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009:祓魔師は地獄を見せる

「キィィィエエエェェッ!!!」

「……」

 

 奴が奇声を発しながら両腕に力を込める。

 すると、奴の掌から魔力が発生しそれが超高速で回転する紫色の光の刃を形成した。

 奴はそれを操り、俺へと放ってきた。


 俺はその場から飛んで回避――奴の姿が消えた。


「馬鹿めェェ!!!」

「……!」


 背後から気配を感じた。

 すると、すぐそこには奴の光の輪が迫っていて――知ってるよ。


 俺はそのまま片手を振るう。

 そうして、素手でその輪っかを砕いてやった。

 奴は驚きの声を上げながらもそれならばと無数の魔力による超高密度のレーザー攻撃を仕掛けて来る。

 俺はこれ以上スーツをボロボロにしたくないからとその攻撃を避ける。


 建物から建物へと高速で飛び移る。

 まるで、蛇のように追尾してくるレーザーを躱し。

 避け切れないものは足で弾いてやる。

 

 回避、回避、回避回避回避回避回避回避――腕を振るう。


 すぐそこに迫った魔力の線。

 それら全てを腕の風圧で捻じ曲げる。

 瞬間、全ての攻撃は建物へと降り注ぎ溶断していった。


「小癪なァァ!! それならばこれで――どうだァ!!」


 奴の手から黒い靄が発生する――魔術だ。


 黒い靄は一気に周囲を包み込む。

 何も見えない空間で、不気味な金属音のようなものが耳元で響く。

 不快な音であり、人にとっては恐怖を刺激する音だ――くだらねぇな。


 俺はその場からしゃがむ。

 瞬間、頭上を何かが勢いよく通過していったのが分かった。

 俺はそのまま横へと飛ぶ。

 そうして、建物らしき足場を蹴る。

 そのまま体を縦に回転させていく。

 

 不快な音しか聞こえず、肉眼では何も見えていないが。

 俺に対して攻撃が仕掛けられていた。

 それら全てを回避し、大きく飛び上がる。

 そのまま俺は背後に視線を向けて――空を蹴る。


「――なッ!?」

「……!」


 俺は空気を蹴りつけてその場から離れた。

 一直線に見えない魔力が飛んでいった。

 そのまま俺は何も見えない空間で建物の上に確実に着地する。

 そうして、一気に奴の元へと飛ぶ。


 そのまま何も無い空間に向かって握った拳を――振るう。


「ぐあぁ!!?」


 衝撃音のようなものが微かに響いた。

 メキメキと音を立てながら、拳に肉を打つ感触が伝わる。

 俺はそのまま無言で連打を叩きこむ。

 顔面に五発、腹に向かって五発。

 そして、意識が朦朧としている奴の横腹を回し蹴りして吹き飛ばした。

 奴は血反吐を吐きながら、建物を破壊していった。

 瞬間、俺の認識を阻害する為に張られていた黒い靄は消えた。


 目くらましの魔術だ。

 そこには存在しない、人が不快に感じる音を耳元で発生させて。

 奴や周囲のものを完全に見えなくさせる魔術。

 が、そんなものは俺には通用しない。

 どんなに隠蔽の技術が卓越しようとも、俺に姿を晒した瞬間に――“”詰み”だろう?

 

 奴は砂埃の中から勢いよく飛び出し上昇する。

 そうして、ボロボロの体を何とか再生させていた。

 奴は怒りに震えながら、俺に向かって両手を突き出し――魔力の弾を放つ。


「死に晒せェェェェゴミムシがァァァァッ!!!」

「……」


 無数の紫色の光の弾。

 それらが空気に触れれば白い煙のようなものを発していた……熱か。


 凄まじい熱量を伴う魔力弾。

 魔力弾自体は初歩的ではあるが、そこに奴の能力によるアプローチで熱を与えている。

 触れれば骨も残さず焼かれ、防御をしようとしても並みの結界では熱そのものは防げない――だから何だ?


 俺は体全体に魔力を流す。

 体の表面を極薄の魔力で覆い、両手には渦のようなものが出来ていた。

 眼前には無数の光弾が迫り――手で触れる。


 瞬間、奴の魔力弾は――消えてなくなる。


「――ッ!!?」

「……」


 無数の光弾。

 一秒の間に百を超える魔力弾が突っ込んでくる。

 それら全てに俺は手で触れて――“吸収する”。

 

 相手の魔力の特徴を目に映る情報で取得。

 それを瞬時に分析し、奴の魔力の性質に99パーセント以上の精度で近づける。

 それにより、奴の魔力自体が俺を奴自身である誤認する。

 敵が使う魔力での攻撃は、基本的には使用者には無害に設定されている。

 当たり前だ、元は己の肉体に流れていたモノなんだ。

 だからこそ、此方がその性質に合わせさえすれば――吸い込む事は容易い。


「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な――そんな事が出来る筈がァァ!!!!」

《出来ますよ。だって――私ですから》


 そのまま全ての攻撃を吸収。

 俺はそのまま貰った魔力を使い指先に魔力の塊を形成する。

 それは紫から色を変えて、透き通った青色になっていった。

 俺はその指先を奴に向けて――放つ。


「――アガァ!!?」


 奴は攻撃を放つ一瞬、本能から横へとズレた。

 その結果、俺が放った魔力弾は――奴の半身を抉り取った。


 後方へと飛んでいった俺の魔力弾。

 それは空間の境界に触れて激しい閃光を放つ。

 それが晴れれば、異界化されていた空間の一部が強制的に解除されていた。

 日暮れの空が見えているが、それがゆっくりと修復されていく……さて。


 地面へと落下した敵。

 奴はまだ死んでいない。

 俺も“全力は出していない”からな……奴が再生する。


「はぁ! はぁ! はぁ! おのれ……おのれおのれおのれおのれ――認めてやろうッ!! 貴様は俺よりも遥かに強いッ!! それ故に――我が至高の技によって葬られるのだッ!!」

 

 奴はばさりと翼を広げた。

 そうして、両手を上にあげた。

 すると、奴の体に残っていた膨大な魔力が掌から放出される。

 それは一気に巨大な球体へと形を変えていった。


 見かけは紫色の光を放つ魔力の塊だ。

 が、それからは途轍もない熱量を感じた。

 今までのもこのバカでかい球体状の魔力も――奴の“特異能力”だ。


 特異能力とは悪魔の中でも上位のレベルに達した者のみに発言する力。

 魔術では無い、もっと強力なものであり。

 奴のものは恐らく魔力の強化であったりその性質の変化だろうか。

 レーザーのように密度を絞ったり、刃のように形成する事も可能で。

 今、奴が太陽のように創り上げたそれも、それ自体に熱を発する効果を付与したものだろう。

 単純だが、それなりに有用な能力だと感じた……が、いらねぇぇ。


「どうだッ!! これが我が最大の攻撃術ッ!! “炎星消命(オーバーフレイムゼロ)”ッ!!! さぁ地上に落ちるまでに貴様たちの体は果たして持つかなァ!!! ははははは!!!」


 奴は高笑いをしている。

 見れば他の建物から煙が出ていた。

 中には炎が上がっているところもある。

 徐々に巨大な紫色の火の玉が落下していた。


 吸収する事は出来る……が、俺の前まで来ればガキどもは無事で済まねぇな。


 一瞬であろうとも、建物を焼き尽くしてしまうほどの熱源物体だ。

 そんなものが俺が触れる距離まで近づけば、何の防衛手段も無いアイツらは確実に消し炭だ。

 追い詰められた鼠は猫をも噛むという言葉を何処かで聞いたか……面倒な事してくれたなぁ。

 

 恐らく、奴のそれは膨大な熱によって全てを焼き尽くすものだろう。

 異界化をしていたのも、全ては獲物を逃がす事無く殺せるようにしていたからだ。

 もしも、優れた祓魔師が潜入していて殺されそうになるまで追い詰められていても。

 あぁやって切り札を使えば全てを消せる、そう思っていたんだろう。


「……」


 俺は小さくため息を零す。

 そんな俺の姿を見て、悪魔は勝利を確信して笑っていた。


 奴は笑う。不快な声でケラケラとな……馬鹿が。


 俺は片手をポケットに突っ込み、もう片方の手を静かに上げる。

 そうして、徐に指で銃の形を形成する。

 奴はそんな俺の行動を最期の悪あがきだとほざいていた。


「魔力弾かッ! はは、無駄な事をッ! 如何に貴様であろうとも、魔力弾は我が力に触れる前に消し飛ぶぞッ!! それでもやりたいのならやればいいッ! さぁ! さぁ! さぁぁぁ!!」


 奴は俺を全力で呷る。

 それは本当に勝利を確信しているからこそ出る余裕の表れか。

 それとも、俺の行動に対しての――“”怯え”、かぁ?

 

 俺はそんな奴の言葉も無視し、俺が保有する刻印の一つを起動する。

 指先には小さな魔力の塊が形成される。

 それは膨張と圧縮を繰り返し、耳が痛くなるほどの高音を奏で始めた。

 溢れ出る魔力が電流のように迸って――“魔術を発動させる”。


 

 

『――時よ、止まれハーツスティールスタンド

「はははは――はぇ?」




 俺が指から放った魔力の塊。

 それは真っすぐに奴が形成していた巨大な熱玉に当たり――凍り付く。


 先ほどまで全てを焼き尽くすほどの熱を放っていた。

 が、俺の魔術の方が勝ったようで一瞬で熱の塊は――“巨大な氷の塊”になった。

 

 狙い通り、熱から発せられる線諸共であり巨大なそれは空中で固定されていた。

 ぱらぱらと氷の破片が静かに降り注ぎ、奴はそれを体に受けて固まっていた。

 奴は笑うのを辞めてから、ゆっくりと上を見ながら振り返り――震え始める。


「あ、あぁ、ぁあ……あり、えない……こんな、こんな事が、あって……あってェェ!!」


 奴は再び両手を上に向ける。

 俺はそれを察知した上で手を振る事もせずに眼力だけで魔術を発動させる。

 瞬間、奴の体が石となって固まる。

 俺の自由を奪った制裁を加える為に頭だけは無事だ。

 奴は自らの体に何が起こったのかも理解できないままゆっくりと地上に落下していく。


「――ああああぁぁぁぁ!!!!?」

「……」


 凄まじい音を立てて奴が地面にぶち当たる。

 土煙が柱のように舞い上がっていた。

 俺は軽く口笛を吹いてから立っていた建物から飛ぶ。

 そうして、奴が作ったクレーターの近くで降りてから砂埃を手で払った。

 そこには体がバラバラに砕けて、頭だけになった奴が転がっていた。

 悪魔とは存外しぶとい生き物であり、こんな状態であろうとも死ぬ事は無い。

 が、俺の魔術によって大ダメージは受けており、如何に最上級魔物であろうとも即時復活は不可能だろう。


 奴の穴のように見える顔から何となく今の感情は分かる。

 奴は生まれて初めて出会う圧倒的な存在を目にして放心している。

 理解が追いつかずに、今はただただ戸惑っていた。

 俺はそんな奴の横に立ち、ゆっくりと足を上げた。

 すると、奴はやっと正気に戻って命乞いを始めた。


「ま、待て!! 金だ!! 何なら極上の女でもいい!! 好きなもの!! 何でもやろう!! だから」

「……」


 俺は悪魔の言葉を最後まで聞かず。

 足で奴の頭を踏みつけた。

 ゆっくりゆっくりと時間を掛けて力を加えていく。


「ま、ま、っで――わ、わたし、あぁ――こんな、とでぇ――ッ――――…………」

「……」

 

 メリメリと地面にめり込んでいったところで一気に踏みつける。

 瞬間、奴の頭はまるでスイカ割りをしたかのようにぐしゃりと潰れた。

 足を上げれば悪魔の血で革靴がべしょべしょで……うえぇぇ。


 俺は後で洗っておこうと思った。

 そうして、小さくため息を吐けば異界化されていた空間が崩壊していく。

 徐々に周りの景色が戻っていき、そこにあった異様な広さの空間も一気に元に戻る。

 見れば俺が殺した悪魔の体もゆっくりと灰になっていっていた。

 

 俺はポケットから手を出して――指を鳴らす。


 すると、頭上にあった氷塊は一瞬で砕け散る。

 それはハラハラと粉雪のように舞っていた。

 

 やはり、こいつが異界化をしていた張本人だった。

 道中、他の悪魔も皆殺しにしてきたが……残念ながら、他の連中は既に殺されていた。


 申し訳ないとは思わない。

 いや、そもそも俺の所為ではない。

 俺はなるはやで来る努力はしたし、何なら鬼畜眼鏡から報告を受けてすぐに此処を発見した。

 だからこそ、恨むのは俺ではなくあのクソ悪魔か鬼畜眼鏡にしてくれと心の中でぼやく。


 ……ま、兎に角だ……アイツらをギリギリ助けられて良かった。心からそう思うぜぇ。


 いやぁ焦った焦った。

 今まさに殺されそうになっていて。

 あの青髪に至っては心臓を潰されていた。

 もしも、一時間以上経過していれば絶対に何かしらの後遺症を残していたかもしれねぇ。

 間に合った事で心臓もすぐに修復し、あのメイク大好き女も何とか治療できた。

 

 死んでるんじゃないかと焦ってたからな。

 久方ぶりの恐怖で手が震えちまってたよ。

 もしも、生徒を二人も死なせていれば絶対に俺の楽園生活は潰えていたからな。

 まぁ本当に良かった。これで、今日も安心して熟睡できるだろう。


「……!」


 耳を澄ませば微かにだがパトカーの音が聞こえる。

 恐らく、支援部隊の連中が引き連れて来たんだろう。

 本来であれば仕事が終わって調査を終えた後に警察は呼ぶものだが。

 今回は悪魔だけでなく人間も奴らの手下として動いていた。

 異界化された結界に入る前に、黒塗りのバンの前で煙草を吸ってた奴らがそうであり。

 そいつらは俺が直々に半殺しにしてから適当に手足を折って放置しておいた。

 奴らの取り調べは警察の仕事であり、恐らくはガキ共も事情聴取を受ける事になるが……そうはさせねぇよ。


 俺はすぐに移動を開始した。

 そうして、ガキどもが倒れている場所まで一瞬で戻る。

 奴らはすぅすぅと寝息を立てている。

 人の気も知らないで良い御身分だと思いつつ、俺は二人を両脇に抱えた。

 そうして、そのまま一気に足で地面を蹴って空中を高速で翔けて行った。


 もしも、警察なんかの事情聴取を受けさせれば。

 確実に親にも連絡が行っちまうだろう。

 そうなれば、過保護な親であれば修道院にいるのは危険だと勝手に判断し。

 最悪の場合は自主退学の手続きを踏むかもしれねぇ。

 別に辞めること自体はどうでもいい。

 が、もしも俺の監督不行き届きなんてされちまえば、あの小心者のデブは即座に俺を切り捨てるだろう……そうはさせねぇよ。


 俺は地上の奴らに見えないように遥か上空を飛ぶ。

 下を見れば砂粒ほどにしか見えない警察の車や支援部隊の車が走っていた。

 一応は気を遣ってやり、魔術によってガキどもに酸素を供給し、冷たい風の影響を受けないようにしてやる。

 後で聞かせてやれば泣いて感謝するだろうが……まぁサービスにしておいてやるよ。


「ぅ、ぅぅ……せん、せい……ぅぅ」

「ご、はん……ぷ、きー……」

「……?」

 

 エルナのガキは食いもんの寝言を呟く。

 しかし、何故か、俺の事を言っている気がするアデリナのガキ。

 あまりにも怖くて助けに来た俺に安心したのか。

 よく分からねぇけど面倒な事にならなければそれでいい。

 


 


 寮へと戻れば、寮母のババアが駆け寄って来た。

 二人共、ボロボロであったから何かの事件に巻き込まれたのかと聞かれたが。

 単純に隠れて激しい特訓をしていたせいで、二人共ズタボロのように見えるだけだと言ってやった。

 制服に関しては教師の俺の判断で新しいやつを支給できる。

 だからこそ、その場でババアに朝一番に届けてやるように指示しておいた。

 

 くれぐれもあまり深く聞いてやるなとも忠告してやる。

 何故かと聞かれて、咄嗟に強くなる理由が男がらみであるからだと嘘をついた。

 すると、ババアは途端に嬉しそうな顔をしてあっさりと引き下がる……何だよ、あの顔は?


 適当に任せても良かったが、此処まで来たのならばとサービスで部屋まで運んでやる。

 鍵に関してはこいつらのポケットに入っていたので問題は無かった。

 

 そうして、最初にエルナをベッドに運んで。

 その次に、アデリナを部屋へと運んで、そのままベッドに転がしておいた。

 こいつらの部屋は運の良い事に隣同士で。

 多少乱暴ではあったもののちゃんとベッドの上で、俺は軽く手を払ってからそのまま帰ろうとした。

 

 ……が、何故か勉強机の上に置かれていたものが気になった。


「……」


 興味本位で覗いてみれば……バイトだぁ?


 修道院では特別な理由でもない限りは基本的にバイトは禁止だ。

 一年であれば、ほぼ不可能だと言ってもいい。

 それなのに、こいつはバイトの雑誌を広げていて赤く丸で囲んでいた。

 カレンダーを見れば、今日の日付のところに行かなければならない場所を省略して書いていた。


「…………」


 ははは……見なかった事にしよ。


 別にバイトをするのはいいんだ。

 俺の授業を受ける意志さえあれば体がガタガタであろうとも治して走らせるだけだからだ。

 どうでもいい事であり、寧ろ、それだけの体力があるのであれば……?


 そんな事を考えていればスマホの音がする。

 俺はすこぶる嫌な予感をさせながらも、出なければいけない気がして奴のポケットを漁りスマホを奪う。

 そうして、見れば工事現場・人などと書かれている……チッ。


 俺は通話を開始する。

 すると、妙に鼻息の荒い気持ちが悪いおっさんの声が聞こえて来た。


《あ、アデリナちゃんかな? 今日も来るって言ってたよね? 僕も今日はいるからさぁ。良かったねぇ……あ、それと実はさぁ、僕の知り合いの息子がさぁライツの対魔修道院に通っているんだけど……君に似た子がいるって言ってたんだぁ。それで、その事について仕事が終わったらゆっくりと……お話し、しようねぇ》

「……」

《ふ、ふふ、黙っていてもだめだよぉ。もしも、今日来てくれなかったらぁ……きっと、アデリナちゃん。後悔すると思うなぁ。おじさんはそんな事したくないけどねぇ……それじゃ、時間通り十二時まで来てねぇ。待ってるよぉ》


 気持ちの悪いおっさんは一方的に言って通話を切る。

 俺は手をプルプルと震わせながら全身から怒気と殺気を放つ……なめやがってぇ。


 間抜けにも悪魔に捕まり。

 俺が至福の時間を捨ててまで救出してやったんだぞ。

 その上、こんなクソ野郎が電話をかけてきてこの俺を脅すだと……あぁ、地獄を見せてやるよ。


 もしも、このまま放置すればこのクソカスは絶対に修道院にアデリナの事をチクる。

 そうなれば最悪の場合、退学の可能性だってある。

 無断のバイトの上にやっている事は未成年は禁止されている深夜のものだ。

 このおっさんも捕まる可能性があるっていうのに、下卑た目的によって視野が狭まっている。

 恐らくは、家庭の事情でこいつが強く出れないと認識しての事だろう。


 アデリナが退学か謹慎にでもなれば。

 確実に俺の監督責任が問われる。

 一発のミスでクビは確実であり、この問題も――“俺直々に潰す他ない”。


「……」

 

 俺はスマホを適当にベッドに投げ捨てる。

 そうして、拳をボキボキと鳴らしながら外道に地獄を見せに行った。

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