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【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい  作者: うどん


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093:祓魔師の長き研鑽

 カブラギに来てからおよそ三日ほど。

 毎日、あらゆる実験やら検証に協力し。

 不死の研究を進めていっていた。

 奴は娘の事は何も言わないが。

 アイツの言葉で奴の心は理解している。


 不死の研究によって目的を果たし。

 そして、娘の未来をも作ろうとしている。

 だからこそ、俺は奴を信用して協力していた。


 タクミから、今日は午前中のみ休むように言われた。

 だからこそ、仕事ではないが……教育者の務めを果たす事にした。


 戦闘服を着て、自称アンドロイドと戦った場所に出る。

 そこには同じように戦闘服を着たカブラギが立っていた。

 奴はポケットに手を突っ込みながら、不満そうな顔を俺に向ける。

 

「……で、何で僕を呼んだんだ?」

《それは貴方を鍛える為ですよ……貴方のお父さんから聞きましたが、貴方は刻印を宿しているもののそれが使えないようですね。それは何故ですか?》

「……体への負担がデカいからだよ。後は、僕自身も刻印がどんなものか把握していないから……これで満足か?」


 カブラギの簡潔な説明に納得する。

 そうして、俺は笑みを浮かべながら静かに掌を差し出す。

 

《なるほど。理解しました。では――その刻印、少しの間、私に貸していただけないですか?》

「……は? お前、何言ってんだよ?」


 カブラギが訝しむような視線を送って来る。

 その反応は当然であり、基本的に刻印の譲渡は出来ない。

 いや、出来るからこそ悪魔から俺たちの体に移植はしているが。

 それは手術による移植であり、元の所持者である悪魔は死んでいる。

 物品のように簡単に受け渡しが可能なものではない……それは正しい。


 だが、受け渡しでは無く――“コピー”であればどうだろう。


 俺はゆっくりと片手をカブラギに伸ばす。

 カブラギは目を瞬かせながら俺と手を交互に見る。

 無言で俺の手を握るように軽く手を振れって伝えれば、カブラギは舌を鳴らして手を握ってきた。

 俺はその瞬間に刻印の一つを起動し――


「――っ!?」

《慌てないでください……もういいですよ》


 手を緩めれば、カブラギは手を離し後ずさりする。

 そうして、呼吸を乱しながら己の体を触っていた。


 俺はそのままコピーした刻印を確認し……へぇ。


《三つも所持しているんですね。それもかなり貴重なものを》

「……分かったのか? てか、何を……」

《一つは身体強化系ですね。それも数倍では無く数十倍……いえ、もっと出来そうですね。他は、時に関係するものでしょうか。時間を早めたり遅くしたり。使いこなせれば時間停止も、ねぇ……最後の一つは……いや、これはまだ良いでしょう》

「え? いやいや! 分かってるなら教えろよ!? 何だよ最後は!?」

《……教えてもいいですが……ガッカリしないでくださいね?》


 俺が教える前に釘を刺せば。

 奴はガキじゃないから問題ないと伝えて来た。

 俺は本当かと怪しみながらも、最後の刻印について教えた。


 

《……“転生”です》

「……転生? 何だよ、それ……?」


 

 カブラギの顔を見れば反応に困ると言いたげだ……あぁ、まぁそりゃそうか。


 俺としてもこの手の刻印は見た事が無い。

 が、刻印の分析をすればそれがどのような術式が込められているかは分かる。

 解析した結果から、この刻印は奇妙な事に所有者の“死後”に発動するものだと分かった。


 ……いや、それも微妙だ。死後のように見えるが、妙に複雑だった。


 今まで見て来た刻印のどれとも違う。

 ただ死後に発動し、所有者の魂を復元……とはまた違うが、似たような事をするものだ。


 分析は得意だと思っていたが。

 これに関してはハッキリとは断言できない。

 ただ、術式の組み方とそれによる効果がそれだと分かる程度だ。


 そんな俺の説明を聞いて、奴はむすっとした顔をした……あ?


「……そもそもさ。気になってたけど……手に入れただけで何で分かるんだよ? そもそも、それはアンタのじゃないのに」

《……まぁ経験ですよ。本来は、刻印を体に移植した時点で大体の発動効果などは移植された人間は何となく分かるものですが……いいでしょう。少し、説明してあげます》


 俺はそう言いながら指を動かして虚空に代表的な刻印の術式を刻む。

 文字列のようなものが、円を描いたりしている。

 その文字列に関しては、どの国の言語でもない。

 恐らくは、悪魔たちが遥か昔に浸かっていた言葉だろうと俺は予測している。

 全部で三つであり、奴はジッとそれらを見ていた。


《……はい。では、この三つの術式。それぞれがどれであるかは分かりますか?》

「……分かんねぇよ。そもそも、刻印なんてその形くらいしか分からないだろう?」


 カブラギのいう刻印とは、それぞれの術式が刻み込まれたマークのようなものを指している。

 人体でいうDNAのようなものであり、それが刻印として怪奇な形を保っているのだ。

 本来であればそれを視認する事も出来なけれれば、摘出し移植する事も出来ない。

 が、開発された専用の機材と薬液があれば、刻印を視認し摘出する事が出来る。

 そうして、刻印にはそれぞれ適合率が存在し。

 その刻印と適合率が高ければ高いほどに、刻印との拒絶反応も少ない。


《そうですね。一般的には、分かるのは形だけです。実際に使っているところを見るか、その刻印の移植者になるしか理解する方法はありません。こればかりは完全なるブラックボックスです……ですが、実際にはそのマークの中にあるもので術式のメカニズムを多少は理解する事が出来ます。貴方もそれについては既に知っているでしょう……さて、それは何か分かりますか?》

「……魔力か?」

《正解です》


 俺は文字列を分解し、一文字だけを宙に浮かせる。

 そうして、それを掌に載せてからカブラギに見せた。

 カブラギはその文字をジッと見て、少しだけ目を見開く。


「……よく分からないけど……魔力が蓄積されている。それもパンパンに……これが?」

《えぇ、本来、刻印と呼ばれるものは高密度の魔力の塊です。血や肉、色々なものが混ざっていますが。結局の所は魔力の塊です。それらが心臓の鼓動に合わせて、長い年月をかけて魔力を圧縮させる事によって生まれたのがこれです。これは私の予想ですが、最初期の悪魔たちには刻印は存在していなかったでしょう。長い時間を掛ける事によって成長し、進化を果たし。やがて、今の世代の悪魔たちは多くの人間を取り込む事によって短期間での刻印の獲得に至れる体になった》


 刻印は血や細胞が混ざった魔力の塊で。

 此処に更なる魔力を流し込む事によって、奇跡に近い事を成す。

 刻印の持つ魔力量が高ければ高いほどに、発動する術も高位のものとなる。

 車で例えるのならエンジンであり、より質の良いガソリンがあればパフォーマンスも向上する。

 そもそも、エンジンの性能がもっと高いのであれば更なる力が得られるという事だ。


《そんな悪魔の進化の結晶を奪い。我々の力とする……中々にえげつないとは思いますが。我々が行っているのは殺し合いです。それに文句をいう人間は、惨たらしく殺されるだけですからね》

「……じゃ、僕たちは、どうして…………いや、いい」

「……」


 カブラギは迷っていた。

 話すべきかどうかを。

 それは十中八九が天使に纏わる事だろう。


 どんな馬鹿な人間だろうとも。

 カブラギのあの力と、こいつの母親が関係していないなんて思わない。

 天使が此処にいる事を知る俺は、その結びつきがどのようなものかも分かる。

 恐ろしい事であり、カブラギの身に起こっている事も理解できた。


 術式の説明を終えて、描いたものを消す。

 まぁ俺も全ての刻印に精通している訳じゃない。

 特に、あのボブの特異刻印については意味不明過ぎてさっぱりだからな。

 そんな事を考えながら、手を軽く叩いて視線をカブラギに向ける。


《兎に角、刻印の内部はこのような特異な文字が刻まれています。文字の大きさや色、どのような描き方であったりなどの情報で、大まかな術式が分かるのですよ》

「……先生はすげぇな。あぁあ、僕も先生みたいになれたらなぁ……はぁ」

《なれますよ?》

「……え?」


 カブラギの言葉にハッキリと返す。

 すると、奴は間の抜けた顔をした。


《何か勘違いしているようですが。私は最初から何でも出来た訳ではありません。最初の頃は戦うよりも逃げてばかりでしたから》

「じゃ、どうやって」

《決まっています――鍛錬ですよ》


 俺は言ってやる。

 長い年月をかけて行った鍛錬の内容を。

 悪魔に追われて、殺されそうになる日々。

 そんな日々が嫌で嫌で、逃げながら己を鍛え続けた。


 意識を半分だけ起こしたままで敵を警戒し。

 食事をしながら、体を酷使し続けて。

 使えるものは全て使い、悪魔を殺す術を学習し。

 自然の中で己の体を極限まで鍛え上げた。

 

 滝行も、崖登りも、岩石をも持ち上げて。

 岩を殴り続けて、荒波にもまれながら大陸から大陸を泳ぎ切り。

 深海深くまで潜ったり、真夜中の森の中で魔物との連戦に。

 世界で出会った強者との試合によって研鑽も積んだ。

 

 独学で魔力の存在に気づいた後も重要だ。

 肉体での修練に見切りをつけて、次は己が魔力を練り上げ続けた。


 ある時は、休む間もなく魔力を流し続けた。

 意識が朦朧とし、胃の中を吐き出そうとも出し続けたさ。

 カラカラになるまで。否、底を尽きたとしても一滴も残さず絞り出す。

 命を削り、死の縁にも立った。

 が、不死であるからこそ死ぬ事は無く。

 死の淵から何度も生還し、その度に、己の魔力の底と回復量を高めていった。

 そうして、魔力の回復量が上がり続けて、気が付けば減る事を感じなく無くなっていた。

 

 そこからは逆に魔力を極限まで抑え込み。

 己の中で膨大な魔力が暴れまわり、内臓が飛び出しそうになりながらも抑え続けた。

 時には練り上げて、時には圧縮し。

 全身から血を噴き出しながらも、精神を統一し己の限界を超えて行った。

 その結果、魔力の質が向上し、より少ない魔力で高いパフォーマンスが発揮できるようになった。


 そんな狂ったような修行を悪魔たちに追われながら行ってきた。

 死に体でありながらも足を動かし。

 寝床を変えては、完全な睡眠を取る事無く逃走と鍛錬を並行した。


 逃げ続けた生活は一変し。

 手に入れた力で、悪魔共を返り討ちにし続けた。

 俺の体は特別であり、聖刃無しであろうとも悪魔は殺せた。

 身近な道具で殺し、道具が無ければ自分の拳や足で殴殺した。

 誤って捕まった事もあったが、それでも俺は力を手に入れた。


 修道院に入り、真面な教育を受けて。

 仲間と更に鍛錬に励み、刻印も移植し。

 より苛烈な戦いに身を置きながらも、更なる成長を目指していった。


 どんなに弱い刻印であろうとも。

 所有者が研鑽を積めば、刻印の質すらも成長していく。

 最初は掌ほどの火の玉しか生み出せなかったものが。

 時を掛ければ、大地を焼き尽くすほどの大火が生み出せるようになった。


 実力をつけて、評価をされれば。

 移植される刻印も増えて、益々、俺は力を高めていった。

 モナートに至るまで、自己鍛錬を欠かした事は無い。

 モナートになった後は、鍛錬では無く悪魔との戦闘で己を磨き続けた。

 

 ずっとだ。

 永遠に等しい時間を、悪魔を殺す為だけに捧げ続けた。

 如何に効率よく殺せるか。如何に速く仕事を終わらせるか。

 地獄のような社畜生活で、俺は強さと効率を求め続けた。

 いつの間にか、早く帰る為という目標に代わっていたが……まぁそれは仕方のない事だろうよ。

 

 たった一つの目標から始まった。

 人間としての俺が持った掛け替えの無い願い。

 それがあったからこそ、弱かった俺という存在を強く成長させていった。

 

《……たった一つの目標。人としての生、安らかな死を目指して。私は悪魔を殺し続けました。己が呪いを解く為に、この呪いを掛けたであろう悪魔を殺す為だけに。悪魔たちを、殺して、殺して、殺して……まぁ、今でもその目標は果たせていませんが。それでも、積み上げて来た研鑽は嘘ではありませんよ》

「…………呪い、か…………じゃ、その刻印の分析力も?」

《えぇ多くの悪魔との戦闘。そして、私が移植した多くの刻印。それらを実際に見たりして、体が勝手に覚えました……まぁ年の功ですよ。はは》

「……」


 カブラギはごくりと喉を鳴らす。

 俺を見る目は熱が籠っている気がした。

 恐れなどではなく、尊敬に近いのか……やべぇな。


 俺は咳払いをする。

 そうして、刻印の内容は分かったからこそ。

 それにあった訓練をしようと提案する。


「……本当に使えるようになるのか?」

《それは君の努力したいですよ……それでは、先ずは私の真似をしてください》


 俺はそう言いながら脱力した状態で腕を下げる。

 奴は俺と同じ姿勢をする。

 そのまま俺は言葉でも説明していった。


《指先から順番に、魔力を纏わせてください。手足ですよ。そこから徐々に、心臓を目指してゆっくりと魔力を動かしていきなさい》

「……っ」


 指先にある魔力。

 そこから徐々に心臓へと向かって魔力を集めていく。

 刻印が使えない人間には幾つかある。

 それは体が刻印に適していない場合と扱い方を知らない場合だ。

 カブラギはその両方であり、今からやる鍛錬はその二つをクリアする為のものだ。


 カブラギを見れば、強張った表情ながらもちゃんと魔力を心臓へと集めれていた。

 

《そのまま心臓に集めた魔力をキープしてください。漏らさないように……そうです。良いですよ……そこから、今度は渦を描くイメージで、魔力を回転させなさい》

「……っ!」


 カブラギの表情が辛そうなものになる。

 今、カブラギの体内では心臓部分で魔力が渦を巻いている。

 それは内包されている魔力が練り上げられているからだ。

 練り上げられた魔力は質の良いものとなり、少量であろうとも術式や身体の強化に強い効果をもたらす。

 が、練り上げられた魔力は長くその場に留めてはおけない。


 魔力は練り上げれば練り上げるほどに。

 強い熱を持ったような感覚を抱かせる。

 単純に熱いと感じるものであり、練り上げられた魔力はすぐに使うのが基本だ。

 が、この鍛錬では敢えてその状態を維持させる。


「……っ……おい、いつまで、これを……っ!」

《私が許可をするまでです》


 俺はハッキリと告げる。

 無論、生徒だけに苦しい思いはさせない。

 俺自身も同じ事をしながら、互いに同じ境地に立つ。


 この鍛錬は俺が魔力に気づいた後にやっていた事の一つだ。

 魔力を体に纏わせるのではなく。

 己が心臓部に集中させて練り上げる事。

 初めはただの勘でやっていた事だが、これには意味がある。


 悪魔たちの刻印は決まって、心臓部に近い場所に発現する。

 それは心臓に近いところで、より多くの魔力が練り上げられて生まれるからだ。

 つまり、刻印を使う為に必要な事は――徹底的に心臓を鍛える事にある。


 より多くの魔力に晒し、練り上げられた魔力に耐える事。

 鉄を叩いて鍛えるように、心臓も同じように痛みでもって鍛え上げる。

 人の体は適応する能力が高い。

 それは知恵によるものや、肉体的なものでもある。

 それらの力を極限まで高める事が出来れば、おのずとカブラギの刻印も使用できるようになる。


 ……まぁ一番は、あの力に順応させる事が大きいがな。


 どういう原理かは知らん。

 が、肉体的な負荷が大きいのであれば。

 現時点では体を成長させる事によって改善できると考えた方が良いだろう。

 あの時も、互いの魔力を循環させる事によって慣らす意図があった。

 だったら、今回も魔力によって体を刻印に適応させる方が効率的だ。


 カブラギは汗を掻き始める。

 俺はそんな彼女を鼓舞しながら。

 適度にアドバイスを送り続ける……大丈夫だ。


 

 お前は若い。

 たった五年じゃない――“五年もあるんだ”。


 

 お前はもっと強くなる。

 俺と似た力があるっていうのなら。

 お前も俺と同じように、力を使い熟せる可能性もあるんだ。


「……っ!!!」

《耐えろ。貴方なら――“出来ます”》

「……っ! ――ッ!!」


 カブラギは歯を食いしばる……そうだ。それでいい。


 俺は信じている。

 お前の可能性を、お前の秘めた力を。

 例え俺と同じじゃなくても、お前は俺よりも大きな可能性を秘めている。


 エゴンたちと同じだ。

 キラキラした目で、未来を見ているお前たちなら――不可能なんてねぇさ。

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