第5話 「布団の守護神」は、週1の外出でもフルマラソン
「あー、詰んだ。完全に詰んだ。私の人生、サービス終了のお知らせ」
膝から崩れ落ちる。JKのメンタルなんて、湿気ったポテチより脆いんだよ。
不意にジャージの裾が強く引っ張られた。
「……なに、モフ太。今、私、全米が泣くレベルの悲劇のヒロイン中なんだけど」
私の足元でモフ太が必死にジャージを咥えている。
4つの目が「こっちこっち!」と言わんばかりに輝いている。
裏山へ来いってコト?
「離せって。エナドリ5本飲んでも回復しないレベルでHPゼロなの」
私は抵抗を試みる。
そもそも、一週間前に外界へ出たばかりだ。
基本スペックが「布団の守護神」である私にとって、週1の外出なんて、フルマラソン2回走るのと同じくらいキツいんだよ。
でも、モフ太の顎ヂカラは意外とエグい。
グイグイと引っ張られ、フローリングをズルズル引きずられていく。
「ちょ、待って! これオキニの部屋着! 伸びる! 襟元がダルダルになる!」
私の抗議も虚しく、モフ太は強引に私を部屋の外へ連れ出した。
♢ ♢ ♢
ゼェハァと息を切らしながら、私はモフ太の尻を追いかける。
「はぁ、はぁ……モフ太。これ以上登ったら、私のファンデと前髪が共倒れするんだけど」
文句を垂れ流しながら辿り着いたのは、例の洞窟だった。
「キュッ!」
モフ太が迷いなくその穴へ飛び込んでいく。
「おーい、モフ太ー。かくれんぼなら負けでいいよー。早く帰ってアニメ観ようぜー」
スマホのライトで足元を照らしながら進む。
意外と広い。天井も高く、閉塞感はない。
しばらく歩くと、奥から青白い光が漏れているのが見えた。
モフ太がそこで立ち止まり、こちらを見て舌を出している。
そこは「泉」だった。
直径2メートルほどの円形の泉。水面がLEDみたいに発光している。
「うわ、綺麗……。フィルターなしでこの彩度はヤバいね」
感動して一歩踏み出した、その時。
ガッ。
「あっ」
足元にあった鍾乳石の突起に、見事に躓いた。
運動神経が死滅している私は、受け身を取ることもできず、盛大に前のめり。
「うわああああっ!?」
その拍子に、握りしめていたシザーが宙を舞った。
キラキラと回転しながら、青い泉の中心へと吸い込まれていく。
ポチャン。
「…………は?」
え、嘘でしょ。
「ハサミぃぃぃぃ!」
私は泉の縁に駆け寄り、モフ太の襟首を掴んで揺さぶった。
「どーしてくれんのよ! あんたが呼ぶから! パパのハサミが水没したじゃん! あああああ!」
「キュ、キュ〜(目が回る〜)」
半泣きでモフ太をシェイクしていると、突然、泉の水面がボコボコと泡立ち始めた。
私がのけぞると、水面から「シュウゥゥゥ……」という音と共に、光の柱。
その光の中心に、何かが浮いている。
(ハサミだ!)
でも、さっきまでの錆びたハサミじゃない。
シルバーの輝きが、まるで新品のように鋭い。
ハサミはふわりと私の目の前まで漂ってくると、重力を取り戻したようにコトリと地面に落ちた。
恐る恐る拾い上げる。
ずっしりとした重み。指に吸い付くようなグリップ感。
そして、刃の根元に刻まれた『Be Brave, and With Heart』の文字。
シャキッ。
空気を切る音が、以前よりも澄んで聞こえた。
刃こぼれも、サビも、折れた箇所も、すべて消滅している。これ、新品っていうか、アップグレードされてない?
「すげー……! 何この泉! 金の斧、貰えました的な? うっほー!」
私がハサミを掲げて小躍りしていると、目の前の空間に、ホログラムみたいなウィンドウが『ポンッ』と浮かび上がった。
『【修復の泉】を解放しました。機能:破損した無機物を対象状態までロールバック、および最適化を行います』
「日本語でおk……いや、なんとなく分かる! これ、修理してくれるやつだ!」
私はモフ太を抱きしめて頬ずりした。
「お前、これ知ってて連れてきたの!? 天才かよ! 疑ってごめん! お詫びに今度高級ツナ缶やるから!」
「キュッウ! キュッ!(期待してるけど、ツナは食べないよ!)」
とにかく、この泉は使える!
私はガッツポーズを決めた。
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