色
人を色に例えるヤツとそいつの話し
「だって俺、お前みたいな濃い良い色になんかなれないもんさぁ」
元々色素の薄い天然の茶色頭がふいと前を向いた。
濃い良い色とは、一体どんな色なんだろうか。
「え? どんな色って……んー…人間色?」
人間色?
「そーそー、ニンゲンイロ。俺そんな良い色になんかなれねーっぽいから、羨ましいわ」
なれねーっぽい。
そう、にかっと笑って、千里は手に持った水をグイグイと飲み込んだ。
俺はそんなに濃い肌色でもしているのだろうか? ……部活はバスケをやっているけど、学校では屋内スポーツの枠に入る。たまに公園で名も分からんヤツと1on1とかしてるけど、肌が濃く焼ける程やっているわけでもないし。
髪の毛も染めているわけでもなく、完全な真っ黒クロスケ。目立つような色なんて生えてもなく。『濃い良い色』なんて呼ばれるような色には聞き覚えも見覚えもない。『人間色』もそれと同じだ。
じゃあ何なんだ。コイツにはヒトのオーラでも見えるんだろうか。
「オーラ? …とかじゃないんだよなー。なんだかなー、わかんねー?」
わかんねぇよ。
「んじゃ、まぁいーや。諦める」
「あぁ…、そう」
真夏の空。入道雲から突き出て飛行機雲が1本、線を描いている。ミンミンジージーと鳴くセミの音は夏の風物詩。気持ち悪いくらいに耳に響いた。
大きな1本の木の下にあるベンチは木陰でいい感じに冷たくなっていて、それに涼しかった。
「なぁ」
「うん?」
「その濃い良い色…ってぇの? 俺は何色なんだ」
色にも何千種類もある。その中で俺は何色なのか。別に、特に興味はなかったけれど、こいつの言ったその濃い良い色の話しを聞きたかった。
「お前はねぇ――」
んー。っと左目を閉じ右目を薄くさせて俺を敵意無く睨み上げる。両手の一指し指と親指で長方四辺形をつくりそこから右目で覗き込んでいる状態。
ガキっぽい仕草は出会った頃と変わらず。見慣れてしまったそれにはもう何も言わなかった。
少し間を置いて、真面目な顔をしながら千里はこう言った。
「水色の混ざった紺色」
「ふぅん」
よくわからんが、とりあえず相づちを打っておく。俺は何千種類もある色の中の水色の混ざった紺色だそうだ。…本当にわけがわからん。
俺も千里も色の名前なんて青とか赤とか、大体の大雑把な物しかしらないし、これまで覚えようとしたことも無い。美術で『琥珀色』なんてかっこ良い色の名前が出ていた気がするけれど、それは果たしてどんな色をしているのかも分からない。
「お前いつも静かだけど、優しくて、ちゃんと周りとかも見てやんの。キレたらとことんキレまくってウザイのなんの……」
「おい最後悪口だぞ」
「でもこういう色は嫌いじゃねぇの俺。地味だけど見やすい色してるしさ、でももうちょっと人間ぽい方がいいかなー」
その人間ぽいてのが人間色の事か。
「俺の色は嫌いじゃねぇって……お前どんな色嫌いなんだ?」
「黒色。まーっ黒で、すっげ真っ黒で。大嫌い」
口を尖らせ不味い物でも食ったかのように渋い顔をしている。
「まぁ……俺は良いと思うけどな」
その言葉に、渋い顔がこちらを向いた。
物好きだな……みたいな風にドン引きしている顔。
「グロテスクな色してるじゃんかよ。きったねーし」
「そうか?」
「んー……やっぱ理解されないかぁー」
「お前の感覚は珍しいからな」
「そんな珍しい俺と一緒にいてくれるお前が珍しいっての……っ…」
渋い顔が一転、何が面白かったのか、声も出さず腹をかかえ足を伸ばしケラケラと笑う千里に、俺は苦笑した。
別に間違ってはいないんだから。
珍しいお前を好いてる俺は確かに珍しい。
「あっ」
そいつの制服のズボンのポケットからヴヴヴ……とバイブが鳴った。震える携帯を右手で捕まえ、画面を開いてそれを止める。そのまま画面を閉じてるという事は、着信とかではなく、アラームだったようだ。
「あ、ごめん。俺もー帰るなぁ」
「用事か?」
「バイトの時間」
「あぁ、そうか。じゃあな」
「おう」
ベンチから立ち上がりそのまま俺を見向きもせずにバイト先へ向かった。
アイツの生い立ちはこうだ。
生まれてから施設で育ち、小学3,4年の時に養子としてこの地域に越してくる。高校に入ってすぐ養子として引き受けてくれた両親が他界。今は高校までやめて何個かバイトを掛け持ちしながら自分で生活している。
波乱万丈な人生を送っているそいつには、実は弟がいる。小学3年生。物静かで、お兄ちゃん子。俺もその弟とは面識があり、アイツがバイトで家を空けてる休日に、よく一緒に遊んだりした。
何度も自分が好いてる千里に金の支援もしてやろうかとも思ったが、それはアイツにとって良い迷惑なんだと考えた。自分一人で弟連れて、この社会で這いつくばってでも生きようとしている奴に対して、それは、大きな侮辱行為なのだ。同情されている感じで、逆に傷つけている。
だから俺はただ見守ってやっている。笑顔でそいつの傍にいてやっている。忙しい中で女と恋愛もできない状況。そんな奴の横に俺がいる。
特権だ。悪いけど。
アイツが恋愛する暇ないほど忙しかったら、俺はいつまでもソイツの横にいてやれる。
「ひでぇヤツ」
なんて、苦笑をもらした。
*
事態が一変したのが、ある日の蒸し暑い夜だった。俺の親は所謂『金持ち』と言う奴で、敷地の広い1軒屋に比較的大きな車庫付き。3階建てで、キッチンも1階と2階に2つもあるほどの超家庭。
勿論俺の部屋はクーラーも完備してあって、こんな夏には持って来いの部屋だった。その日も俺は電気代のでの字も気にせずクーラーを付けっぱにしたまま眠りに落ちた。
そんな深夜。涼しい部屋鳴り響いた。
表示名は『非通知』
こういうのは大体千里からの電話だった。携帯電話も家電話も持ってないアイツは、自分の家から少し離れたところに設置してある公衆電話から電話をかけてくる。
これも節約なんだろう。
10円を使ってほんの10秒ちょいで、伝えたいことをマシンガントークし、そして勝手に切れる。4,5日に1回くらいの頻度で、たまにくるそいつからの電話。
それでも、あんな子供っぽい行動を取るが人の迷惑も考える奴。こんな深夜に電話がかかって来る事は無いので、少し不審に思いながら電話をでた。
「あ……あ…っ」
「……? もしもし」
「っに、兄ちゃん?!」
「裕太か、…どうした? お前の兄ちゃん」
電話主は、弟。初めてのそいつからの電話に、千里じゃないという結果に少しガッカリした。
ガッカリはしたけれど、その、どこか切羽詰まったような裕太の声に不安が募る。
「ど、しよ。俺っ…どうすればいいのかなっ!? ……ちぃ兄が」
悪い意味で興奮気味。テンパってる状況なのは、すぐに分かった。部屋の電気をつけて、耳にくっつけたスピーカーに神経を研ぎ澄ます。
「おい、落ち着いて喋れ。っどうした?」
「ち…に、ちゃんが」
「……」
「倒れた――」
さっきの不安が当たった。
公衆電話のタイムオーバースレスレの言葉。ツーっツーっと流れる音に、少しだけイラっとした。
『兄ちゃんが倒れた』
俺はジャージとTシャツの格好のまま自分の部屋をでて家を飛び出した。クーラーが効いた部屋を出ると一瞬にして蒸し暑い重い空気が俺の身を包む。
自転車をガシガシ漕ぐと、熱気が襲ってきた。その熱気で汗がでて、ベタベタして、気分も最悪で、俺はそんな最悪な状態で電話元の家へと急いだ。
錆び付いたぼろぼろのアパート。目的の部屋の隣にはくもの巣も引っかかっている。
息を整える暇も無いほど、俺は乱暴にそのドアを開いた。小さな1Mもない玄関。ドアを挟む隙もなく居間があるほどの古い部屋。
入って一瞬、身が竦んだ。声も出せない程の震え。
「兄ちゃん……ちぃ兄が…」
目を見開いて肩をダラっと倒し布団の上で寝ている千里の横で正座をしている弟は、そんな俺よりも震えて見えた。
きっと自分より倍も小さい体から一生懸命力を振り絞ってそいつを布団に寝かせたんだろう。額には濡れたタオルが置いてある。頭付近にある洗面器には水と氷と、も一つタオル。
「救急車は?」
「病院には連れてくなって……! お金、…かかるからって……」
アホだと思った。
「……」
コイツは少々、…いやそれ以上。自分の体を酷く扱いすぎている。
怒りが溢れた。
「バカか、お前は――」
弟に聞こえないよう、小さくそれだけ呟いた。
その言葉に反応するように小さく短く声を漏らしたそいつに、弟はまた声をかける。
「ちぃ兄っ! 大丈夫?!」
「ん……あぁ。…ごめんね、起きた起きた。少し疲れてただけだよ」
何が少しなんだ。
目を覚まし、状況を悟ったその布団の上で苦しそうにしているソイツは、自分のつらさよりまず先に、顔を涙でぐしゃぐしゃにしている弟に優しい笑顔を見せた。その笑顔にはつらさのカケラも無く。
立派な兄貴をやってのけていた。
「智」
弟の涙を拭きながら、顔も見ずに俺の名を呼ぶ。怒りが爆発しそうな気持ちを弟がいるからと言う理由で抑え、俺はなんだ、と返答した。
「悪いんだけど、今日だけ。裕太泊まらせてくんないかなぁ?」
弟、……だけ。
「嫌だよ! 俺ちぃ兄の傍にいるっ!」
「困ったなぁ、お願い裕太。今日だけだから…」
「嫌だ! ここにいる!」
「兄ちゃんの事困らせないでよっ…ね?」
「……っ。分かった。…でも今日だけだからなっ!」
鼻水を吸い、また今にも泣きそうな顔で強気な顔をする。
「良い子だね、強い赤色」
強い赤色。
この前の昼のあの会話を思い出した。俺は水色の混ざった紺色。強い、ってのが入っているとなると、弟は戦隊モノの赤レンジャーってとこなんだろうか。やっぱり意味は分からないけれど、いつもそんな話しをしているのか、弟は嬉しそうに顔をパァっと明るくさせた。
「分かったが、…俺はすぐ戻ってくるからな。バイト行ったらお前も俺ん家行きだ」
「わかったわかった」
怒るのはこいつがちゃんとバイト行かずに家で寝ていて、それからの話しだ。俺は力が篭もりそうな手を一生懸命緩くして、弟の手を握ってその家を出た。
小3の男子が速いスピードで怖がるか、なんてのは知らないし、自分の経験も忘れたが、怖がったらそれもまた千里に逆に怒られそうなので、極力ゆったりとしたスピードでペダルを漕いだ。
後ろで俺の腰に腕を回し、声も出さずに少しの時間堪えた涙を流す弟に、俺はそれらしい言葉なんかかけてやれなかった。
「お前の兄ちゃんは大丈夫だから。心配すんな」
根拠なんて無い言葉。
何が大丈夫なんだ。ていうか他人が何心配すんなとか言ってんだ。
弟がもう少し年を経たらきっと、こんな事を言うんだろう。まだコイツは純粋だ。声を出さずに頭を俺の背中に寄せうんうんと頷いた。
「母さん、コイツ今日ここ泊まるから。千里の弟」
「今日? 千里君はいいの?」
俺の家。母さんを半ば強引に起こし、裕太のお泊りを請う。
「あぁ、俺今日アイツん家泊まるから。とりあえずよろしく。俺んとこで寝かせて…裕太、一人で寝れるな?」
また無言でコクっと頷く。
「泣いてるよ?」
裕太の頭を撫でながら一言。
「母さんが慰めてやって」
「んもう…智は甘えん坊だなぁ!」
「何っで俺が甘えん坊なんだよ?! てか、俺もう行くぞ!」
「あい、いってらっしゃい。あんま迷惑かけちゃだめよ? 千里君によろしく」
俺の母親はある意味天然というか、母親らしくない母親だった。怒る時にガチ切れする俺の性格はまぁ母親譲りだが。そんな母親だ。
弟も少しは安心して寝れるだろう。
俺の親への反抗期はとっくに終わったので、こっちの方こそ安心して裕太を母さんに預け、また全速力であの家へと戻っていった。息はまた切れ、家と家とを1往復半もした俺の体力は限界に近かった。
そんな状態でアイツが家にいなかったら、イラつきでこっちのが倒れるだろうと思ったけれど、そいつはちゃんとそこで静かに俺を待っていた。
「ありがとね」
最初の発声はお礼だった。
「裕太に心配かけちゃったなぁ」
2番目は後悔と悲しみ。
「明日のバイトまでに治さないとね」
3番目は仕事の心配であり、やっぱり自分の体を心配ではなかった。
「ふざけんなよ。てめぇ、どんな仕事してんだ。バイト何個掛け持ちしてる……?」
「そんなにバイトはしてないよ」
よく見てみれば、こいつの目の下には濃い隈がある。…こんなに濃いのに、何故気が付かなかったんだろう。炎天下で浴びる明るい太陽の逆行? いつも涼しいほど暗い日陰にあるベンチに座ってるから?
そんなんで気付かないって程薄い隈ではない。
よく周りを見ているなんてこいつは言ってたけれど、こんなデカい状態変化の一つも見つけられないで、周りを見ているなんて言えない。
「言え。まだ俺に言ってないのがあるだろ」
問い詰める感覚ではあったが、幸いコイツは病人。逃げられはしなかった。
「ノーコメント」
「言えない程のバイトしてんのか」
俺の声が低くなったのに気付いたのか、小さな声で今やっているバイトを話しはじめた。
「そこのコンビニと、スーパー……漫画喫茶、居酒屋…」
そこのコンビニ。この家から2分も掛からないところにあるコンビニ。そこでバイトをしている事は知っている。スーパーでバイトをしてんのも知っている。土日バイトの漫画喫茶と居酒屋も、よく知っている。
だから、俺はそんな事を聞きたいわけじゃねぇんだ。
「深夜、……何をやってる?」
「……」
「言えよ」
「……」
「言えっ!!!」
無言のままの部屋に、痺れを切らした俺の怒号だけが響いた。遅れて隣の家から壁を叩く音が聞こえる。壁が薄いから俺の声も普通に届いてんだろう。うるさいと言う意味の叩く音。
「裕太が俺に言ってきてんだ。夜遅くにお前がいないから少し寂しいって。……深夜は家で寝てるって言ってたよな?」
「……」
「何とか言えよ」
「俺……裕太を母さん達の親戚に預けようと思ってんの」
話しをズラされた。
なんて思ったけれど、これはかなり重要な話しだったのかもしれない。思わず聞き返す俺の声はかなりまぬけていた。
「あそこの叔母さん、裕太の事だけは好いてくれてるから。こないだ話したらいいよって言ってくれたんだ。もちろん、裕太の学校とかの金はちゃんと払うし……」
「お前も裕太も、それを望んでんのか?」
「裕太を一人ぼっちになんか出来ないだろ。寂しいと思いしてるんならもっと出来ない」
さっきの深夜の話しどうのこうのは、墓穴だったかもしれない。裏手に取られて、俺は何の反論も出来ない。
「俺一人ならバイトに専念できるし。裕太が嫌がったら、嫌われるような事してでも叔母さんとこに連れてく」
血は繋がってなくても、弟はこいつにとってただ一人の家族だった。親戚にはコイツは酷く嫌われてるらしいから、一番の心の拠り所は俺よりも裕太だったんだろう、なのに。
お前はそれすらも手放すってのか。
「俺はお前が何と言おうとそうするよ。……俺と家族の事だから、…智には関係ないよね?」
距離を取られた気がした。
そりゃそうだ。否定しようが無い。だって自分の家族の事についてとやかく言う権利は他人には無いんだから。
だけど何か、俺とコイツの距離がまた開いた気がした。他人だけど他人より近いこの距離が。本当の他人になりつつある距離。
そんな恐怖。
恐怖を覚えるけれど、やっぱり俺に何かを言える権利はなく。
「分かった――」
小さくそう答えたその1週間後。裕太が親戚の元へと行った。
どういう風に説得したかは分からないが、その日のソイツの顔は倒れたその時よりもやつれていて、それでいて泣きそうで、思わず抱きしめそうになった。
思えば何で抱きしめなかったんだろう。と思ったけれど、思った時にはもう遅かった。
裕太が親戚の元へ行った2日後。
茶色頭のソイツは、俺の目の前から姿を消した。
コンビニもスーパーのバイトも全部のバイトをやめていて、この街から千里の気配は完全に消えていた。誰にも何も言わないで、俺にも何も言わないで。
「……」
どこに行ったのかも分からない。日本は世界からみたら小さいけれど、俺から見たら嫌と言う程広く。こんな広い世界のどこかにアイツはいて、でも俺の横にはいなくて。
震えた。
完全な他人になったのだ、俺とアイツは。
あぁ、そうだ。俺にはまだ聞かなければいけないことがあったんだ。
俺は水色の混ざった紺色の濃い良い色で、裕太は強い赤色で。アイツはグロテスクな黒色が大嫌いで。じゃあ、そんな自分は一体何色なのかと。
そう千里に、聞かないといけないんだ。
コレで離れたからじゃあ終わり、さようなら。なんて事には、俺は絶対に出来なかった。そんな性格だったと言うか、千里が俺にとってそんな存在なのだ。俺は千里を好いている。
絶対に見つけたい。
心からそんな風に思った。
*
何年もたったが、それからのソイツの消息は分からない。
裕太のいる親戚の家には、毎月一定額の金が銀行に振り込まれてくるそうだ。だけれど手紙も電話も何の音沙汰もなく。どこで何をしているかも分からない。
裕太は『ちぃ兄が生きてるならそれでいい』と強気にそう言うが、目の奥が潤んでるのは知らない事にしておく。
「だって俺、強い赤色なんだよ!」
「……そうだな」
ガシガシと頭を撫でてみると子供扱いするなっ! と手を払われた。アイツがもし頭を撫でたらどうするんだろうな、コイツは。
「ホラ、もう行け。学校遅れるぞ」
「うん! あ……」
俺に背を向けて少し走りだした足がとまり、ふいにこっちを向いた。
「兄ちゃん来月転勤だっけ?」
「おう、今月末にはあっちの家に行くけどな……寂しいか?」
「そ…んなわけねーだろっ!」
また強がり。幼さが残る裕太は、あの時の千里に随分似ていた。
「……あの、…もしちぃ兄見つけたら、俺は元気だよって言っといて!」
「あぁ…わかった」
希望を捨ててない裕太に、俺も少しだけ勇気を貰った。
大学を卒業してこの街にある、父さんが社長をする会社の下っ端会社から俺の社会人生活は始まった。頑張った甲斐あって、東京本社の近くにある兄弟会社の社長を譲り受けた。兄弟会社といってもやっぱりまだ規模は小さい。俺が育てるべき会社。
大出世だ。業績を伸ばせば世界を見る視野も広がる。今度こそアイツを見つけられるかもしれない。
そんな希望の少ない小さな思いで俺はこの街から東京に移った。
その数年後。
深夜にネオンが光輝く、人がアリの行列みたいに大勢いる街。
ふいに顔をそらした先に見えた人物。
顔だち、目にすっと入るその姿勢。色素の薄い茶色頭。あの夏、最後に見たアイツとの姿に完全に一致した人物を見つけた俺の息は、一瞬、ヒュっと止まった。
自分もこういう事やる・・ていうか、感じるのか・・・?たまーに人を色に例えることがあります。
人もそうですが・・文字とか数字とか、そんなのも色に例えたりします。他人に話したら全然理解されなかったんでwwこれは一体なんなんだww
・・って話しです。はい。
A→赤 B→青 C→黄色
理解できた・・・?
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