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二人羽織

〈我は今疲れの果てに冬忘る 涙次〉



【ⅰ】


* フウは尾崎一蝶齋に良く懐いてゐた。フウ「僕は平和なにほひがする人、大好きにやん」。だが尾崎は猫語を解さない。たゞ、フウを膝に乘せ、好々爺と猫の、冬の日差しの中の仲睦まじい光景- それがこゝにあつたつてだけだ。



* 當該シリーズ第24話參照。



【ⅱ】


「魔界健全育成プロジェクト」會議室。担当官・仲本堯佳は、一つ尾崎氏にご足勞願つて、彼に「プロジェクト」メンバーの前で面白い武術の話を喋つて貰ひたい、と切り出した。要するに講演の依頼である。じろさん「俺やカンテラぢや駄目なのかい?」-仲本「あんた逹には、【魔】の血がこびりついてゐる。話せば死屍累々たる光景が現前する。だが我々『プロジェクト』のテーマは、飽くまで不殺、飽くまで魔界の善導だ。尾崎氏の活人剣思想こそ、語つて俺の部下逹の役に立つものはない」-「タイムリーだつて事か」-「さうだ。講演料はちやんと支拂ふ。是非、尾崎氏を借りたい」。



【ⅲ】


尾崎の話した事-「皆さん初めまして。我が尾崎家は江戸時代末期から、和を以て良しとする、活人剣思想を廣めるのに取り組んでゐる。人を殺めるのでなく、活かす剣- あなた方の活動に似てゐる」-「勿論、私逹カンテラ一味にも、*『和合空間』なる術を使ふ時軸麻之介と云ふ者がをり、その術下では全ての諍ひは停止する、と云ふ、まことに結構なものなんだが、カンテラは用兵を誤り、彼・時軸を『番軍』監査と云ふ血腥い役職に就けてゐる」-尾崎、常日頃「道化役」として飼ひ殺しの目に遭つてゐる鬱憤を晴らすやうに、喋りに喋つた。尾崎はしやべくりは得意である。特に原稿と云ふ物は用意してゐなかつた。で、拍手喝采の内に、尾崎の初講演は幕を閉じた。



* 當該シリーズ第32話參照。



【ⅳ】


だがルシフェルは云ふのである。「麻之介の『和合空間』は戰ひの中に置いてこそ光るもの。(永田註: こゝら邊ルシフェルは流石に地獄耳である。)だが尾崎の活人剣は何も生み出さない。謂はゞ『停滞の美學』なのだ。スイス數百年の歴史(いや、寧ろ歴史停止だな)が齎した物は何か- 精々がとこ、鳩時計と、惡党どもがマネーロンダリングに使ふスイス銀行ぐらゐのものだ」



【ⅳ】


かうして見ると、仲本は戰闘を放棄した思想教育を、「プロジェクト」の面々に授けてゐると云つて良さゝうだ。で、一味の女スパイ・涙坐「わたし、見てしまつたんです。仲本さんが、魔界にゐるところを」。仲本、實は「ニュー・タイプ【魔】」逹と内通してゐたのである。いつからかうなつたのかは、分からない。だが、これでは人類全體への裏切りをしてゐるやうなものだ。



※※※※


〈ヴェランダで仰ぎ見る空夜のとばり星動くね、あ人工衛星! 平手みき〉



【ⅴ】


さて、一味にとり最大の金主である「プロジェクト」の統率者・仲本を、カンテラ斬れるか!? こゝでテオ、畸想天外なプランを提示した。仲本を斬つた後の遺骸を、落語家逹がよくやる「二人羽織」の要領で、ルシフェルが操れば... とテオは云つてゐるのである。カンテラ、じろさんに仲本を呼び出して貰ひ、斬つた。「嘗ての『魔界壊滅プロジェクト』の理念を思ひ出しつゝ、あんたには死んで貰ふ」-「部下逹が黙つてはをらんぞ」-「問答無用。しええええええいつ!!」。仲本は息絶えた。



【ⅵ】


畸しくも一味が「プロジェクト」を乘つ取る、と云ふ形になつた譯だ。ルシフェルは、彼に殘された妖力のありつたけを振り絞つて、仲本の亡骸に憑依した。後は、仲本の云つた通り、部下逹に怪しまれぬやう、適当な金額を(各事件ごとに)一味に下ろすだけだ。今後は、仲本=ルシフェル、だとご記憶して頂ければ良い。やうやくルシフェルが墓穴を出る時が來た譯だ。



※※※※


〈断絶や嚴寒・小春一日に 涙次〉



【ⅶ】


そんな事も知らぬげに、尾崎は今日もフウを抱いて日向ぼつこしてゐる。じろさん「敵を欺くには、まづ味方から、と云ふ。尾崎には申し譯ないが、聾棧敷にゐて貰はう」-



この疲れを拔く前に

云へる事はない

暴力衝動が

ふと芽生える

珈琲でも淹れたらだうだ

貴方の星では

苦しめられた民は

路傍の石みたく

蹴られ踏まれ

一體何が起きたのか知る事は

ないのね

彼女とは異星人と付き合ふ如く

付き合つてゐたけれど

深く頷く不覺

俺は淋しいんだ、分かる?


-四条克梓-


お仕舞ひ。



PS: 仲本は、自分の思想に酔つたのだ。だが處詮、【魔】は【魔】である。彼は【魔】に苦しめられてゐる人逹の顔が見えなくなつてゐた。それもこれも、彼が「象牙の塔」に籠つた事に起因してゐる。隠れ蓑として「プロジェクト」を惡用した事實が、彼の壽命を短くしてしまつた。卷末の四条の詩は、その事への解説である。孤獨は時として惡弊を齎す。このエピソオドは、助言者を欠いた仲本へのレクイエムなのだ。


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