逃げる為に気を伺ってたら、どこかについたと誰かの声がしました。どこかは分かりませんでしたが、とりあえず街についたと声がしました。その30分後くらいに一人の客が俺を指名して、別室に連れてかれました。客を待つため、ちょうど一人になった時に、船から脱出しました。バレて追っかけられたと思いますが、それでも逃げました。

 俺が入り込む前からの傷が酷過ぎて、痛すぎて汐とのやりとりを全て忘れてしまいました。何故俺が女になってるんだろうとか、色々困惑しましたね。その時に「ロビン」と言う男に助けられました。

「ロビン? 貴一君が逃げ出した街は、どこだったんだ?」

 フランスでした。日本が鎖国してるのと、同時刻。ロビンも最初こそ俺の事を信用しませんでしたけど、行き場が無いと分かると、俺の事を匿ってくれました。優しい奴だったんです。

 俺が男だと言う事は根っから信じてませんでしたから、よく男女(おとこおんな)ってからかわれてました。

「仲良かったんだね」

 そうですね、……色々沢山話しをしました。ロビンの友達のジルとも友達になった。ロビンとは色々謎解きをしました。俺が何故タイムスリップしたのか、何故女になったのか、どうやったら帰れるのか。

 ほら、痛みのせいで汐との記憶はなくしちゃったわけですから。でも、傷が良くなって少し経ってから、汐の夢を見たんです。彼女の売春船に拉致される前の時の夢です。それで少しずつ思い出していきました。

 ちゃんと思い出したのは、もう一回白い空間に入った時です。

「その白い空間、ちょくちょく出てくるね。一体どこなんだ?」

「分かんないです。ただ、俺の家の居間に限りなく近い。それでもって、俺と汐しかいない。扉は堅く鎖やら南京錠やらかかってて、たまーに鎖が外れるんです」

「ほう……そこでは、…その女の子と会話したの?」

「しました」

 そこで全部思い出しました。汐は別にいなくなったんじゃなくて、汐の体の中の底に居続けて、俺が汐の体でロビンと話しているところも全部見ていたんです。そこで色々と気づきました。汐が、ロビンに恋していたんです。

「恋、……?」

 それじゃあ俺は二人の邪魔は出来ないので、帰る事にしました。勿論、ロビンともちゃんと話し合いました。汐と俺の事。汐の気持ちや、俺の気持ちや、……ロビンの気持ちも聞きました。

 隠しきれない程感謝してから、また会おうねって約束を……――。

「……どうしたの?」

 急に話しが止まったので、医者は俺の顔を覗き込んだ。別に何か会った訳じゃない。大丈夫なのだけれど、――。俺は一つだけ、まだ忘れている事があった。

「い、え……。また会おうねって約束をして、……そしたら急にパッと、病室の天井が見えました」

「なんか少し、……摩訶不思議な話しだね」

 そう、ですね。俺も、不思議な体験をしたと思います。

『また会おう、貴一。……――』

 医者との対談が終わった。

 信じようが信じまいが、本当の事は本当の事なので仕様がない。別にそれで変人扱いされても構わないと思う。後悔はしていない。

 ただ一つだ。

 俺は何かを忘れている。ロビンと最後に約束をした。また会う約束。約束場所は、……どこだったろうか。

 場所、場所……。

 1ヶ月間、ただリハビリに、診察を頑張っていて、汐やロビンの事を思い出していなかった。

「っ……。だめだっ。思い出せない……」

「どうした? 貴一」

 兄貴が林檎の皮を向きながら俺の顔を伺った。慣れない皮むきなのか、手はばんそうこうだらけだった。

「なんでもない、」

「そうか? ……あ、…医者がな、あと1週間もすれば退院できるって言ってたぞ」

「本当? やっと部長と飲みに行けんのか」

「酒はまだダメに決まってんだろ。安静にしとけ馬鹿貴一」

「へーへー」

「心配させやがって、お前一人の体じゃねぇんだぞ」

 兄貴の言葉は、正直に嬉しかった。

 鏡を見て、実感する。これは本当に俺の、自分の体だ。顔も、足も手も、体全て。女の子のような柔らかい感触も、胸も無い。

 これが本当で。

 信じたくもないけれど、あれは本当に夢だったのだろうか。汐も、ロビンも。全てが夢? どうしたって、それを証明する事が出来ない。一緒に証言してくれる人だっていない。それに俺は前まで手も身体も動かせない状態の人間だったんだ。でも、少しくらい夢だって見るんだろう。じゃあ、全部。

「兄貴、……あのね――」

 兄貴にその時の事全てを喋った。ただの夢だと言う。そうなのだろうか。

 そうなのか。

 忘れた方が良いのか? こんなに、覚えているのに。

 全部を全部鮮明に覚えているのに、ただ一つのことがわからない。また再開するときの、待ち合わせ場所。まさかフランスだったら俺も行けない。汐が生きていた時に住んでいた場所だってわからない。

 第一にだ。

 本当に合ったことなのかもわからない。兄貴の言う通りにただの夢だったかもしれない。それに、本当だとして、時代が違う。もし俺がその待ち合わせ場所を思い出したとして、そこにロビンはいないかもしれない。

 やっぱり俺は――。

「貴一、窓開けるぞ」

「うん」

 外の木々はサワサワと揺れていた。多分涼しい風がそよいで居るんだろう。兄貴が窓の方に移動して、ここ数日固く閉じまっていた窓を開ける。

 懐かしい匂いがする。

「……」

 風が吹くたびに、俺の髪の毛が逆らわずにゆらゆらと揺れる。気持ち良くて、懐かしくて、俺は少しだけ目を閉じた。

『また会おう、貴一。そしたら、今度こそ言うよ。……――』

 そうだ、ロビンのあの言葉。

『お前がいつ思い出しても大丈夫だ。幼い子供でも、ませたガキでも、成人すぐでも、今のお前の時期でも、おっさんでも、おやじでも、じいさんになってもいい。俺はいつまででもお前を待ってる』

 ロビンの言葉が、風に流れて俺の脳を揺らした。

『――丘の上で待ってる』

 はっと目を開けた。

 丘の上。約束の場所。そうだ、そうだ。

 丘の上。

「そうだ、貴一。ここの病院の裏には、人気が少ないけど、すごい見晴らしの良い丘が合ったんだ。海の向こう側まで見えそうなところ」

 兄貴が俺の考えとを引き結ぶようにそうつぶやく。その言葉に、一瞬脳が浮いた。

「そこ。誰も、……いないの?」

「いや、俺が行った時は一人だけ居たな。若い男が一人。……誰かを待ってるって言ってたな。あそこで待ち合わせも随分分かりづらいけど、会えたならいいな」

「兄貴、に、兄ちゃん!」

「お、いおい。なんだよ突然『兄ちゃん』って、きもいな!」

 兄貴のそんな言葉なんて頭の中には入ってこなかった。

 ただあるのは、丘と、その上に居る男の事。

 もしかして、もしかして、だ。

「兄ちゃん! 俺ちょっと言ってくるっ」

「おい! 貴一まてコラ! どこ行く気だ! 走るなっ、まだ安静に! っ……行っちゃったよ…」

 裸足のまま駆け出した。靴だってスリッパだって履く間さえなく走った。目が覚めてからまだ走ってなくて、すぐに疲れたけれど、それでもまだまだ走り続けた。

「病院の裏、裏……」

 病院を抜けて、裏を走っていると、車が入るには少し狭い入口を見つけた。裏に入り口と思われるようなところはここにしかないので、迷わずに中へと入った。

 疲れたので早歩き。

 それでも一歩一歩と丘の上へ距離を詰めて行く。

 一気に向かい風が強くなった。

「来るなっつってるみたいだな」

 そんなことするかバカ。

 ガキみたいに、ロビンみたいに風に向かってそんなことを言った。目の前に見える光景に、喉がなる。

「……ロビン、…ロビン」

 風が一層強く吹いて、それから止んだ。

「……」

 目の前に映る光景は、辺り一面の海と、小さな丘を囲む柵と。青い空の下に、綺麗な丘に黒い影を見つけた。それはフランス人とは全く似付かない純日本人の顔。

 まさか違うかもしれない。ロビンじゃなくて、ただの本当の別人かもしれない。それでもよかった。あれはただの夢だったり、創造の世界だけの話かもしれない。

 だから、もしこの人がロビンじゃないとしても、別に良い。自分の創造の世界として、心の中にしまっておこう。

「……」

 意を決して。

「……あのっ!」

 大きな声で、黒い影がこちらを向いた。

 真っ黒で綺麗な黒髪に日本人の顔立ち。スッと伸びた身長は、明らかに俺よりもそっちの方がでかい。確かロビンは薄い茶色の茶髪に緑色の目をしていた。鼻も外人らしく高く。明らかに外人の外見のそれでは無い人物に、一瞬だけ、足が一歩後ろに引いた。

 俺の目とその人の目は完全に合っている。

 何を言えば良い。いきなり本題ってのも常識としてあれだろう。でも、この人がもしロビンだとしたら。もし本当にロビンが実在するとするならば、俺は早くロビンと話をしたい。

 言いたい事は少なかれ、絶対に言いたい事だってある。

 俺が頭の中でパニック状態を起こしている時に、その人が何を思ったのか、何を感じたのか、俺に話しかけてきた。

「患者さん?」

 きっと患者用のパジャマ姿の俺を見ての事だろう。気付けばスリッパさえ履いていない患者。

「ん、…あ、はい」

「走って来たりしちゃ、体に障るよ。それに、医者にはちゃんとここに来ること言ったの?」

 何というか、普通に常識の事を投げ掛けられて、少しだけ戸惑ってしまった。

「あ、……忘れてた。ここに来ることで必死だったから」

「あぁ、うん。綺麗だもんね」

 その人がそう言いながら向こうに一面と果てしなく続く海を見つめる。

 今日初めてきて、別にこの景色が見たかったわけじゃないんだけれど、それでもその景色を見ると、それはそれは綺麗な海だった。

 懐かしく。

 懐かしい。

「あの時の綺麗さとはまた違う綺麗な景色だ」

 あの時。

 その人がそう呟いた。あの時とは、どの時の事なんだろうか。

「前に、丘の上から景色を見たことがあってね、こことは違うところなんだけど、ずっと脳内に焼きついて離れないんだ」

 忘れても、絶対にいつか思い出す。

 なんでだろうね?

 そう言いながら笑うから、俺の確信が、一歩前進する。

「へ、ぇ……。相当、綺麗な景色だったんでしょうね」

「そうだなぁ…。うん、生意気で、阿呆で、でも、とても大切な人を1回だけ連れて行った。そいつも喜んでくれたと思うけど、本心はどうだっただろうね」

 また一歩。

「その人も、きっと、同じ事を思ってたと思うよ」

「そう? それからすぐ、俺を残していなくなっちゃったんだけど」

 一歩。二歩。

「なにか、……約束は?」

 声が震えた。

 確信まではあと一歩でゴールと言うところ。その人は懐かしむように、口を開く。

「『また会おう』って」

 優しい笑みで。

 一歩。

「ずっと待ってたよ、貴一」

グダグダの遅くなってすみませんでした。

↓一応説明。(長いので飛ばしたほうが良い(笑)


現代人の貴一が事故のショックで意識が飛ぶ。

と同時に異空間的なところに入って

そしたら過去を生きている汐となんやかんやのやり取りをし、

気付いたら女の姿で過去のフランスへ。

過去に生きるロビンに助けられ、

少しの時間過去を生きる。

その間で、汐はロビンに恋をし、ロビンは貴一に恋をし、貴一はロビンに恋をする。

区切りの良いところで現代に帰ろうと言う時に、

貴一はロビンと現代、自分の事、汐の事を全部話す。

「また会おう」と約束し、そこで貴一の魂が現代に帰り、

汐の体には汐の魂が100%元に戻る。


汐は貴一のために生きるといったので、残りの人生を

精一杯に生きます。

一方ロビンは、貴一と「また会おう」と約束したので、

その約束を果たそうとします。

貴一の生きている現代とロビンの生きている過去では何百年も差があるので、

ロビンは死んで、後世を2、3回生きます。

最初はもちろん忘れていますが、何故か都合のいい事に

前世の貴一との約束を思いだし、

いつまでも丘を眺めています。


それからまたなんやかんやあり、貴一の生きる現代へ。

奇跡的に再開を果たす。

って言うようなベタベッタやなー、なストーリーです。


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