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【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい  作者: うどん


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095:祓魔師たちの裏で動く傭兵団(side:サム・ホーキンス)

「……」


 夜の帳が降りて、闇の存在たちが活動を始める頃。

 俺たち傭兵団は対魔局からの依頼で動いていた。

 ニンドゥでの調査に見切りをつけて。

 現在は、“アメリア内”にある悪魔災害事件の跡地を調査していた。


 瓦礫の山であり、ケガレもかなり濃い。

 悪魔災害が発生したのは二十年も前であるが。

 現在も復興は進んでおらず。

 街一つ分が完全閉鎖を余儀なくされていた。


 ムサイが痕跡を辿り、レインたちは瓦礫の山から“あるもの”を回収していた。

 俺はそんな奴らに指示を出しながら、煙草を吸っていた。


「……空気が淀んでいやがる……味がしねぇな」

「はは、違いねぇ……先生には報告するか?」

「あぁ、当然だ……ただ、此処で目当てのものが見つかるからは賭けに近いがな」


 隣に立つダッズの煙草に火をつけてやる。

 互いに煙草を吸いながら、瓦礫を足で転がした。


 この街も、災害前は賑わっていた。

 有名なレジャースポットに観光施設。

 ホテルも幾つも立っていて……それが一夜にして壊滅した。


 これを引き起こしたのはたった一匹の悪魔だ。

 理由は不明であり、何故にこの街を滅ぼしたのかも分かっていない。

 が、生き残った人間の証言では、その悪魔は遊ぶように人を殺し。

 まるで、大舞台の俳優にでもなったかのように殺しに魅入っていたという……吐き気を催すカスだよ。


 そんな悪魔は既に対魔局でも、トップレベルで危険視されている。

 遭遇すれば即時撤退を許されるほどの存在だ。

 恐らくは、先生が言っていた力のある悪魔と同等か。もしくは……いや、いい。


 街は滅び、悪魔も既に此処にはいない。

 残されたのは瓦礫の山だけだ。

 今までは、この瓦礫の山には何の価値もないものだと思っていたが。

 ニンドゥでの調査によって、幾つかの可能性が浮かび上がって来た。

 その一つがこの滅ぼされた街の瓦礫の山の中に隠されているものだ。


「……ムサイの力を疑っちゃいねぇが……本当にこの瓦礫の下に、“聖遺物”があるってのか?」

「可能性があるってだけだ……だが、ムサイの魔術でこの瓦礫の山の情報と“例の遺跡”が結びついた……まさか、悪魔じゃなく。残った遺跡から痕跡を辿る事になるとは思わなかったが……あの遺跡は間違いなく、“生きた存在”って事だ」


 ムサイはターゲットの残された情報から。

 そのターゲットの居場所や現在の状態などを割り出す事が出来る。

 より情報が多ければ、所持する刻印や身体的な特徴に加えてそいつの歴史も分かったりする。

 だからこそ、対魔局も件の悪魔の調査を依頼して来た。


 あの時は、手に入れるだけの情報を得て。

 次の場所へと向かおうとしていた。

 が、ムサイが例の遺跡に何か違和感を抱き試しにと術を使ったところ――情報が得られたのだ。


 本人もひどく困惑していたが、無理もない事だろう。

 誰しもがあの遺跡が生きているなどと思う筈が無い。

 いや、生きていたとしても、何百何千と生きる存在を悪魔以外に俺たちは知らなかった。

 が、俺の勘が遺跡の調査を優先すべきであると囁いた。

 だからこそ、件の悪魔の調査を後回しにしてでもアメリアへと向かった。


 ムサイの話では、辿った痕跡によって此処に聖遺物があると言っていた。

 聖遺物なんて言葉は俺たちが勝手につけただけの言葉だが。

 神聖な遺跡から出るものであれば、聖遺物という言葉がぴったりであろうよ。


 ……何が出るかは不明。だが、確実にクソ悪魔と結びつく何かだとは思える。


 先生が交戦した謎の存在。

 先生が言うには、アレは遺跡の中に封印されていた何かを守る為の防衛装置だと言っていた。

 あの方の言葉を信じるのであれば、封印されていた“何か”とこの地にあるであろう何かは確実に結びつく。

 もしも、この街を瓦礫に変えた悪魔がそれを奪うか破壊する目的であれば。

 俺たちは無駄足を踏む事になっていただろうが――それは無いと断言できる。


「……ムサイの能力は死んだ奴には通じねぇ。死んだ人間の情報はほとんど取れねぇからな。取れたとしても、残りカスのようなもんだ……ムサイがそれが生きているっていうのなら、十中八九がこの地にある何かは未だに此処に存在する……幸運だぜ。後手に回った俺たちが、今度はクソ共の先に行くんだ。こんなに痛快な事はねぇよ」

「……確かにな。やられっぱなしは性に合わねぇ」


 ダッズは煙草を片手で摘まみ地面に落とそうとした。

 が、俺はそれを片手で制止する。

 ダッズは遅れて意図に気づき、吸殻を片手で握りつぶしそのままポケットにねじ込んでいた。

 軽い雑談と休憩を終えて、ダッズはゆっくりと作業に加わわる。

 俺も煙草を摘まみ、それを義手で握りつぶす……さて。


 瓦礫の山を歩いていく。

 散乱しているのはほとんどが建物の残骸だが。

 中には子供の玩具であったり、家族の写真なんかもある。

 回収される事無く、未だにこの地に眠っている遺体もあると聞く。

 死者の安らぎとは程遠い場所であり、あまり長くいれば体への影響も心配される。

 俺たちの戦闘服にはケガレに関する耐性もあるが。

 好き好んでケガレの多い場所に長く留まろうなんて奴はいねぇよ。


 ライフルを持ちながら周囲をサーチする……当然だが、気配はねぇな。


 生きている奴がいれば、それは警戒すべき対象だろう。

 この場所は国が立ち入りを禁じているんだ。

 許可なく立ち入る者がいるとすれば、自殺志願者か人ならざる者だけになる。

 各自の判断で発砲の許可は出しており。

 上の連中も此処での戦闘には目を瞑ると言っていた。


 ……まぁそんな事にはなって欲しくはねぇがな。


 サーチを続けながら、ふと気になる場所に目を向ける。

 そこは恐らくは元々教会が立っていた場所だろう。

 教会は対魔局とも縁が深く、魔を寄せ付けないからと神を信仰する人間も多い。

 聖者は勿論、教会の関係者は大体が高い祓魔師の適正を持っている。

 一部の信仰者は魔力という呼び方を嫌ってはいるが……まぁどうでもいいか。


 倒壊した教会跡地。

 教会だと分かったのは、教会にあるステンドグラスの破片があり。

 破壊された教会の壁の隙間から祭壇らしきものも見えていた。

 後は、入り口の前で御神体であろう半壊した像が転がっていたからだ。


 地面に膝をつく。

 そうして、転がっている御神体を見る。

 男神であり、材質は銀製で手には杯を持っている……なるほど。

 

「……“キケルガ”か……なら、縁は確かだな」


 キケルガと呼ばれる宗教は、世界的に見ても多くの信者を抱えている。

 元々は対魔局を作った人間の一人が。

 対魔局を離れて、宗教を作った事が誕生の由来だ。

 歴史的に見れば、そこそこではある。

 関係者が作ったのであれば、聖遺物との関連もあるかもしれない。


 俺はそんな事を思いながら、破壊された扉があった場所を潜り探索する。

 散乱しているのは、椅子の残骸や燭台。

 雨などで原型を留めていない聖書らしきものや服の一部に……何だ?


 俺は祭壇から何かを感じ取った。

 一瞬だ。ほんの一瞬、祭壇の切れ目から何かが光ったように見えた。

 俺はライフルを構えながらゆっくりと近づいていく。


 歩いて、歩いて、歩いて……祭壇の前に立つ。


「……」


 何の変哲もない祭壇だ。

 上等な木で作られた祭壇であり。

 倒壊した建物と比べて、原型は保たれていた……“いや、おかしい”。


 状態が綺麗すぎる。

 悪魔災害によってほとんどものが破壊されているんだ。

 それなのに、二十年が経ったとしても祭壇としての原型を保っているのはおかしい。

 金属製のものであろうとも、壊れたり朽ちていたりしているんだ。

 しかし、この祭壇の見える範囲での破壊跡は小さな穴や傷程度だ。


「――レイン、怪しいものを見つけた」

《……怪しいもの? 何だい?》

「祭壇だ。キケルガの教会跡地にある。状態が良すぎる。今から調べてみるが、お前もこっちに来てくれ。座標は――」

 

 俺は無線を使う。

 そうして、レインたちへの報告と座標を知らせる。

 連絡を終えて無線を切り、俺はゆっくりとライフルを持ち祭壇の裏に回る。


「……妙なところはねぇな……でも、さっきの光は……壊すか?」


 俺はゆっくりと祭壇に触れる。

 表面をなぞれば、何の変哲もない木の触感だった……でも、感じるな。


 接近しても分からなかった。

 サーチしても気づけなかった。

 が、触れた瞬間に――“術式が付与されていると理解した”。


 刻印所有者は何処にもいない。

 サーチをしたから分かる。

 隠密に特化した人間であれば、サーチの穴をついたとも考えられるが。

 こんな廃墟の祭壇に、態々、術式をこのタイミングで掛ける奴がいるとは到底思えない。

 恐らくは、この祭壇に誰かが術式を付与したんだろう。

 それも、十年以上も経過しても解ける事がないほどに強力な術式だ。


 そんな事を考えていると足音が近づいて来るのが分かった。

 顔を上げて扉があった方を見れば、レインたちが入って来る。

 アイツらは俺の顔を見てから、目の前の祭壇に視線を向ける。


「これの事かい?」

「あぁ、サーチでは気づけなかったが。強力な術式が付与されている」

「……術式が? あり得るのかい? この街が機能を失ったのはもう二十年も前だよ?」

「……信じられねぇが。そうとしかいねぇだろう。先生ほどの魔力を持った存在がいるとは思えねぇから……恐らくは、命を代償に付与したと俺は考えている」

「「「……」」」


 レインたちは黙り込む。

 反論しないのであれば、彼女たちもそうだと思ったんだろう。

 命を懸けてまで、この祭壇を守りたかったのは何故なのか。

 そんな事を思っていれば、レインたちを押しのけてムサイが前に出る。

 奴はくいっと眼鏡を上げてから、早速、祭壇について調べようとした。


「いや、流石にこれは無理だろ?」

「いえいえ、そんな事は無いですよ。命を懸けて術気を埋め込んだのであれば、少なくとも生きた人間の情報がある筈ですから……っ!!」


 ムサイは術式を発動し調べ始めて――その場から飛びのく。


 俺はすぐに陣形をかためて、ムサイを守るように立つ。

 そうして、汗をだらだらと流すムサイに対して報告を命じた。


「……とんでもないですよ。その祭壇に掛けられた術式は、時を止めるものです……恐らく、その祭壇そのものが時の流れから逸脱しています……十人。いえ、二十人以上の人間がその術式を付与する為に命を使って魔力を……術者本人の記憶の断片が見えました。恐らくは、その祭壇の下に――何かがあります」

「……術式は解けるか」

「……無理でしょうね。先生なら、力技で解除するでしょうが……」


 時間停止か……中々に厄介だな。


 ムサイは補足説明として。

 術式の発動は、外部からの強烈な衝撃が加わった事によるものだという。

 祭壇の一部に穴が開いている事から、爆発の衝撃によって瓦礫の残骸や破片を浴びた事によって発動したと。

 解除しない限り破壊不能であり、動かす事すら出来ない。

 床に関しても時間停止の術式の効果が付与されており、削る事すらも不可能だと奴は言い切った。

 確かに、床の一部もある程度は綺麗な状態だ。

 つまり、俺が先ほど見た光も、術式が発動したタイミングであの角度から見えた光という事になる。


 二十人以上の命を使っての術式だ。

 二十年の時が経とうとも健在であるのなら。

 力技でどうにか出来るものでもない。

 先生がいれば、この問題も片付いただろうが……“いや、可能かもしれない”。


「……ムサイ、これは時間が止まっているんだな」

「えぇ、そうですが……まさか!」

「あぁ俺の刻印なら――解けるかもしれねぇ」


 俺はライフルを背中に背負う。

 そうして、両手を祭壇に触れさせる。

 レインたちは俺を止めようとしない。

 信じているという感情と、それが合理的だという感情が伝わって来る。


 俺は冷汗をたらりと流し――刻印を起動する。


「「「――ッ!!」」」


 刻印を起動し、術式を起動した。

 瞬間、祭壇が僅かに揺れたかと思えば――“時が、動き出す”。


「おぉ!?」

「いで」

 

 祭壇が揺れたかと思えば。

 残骸の一部が奇妙な動きで宙を舞い。

 それが空中で静止し、降って来た。

 小さな石くらいの大きさだったが。

 俺のメットに当たって軽く頭が揺れた。

 俺は両手を祭壇から外し、メットの位置を戻す。


 レインに視線を向ければ、彼女はこの結果に満足そうに頷いていた……さて。


「……時間は戻っているな。術式は……やっぱり、まだ掛かってそうだな」

「……ですが、発動前の状態に戻っていますね。慎重に運べば、発動する事は無いでしょう」

「よし、ならさっさと動かすぞ。ムサイ、レイノス、ゴラム手伝え」

「「「了解」」」


 俺たちはデカく重い祭壇を持つ。

 そうして、力を入れながらも衝撃を与えないように慎重に持ち上げた。

 ゆっくりと動かして、祭壇を瓦礫の脇にそっと置く。

 静かに息を吐いてから、祭壇があった場所を見れば……


 

「ビンゴ――“地下への入口”だな」


 

 そこには地下に続いているであろうハッチがあった。

 祭壇に態々、強力な術式を掛けたのも。

 下にあるハッチを暴かれない為だったんだろう。

 ハッチに掛けるべかだったかもしれないが。

 恐らくは、悪魔が発見し無理矢理に解かれる可能性を考えての策だ。

 如何に知能がある悪魔であろうとも、教会の祭壇を態々調べようなんて物好きはいねぇ。

 だからこそ、敢えて祭壇に掛ける事でカモフラージュの効果も加えていた。


 ……よほど悪魔を警戒していたのか。それとも、この下にあるものがよっぽど価値あるものだったのか。


「……両方、ってか?」

「……何してんだい。さっさと行くよ」


 レインを見れば、ハッチを開け放っていた。

 俺は返事をしながら、レイノスとゴラムをこの場に待機させる。

 何かあれば無線で連絡するように命じ。

 俺たちは梯子を伝って下へと降りて行った。


「……暗いなぁ。うぅ、寒気もしますよぉ」

「文句言うんじゃないよ。魔力で目を強化しな。忘れたのかい?」

「完全な闇じゃねぇなら、目は慣れるもんだ……そう、完全な闇じゃねぇならな」


 深く暗い闇の世界。

 が、地下深くから薄っすらと光が見える気がした。

 完全な闇じゃない。何かがそこにある。

 それが何かは分からないが……やばい気はするな。


 何の変哲もない小さな教会だったところだ。

 キケルガという規模の大きな宗教ではあるが。

 こんな街に何を隠していたと言うのか。


 悪魔災害事件と関連しているのか。

 そして、例の悪魔もこの件に関わっているのか。

 あの謎の遺跡が結び付けたものの正体を――暴いてやるよ。

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