第1話 頭頂部は不毛地帯。サイドの毛だけは元気いっぱい。そんな始まり。
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再読み込み。リロード、リロード、鬼のリロード。
画面中央でクルクル回るインジケーターが、まるで私の人生をあざ笑うかのように止まる。
「はあぁぁぁぁぁ……マジで? サーバー落ちてない? イーロン何してんの? 私の端末だけ異世界転生して電波届いてない説ある?!」
私はフローリングに突っ伏した。冷たさがJKの尊い肌にダメージを与える。
3時間前に投稿した渾身の動画――『【神業】ウィッグで3分アレンジ! 全人類モテ確のゆるふわ巻き♡』。
#美容師
#JK
#神業
トレンドに乗る要素は全部ぶち込んだ。
ハズだけど、
インプレッションが限界集落。スパム垢の「プロフ見て♡」すら来ないって、実は結界張られてる?
ここ、日本のド田舎にある「サロン・ド・ヨシコ」。名前のフォントからして昭和の生き残りみたいなこの店が、私の実家であり、世界の果てだ。
「アカネー! いつまでスマホいじってんの! 権田原さんの角刈り、仕上げのポマード持ってきて!」
母・ヨシコの怒号が飛んでくる。鼓膜が破れるかと思った。
「はいはい、今行くってば! ……マジで親ガチャSSRだわ」
私は皮肉交じりに重い腰を上げた。
愛用のシザーケース(ハサミ入れ)を装着する。
中身は、天国のパパが残した高級シザー。……と、100均で買ったダッカール(髪留め)。
このハサミだけが、私がこの「終わってる田舎」という鬼畜ゲーから、「バズりの頂点」へ駆け上がる唯一のアイテム。
店の中に入ると、パーマ液のアンモニア臭と、線香の匂いがマリアージュした地獄のような空気が漂っていた。
客席にいるのは、近所の権田原さん(82)。
頭頂部は見事なまでの不毛地帯だけど、サイドの毛だけは元気いっぱいという、難易度「鬼」の素材だ。
「じっちゃん、ポマード塗るよー」
「あー、頼むわ。明日はデートだからな」
「へー、ゲートボール?」
「ハハッ。デイサービスだよ」
会話のキャッチボールが成立してるような、してないような。
私はため息をつきながら、テカテカのポマードを塗りたくる。
私の技術は、こんな爺ちゃんの頭皮を鏡仕上げにするためにあるんじゃない。もっとこう、表参道のガラス張りのスタジオで、「えっ、アカネさんのカット、レベチ!」とか言われながら芸能人の髪をセットするためにあるのに。
「アカネ、また変な動画あげたの? ツインターもいいけど、勉強しなさいよ」
「エックス」
「一緒でしょ」
ママがシャンプー台を拭きながら言ってくる。
「うるさいな! つーか、ママのその『技術は裏切らない』って信条、もうオワコンだから。今は『映え』こそが正義なの!」
「はいはい。御託はいいから、さっさと仕上げなさい」
「へーい」
と、
私のスマホが『ピロン』と鳴った。通知! 絶対バズった音! 反射的に画面を見る。
『あなたの地域の気象情報:今夜、〇〇山付近で【数十年に一度の流星群】が観測される見込みです』
……クソ通知だった。スマホを壁に投げつけそうになったその時、私の脳内で「バズりの神」が囁いた。
(待って。流星群? 裏山? これって、ワンチャンあるくない?)
「……ママ、終わったから、ちょっと裏山行ってくる」
「クマに気を付けなさいよ」
私はシザーケースをジャラつかせながら、店の勝手口を飛び出した。
狙うは一つ。『流星群×JK』の激エモ動画。映え確定。待ってろよ世界。スキル「万バズ」を見せつけてやるから。
♢ ♢ ♢
家の裏山は草ぼーぼーだった。
この茂り具合を、あの爺ちゃんの頭皮に移したい気分になる。
つか、草、腰まであるし。見たことない色のキノコ生えてるし。
でも、フィルターかければエモくなるはず。
スマホのカメラを起動し、インカメラで前髪を整える。アホ毛なし。盛れてる。よし。
「はいどうもー! 未来のカリスマ美容師、アカネでーす! 今日はなんと、秘密のパワースポットに来てまーす!」
とりあえず配信しとく。
ズボッ、ガサッ。
山道を登ること十分。息が荒くなって、ファンデが崩壊し始めた頃、視界がバグった。
「……は?」
そこにあったのは、見慣れた山の頂上じゃなかった。地面がガラスみたいに透き通って、青白く発光してる。その中央に、泉のようなものが湧き出ていた。
「なにこれ……ドッキリ?」
スマホ越しに見ても、肉眼で見ても、明らかに現実のテクスチャじゃない。
解像度が高すぎるというか、空気が歪んでる。
漂う匂いも、山の土臭さじゃなくて、デパコス売り場1階の「高い化粧品の匂い」が凝縮されたような、甘くて濃密な香りがした。
「ヤバッ」
恐怖心よりも先に、スマホを向けていた。
私は恐る恐る、その発光する地面に足を踏み入れる。コツン、と硬質な音がした。
その時。
『グルルルルル……』
重低音が響いた。
(え? 地震? いや、違う。背後だ)
ゆっくりと振り返る。スマホを持つ手が、手ブレ補正を貫通してガタガタ震え出した。
そこにいたのは、熊じゃなかった。イノシシでもない。
「……何これ」
体長3メートルはある巨体。全身が、まるでスチールウールと使い古したモップを混ぜて、さらに泥水で煮込んだ後に爆発させたような、剛毛の塊。
目が4つ。赤い。
口からは、エナジードリンクなヨダレがダラダラと垂れていた。
「嘘でしょ……カメラどこ? ドッキリの看板どこ?」
私がキョロキョロしている間に、その毛玉モンスターが、バネみたいに縮んだ。本能が緊急アラートを鳴らす。逃げろ。死ぬ。
「ギャァァァァァァッ!」
お読みくださりありがとうございます。頑張って更新しますので、ぜひご評価いただけると幸いです。




