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エピローグ

  心細くて、さみしくて、膝を抱えて座る。ずっと一人で生きて来たはずのに。失うものなんてなかったはずなのに。自分の中で、トーアの存在は思っている以上に大きかった。誰もいない地下室が、もうトーアとは会えないと実感させてくる。

 上が騒がしくなったと思うと、機嫌のいいルワジーのキンキンした声が遠くで聞こえた。何を言ってるかは分からないけれど、きっとトーアの引き取り先が来たのだろう。

 ふと、自分の服のポケットに紙が入っていることを思い出す。トーアからの誕生日プレゼントだ。人生最初でおそらく最後のプレゼント。ちょうどあの日、水くみから帰ってきたトーアがうれしそうに言ったのだ。「引き取り先が決まった」と。素直に祝福できない自分が嫌だった。

 思い出すのも悲しくて、膝に顔を埋めて小さくなる。


 どれくらいそうしていただろう。不意に、地下室のドアが大きく叩かれた。


「スーク!?居る?」


 トーアの声だった。最後に会いに来てくれたのだろうか。でもこの部屋の鍵はルワジーしか持ってない。古い家だけど、子供の手で破れるほど地下室のドアは脆くないから、トーアの声は聞けても姿を見ることはできない。

 悲しくなるだけ。だから、正直会いたくはなかった。


「スーク!居るなら返事してよ!」


 トーアの声が廊下にまで響いている気がする。ルワジーに見つかるんじゃないかとヒヤヒヤした。


「トーア。居るよ。来てくれてありがとう」


 半分本心、半分強がって返す。返ってきた答えは想像と違った。


「今助けるから!一緒にカガンマさんの家に行こう!」


 何を言ってるのかわからなかった。お願いします、というトーアの声が聞こえて、ドアが揺れ始めたのでドアから離れる。

 ガタガタと揺れ、錆びかかっていた蝶番のネジが緩み、大きな音がしてドアが落ちた。


「スーク!」


 飛び込んで来たトーアに手を握られて、目の前にいることを実感する。温かかった。


「その子がお友達のスーク?」


 トーアの後ろから聞こえて来た声にハッと我に帰る。優しそうな若い人だった。


「トーア、この人が?」

「カガンマ・トスライさん。私のこと引き取ってくれる人。カガンマさんがね、スークも一緒に来ていいよって、言ってくれてるの。私はスークと絵本が描きたい。スークは…どう?」


 ここに来て今更僕の意思を確認するのか。断る理由なんてないに決まっている。


「うん、もちろん。僕だってトーアと一緒に絵本を作りたい」


 ぱっと花が咲いたように、トーアの顔が笑顔になった。


「じゃあ決まりだね!ルワジーのところに行こう!」


 トーアがスークの手を引いて地下室から出る。ふと、床に転がるドアを見て、正式に引き取ってもらえるならドアを壊す必要なんてなかったんじゃないかと思った。

 でも口には出さない。こんな夢みたいな話にはぴったりだと思ったから。


 トーアに掴まれた右手と、前を歩くカガンマさんの背中に導かれて、夢見た未来へと駆け出した。

これにて完結です。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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