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【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい  作者: うどん


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097:老兵は任務を果たし祓魔師に繋げる(side:サム・ホーキンス)

「――ッ!!」


 魔力の全力解放から――“十分が経過”。


 常に魔力を体に纏わせ、術を発動する。

 相対する敵は悪魔であり、結界の一部が破壊されたが。

 結界の効力は機能し、目の前のネームドは確実に弱体化していた――が、“強すぎる”。


 目まぐるしく変わる景色。

 常に破壊音が響き、破壊された街の地形が変わっていく。

 土煙が舞い、瓦礫がはじけ飛んで。

 己の体に傷をつけて、敵の殺気を感知し更に飛ぶ。


 右からの拳を解き戻しで回避――肩の肉が僅かに抉られた。


 背後から感じた殺気に反応し、ストックを消費し建物の上に飛ぶ――足から僅かに血が噴き出す。


 “録画”と“再生”。

 “ストック”を消費し、常に新しい記録を作っていく。

 奴に位置の特定をされないように、隠していたストックも使って別の場所にも飛ぶ。

 一瞬でも奴の視界から逃れた瞬間。

 俺は高速で移動をし、すぐにストックを確保していく。


 十秒にも満たない時間だろう。

 が、ストックはこれだけで二つは確保できる。


 動け。動いて動いて――奴をかく乱しろ。


 解き戻しは万能じゃない。

 何度も飛んでいけば、すぐに位置を特定される。

 そして、俺の術式を完全に把握されれば、対処される場合もある。

 手練れだ。侮って生き残れる相手じゃない。

 それは理解している。だからこそ――死ぬ気で挑むさ。


 飛んで、飛んで、飛んで飛んで飛んで飛んで――動き続ける。


 止まれば死ぬ。

 思考する間もない。

 常に動き、敵の攻撃を回避し続ける。


 傷が増え、血が噴き出す。

 鋭い痛みが連続し、体から力が失われて行く。

 が、意識を保ち集中力を限界まで高める。


 一分でも、一秒でも――動け。

 

「――!」

「……ほぉ」

 

 ギリギリでの回避――敵の拳が僅かに体に触れた。


 予想以上の衝撃で、体が勢いよく回った。

 掠めただけで、骨に罅が入ったのが分かる。

 魔力で防御してこれだ――笑えるな。

 

 回転しながら、距離を取り。

 そのまま瓦礫の上を滑るように移動。

 高く跳躍し、半壊した建物の中を走る。

 崩れかけの廊下を超えて、壁が連続して破壊されて拳圧が飛ぶ。

 それらを飛び転がり回避し、爆発的な加速で一気に建物から建物へ飛ぶ。

 後ろの半壊したビルは一気に破壊されて、残骸が後ろから飛んできた。

 空中で身をよじり回避し、大きな残骸に足をつけて――飛ぶ。


 更に加速し、拳銃を横に横に振る。

 間髪入れずに発砲すれば、敵は弾丸を予測しギリギリで躱す。

 俺はそのまま下に転がっていた鉄の扉を拾い、ほぼ同時に対悪魔に作られた特殊手榴弾を投げる。


「――“戻れ”」

「……!」


 敵の攻撃が迫る。

 が、それよりも速く魔力を込めた俺の弾丸が軌道を戻し――手榴弾を貫く。


 爆発が発生し、仕込まれた聖刃の欠片が周りに飛ぶ。

 奴の体は爆発に呑まれて、俺は扉を盾にし――更に飛ぶ。


 宙を舞いながら、俺は足に魔力を込めて――空を翔けた。


 ぐんぐんと加速し、地面に着地する。

 そうして、残りの兵装を確認し。

 そのままマガジンを交換して、ノンストップで駆ける。


 敵は生きている。

 まるで、ダメージが入っていない。

 これがネームド。これが理不尽の力を持つ存在の一人。

 笑えるほどの力量差であり、絶望するほどに――勝てる気が全くしない。

 

 死神の呼吸音が聞こえる。

 自分の呼吸音と混じるように、氷のように冷たいものが背筋を通っていく。


 術式は使う。

 が、多用すればすぐに適応される。

 ブラフとして術式を使わない選択が必要だった。

 ハイリスクであるが、それをする事によって相手の動きを僅かに乱せる。

 奴とて生き物であり、先を読んでの行動を取る。

 そこにズレが生まれれば、攻撃にもディレイが発生する。

 そこを上手く突けば、俺も数分。いや、数秒でも――“生きられる”。


 考えろ。頭を働かせろ。

 休むな。常に思考し体を動かし続けろ。

 奴は常に思考し、俺の先を行こうとしている。

 奇妙であろうとも、奴の裏を掛ければいい。

 無様でも惨めでも、俺は傭兵として祓魔師として行動する。

 

 心理戦だ。

 力で劣る分、俺は知恵で上回らなければならない。

 一手を間違えたものが敗北する。

 そして、俺にとっての敗北とは――死だ。


 

 欺け。騙して、先を行き――より長く舞え。

 

 

「――!!」

「……!」


 

 殺気を感じた。

 瞬間、俺は上に飛び――衝撃波が俺の体を襲う。

 

「――ぐぅ!!」

「……浅いか」

 

 風の刃だ。

 魔力によって風そのものを武器とした。

 それにより、俺の体は切り裂かれて行った。

 戦闘服が傷つけらて、血が噴き出した。

 魔力によって全身を守ったが、それでもこのダメージだ。

 

 建物の上から高く飛びながら。

 クレーターが出来る建物の上に俺が予め設置した爆弾が置かれているのを確認した。

 座標に狂いはない。念の為にと仕込んだものを使う羽目になった。

 此処まで奴を誘導する事に成功した。

 奴の姿は既に消えている。気配も完全に断っていた。

 宙を舞いながら、感じる事の無い奴の気配ではなく――風を読む。

 

「――!」

 

 奴の行動を先読みする。

 腕の出血。それを利用し、虚空に血を飛ばした。

 すると、奴がそこに入り一瞬だけ動きを止めた。

 悪魔であろうとも、一瞬でも視界が防がれれば警戒する。

 その硬直の一秒にも満たない隙を使って、奴の腕による攻撃をギリギリで回避。

 額を僅かに掠めた拳が、俺の肉を裂いていく。

 痛みが走る。が、俺はそれを無視して奴の体に触れて時を戻し、義手の親指を動かし――起爆する。


「……!!」


 激しい閃光。

 視界が白一色に染まり。

 俺は空中で携帯していたシールドを展開し結界を張った。

 瞬間、シールドに音の感覚がないほどに連続して金属音が響く。

 俺は一気に頭上高くまで跳ね上げられて、シールドは結界ごとバラバラに砕けた。


「……はは」


 遥か頭上を舞う。

 一気に落下していきながら、街の全体が見えるほどまでに打ち上げられたのだと認識する。

 爆発が起きた座標では、周囲の建物は消し飛び。

 もくもくと黒煙が龍のように天に昇っていた。

 それを見ながら、空を蹴り加速し――術式を発動。


 地面に激突するギリギリで時間を僅かに戻す。

 それだけで落下のスピードはゼロに戻り。

 俺は地面に着地し、そのまま爆心地を見つめた。


「はぁはぁはぁはぁ」


 呼吸を落ち着かせようよしながら片手で汗を拭う。

 対した威力であり、これを使う事になったのは何十年ぶりかと考える。

 仲間たちからは距離をかなり取った。

 レインたちの地下空間も、俺の予想が正しければ崩落はしていない。

 

 

 俺が万が一を想定し仕込んでいたものは対悪魔装備の一つ。

 対悪魔兵装――“(リューゲ)”だ。

 

 

 手のひらサイズの小型爆弾であり、見た目は普通の手榴弾と変わりはない。

 が、それは投擲によって使用する事は想定されていない。

 設置型であり、距離を取らなければ非常に危険であるからだ。

 

 設置型の爆弾であり、中には聖刃を特殊な工程で粉末状にしたものを仕込んでいる。

 それも高密度の上に限界まで圧縮したもので。

 二十ほどの聖刃を作れるだけのものが蓄えられている。

 先ほどの手榴弾よりも遥かに強力だ。

 傭兵団である俺たちには、許可があろうとも通常五つまでしか携帯が許されない兵装だ。

 装備は出来ないが殺せるだけの威力は保障されている。

 爆薬の衝撃波により拡散し、粉末から形状を変化させ細く鋭利な針のようになり悪魔の体を貫く。

 至近距離であれば何十万を超える聖刃の針により体は細切れだ。

 生きていようとも、再生が出来ないほどの傷を負う。

 

 解き戻しによって、奴の体は爆薬を設置した建物の上に戻った。

 

 タイミングは完璧だ。

 爆発の瞬間に奴はそこに戻った。

 直撃であり、最上級の悪魔であろうと深刻なダメージは避けられない。

 が、俺には分かる――“奴は生きている”、と。


 僅かに生まれた隙。

 それを使って、奴から距離を取る。

 一気にストックを更新し、俺は建物から建物を移動し――怖気が走った。


 

 すぐ近く。

 真横に奴の気配を感じ――衝撃が走る。


 

「――ぐ、うぅ!!!」

「……今のは、効いた」


 全力での防御。

 魔力の全てを腕に回す。

 腕からバキバキと嫌な音が鳴り響き。

 俺はそのまま宙を舞う。

 半壊した建物を突き破りながら、俺は地面に激突しそうになり――“奴の背後に回った”。


「――!!」


 奴が此方を見る。

 俺は血を口から吐き出しながら笑う。

 そうして、義手を展開し――魔力弾を放つ。


 奴は四つの腕で魔力弾を受け止めた。

 が、俺の魔力弾は止まる事無く奴を地上まで押し込んでいった。

 そのまま建物を破壊しながら進んでいき、奴が魔力弾を上に弾く。

 弾かれた魔力弾は、そのまま空に舞い――大爆発が発生する。


 衝撃波が俺の体を後方へと飛ばす。

 

「――“十年分”の魔力の威力は桁違いだなぁおい!!」


 俺はそのまま移動を再開する。

 片腕は使い物にならない。

 義手も今の一発でクールタイムに入った。

 放熱が完了するまでは数分かかる。

 ストックの更新は完了しているが――建物が吹き飛ぶ。


「――まだかッ!」

「……!」


 奴が拳に魔力を纏わせて突っ込んできた。

 その腕には火傷のような跡はあるが再生していっている。

 魔力による攻撃よりも、聖刃による攻撃が有効か――いや、何方も今の俺ではダメだ。


 俺は奴に対して義手を向ける。

 奴はジッと俺を見つめて――


 

「――“雷動ライドウ”」

「……!」


 

 奴がぼそりと何かを呟く。

 瞬間、奴の気配は消えて――俺は宙を舞う。


「――ぁ?」

 

 体が回っていた。

 

 何が起きた、何があった。

 

 あの一瞬、考えよりも先に術を発動した。

 

 距離は離れていたが、確実に戻っていた。

 

 

 が、俺の動きは激しく回転していて――“腕が無い”。

 

 

「――ッ!!!」


 遅れて激しい熱を感じた。


 熱い。熱い熱い熱い熱い熱い熱い――燃えているようだ。


 出血が激しい。

 術式を発動して避けた筈が、腕を切り飛ばされていた。

 いや、術を発動したからこそ“片腕で済んだ”。

 そう理解し――“目の前が暗くなる”。


 目の前を覆った何か。考えるよりも前に俺は飛んでいた。


 考えていない。否、考えていられない。

 俺は連続して一気にストックを消費し。

 “裏技”を使って、ストックを戻し、それすらも消費する。


 何分、何時間、何日――寿命が一気に減った感覚だ。


 俺はノンストップで術式を使い続ける。

 考え無しであり、飛んだら視界は影が満ちていた。

 影が消える事は無く、“死神の息遣い”と“稲光のようなものが耳元で響き”――脇腹に何かがめり込む。


「――う、がぁ!?」

「――見事だ。が、能力を使った今――お前は死ぬ」


 残りの魔力。

 全てを回し、脇腹を守った。

 ギリギリだ。運が良かった。

 が、奴の攻撃は肉を抉り骨を砕き――……




 ……――気が付けば、俺は壁に背を預けていた。


 目の前を見れば、誰かが戦っていた。

 誰が戦っているのか確認しようとして――何かが飛んできた。


「……がほ……あぁ、ダメ、だな……悪い。先、逝く、わ」

「……お疲れ……」


 腹に大穴を開けて俺の傍に転がって来たのはレックスだった。

 奴は血を吐き出し、目を覚ました俺に笑みを向けて一言言って――死んだ。


 見れば、そこらじゅうで仲間の死体が転がっていた。

 マイクに、ニコラスに……あぁ、もうちょいか。


 時間を稼いだ。

 たったの数十分だ。

 それだけであり、それだけの時間でほぼ全滅だ――でも、まだだろ。


「……ッ!」

 

 俺は体に力を込める。

 既に俺の命は消えかけていた。

 間もなく死ぬと自分でも分かる。

 が、あと数分。たった数分でも――“仕事が残っている”じゃねぇか。


 生き残り戦っている仲間たち。

 それを“”録画”し、ストックに入れる。

 聖刃をナイフを突き刺そうとし、躱されて頭を吹き飛ばされた。

 マシンガンの弾をばらまき奴を蜂の巣にしようとし、次の瞬間には頭が消し飛んでいた。

 仲間が死んでいく様を見ていき――俺は走る。


 全力で走り――顔半分が抉れた。


 俺はそのまま後ろに倒れそうになり――笑う。


「――戻れ」

「……!!」


 奴の体が逆再生を始めた。

 その五秒の間に、俺は体勢を強引に戻し駆ける。

 そうして、地に転がっている仲間たちの武器に触れて行った。


「――モドレッ!!」

 

 聖刃たちが独りでに動き出す。

 ナイフは元の位置に戻った奴の体に刺さる。

 奴は“関係の無い動き”を取っていた。

 ミニガンを通して、弾丸たちが戻っていく。

 すると、そこにいたであろう奴の体を無理矢理に貫通していく。


 逆再生が終わり――続けて、“奴の体を戻す”。


 触れていない状態でも、俺が一度触れたもの、魔力を通したものなら動かし続けられる。

 奴の体が俺を攻撃した位置に戻っていく。

 俺はそのまま転がるように、奴が立っていた場所に立つ。

 

「――ッ!!!!」

「がはぁ!!」

 

 奴が魔力を噴出させていた。

 全力で抗っており、術が解かれそうになる。

 血反吐を吐き、心臓が激しい熱を持ち俺の体を燃やそうとする。

 

 一分も耐えられない。体が自壊する――“数秒でいい”。

 

 俺は歯が砕けるほどの噛む。

 鼻からも口からも残った血が一気に噴き出す。

 視界がモノクロで、ノイズが走っているかのように意識が途切れそうだ。

 それでも、俺は術を行使し――奴を強制的に俺の位置まで元に戻す。


「一発で――十分だ」

「……人間ッ!!」


 義手を展開する。

 魔力が込められて、光が集まる。

 空間が熱で大きく歪み、俺の肌を焼け焦がしていく。

 血が蒸発するのを感じながら、俺は笑みを深めた。

 そうして、義手の中に溜まった魔力を全て充填し――放つ。


 全力の魔力弾。

 熱線のようなものであり、それが悪魔の体を焼き尽くす。

 視界は白い光に包まれて、一瞬で目が焼きつぶれた。

 

 何も見えない。何も出来ない。

 全身が一気に焼かれていくのを感じる。

 確実に死ぬのだと思いながら、俺は笑みを浮かべ続けた。


 

「“やっと、来た”――お、さき」


 

 俺はそのまま光に包まれながら。

 微かに見えた人影に、安心、し――――…………

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