第8話 一軍女子エレナ、襲来!
【LIMEグループ:2-5女王蜂の庭】
@エレナ:ねー、またおすすめ流れてきたんだけど。マジうざくね?
@マイ:それなー! AI動画でしょ?www 承認欲求モンスター乙って感じ
@ミキ:誰?
@エレナ:うちのクラスのヒッキーだよ
@ミキ:アカネのモブかー。空気すぎて忘れてたわー
@エレナ:暇人すぎん? 学校サボって配信ごっことか、身の程知らずにもほどがあるでしょw
@マイ:しかもアカウント、エレナっちのフォロワー数に迫ってるし! エモいとか言われてんのマ?
@エレナ:調子乗ってるから、現実教えてあげないといけなくない?
@ミキ:さっすがエレナ様! 教育的指導入りまーすw
@エレナ:放課後凸るわ 裏山集合で
♢ ♢ ♢
それから私とミナは、〝ダンジョンサロン〟で毎日配信ルーティンをこなした。私が天才カリスマ美容師(自称)で、ミナがカメラマン。完璧な布陣。
「はい、スライムさん。今日は『濡れ髪風』に仕上げていきますね~」「ぴょんぴょん(うれしい)」
洞窟の奥から次々やってくるスライムたちを、流れ作業のようにカットしていく。
サイドの毛を流して隠す高等テクニック。チョキチョキと軽快なリズムでカット。切り落とされた青い毛がパラパラと落ちる。
「モフ太、出番!」「キュウ!」
待ち構えていたモフ太が、落ちた毛を掃除機のごとく吸い込む。モグモグ、ゴックン。
高級カメラで配信すると、反応は段違いだった。視聴者数と高評価が壊れたスロットマシンみたいに回転する。
いいね数、6000……8000……1万!?
「やばっ! すっご! ついに万バズじゃん!」
「キタコレ! アカネ、これもうプロだよ!」
「うひョオオオ! 脳汁止まらん!」
二人で手を取り合ってぴょんぴょん跳ねる。今まで空気……いや、二酸化炭素以下の扱いだったクラスの男子からも、『LIME』が飛んできた。
@Kenta:へー、すげえじゃん
@Taro:かわ
@Shin:犬の連携プレー草
@Umi:お前最近キラキラしてんじゃん。早く学校来いよ
やばい。世界が私に追いついてきた。これが「陽キャ」の見る景色……! 眩しすぎて網膜焼ける!
「いい調子!」
「このまま目指せ、銀の盾!」
「いえーい!」
ハイタッチを交わした、
──その時
「……ダッサ」
ダンジョンの入り口から、絶対零度の声が響いた。空気が凍りつく。
そこに立っていたのは、スクバを提げた一人の女子生徒。極限まで短くしたスカート。ゆるく巻いた茶髪。そして、クラス全員を支配する女王のような冷たい眼。
クラスの一軍トップ、神崎エレナとその取り巻きたちだった。
「あ……」私の喉がひゅっと鳴る。トラウマの具現化。ボスがいきなり駆け出しの村に来たような絶望感。
「へえ、AIかと思ったら、ぬいぐるみ使った子芝居だったんだ。高二にもなってお人形遊びとか、マジで引くんだけど」
カツ、カツ、とローファーの音を響かせて近づいてくる。オーラが違う。私みたいな日陰の苔とは、生物としての格が違う。
私の足がガクガクと震えだす。あの日。私が引きこもりになった決定的な日。新しい髪型で登校した私を見て、彼女は鼻で笑って言った。『ダッサ。陰キャが背伸びしてる感ある』。
その言葉が、今また私の心臓をえぐる。
「あ、足が当たっちゃったー」
棒読みのセリフと共に、エレナの足が三脚を蹴り飛ばした。
ガシャーン!
「ああっ! カメラが!」パパの愛機が地面に転がる。
「キュウッ!」モフ太が威嚇しようと前に出た瞬間、
ドゴッ。
「きゃんっ!」エレナのローファーが、容赦なくモフ太の腹に入った。サッカーボールのように蹴り上げられたモフ太が、洞窟の壁に激突して悲鳴を上げる。
「モフ太!」私は駆け寄ろうとしたけれど、足がすくんで動けない。
「なにこれ、汚い雑種。保健所に連絡したほうがいいんじゃない?」
エレナはスマホを取り出し、怯えて震える私と、うずくまるモフ太へレンズを向けた。
「うわ、顔面蒼白じゃん。ウケるー。この動画上げたらバズるかな? 『引きこもりの生態調査なう』って」
シャッター音。クスクスという嘲笑。悔しい。怖い。何も言い返せない自分が、死ぬほど惨めだ。
「やめてよ!」
ミナが、私の前に立ちはだかった。
「いじめとか最低なんだけど!」
「は? なにその正義感。オタク同士で傷の舐め合いとかキツいわー」
「陰湿なんだよ! やってることが!」
ミナが喧嘩腰になる。私はミナの服を引っ張って、止めに入る。
エレナの目がすっと細められた。不機嫌な爬虫類みたいな目。
「……口答えすんじゃねーよ、三軍どもが!」
パァンッ!!
乾いた音が洞窟に響いた。視界が揺れる。遅れて、左頬に熱い痺れが走った。
「アカネっ!」
私は地面に手をついた。口の中に鉄の味が広がる。叩かれた。私が。エレナは冷たい目で見下ろしながら、汚いものを触ったかのように手を払った。
「あーあ、エレナっちの手が汚れたじゃん~」
「クスクス」
「調子乗ってんじゃねーよ、ヒッキー! ネットでチヤホヤされたくらいで勘違いすんな!」
最後に私のハサミを蹴り飛ばして、
「今日はこれくらいにしといてあげる。でも次変な動画上げたら、これ全部、学校のグルチャに晒すから。……行こ」
嵐のように彼女たちは去っていった。
♢ ♢ ♢
「アカネ……大丈夫?」
「へーきへーき。慣れてるから。どーせ私は三軍女子だもん。一生、布団の中でダンゴムシみたいに生きてく存在なんだもん」
私は膝を丸めた。
「そういう自虐やめな! アカネは原石なの! 控え目女子なだけだって! 絶対見返してやる! あいつらに『参りました』って言わせてやる」
そーだ!と、ミナ。
「そのジャージ、着替えよ! イメチェンだよ!」
「無理」
私は即座に首を振る。
「引きこもりはジャージが皮膚だから。これ脱いだら死ぬ呪いにかかってるから」
「なにその設定! 制服あるでしょ。セーラー服で配信すれば、もっと人気出て、アイツらなんか目じゃないよ!」
「制服はホコリかぶってる」
「じゃあ、新しい服、買いにいこう」
「今月のお小遣い、残高3円」
「うーん……」
ミナは腕を組んで考え込んだ。そして、目の奥がキラキラと光りはじめた。
「いいこと思い付いた!」
お読みくださりありがとうございます。頑張って更新しますので、ぜひご評価いただけると幸いです。




