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【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい  作者: うどん


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88/134

088:祓魔師に出会えた幸運を

 車が静かに停車する。

 扉を開いて外に出て、軽くのびをした。

 すると、ふらふらと車の中から“馬鹿”が出て来る。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……く、そぉ……本当に、人間、かよ」

「……」


 汗まみれでよろよろと車から出るカブラギ。

 アレからずっと攻防が続き。

 本気を出した俺のデコピン攻撃を喰らい続けて額は真っ赤になっていた。

 涙目で歯ぎしりしながら俺を睨む小娘。

 鼻を鳴らしてざまみやがれと思いつつ、俺は目の前の――研究所に目を向けた。


 ゲートを潜り抜けてやって来たのは。

 “新東京”の外側に位置する“カブラギ製薬研究所”と呼ばれる場所で。

 敷地面積はそこそこで、立派な研究棟が建っている。

 運搬に使う機械やトラックに至るまで、綺麗なものであり恐らくは最新のものだろう。

 ゲートを通る時も、運転手のIDカードから網膜スキャンに、指紋やパスコードも要求されていた。

 俺たちも簡易的に調べられたりはしたが、それが終われば中へと通された。

 今、目の前にあるのは、長方形の形をした白い外装の建物で。

 物資運搬用のシャッターゲートが一つと職員たちや外部の人間が出入りする通用口が一つだ。

 敷地内にはカフェテリアらしきものもあり、外で優雅にコーヒーを飲みながらパソコンを叩いている人間たちが見える。


 ……優雅な仕事と、いうよりは……常に仕事をする為って感じか?

 

 カフェでコーヒーを飲みながらでも仕事。

 移動中も端末を弄っている奴らばかりだ。

 誰しもが俺たちには目もくれずに手や足を動かし続けていた。

 日之国の人間たちは勤勉だと聞いていたが、少々度が過ぎているような気もする。

 俺なら発狂もので……いや、あんまり変わらねぇか。


 そんな事を考えながら、目の前の研究棟に視線を戻す。

 窓は一切ない。空調設備らしきものはあるが。

 換気用の窓は無さそうであり、デカい箱が置かれているようなものだ。

 そこが少し不気味であり、胸騒ぎがした。


 そんな時に背後からエンジン音が聞こえた。

 俺はゆっくりと後ろを振り返る……あれ?

 

「……?」

「……荷物はアイツが運んでくれるよ……別に盗りはしないから」


 エンジン音がして振り返れば。

 先ほどまでいた車がゆっくりと動き出していた。

 カブラギは俺を安心させる為に、荷物はホテルに預けてきてくれるのだと教えてくれた……ならいいか。


 カブラギは汗を軽く拭う。

 そうして、先ほどの事はすっかり忘れて。

 先を歩いて俺について来るように視線で促してきた。

 俺は何も言わずにカブラギの後をついていく。

 奴はそのまま通用口に――は、行かなかった。


 奴は全く別の方向に歩いていく。

 何をしているのかと思っていれば、奴は建物の外周を歩いていった。

 俺は不審に思いつつも黙ってついていく。

 すると、丁度影になっている場所でカブラギは足を止めた。

 近くには大きな木が何本も植えられており。

 見れば桃の果実が実っていた。


 美味そうだなぁと思っていれば、カブラギは桃には目もくれずに一本の木の幹に触れる。

 すると、木の皮がスライドし、中からセンサーのようなものが出て来た。

 それがカブラギの体を赤外線でスキャンしていく。


「開けゴマ」

《――承認しました》

「……!」


 日之国の言葉で開けゴマと言ったかと思えば。

 承認したという機械音声が響く。

 そうして、地面の一部がスライドしていって……謎の円筒形の機械が出て来た。


 俺は驚きながら、妙な違和感を抱いて周りをサーチする。

 すると、今のやり取りの間に周りには認識阻害系の術が展開されていた。

 人の気配はまるでしなかった。

 それなのに術が展開されているとはどういう事か。


 隠密に特化した人間が潜伏していたのか。

 それとも、長距離での術式の展開が可能な人間がいるのか……いや、どれも違うな。


 術を行使する範囲内であれば、俺がその人間を察知できない筈が無い。

 よほどの手練れという可能性もあるが。

 術式を発動させた後であれば、特定は難しくはない。

 それでも居場所を割り出せないのであれば、それは十中八九が……カブラギが声を掛けて来る。


「早く乗れよ……僕がいないと、アンタは入れないんだぜ?」

《……分かりました》


 カブラギの言葉に渋々思考を中断する。

 そうして、俺も一緒に円筒形の中に入る。

 すると、扉は自動で閉まり……そうか、これはエレベーターなのか。


 下へと降りていく感覚がした。

 階層が表示されていない上にボタンも無いが。

 これは間違いなくエレベーターであり、地下階層へと向かっている。

 この先にカブラギの父親がいるんだろうと思いながら、俺は――


「……先生は……ランベルト・ヘルダーなんだろう」

「……」

「……無視すんなよ……隠さなくても、僕は知ってる……父さんも、多分、知ってるから会う事を許可したんだと思うよ」


 カブラギは当然のように俺の正体を突き止めていた。

 何時からなのか、そんな問いかけに意味はない。

 カブラギには秘密があり、対魔局に対して強い影響力がある人間が父親であるのなら。

 何時かは辿り着くであろう答えであり、此処で狼狽える事に意味はない。


 否定する事は簡単だ。

 が、こいつの心は既に俺をヘルダーであると信じている。

 こういう人間に対して嘘というものは効果的ではない。


 最も重要なのは俺を知っている事では無く――俺は一瞬にして動く。


「――っ!?」

「……」


 俺はカブラギの両手を拘束する。

 壁に叩きつけながら、奴が逃げられないように足も固定した。

 体を密着させて、息が掛かるような距離で眼鏡越しに奴を睨む。

 カブラギは両目を大きく見開いて喉を鳴らしていた。

 俺は機械音声を止めて、魔術による声で語り掛けた。


「俺がヘルダーだったら……何だ?」

「……何だって……別に、何も……っ!」


 俺は奴を拘束する手に少し力を加えた。

 すると、奴は少しだけ表情を歪める。

 何もない訳が無い。

 何も無いなら、此処で俺がヘルダーかどうか聞く意味なんてない。

 このガキがどうでもいい事を聞くような人間じゃないことはよく知っている。


 俺は少しだけ殺気を放ちながら奴の耳元でささやく。


「その名を、吐くな……その名は、お前が思っているよりも、ずっと……危険で、邪悪を、引き寄せる」

「……っ。だから、何だよ……そんな事で僕は……僕だって、本当はな!?」


 カブラギが何かを言おうとした。

 が、そのタイミングでエレベーターが止まる。

 そうして、開かれた扉の先には――白いスーツの男が立っていた。


「……おや? お邪魔でしたかな」

「……別に……アンタは?」


 俺はカブラギの拘束を解く。

 奴は手首を軽く擦ってから、ゆっくりと姿勢を正す。

 その目は少し怯えがあり、俺に対してのものではない……こいつか。


 狐のような顔をした男だ。

 細まった黒い目に、常に口角を上げている。

 黒髪は短く切り揃えられており、体はそれなりにがっしりとしていた。

 顎には髭が薄く生えており、如何にもダンディを気取っている。

 胸には赤いハンカチを入れていて、研究者というよりは芸能人に近い風貌だ。

 が、首から下げたカードには名前が書かれており――


 

「申し遅れました。私、この研究所の所長をしています――タクミ・カブラギと申します。以後、お見知りおきを」


 

 奴は優雅に一礼し、ウィンクをしてくる。

 俺は胡散臭い動きをするカブラギの父親らしき男をジッと見つめる。

 が、相手方は俺に対して不信感は抱いておらず。

 寧ろ、友好的に接したいとさえ思っているような気がした……なら、いいか。


 俺は警戒心を解く。

 すると、奴は視線を娘の方へと向けた。


「……ハリ。お客様に対して、粗相をしてはいけないとあれほど言ったのだが……理解できなかったか?」

「……っ。ごめんなさい……気を付けます」


 男は微笑んでいるが冷たい目でカブラギを見つめる。

 対して、カブラギは俯き拳を握りながら声を絞り出すように謝罪を口にする。

 

「……よろしい……さて、それではお客様をもてなしましょう。此処は祓魔師にとって最も重要な場所であり……貴方様の知りたい事もきっと知ることが出来るでしょう」

「……」


 奴はくすりと笑う……何だ、今の言い方は?


 知りたい事が知れる。

 それだけ聞けば、俺の目的を理解しているようにも聞こえる。

 が、それは考え過ぎであり、絶対にあり得ない事だと断言できる。

 何故ならば、未来の出来事を知っているのはこの鳩野郎だけで。

 恐らくは、魔王すらもそんな未来の情報は知りえていないと考えられるからだ。

 俺も魔王も知らないのであれば、研究所の所長が知っている筈が無い……いや、そうは言いきれないがな。


 鳩野郎については俺はまだ何も知らないんだ。

 魔王という存在も、他者から聞いただけであり。

 知らない事が多い状況の中では、絶対何て言葉は存在しない。


 ……が、多分。カブラギの父親の発言は……それほど警戒するものではないと思える。


 知りたい事を知れる。

 それはカブラギの父親から見て、俺という存在がどういう事を知りたいのかを考えた結果。

 そうやって出た言葉だろう。

 俺は取り敢えず、そう納得しながら踵を返して歩いていくタクミ・カブラギの後をついていった。


 エレベーターを出れば――“別世界が広がっていた”。


「……!」


 未来的な構造をした空間。

 床を踏めば、勝手に床が動いていく。

 複雑化した迷路のような空間であり、坂になっていたり螺旋状になっていたりしている。

 全ての床が自動で動いており、すれ違う研究者たちには微塵も動揺はない。

 

「「――」」

「……?」

 

 研究者風の男女たちは会話をしながら移動していて。

 目的の部屋の前に止まれば、壁がカメラのシャッタのように動いて研究者たちを中に入れる。

 ガラス張りの部屋もあり、その中では完全防備の研究者が強化ガラスの箱の中の植物に特殊な薬液を垂らしていた。

 すると、その植物の姿は一変し、魔物のような姿となっていく。

 他にも授業でもするように、教師風の男が若い研究者たちに説明をしている。

 まだあるぞ。ロボットが自動で薬の調合をしていたり、番号が割り振られた無数のラットを一つの部屋で管理していたり。


 おおよそ、俺が想像していた製薬研究所とはかけ離れていた。

 いや、それでも俺が知りたいというものはない。

 別に凄まじい研究をしていたとしても、それで一々驚きはしねぇが……ん?


「気になりますか? あれは、今、我々が最も注目している研究でして……“不死の研究”です」

「……」


 タクミ・カブラギが指を鳴らせば床が止まる。

 そうして、ガラス張りの部屋の中を見れば。

 明らかに傷だらけのチンパンジーが一匹そこにいた。

 首輪に手足には鎖が繋がれている。

 ひどい拷問でも受けたような傷であり――床からアームが出現した。


「――!!」


 チンパンジーは機械の駆動音を聞いて暴れ出す。

 タクミ・カブラギはよく見ているように俺に言う。

 黙って見ていれば、ロボットアームの先端から針が出現し――ぶすりとチンパンジーの脳天に突き刺す。


 チンパンジーは大きく口を開けて固まる。

 何かがチンパンジーの体内に注入されて行き……針が抜かれる。


 アームが床に戻っていき、チンパンジーを見つめれば……っ!


 体中の傷が治っていく。

 ひどい傷であったのに一瞬で治癒していた。

 チンパンジーはガバリと顔を上げる。

 そうして、手足の鎖を――引きちぎった。


「――!!!!」

「「……っ!」」

「ふふ、元気でしょう? 薬を投薬するとこうなるんです。自己再生力の強化に加えて、身体能力の向上……まぁ凶暴性もあがるといったところでしょうか」


 チンパンジーはどんどんとガラスを叩く。

 ガラスには罅すら入っていないが、それでも振動だけでどれだけの力が加わっているかは容易に想像できる。

 タクミ・カブラギはぱちりと指を鳴らす。

 すると、チンパンジーの首輪が点滅し――閃光が迸った。


 バリバリと強力な電流が流れる。

 チンパンジーは全身を震わせていた。

 何分も高圧電流を流されて、体が黒く焼き漕げる。

 やがて、電流が収まったかと思えば白目を剥いて泡を噴いてそれは倒れた。

 が、体の傷は一瞬にして再生していた。


 俺ほどではない。

 が、悪魔に匹敵するほどの回復力だ。

 確かにこれほどの再生能力があれば、不死と言っても過言ではない。


「今はまだ、一時的な効果しか得られませんが……何れは、一度の投薬で完全なる不死を実現して見せますよ」

《……何故、不死を目指そうと?》


 俺は機械の電源を入れて、奴に質問した。

 すると、奴はにこりと笑って答える。


 

「完璧な人間を――完全無欠の兵士を作る為ですよ」


 

 完全無欠の兵士を作る、か……途方もない話だ。


 不死であれば、完全無欠化といえば俺は首を横に振る。

 今の俺も、完全無欠何てものでは絶対にない。

 トップクラスの実力を有する悪魔たちでさえも、完全無欠ではない。

 そんなものは何処にも存在しない。

 何かしらに欠点や短所があり、誰かしらに負ける運命を持っている。

 俺だって負ける時はある。それが当たり前だ。


 が、奴の発言からして……大きく出た訳でもなさそうだ。


 不死の研究はその夢への一歩で。

 その先も道は続いているんだろう……が、どうもこの男は信用できない。


 全てを見せているのか。

 態々、上の研究棟では無く此処であったのが証拠となるのか。

 奴の顔からは信用して欲しいという感情がありありと出ていた。

 だからこそ、俺に対して微塵も敵意を抱いていない。


 奴は指を鳴らす。

 すると、再び床は動き出した。

 俺たちは何処かを目指して移動する。

 俺はタクミ・カブラギの背中を見つめながら、ある質問をする。


《何故、今回、私の訪問を許してくれたんですか? ハッキリ言って私は部外者ですが》

「簡単な事です――貴方を必要としていたからです」


 奴はゆっくりと振り返り俺の目を見ながら発言する。

 すると、奴の背後の壁が開かれて部屋の中へと招かれる。

 

 そこは談話室のような内装をしていた。

 適度な観葉植物を配置し、本が詰まった棚などもある。

 壁には絵が飾られていて、人型のロボットが待機している。

 俺たちが入室すれば、壁前面のディスプレイが起動し大自然のような映像を流していた。

 小鳥が囀るような音も聞こえており、中々にリアルだった。

 

 タクミ・カブラギは優雅に手を広げて上等なソファーに座るように促す。

 俺は黙ってそれに従ってソファーに座る。

 カブラギも父親からの無言の圧で、俺の隣に腰かけた。


 俺たちが座れば、ロボットがゆっくりとお茶を入れて俺たちの前に置く。

 温かな湯気を放つ緑茶であり、俺はそれを一瞥し対面に座ったタクミ・カブラギを見つめる。

 奴は両手を組みながら、真面目な顔で“ある願い”を言ってきた。


「貴方に出会えた事はこれ以上ない幸運です――どうか、我々と協力し、不死の研究を完成に導いていただけないでしょうか」

《藪から棒ですね……聞かずとも、私が何者か知っているようですね。誰かさんのように》


 俺はちらりとカブラギを見る。

 すると、奴は気まずそうな顔をしていた……まぁいい。


 これ以上はしらばっくれても意味はない。

 そう悟ったからこそ、具体的にはどうすればいいのかと聞く。

 奴は少し目を見開き「聞いていただけるのですか?」という……ただじゃねぇさ。


《私が協力するんです……“全てを見せると約束してください”》

「……やはり、貴方の目は誤魔化せないようですね……分かりました。全てをお見せすると誓います」


 俺は静かに頷く……言質は取った。


 タクミ・カブラギは指を動かす。

 すると、目の前にディスプレイが投影される。

 そこにはスケジュールのようなものがびっしりと書き込まれていた。


「お互いに時間はないでしょう……色々と慌ただしくはなりますが。何卒、お願いします」

《……お手柔らかに》


 俺は乾いた笑みを零す。

 引き受けた手前、断る事はしない。

 アルメリアに繋がる情報が得られるのであれば、多少の事は目を瞑る。


「それで、先ず初めに基本的な情報を。あぁ座っていて構いません。此方で作業を行うので」

 

 ぞろぞろと入って来る研究員たち。

 どいつもこいつも笑っているが、その目の光は妖しげだ。

 俺はマッドな雰囲気を醸し出すそいつらを見て小さくため息を零した。

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