第7話 スライムはツーブロックでイケメンに
目の前の空間に、半透明なウィンドウがパッと開いた。
種族:ブルースライム(原生種)
HP: 15
ATK: 3
【髪質診断】:柔らかい髪質
【悩み】:薄毛
「……は? 悩み、薄毛? ウケる! 髪どこよ」
スライムはうねうねと波打ちながら、私の足元に這い寄ってきた。ベチャッ、ズルッ、という生々しい音が響く。
「うわきもっ!」
思わず足で踏んづけると、プニッとした感触が足裏に伝わる。
あ、ごめんと、つい反射的に謝る。
でも、スライムは怒るどころか、すりすりと私のローファーに体を擦り付けてきた。
まるで「カットして」と縋りつく客みたい。
次の瞬間、スライムの頭頂部から、申し訳程度の「青い毛のようなもの」がこんもりと現れた。
「……待って。なにその髪型。終わってるリーマンかよ」
スライムの「毛」は、周囲だけが長く、肝心のトップが絶望的な不毛地帯。まるで権田原さんの頭皮のコピーだ。
(モンスターも髪の悩みで病むとか、世知辛すぎっしょ)
「おっけー。分かった。殺さないから。カットしてあげるから! 離れて!」
私は溜息を洩らした。
髪の悩みを持つモンスターに、美容師の娘として手荒な真似はできない。どーせ、自分の髪型が嫌いで、万年洞窟の奥に引きこもってたクチでしょ。
「アンタのバーコードヘア、私に任せて! 薄毛なんて、うちの美容室じゃエブリデーだからね」
私は魔改造シザーをシャキッと鳴らした。
♢ ♢ ♢
「はいはい、お客様~! 本日は薄毛にお悩みということですね~」
とりあえず、目線を合わせるため、スライムを岩に移動させた。私はママの接客を真似して応対する。
スマホを固定して配信開始!
スライムは嬉しそうに、フルフルとボディーを揺らしていた。
:キターー! 天才美容師JK!
:待ってました!
:今日はスライム!
:UMAが寄ってくる体質
:スライム可愛い!
:質感がリアル
:飼いたい!
:スライムの弱点が「薄毛」って、設定が斬新すぎて草
フォロワーのコメントが流れていく。
まずは毛量の確認だ。トップの不毛地帯をカバーするため、サイドとバックをガッツリ削る「フェードスタイル」に決定。王道ツーブロックってヤツだ。
耳上あたり(?)から後頭部の中段までを正確にセクショニング(小分け)して、ダッカールでトップを留める。
:手慣れてる!
:初見です
:面白そうな配信発見!
うひひ。
(いかんいかん。集中集中)
バリカンを6ミリに設定。サイドから襟足にかけて、地肌が透けない程度の厚みを残して一気に刈り上げる。 さらに、キワの部分だけは3ミリにして整える。
グラデーションをつけることで、田舎の爺ちゃんの角刈りとは違う「都会のフェード」を作り出す。
次にシザーに持ち替え。
ブロッキングしていたトップを降ろす。サイドは被せるだけじゃなくて、少し繋げてシルエットを絞るのが今風。
オーバーダイレクション(毛束を後ろに引く)をかけながら、チョップカット(先端だけジグザグにカット)で毛先を不揃いに散らしていく。
最後に、髪の表面を滑らせるようにハサミを入れれば、
あら不思議。バーコードおじさんだったスライムが、表参道にいそうな「アンニュイ系男子」に!!
:すげえええ!
:スライムがイケメンになった!
:かっこよ!
:スライムさん嬉しそう
:俺も美容師志望なんで、勉強になります!
:【skinさんがスーパーチャットを投げました】
スライムは泉に映る自分に満足し、ボディーを赤らめてホップステップ。
「では次回の配信でお会いしましょう~」
その後、私はスライムからクラフト素材を分けてもらい、無事に一眼レフを修理したのだった。
♢ ♢ ♢
「ヒッキー! 来たよー!」
洞窟内で作業していると、背後から明るい声が響いた。私のオタ友、ミナだ。
ミナはセーラー服のリボンを緩めに結び、オーバーサイズのベージュカーディガンを羽織っている。スカートのウエストを二回折るのが彼女の「可愛さの黄金比」。
「待ってたよ! ミナ!」
「わたしを差し置いて、一人で楽しもうなんて許せんからな」
ぐひひと二人で笑い合う。
ミナの視線が、私の足元で「ツーブロが決まってドヤ顔しているスライム」に止まった。
「……うぇえええ!? なにその鼻水! おしゃれなんだけど!」
「鼻水じゃない、スライム。カットしてほしいって言うからやってみた。さっき動画上げたの、再生回数がもう8000……」
「うおおお! 夢にまで見た本物のUMA! マジ感動! これ異世界転生モノのラノベ的なアレじゃね?」
私は一通りの事情を説明した。流星群、泉、モフ太、そしてスライムの調達素材。
アンダースタンドぉ?
「アンダースタンドぉ?みたいなドヤ顔やめて。てか、状況わかってないのはアカネだよ!」
ミナが、クラフトで残った素材を奪い取る。
キラキラとラメの入った半透明の何か。甘くていい香りがする。ゼリーみたい。
「多分さ、この素材、超がつく〝激レアアイテム〟だよ」
「ゼリーじゃないの?」
「ちっがうよ! そんなわけないじゃん!」
ミナの両親はコスメショップを経営してる。うちのママがお得意様ってこともあり、家族ぐるみで仲良くさせてもらってる。そんなミナの目利きはいつも鋭い。
彼女は私にビシリと指を向けて言い放った。
「これ、ヘアオイルとかヘアジェルの類だよ。うちの店の在庫全部ひっくり返しても、これに勝てる成分入ってない。100mlで10万はくだらないレベルの、S級ジェルだよ!」
「ええーー!! 10万んんんーー!?」
あまりの衝撃に、目がチカチカした。
10万?? 10万ってなに? スライム一匹から、月のお小遣いの20倍以上が出るってコト!?
王様か何かに付けるジェルなの?
「ヒッキーのくせに、不公平すぎでしょ! どんだけ引きが強いのよ!」
恨めしそうなミナの視線。
私の手元には修理完了した一眼レフ。そして、最高級のヘアジェル。
……使える。
私はモフ太とスライムを撫でながら、ガッツポーズを決めた。
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