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【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい  作者: うどん


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89/134

089:祓魔師は紛い物と手合わせする

 採血に毛髪の採取。

 心肺機能の測定であったり、色々な事をされまくった。

 どれだけの情報を持っていくつもりなのかと思っていれば。

 今度は移動して欲しいと言われて、スタッフの指示の元、別室へとやって来た。


 更衣室で服を着替えるように言われて着替えたが……何だ、これ?


 下はぴっちりと肌に張り付くタイツのようなものを履き。

 その上には白を基調とした服を纏っていた。

 少し厚めの生地であり、ファスナーが複数つけられている。

 ポケットの数も多く、フードのようなものもあった。

 スタッフからの説明で、現在開発中の祓魔師に支給する為の戦闘服だと聞かされた。

 フードを被れば、自動で口元と目元を隠し、隠密の“術式が起動”する。

 服の生地はある魔物の体毛を採取し研究して作られた人口繊維であるらしい。


 耐熱耐寒耐刃耐弾耐魔……あらゆる耐性が以前のものより数段上がっているようだ。


 下に着ているのは俺のデータを取る為に必要なものらしい。

 これらの説明を聞き、実験を行う場所へと向かう。

 その道中で、いよいよ製薬研究所という肩書は嘘であると感じた。


 ただの製薬研究所が、薬以外のものを開発できる筈が無い。

 祓魔師の戦闘服などもはや専門外だろう。

 カブラギの父親が言っていたように、この施設は祓魔師たちにとって重要な場所なんだろう。

 そう思いながら、鳩野郎を置いてから更衣室を出て。

 そのまま、ブーツの感触を確かめながら短い廊下を進んでいく。

 目の前にある重厚な扉が開かれて行き、その中を潜って広々とした部屋の中に入る……へぇ。


 辺りを見渡す。

 ちょっとした体育館くらいはありそうなほどに広い空間。

 本当に地下施設なのかと疑いたくなるような豪勢な空間の使い方で。

 壁も天井は正方形の白いタイルのようなものがはめ込まれていた……いや、ちょっと違うか。


 床をつま先で軽く突けば、僅かながらにつま先が沈む。

 ちょっとしたクッション素材であり、天井の無数のライト以外は激しい実験を想定しての安全措置か。

 そう考えると、おのずと此処で何をさせられるのかは分かるものだが……一応、聞いておくか。

 

《……で、今度は何ですか?》


 俺は機械の声で質問する。

 すると、すぐにカブラギの父親の声が聞こえて来た。


《此処で行って頂く事は簡単です……貴方が普段、仕事を行う時のように――“敵を始末してください”》

《……敵を、ねぇ……》


 俺が何か嫌な予感がすると思っていれば。

 奥の方にある壁が動き出して、そこから人影のようなものが見えて来た。

 すたすたと歩いて来るのは、俺と同じような戦闘服を着た人間らしき存在だ。

 人間らしきといったのは、一切肌の露出をしておらず。

 顔は完全に隠されている上に、手足もブーツやグローブで見えない。

 二本の足と手があり頭があるから人間だと判断したが……妙な気配がするな、おい。


「……」


 人間とは断言できない。

 が、悪魔であるようにも思えない。

 今までに会った事が無いような気配だ。


『アレ、妙ですよねぇ』

『……いたのかよ』

『えぇ、まぁ。私は何処にでも……それで、どうするんですか?』 


 鳩野郎の声が脳内に響く。

 俺はバツの悪そうな顔をして、ジッと仮想敵を見つめる。

 

 俺は小さくため息を零しぼりぼりと頭を掻いてから、手を上げて挨拶をしてみる。

 が、相手は一切声を出さず。

 一定の距離を開けたまま、じっと俺の事を見つめていた……生きてんのか?


 俺が怪訝な顔をしていれば、カブラギの父親が説明する。

 目の前の相手は人間では無く、此方が開発したアンドロイドだと。

 血のようなものが流れて、人のように考えて動くが。

 結局は機械であり、手心は加える必要は無いと言ってくる。

 俺はそんな説明を聞きながらも、相手の事を注意深く観察する……“ちげぇな”。


 

 人とも悪魔とも呼べないが。

 これだけはハッキリと断言できる――“アレは生きている”。 



 魂のある存在であり、血が流れる生き物だ。

 俺はいよいよ、カブラギ製薬研究所なるものが信じられなくなってきた。

 全てを見せず、協力すれば全てを明かすと話したものの。

 此処に来て俺を騙し殺しをさせようとしている。

 これ以上ないほどにやべぇ事であり……信用なんざ出来ねぇよなぁ。


《準備はよろしいですか? 武器は必要ないとの事でしたが》

《あぁ、はい。武器は基本的に必要ありません。素手でも、悪魔は殺せるので》

《……素敵だ。やはり、貴方は選ばれし存在です……では、心置きなく――仕事をしていただきましょう》


 奴がそう囁くように言うと。

 目の前で一言も発さなかった奴の気配ががらりと変わる。

 鋭い殺気を放ちながら、奴は拳を構えて――姿が消えた。


 背後から気配を感じる――が、俺は動かない。


 気配が消えて、今度は横から気配を感じる――が、やはり動かない。


 一瞬にしてあらゆる方向から気配を感じる。

 俺はそれを冷静に感じ取りながら――体を前に倒す。


「……!」


 音も無く現れた仮想敵。

 鋭い蹴りであり、俺の体を真っ二つにしようとしていた。

 が、その攻撃は空振りに終わる。

 奴はそのまま、俺の服を掴んできた。

 そうして、そのまま強引に体勢を崩そうとし――俺はあえて力の向きに体を動かす。


 奴はそのまま俺を床に叩きつける。

 衝撃によって空間が大きく揺れた。

 奴は腕から刃のようなものを出し、それで俺の首を突こうとする。

 俺はそんな奴の攻撃を――指で挟んで受け止めた。


「……!」

《次は、どうしますか?》


 俺が敵に問いかける。

 奴は魔力を纏い、身体能力を強化する。

 そうして、無理矢理に刃を抜こうとして――が、抜けない。


 奴は一瞬で力量差を確認し。

 刃をぼきりと追ってから後退する。


 俺は地面を手で叩き、一瞬で立ち上がる。

 すると、敵の体は煙のように消えていく。

 幻では無く本当に煙となったようで、辺り一帯に煙が広がっていく。

 視界不良の中で、俺は小さくため息を零す。


 気配の操作には見覚えがある。

 あのデボラと似た系統の刻印だろうな。

 お次は体を煙と化す刻印であり、中々に多彩な奴だ。


 俺はポケットに手を突っ込む。

 戦うには戦うが――先ずは見定めようか。


 頭を軽く下げる。

 頭上を何かが勢いよく通過。

 今度は体を横にずらす。

 連続して胴体のあった場所を何かが通過する。


 一秒の間に、連続して放たれる不可視の攻撃。

 それらを認識し、体を動かして避けていく。

 魔力を込めてはいない。

 術式頼りの攻撃であり、恐らく此方に攻撃を察知されない為だろうが――甘いな。


 俺は軸足を起点に体を回転させる。

 そうして、そのまま足を引っかけるように背後に立つ敵を転がせる。

 奴は体勢を崩しながらも、片手を床について足から刃を出して攻撃を仕掛けて来た。

 首元を狙った攻撃であり、俺はそれを敢えて受けて――砕く。


「――!」

《魔力の部分的な纏い方ですよ。無駄なく攻撃を防ぐ場合には最適ですよ》


 刃が触れる箇所にだけ分厚く魔力を纏わせる。

 そうする事によって、敵の強化された刃を砕いて見せた。

 奴は驚きながらも、そのまま体を回転させて距離を取る。

 次に何をするのかと観察していれば、煙の中から無数の敵の気配を感じる……“分身”か。


 煙の分身が襲い来る。

 俺はポケットから手を出して、敵のパンチを片手で受け止める……へぇ。


 実体がある。

 ただの煙に魔力を流す事で実体と何ら変わりない質感を与えている。

 良い魔力の使い方であり、煙は腕を半ばから切断し。

 その煙が俺の腕に絡みついてきた。

 ギチギチと縛り付けて拘束し――魔力によって弾き飛ばす。


 その間にも、死角から分身体が迫る。

 目で捉える事無く、両手を動かして敵の連携攻撃を弾き。

 そのまま裏拳にて分身体を吹き飛ばした。

 半ばから体が千切れたそれたは俺の体に纏わりついて来る。

 そうして、鼻と口から煙が中へと入り――体内で暴れまわる。


 内側からでは防御は出来ない。

 鋭利な刃物となり、内側から切り刻んでいた。

 ダメージを少なからず感じながらも、俺は体内にて――“魔術を発動する”。


 風の魔術であり、それらを体内で回転させて煙を集める。

 そうして、そのまま吐息として吐き出す。

 猛烈な勢いで風が吹き荒れて、部屋全体に広がった煙を一気に散らす。

 敵は立っている事もままならずに、壁へと吹き飛ばされた。

 奴は壁に両足をつき、そのまま跳躍し攻撃を仕掛けて来た。


 俺はそんな敵の動きを察知し――血を吐きつける。


「……!」


 敵の顔を隠しているバイザーに血がこびりついた。

 敵は動揺したようであり、攻撃の軌道が僅かにズレる。

 頬を拳が霞めながらも、俺はそんな敵の腹に――拳を叩きこむ。


 敵の体はくの字に曲がり、そのままごろごろと床を転がる……浅いな。

 

 手応えはあまりない。

 魔力を込めてなかったのもあるが。

 あの一瞬で体を煙にし、攻撃の衝撃を殺していた。

 中々の反射速度だと思いつつ、俺は小さく欠伸を掻く。

 すると、スピーカーからカブラギの父親の声が聞こえて来た。


《373――特異刻印の使用を許可する》

「……!」


 奴の声を聞き、敵が両手を広げる。

 すると、その両手から強い光が発せられた――特異刻印だと?


 その光は全身を覆い尽くし――消えた。


 次の瞬間、背中から凄まじい衝撃を感じる。

 俺はそのまま敵がいた方向へと飛び。

 そのまま上へと蹴り飛ばされた。

 天井のライトを吹き飛ばしながらめり込む。

 バラバラと残骸が落下し、俺もそのまま下へと落下して――頬を抉るような拳が飛んできた。


 俺はそのまま壁へと叩きつけられる。

 視線を前へと向ける前に、腹に凄まじい蹴りが見舞われる。

 全身の骨をバラバラにするほどの威力と速度で。

 俺は壁に大きくめり込みながらも、片手を前に向けて――炎を発射する。


 勢いよく噴き上がる青い炎。

 それが敵を焼き尽くさんとするが。

 敵はそれよりも速くに移動する。

 俺は手足を壁から引き抜き、飛んで床に着地した。

 埃を払ってから、目の前でジッと俺を見つめる敵を……あぁ、やっぱりな。


 こいつは人間ではない。

 人間とは比べ物にならないほどの身体能力に。

 特異刻印までその身に宿し、たぐいまれなる戦闘技術を有している。

 等級で言えばダーメ……いや、瞬間的な力ならケーニヒにも匹敵するかもしれねぇ。


 こんなとこで逸材に出会えるなんて思わなかったが。

 そんな奴を殺してもいいなんて言うとはな……どういうつもりだ?


 まるで、目の前の存在が替えの効く消耗品のような言い方だろう。

 間違いなく、アンドロイドではこんな動きは出来ない。

 如何に技術が進歩しようとも、出来る筈が無いと今までの経験で分かる。

 だからこそ、こいつをこんな所で殺して良い筈が無い事は分かるが……しゃねぇか。


 俺は盛大にため息を零し――殺気を放つ。


「……!」

《じゃ、行きますね》


 俺はそういうや否や――奴の眼前に躍り出る。


 奴は咄嗟に俺を攻撃してきた。

 が、本物は既に背後に回っており奴は残像を攻撃した。

 奴の背中に目掛けて拳を振るう。

 俺のパンチは奴の背中を精確に捉えて――奴の体が弾けた。


 光の粒となり四散。

 そのまま奴の腕が俺の腕を掴んで投げ飛ばす。

 俺は転がる前に床に足をつけて滑る。


「――」

 

 奴がぼそりと何かを呟いたかと思えば――頭上に光が無数に現れる。


 それらは槍のようになり、俺の体に降り注ぐ。

 拳で全てを弾いて行けば、床からも槍が出現した。

 一瞬で攻撃の軌道を理解し、体を槍の間を縫うように回避させた。


 ――が、攻撃は終わっていなかった。

 

 槍が強く発光――糸のように細まったそれが俺の体を貫く。

 

 ぐさぐさと体を貫けば、丈夫な筈の戦闘服の繊維をすり抜けて光の糸が体を貫く。


《へぇ》

 

 俺の体を貫くそれら。

 瞬間、どくりと心臓が跳ね上がり、膝を屈してしまう。

 俺の体の神経を狂わせて動きを鈍らせている。

 攻撃の衝撃で埃が舞う中で、奴はそのまま続けて別の魔術を発動する……あれは?


 

 妙な感覚だ。

 床に何かが一気に広がっていき……“冷えた液体”?


 

 ぐねぐねと動きながら、俺の体を一瞬にして上に跳ね上げて全身を包みこんできたそれ。

 中からは液体の表面から蒸気のようなものを発しているように見える。

 露出した顔に触れた瞬間に凍り付いたような感覚を覚えて――あぁ、なるほど。


 理解した瞬間。

 俺の体の周りには何層もの結界が展開された。

 完全に密閉された状態で、俺の体が凍り付いていく。

 耐寒の戦闘服であろうとも関係なしに、全身がカチカチになっていった。

 液体は体に触れただけで蒸発するが、結界の中で液体は無尽蔵に増えていく。

 俺はそんな状況の中でも冷静にこれから何をするのかを考える。


 呼吸は出来ない。

 心臓は止まりかけている。

 冷たいというよりは激しい熱を感じるほどで。

 俺はすぐに対処をした。

 

 取り敢えずは、術式を展開する。

 体全体に強い熱を発しながら、口と鼻からではなく。

 肺の中で直接、空気の生成と排出を行う。

 そうして、俺の体に纏わりつく液体を――体から嫌な音が鳴る。


 予想通り、液体が一気に蒸発し結界内の圧力が高まる。

 めまいや吐き気、神経全てが狂っていく。

 体が今にも破裂しそうであり、たらりと口や目から血が垂れる。

 ただの人間であれば心肺停止は確実であり、一瞬にして死ぬレベルだろう。

 人体を構成する物質の燃焼も起きているようで。

 とにかく苦しい上に、めちゃくちゃに痛いし――えげつない。


 俺は魔力を解放する。

 そうして、全力解放により強引に結界を砕く。

 凄まじい爆発音が鳴り響き、その衝撃が部屋座全体に亀裂を走らせた。

 蒸気が一気に広がっていく。

 

 かなり強力なものだったが、一瞬だけ枷を解けば造作もない。

 俺はそのまま枷をつけ直してから、ゆっくりと床に立つ。


「……?」


 言葉を送ろうとした。が、機械音声が出ない。

 どうやら、チョーカーが故障したようだ。

 俺はため息を零し、術を展開して――背後からの回し蹴りを片手で受け止める。


 鋭い蹴りによって強制的に横へとスライドし。

 視線を向ければ奴は消えていた。

 俺はノイズ混じりの声で俊敏な敵に先ほどの攻撃について賞賛の言葉を送る。


「さっきの術は、良かった……“液体窒素”、ありゃ人間なら、即死級、だな。直前の、光の槍も、一時的に、相手の動きを封じるには、最適だ」


 そんな事を言っている間にも。

 敵は俺の死角から忍び寄って来る。

 気配のする方向とは逆の方向に対して片手を動かす。

 すると、目にも溜まらぬ速さで拳と蹴りによる連続攻撃が放たれた。

 それらを全て、片手で往なしていき――奴が術を発動する。


「……!」


 今度は泥で――いや、沼か。


 床が一瞬にして変化し。

 底なし沼になって、俺の体を鎮めていく。

 沼の中からは、亡者のようなものが出てきて。

 俺の体を拘束し、ずぶずぶと沈めていく。

 腕を振るって弾き飛ばすが、すぐに再生する。


 泥人形によって胸まで沈み――“光が見えた”。

 

 敵が勢いよく上に飛び上がる。

 片足を振りあげており、そこに光が集約している。

 いや、精確に言うのであれば奴そのものが光と化していた。

 俺は眼鏡越しにそんな敵を見つめて――頭に強い衝撃が加わる。


 バキバキと眼鏡が砕け散る。

 そうして、奴の蹴りが俺の頭を砕こうとした。

 嫌な音が響き、意識が一瞬消えそうになった。

 “以前の俺なら”余裕で頭が消し飛ぶほどの衝撃だ。


 俺はにやりと笑う。

 そうして、光と化した奴の足を――“掴んだ”。


「……!」

「同じ、光で、魔力が同一なら、掴める、よなぁ?」


 刻印を起動し、俺の手に魔術を付与する。

 光の性質を付け足せば、手が眩いばかりの光を発する。

 そうして、そのまま勢いよく沼から飛び出す。

 俺はそのまま奴の足を掴んで高速で回転する。

 奴は抵抗する事も出来ない。

 俺はそんな奴を勢いのままに壁へと飛ばす。


 奴はそのまま壁に衝突し、大きくめり込んでいった。

 クッションも意味をなさず、砕けた壁の残骸がパラパラと落ちる。


「かはぁ!」

「まだ、まだぁ!!」


 俺は血反吐を吐いたであろう奴に光の矢を飛ばす。

 奴は避ける事も出来ずに、それで胸を貫かれる。

 死にはしない。が、厄介な煙や光を封じさせてもらう。


 俺は空を蹴り、奴の眼前に躍り出た。

 そのまま、光となった拳をかためて――奴の腹に叩きこむ。


 奴は一瞬で魔力を腹に纏わせていた。

 が、それでも防ぎきれないほどの衝撃によって奴の腹はめきめきと音を立てる。

 俺はそのまま拳をかためてラッシュを叩きこんだ。

 光であり、何百何千何万と数秒の内に叩きこんでいく。


 ゴスゴスゴスと嫌な音が響き渡り。

 壁は更にめり込んでいき、奴はがくがくと体を揺らす。

 俺は笑みを深めながら、それでも攻撃を止めず――奴の体がぐらりと倒れる。

 

 ぱたりとうつぶせの状態で倒れそうになり。

 俺は奴のフードを片手で掴んだ。

 そうして、強引に顔を上げさせながら。

 フードを乱暴に引きちぎる。

 すると、そこには機械の顔があり……いや、違うな。


 これはマスクだ。

 機械に見せるフェイクだろう。

 強引に取ってもいいが、それをしたらどうなるかは分からない。

 

 最低限の加減はしたさ。


『本当ですか?』

『……うるせぇよ』


 鳩野郎が心を読んで茶々を入れて来る。

 が、マジで加減はした。

 相手の力量を計り、何処までなら耐えられるかを見極めて。

 そのギリギリを攻めたからこそ、虫の息ではあるが生きている。

 

 死ぬギリギリのラインであり、俺が治癒を施せば一瞬で傷は治せるが。

 そうすれば、タクミ・カブラギに怪しまれる恐れがある。

 手を抜きすぎても、確実に怪しまれていただろう。

 此処は殺す気でやったように演じるだけでいい。

 そう判断し、俺は敵の頭から手を離す。

 ばたりと今度こそ敵は倒れて、俺は肩を鳴らしながらさっさと帰っていく。


《……トドメは刺さないのですか?》

「普通の悪魔なら、これで、死ぬ……そうだろ?」

《……そうですね……分かりました。お疲れ様です。次の場所へご案内します》

「あいよ」


 奴がそう言うと壁が展開される。

 去り際にちらりと敵だった存在を見れば、相手が出て来た扉が開かれて。

 そこから出て来た研究者たちがぞろぞろと奴に群がっていた……ま、問題ねぇだろう。


 妙な気配の敵に、人がいないのに発動した術式……それに、敵の保有する刻印もか。


 珍しい刻印であり、液体窒素を出すものなんてのは見た事が無いかもしれない。

 光やら沼に関しても、保有しているのはかなりレアだ。

 結界も含めれば五つの刻印を保有している事になるが……何だろうなぁ。


 アンドロイドで刻印を保有しているなんて話は聞いたことが無い。

 いや、そもそもアンドロイド自体が珍しいがな。

 その上に、貴重そうな刻印が四つで……何故に、あぁもあっさりと差し出せるのか。


 貴重な存在である筈なのに。

 殺してもいいなんて発言が出るのはおかしい。

 それほど、俺がマジになって戦う所が見たかったのか。

 データを取る為であれば、多少の代償は仕方ないと……狂ってるなぁ。


 想像以上であり、身震いするほどだ。

 俺は更衣室へと入り、服を着替えようとして……あ?


 ロッカーの中に俺の服は無い。

 代わりに、新しい戦闘服が用意されていた。

 メモのようなものがあり、全ての検査が終わるまではこれを着ているようにと書かれている。

 俺は盛大に舌を鳴らしながらも、言われるがままに着替えていく。

 そうして、鳩野郎は大丈夫なのかと一応聞いておく。


『私は問題ありません。アレは単なる依り代ですので……あぁ、でも。“何かされていますねぇ”』

『何かって……何だよ』

『まぁ、メスで捌いて……ねぇ?』

「……」


 中々にマットな事をされているようだった。

 奴は感覚をリンクさせるかと聞いて来るが。

 俺は絶対にするなと言い聞かせて……いや、そうだな。


『そんな事が出来るんだったら……お前、ちょっと此処を探ってくれよ』

『探る、ですか……分かりました。主様の願いであれば』


 奴はそれだけ言って静かになる。

 早速、仕事に向かったのか。それとも、単に集中しているのか。

 分からないが、今は兎に角、このマッドな研究所での検査とやらを全て終えなければならない。

 不死に至る為というが、俺を調べるだけで本当に可能なのか。

 そして、完璧な兵士を作り出す事で、奴らが目指すべきものとは……不穏だなぁ、おい。


 中々に厄介な風が吹いていると思いながら。

 着替えを終えて、俺はロッカーの扉を閉じる。

 そうして、扉が開かれてニコニコと笑う女性スタッフに導かれるままに。

 俺は次の場所を目指して歩いていった。

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