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【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい  作者: うどん


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099:祓魔師は敵を皆殺しにしたい

 炎だ――視界の全てが燃えている。


 摩天楼の如きビルは破壊され。

 爆発音と共にガラスの破片がキラキラと輝く。

 黒煙が夜空へと上がり、月は変わる事無くそこにあった。


 死体だ。人間の死体であり、食い荒らされた形跡がある。

 祓魔師の死体もあった。頭を破壊され四肢が食いちぎられていた。


 魔物に悪魔。

 おぞましい異形の怪物たちが街を練り歩いていた。


 銃声が響き、悲鳴も聞こえた。

 助けを求めて叫び、痛みによって絶叫し――“だからこそ、殺した”。


 目に映る全ての異形に弾丸を撃ちこむ。

 抵抗も、反撃もさせはしない。

 マガジンが空になれば交換し、接近されれば殴り殺す。


 此方を視界に捉える前に殺す。

 逃げようとする前に殺す。

 言葉を吐く前に殺す。

 仲間を呼ぶ前に殺す。

 術を使う前に殺す。


 

 殺して、殺して、殺して殺して殺して殺して殺して――さぁ、綺麗になった。

 


「……」

 

 目の前に存在する無数の悪魔共の――死骸。


 頭が消えて、体中を穴だらけにし。


 風と共に消えていく、汚物以下の汚らわしい存在たち。


 そんなゴミ共を見下ろしながら、硝煙を立ち昇らせる愛銃を静かに構える。


「ひぐ、うぐ、うぅ……ママ、パパ」

「……」

 

 眼下には幼い少女の姿をした“ゴミ”がいた。

 雪のように白い肌に、ブロンドの髪を腰まで伸ばして。

 仕立ての良い水色のワンピースをつけた十代前半の少女の姿

 人間の姿を真似て、人間の言葉を喋り。

 人間のように涙を流しながら、誰かが大切にしていた人形を持っている。


 どんなに優れた容姿をしていようとも。

 どんなに演技が高かろうとも。

 悪魔共の臭ぇ臭いは消せはしない。

 血に塗れて、肉を喰らい続けた悪臭だ。

 

 その涙には価値は無く、その姿には――怒りしか湧いてこない。

 

「た、助けて、お願い、です。ママ、ママ――ッ――――…………」


 乾いた銃声が一発――弾丸が、ゴミの頭を撃ち抜いた。

 

 悪魔の頭は破裂し。

 ぴくぴくと失神していた。

 それを静かに見つめて――すぐ目の前に悪魔の口が開いていた。


「コォォノォォォォォォヒトデナシガァァァアアアア!!!!」

「……」


 奴は俺の頭を食いちぎろうとし――落下していった。


 魔術により、奴の体を地面に叩きつける。

 まるで、空から降って来たトマトが潰れたかのようだった。

 が、すぐに悪魔は再生し俺に襲い掛かって来る。

 俺は空から動くことなく、その悪魔を業火によって焼く。

 奴は悲鳴を上げて――


「キカナアアァァァィィィイイ!!!!!」


 奴の体が分裂する。

 そうして、四方八方から襲い来る。

 俺は静かに息を吐き――全ての個体に弾丸を撃つ。


 一瞬にして悪魔共を蜂の巣にし。

 流れるようにマガジンを交換する。

 悪魔は更に分裂し、肉の欠片を弾丸のように飛ばす。

 それらが奇妙な軌跡を描き飛んでくるが。

 俺はそれを視界に捉える事無く――躱す。


 空を舞いながら、全ての攻撃を回避。

 肉薄して来た敵へと弾丸を撃ちこみ。

 そのまま肉の弾丸を魔術で燃やす。

 殺せば殺すほどに、気色の悪い声が大きくなっていく。

 攻撃の速度も高まり、鼻が曲がりそうで――うぜぇな。


 俺は魔力を解放する。

 そうして、残像を生み出すほどの速度で宙を翔けた。

 時が止まったかのように見えるゴミ共。

 それらの体に銃弾をしこたまぶち込む。

 銃弾は空中で静止し、それでも俺は撃ち続けて――俺は息を吐く。


「「「アガァ!!!?」」」

「……」


 全ての敵が一瞬にして破裂した。

 死体は全て魔術によって燃え上がる。

 パラパラと残骸が落下していくのを見ながら、俺はサーチを行った。

 

 

 ――見つけた。

 

 

 姿を完全に消し魔力を隠したつもりでいる奴を捉えた。

 俺は愛銃を異空間に戻す。

 そうして、空気を蹴りつけてそいつへと一瞬で接近し首を掴む。


「グギャ!!!?」

「……」


 地面を滑っていき建物の残骸にそいつを押し付ける。

 残骸は大きくめり込み、人の形がくっきりと浮かんでいた。

 悪魔の首を掴めば空間が歪でいった。

 暫くすれば、少女の姿をした悪魔がそこにいた。

 奴はだらだらと唾を吐きながら、俺の手を無礼にも汚して来る。

 俺は苛立ちを募らせながら化け物を見つめる。


「た、たす、け、おね、が、ま、まま、ぱ、ぱ、ぅ、ぁぁ」

《――黙れ》

「――ギィィィヤァァァァァァァァァ!!!!!!?」


 掌を通して、蒼い炎を放出する。

 奴の体は魔力の炎に包まれた。

 泣き叫びながらも、凄まじい速度で再生していく。

 恐らくは、これがこいつの特異能力だろう。


 超再生。

 どんな攻撃を喰らおうとも死なない。

 不滅の存在に近い能力だろう。

 奴は炎に焼かれながら叫び――笑う。


「ふひ、ふひは、ふははははあひゃあははははは!!!?」


 殺せない、死なない。

 絶対に無理、降参しろ……だから?


 俺は更に火力を上げた。

 そうして、別の術も発動する。

 奴の体はギリギリと捩じられて行く。

 奴は痛みで絶叫し、俺はそれでも攻撃の手を止めない。


「ヤメロアァァアアアアアア――ッ!!!!!」


 奴が叫ぶ。

 瞬間、殺した筈の死骸共が動き出す。

 ゾンビのようであり、それらが体内に残った魔力を活性化させて――俺は駆けた。


 一瞬だ。

 ほんの一瞬だけ枷を解き。

 一瞬にしてスクランブルの中を駆けた。

 風が吹けば、全ての死骸が砂粒ほどまで分解されて。

 俺の手は奴らの血でべったりと染まっていた……汚ねぇな。

 

「は、はは、はははは!!!?」

《……もう喋るな》

 

 炎に包まれた奴の体を魔術によって雑巾のように絞る。

 ギチギチと細まっていき、螺旋を描く棒切れのようになった。

 それを今度は縦に潰して、両手で更に圧縮していく。

 そのまま炎ごと圧縮させていき、俺は奴を起点として結界を展開した。

 奴の体を限界まで小さくしていく。

 小さく、小さく、小さく……豆粒ほどにする。


「……!!」


 奴が何かを叫んでいる。

 が、俺にはゴミの声なんて聞こえない。


 指を動かして術を行使する。

 小さなブラックホールを模した球体が出現し。

 俺はその中に奴を吸い込ませた。

 奴は最後まで何かを叫んでいたが――穴の中に消えていった。


 俺はすぐにブラックホールを消す。

 被害は無く、ゴミが消えただけだった。

 俺は静かに息を吐く、周囲をサーチして……“仕事は終わりだ”。

 

「……」


 ポケットから煙草の箱を出す。

 そうして、一本出してから火をつけた。

 静かに煙を味わいながら、ゆっくりと吐き出す。

 

《こちらカーラ。状況の報告を》

《……悪魔の討伐数は約五百。ネームド級が三体、最上級は十五体ほど。後は上級が五割ほどで、中級と下級が残りです。先ほど、最後のネームドクラスを討伐しました》

《了解……私が言うのもおかしい事だがね。妙な気がするよ……用心しな》

《……了解しました》

 

 カーラとの通信を切る。

 仕事は終わったが、これで全てが片付いたとは思えない。

 それには同意であり、妙な違和感があった。

 

 全部で五百以上はいたであろう悪魔たち。

 強い個体であれば、他にもネームドにも匹敵するような輩もいたかもしれないが。

 ほとんどが相手が此方を視界に捉える前に排除した。


 新東京内のビル群。

 炎を上げて燃え盛る建物もあるが。

 優秀な祓魔師たちが消防機関と協力し鎮火を進めている。

 避難誘導も完璧であり、既に全ての住人たちは最寄りの地下シェルターに逃げ込んだと報告を受けた。


 犠牲はあり、被害も出てはいるが。

 最悪の事態だけは免れたと言ったところだ。

 

 俺は速やかに悪魔共を殺していった。

 そうして、最期の個体も始末して……妙だな。


 日之国の首都を攻撃してきた。

 その割には襲撃のやり方が雑に感じた。

 いや、中途半端と言った方が良いだろう。


 都市を襲うのであれば、もっと綿密な計画を立てる必要がある。

 精鋭部隊であろうとも、五百であれば意味が無い。

 そもそも、俺がこの国にいる時を狙ったのであればそれは最悪の事態でしかない筈だ。

 いや、俺がいなくとも関係ない。

 この国にもケーニヒはいる。

 それとダーメが数人指揮を執る部隊があれば、確実にこいつらは鎮圧されていただろう。

 脅威ではあるが、明らかに数が少なすぎる上に襲撃するポイントに纏まりが無い。


 単純に目につく建物を破壊し。

 そこらにいる人間を貪り食っていただけだ……やっぱり、罠か。


「……」


 俺は盛大に舌を鳴らす。

 あの時の事をまた思い出してしまったからだ。

 

 この状況は、修道院のガキ共を人質にした奴と似ている。

 あの時は街を狙ったものでは無く。

 俺個人を狙った襲撃だった。

 

 日之国に俺がいて。

 その時に偶々日之国が襲われた……そんな事がある筈がねぇ。

 

 速攻で考えを纏めようとすれば――鳩野郎が報告をしてきた。

 

『主様。妙な気配をカブラギの方から感じます』

『妙な気配? それは……待て、俺も感じる……侵入者か?』


 分身体の方で動きがある。

 が、完全に分身体たちの状況が掴めない。

 このパターンになった事は何度かある。

 その時は大抵が、分身体と本体である俺の間に何らかの障害があった時だ。


 結界か異界化か。

 そのどちらでもない可能性もある。

 だが、ハッキリと分かる事は――俺は奴らにおびき出されたと言う事だ。


『……戻るぞ』

『承知しました』


 

 俺はすぐに施設へと戻ろうとし……待て。

 

 

 俺は足を止める。

 妙な気配を一瞬だけ感じた。

 俺は警戒しながら周囲を見る。


 

「……」

 

 

 スクランブルの中心で変化を感じようとした。

 炎の熱、悪魔たちがつけた血の跡から発せられる生臭い臭い。

 遠くの方ではサイレンが鳴り響き、祓魔師たちが動いているのが分かる。


 変化はない。

 破壊された建物の残骸とスクラップになった車が数台。

 後は周囲に散らばる死骸だけで――!!


「……!」


 俺はすぐに刻印を起動した。

 そうして、残っている“血”を燃やし尽くそうとする。

 が、それよりも速く血が一気に沸き上がった。


 それらは俺を拘束しようとし。

 俺はそれら全てを一瞬にして取り出した剣によって弾き飛ばした。

 そのまま俺は上空へと飛び上がり――悪寒が走る。


「――!」

「……!!」


 背後に視線を向ける。

 すると、そこには赤子の姿をした――悪魔がいた。


 気配はほとんど感じない。

 魔力も気迫であり、ほとんど死にかけのような存在だ。

 脅威には感じない。敵意も感じない――だからこそ、背後を取られた。

 

 それは赤子の姿をした悪魔は口を大きく開けていた。

 頬が裂けて、口から飛び出しているのは黒い箱だった。

 

 

 “口の中に箱がある”――禍々しい箱であり、明らかに危険だ。


 

 黒い靄はケガレだ。

 ケガレに満ちたそれが妖しい光を放っていた。

 体が吸い込まれるような感覚を既に感じていた。


 数秒も無い僅かな時間。

 時が制止したように感じるほどに思考が高速で動いていく。


 箱には強力な呪いが込められている。

 恐らくは、対象を箱の中に閉じ込めるものだ。

 箱はまだ完全に起動していない。

 逃げる事は可能であり、破壊する事も出来るかもしれない。

 が、此処で一番最善の行動は回避であり、そこから箱を遠距離から破壊し――“いや、ダメだ”。


 

 ――感じた。一瞬だ。


 

 微かであり、そこに“それらが存在している”。

 ダミーの可能性、罠である可能性が最も高い。

 が、それを察知したのであれば破壊する選択肢はない。

 此処で回避を取れば、この箱を持つ悪魔は逃げる可能性がある。


 

 捕縛できる可能性もある。

 が、限りなく低い。

 なれば、此処で逃げる事も破壊する選択肢もなく――俺は脱力する。


 

 箱の禍々しい光は一瞬にして高まり。

 そのまま俺の体はその箱の、中へ、と――――…………




 …………――――意識が覚醒する。


 周囲を見れば何も無い。

 地面には水のようなものが満ちている。

 何処までも続く暗闇。

 いや、等間隔に灯篭のようなものが設置されていた。

 淡い紫色の火が灯り、周囲を不気味に照らしていた。


 此処は俺たちが住む世界ではない。

 特別な空間であり、現実世界から切り離された空間だ。

 異界化ではない、結界でもない……これは……。


 すぐに分析を開始する。

 が、集中を遮るようにくつくつと笑う老人の声が聞こえて来た。


 ゆっくりと視線を前に向ける。

 すると、杖を突く小柄な老人の姿をした悪魔がいる。

 日之国の血のように赤い着物を纏い。

 禿げあがった頭からは一本の角が生えている。

 鋭利な歯をむき出しにして笑っていた。

 その目は真っ赤であり、確実に俺を獲物として見ていた。


「く、くくく。世界最強などともてはやされてはいるが。こうも簡単に捕らえる事が出来るとはなぁ」

《捕らえた、ですって? ははは、おかしなことを言いますね。私は自らの意志で――入ってあげたんですよ》

「ほぉほぉ。それはそれは、ならその理由を聞いても?」

《理由なんて分かり切っていますよ――“人質を解放しなさい”》


 俺は殺気を放ちながら奴を睨む。

 一瞬で奴を祓う事は可能だが。

 この空間がどういうもので、どういう機能を有しているのかが不明な今。

 下手に動けば、最悪の場合、人質の命が危うくなる。

 奴もそれを理解しているからこそ、あぁやって太々しい態度を取れるのだろう。


 最悪だ。

 腹立たしささえ感じる。

 この俺が二度も相手の意のままに動かされた。

 人質という最も下劣な手段を使って、だ。

 

 箱を視認した瞬間だ。

 確かに俺は人の気配をこの中から感じ取った。

 微弱ではあったが、生きた人間の魔力だった。

 だからこそ、危険は承知で入ったが……奴はにやりと笑う。


「ふ、ふふふ。そうかそうか。やはり、分かるようだなぁ……正解だよ」


 奴はぱちりと指を鳴らす。

 すると、ゆらりと空間が揺らめき無数の人間が出現した。

 そのどれもが意識が無い状態であり、特殊な縄で縛られているようだった。


 学生に大人。

 祓魔師や聖職者。

 どれも本物の人間であり……“生きている”。


 俺は深く息を吐く……ムカつくなぁ。


 こうやって人質を取る輩は何度も見て来た。

 その度に、そういった奴は最も残酷な方法で始末してやる事にしていた。

 シビレマメの時もそうだ。

 あのクズもガキどもを人質にとっていた……まただ。


 飽きもせず、学習もしない。

 どれだけ殺そうともこの手段を取る輩は湧いて出て来る。

 うんざりであり、嫌気が差す。


 奴はイラついている俺を見てくすくすと笑っていた。

 ぶっ殺してやりてぇ。

 早々に血祭りにあげてやりてぇが……我慢しなきゃならねぇかぁ?


「理解しているだろうが。妙な事はしない方が良いぞ? 此方も、貴様を殺せればそれでいいが。すぐには死なんだろうからなぁ……精々、頑張って長く生きる事だな」

「……」


 俺は舌を鳴らす。

 そうして、武装を解除した。


 人質たちは闇の中へと消えていく。

 その代わりに地面の水の中からケガレと共に悪魔たちが這い出て来た。

 どんどん出てきており、その数は優に――“万を超えていた”。


 

「十手が一人。“奏獄之指(そうごくのゆび)”アンブラマルゥトス様が作りし絶具――“不浄の庭園”を存分に楽しめ」

「……」


 

 十手か……つまり、“ジュダス”クラスって事か。


 

 悪魔たちの情報を得ながらも、この空間の解析を進めていく。

 絶具なんて大層な名前だが、それに見合うだけに複雑怪奇な作りだ。

 多重結界に近い構造だが、その一枚一枚に強力な呪いが込められている。

 あらゆる攻撃に対する拒絶であり、破壊するには相当な力が必要となる。

 ゾーヤの斬撃があれば、いけるかもしれないが。

 呪いは破壊されればすぐに修復される。

 何重にも掛けられているからこそ、一枚だけでは意味が無い。

 その上、この空間自体に致死量のケガレに満ちてやがる。

 悪魔にとってはこれ以上の無い空間であり、尽きる事の無い魔力も得られるだろう。

 人間であれば精神汚染によって廃人は確定だ。


「……」


 広さもかなりある。

 ざっと分析しただけでも都市一つを収納できるほどには――ッ!!!


 目の前に拳が迫る。

 それが俺の顔面に強力な一撃を見舞う。

 俺は鼻血を噴き出しながら後方へと飛び――上へと蹴り上げられた。


 凄まじい力だった。

 たった一撃で全身に纏っていた魔力の鎧に罅が入ったようなものだ。

 そのまま空中で連続攻撃を浴びせられて。

 まるで、ボールのように空間内を飛び回る。


 視界がバチバチと弾けて。

 体の骨が嫌な音を立てる。

 肉を打たれて鋭い痛みが連続して走り。

 血反吐を吐きながら、俺は敵の攻撃によって地面に叩きつけられて転がっていった。

 

 魔力の防御は突破されて、骨はバキバキに折られて行く。

 血を吐きながら、悪魔共の攻撃に晒されて。

 立ち上がろうとすれば、強い光を感じて――魔力の塊が迫る。


「……ッ!!」


 巨大な魔力の塊を頭上からぶつけられる。

 俺は咄嗟に両手を構えた。

 魔力の塊に触れた瞬間に手が激しく熱せられて燃え上がる。


 痛み。焼かれて焦げ臭く――“殺気を感じた”。


「……!」


 音が響く、金属をかち鳴らす音だ。

 魔力の塊を吸収しようとした俺は――手足をバラバラにされる。


 見れば背後に悪魔が立っていた。

 奴は手から刃を生やしていた。

 見えない斬撃を浴びせられた。

 それにより、俺の体は支えを失い――魔力の塊に押しつぶされる。


「――――ッ!!!!!!!」

 

 声ではない空気が鳴らす叫び。

 俺は激しい熱によって体を焼き尽くされて行く。

 

 全身が焼かれて、そのまま体がクズクズに溶ける。

 俺はギリギリのところで耐えて、焼けながら体を再生させていく。

 そうして、魔力が消えればまたしても悪魔共が群がり――無数の拳打が叩き込まれた。


 再生した骨がまたしても砕かれて行く。

 肉が貫かれて戦闘服もボロボロになっていく。


 全身がミンチにされて、奴らは俺の体の一部を掴み上げる。

 それを大きく開けた口の中に放り込み――咆哮を上げた。


「「「――――ッ!!!!」」」

「……」


 声は出ない。

 機械は完全に壊された。

 俺は体を再生させながら、化け物どもを冷めた目で見つめる。

 

 敵の殺意は収まらない。

 食事が完了すれば、立ち上がった俺を涎を垂らしながら見て来る。

 そんな気色の悪い化け物どもを見つめながら、俺はその間も空間内の解析を進めていき――――


 

 ◇



「……ふむ。やはり頑丈だな」

「……」


 俺は灯篭に背中を預ける。

 口内に溜まった血を吐けば、歯も数本吐いていた。


 くそ痛てぇ上に、くそほどだるい。

 煙草が死ぬほど吸いたくて、死ぬほど酒が飲みたい。

 が、此処では余裕ぶっこいて煙草は吸えない上に酒も無い。


 うざってぇ悪魔たちだけが存在し。

 奴らは俺から奪った体のパーツを食っていやがった。

 奴らが俺の血肉を喰らえば、奴らの力はどんどん高まっていく。

 

 ――が、“すぐにその効果は消えて行っていた”。


 不思議だ。

 強化された筈なのに、悪魔共の強さは変わらない。

 いや、そもそも変だ。

 あの爺の悪魔は俺を殺す気で来た筈なのに、まるで決め手を持ち合わせていない。


 俺を他の悪魔に嬲らせて、俺の血肉を悪魔共に喰らわせるのが目的のように感じた。

 長く生きろと言う意味、それは皮肉では無く……悪魔が何かを確認していた。


「……そろそろか……よし、もう、十分だ。お前は十分働いたぞ。どうせ殺せないのだ。だからこそ、早々に――封印させてもらおうか」

「……?」


 奴は封印と言った。

 一瞬で目の前に移動したクソ悪魔。

 奴は懐から何かを取り出し――それが俺の心臓を貫く。


「……ッ!」


 心臓を貫いたのは――“杭”だった。


 その杭には血管のようなものが張り巡らされている。

 どくどくと心臓のように脈打っていて。

 刺さった瞬間に全身から力が抜けていくのが分かった。


 死ぬほどのだるさで、死ぬほどの脱力感。

 やる気も何もかもが薄れていき、意識そのものが希薄になっていく。


「それも絶具の一つ――“無力の楔”だ。最早、貴様には生きる力は湧いてこない。そのまま我が力の中で眠れ」

「……」


 俺は奴の言葉を聞く。

 思考は纏まらない。

 血の混じった涎が垂れていき。

 奴の掌から小さなガラス玉が出たのが見えた。

 それがゆっくりと前に浮かび、俺の体は、その中、に――――…………









『主様。私の声は聞こえていますか?』

「……」



 聞こえている――が、何も思わない。



『主様。何時まで眠られるのですか?』

「……」



 眠っていない――が、起きてもいない。



『主様。このままでは貴方様は一生後悔する事になりますよ?』

「……」



 後悔するだろう――しかし、しかし――しかし、何だ――――何だってんだ――――


 

『この程度、貴方には障害にもなりません。さぁ目覚めてください。意識を戻し――仕事をしましょう』

「……あぁ、そうだな……仕事の時間(みなごろし)だ」



 俺は笑みを深める。

 瞬間、それまでの脱力感は消えて。

 炎のように怒りと殺気が湧いて出て来た。

 魔力が溢れ出し、心臓に刺さった気持ちの悪い杭がひび割れる。


 俺は歯が砕けるほどに噛み締めて全身に力を入れた。

 すると、全身に絡みつくように存在した何かがぶちぶちと千切れていく。

 俺はそのまま強く叫び、目の前の壁に対して拳を叩きつけた。


 

 

 瞬間、壁には大きな亀裂が走り――砕け散る。


 俺はそのまま裂けめの中に吸い込まれて行き――外に出た。



 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……よぉクソ野郎。二度目だな」

「……驚いた。まさか、絶具を破壊したのか?」


 俺は流れるように戦闘服を身に纏う。

 奴を見れば大きく目を見開いていた。

 俺は聖刃を出し――奴が人質の一人を傍に出現させた。


「やめろ。貴様も馬鹿ではないのなら」

「――ないのなら、こうするんだよなぁ?」


 俺は笑う。

 すると、人質の姿は――消えた。


 奴はハッとする。

 俺はそんな奴の首を斬ろうとし――悪魔が割って入る。


「……チッ」

「……どうやって人質を……まさか、あの僅かな時間で、絶具の支配権を?」

「ご明察……と言いてぇが、今のが限界だ。人質を外にやれるだけだよ、クソッたれ」

「ブラフか。或いは……まぁどうでもいい」

 

 奴は一瞬だけ顎に指を添えて考えた……ま、動揺はしねぇか。

 

 一時的に支配権を奪ったが。

 出来た事は人質全てを逃がす事だけだ。

 それ以上の事は出来ない上に、やろうとすれば最悪のこの空間が崩壊する恐れがある。

 この空間の崩壊でどんな影響が出るかは分かり切っていた。

 内包したケガレが解き放たれて、最悪の場合、新東京は人が住めなくなる。

 それはダメであり、俺自身の手で本来の支配権を持つこのクソ悪魔を殺さなければならない……が、そう簡単ではねぇか!


 俺は武器を振るう。

 すると、目の前の悪魔は後方に飛ぶ。

 奴はジジイの悪魔を守るように刃を構える。


 俺は短剣を構えながら、どうしたものかと考える。


 ケガレが満ち過ぎている。

 力が制限された状態であり、枷を外そうにも。

 この状態で外せば、最悪の場合、空間内が崩壊するだろう。

 爆発的な力はそれだけ空間内に負荷を掛ける。

 可能性があるとすれば、ジョーンズとの戦いで会得したあの状態だが……なれる自信はねぇな。


 あの完全な状態でなければ意味が無い。

 不完全な状態であれば、確実に空間内が破壊される。

 そうなれば最悪の結末であり――悪魔共が湧いて出て来た。


「お前の考えは分かるぞ。実力を発揮できないのだろう? それはそうだ。それを狙って、態々、人間が多く住む場所を選んだのだ……今頃は、“あの人間も使命を果たしている頃”だろう」

「――あの人間だと?」

「……ふっ、貴様に話す事などもう無い。さぁ存分に暴れろ!! 高貴なる者たちから生まれし悪魔たちよッ!!!」

「「「……ッ!!」」」


 悪魔たちから強い魔力が発せられた。

 殺気にも満ちており、その実力はネームド個体にも匹敵するかもしれない……面倒くせぇ。


 益々、戦い辛くなった。

 外の状況がどうなっているかも分からない。

 そもそも、先ほどのアイツの発言から考えられる事は――“アイツ”が此処に来ているってことだろうよ。


「……おい、鳩野郎。助言をするなら今の内だぜ」

『助言ですか……なら、一つだけ……生と死。その狭間を、正しく理解してください』

「あぁ? たく。訳わかんねぇな……やってやるよッ!」


 俺は短剣を二つ構える。

 悪魔共は叫び、襲い掛かって来た。

 俺も地を蹴り駆けだし、互いの得物が交差し――血が空間内に満ちて行った。

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