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【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい  作者: うどん


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82/134

082:黄金を得るは祓魔師(side:ランベルト→ジョーンズ)

 デイヴィ・ジョーンズが空を舞う。

 体全体から漆黒の魔力が漏れ出し空気がケガレに満ちていく。

 常人であれば奴の傍に立つだけで確実に死ぬ。

 並外れたケガレ。そして、底なしの魔力と力だ。


 奴は此方をジッと見つめる。

 そうして、何の予備動作も無く――魔力弾を放った。


 一瞬にして空を覆い尽くすほどの無数の穢れた黒き光を展開。

 その漆黒の星々が勢いよく降り注ぐ。

 雨のようであり、はじき返そうとし――死を感じた。


「――!」

 

 咄嗟に回避行動を取る。

 ギリギリで回避をすれば、それが地上へと当たり――地面が消し飛ぶ。


 一瞬だ。瞬きもない時間で、空間を削りとるように地面の一部が消失した。

 アレは俺が使った魔術に似ており――コピーしたとでもいうのか?


 俺の血を吸い取った事で白い炎に耐性をつけた。

 そして、俺の考えが正しければ奴は俺の保有する刻印の一部もコピーできるようになっているだろう。

 クラーラの特異刻印と似た能力。

 違いがあるとすれば、その完成度もオリジナル以上な事かもしれない。


「……っ!」

 

 奥歯を強く噛む。

 限定的な術の行使で、あれだけの威力だ。

 繊細な扱いと完璧なまでの制御であり、焦りと恐怖が同時にこみ上げる。

 奴はそんな俺の感情を感じ取り、続けて第二波の攻撃を行う。

 今度は先ほど以上の速さと数であり――俺は白い炎を更に強めた。


 全身から炎が噴き出し、口からも吐き出しながら灼熱の如き熱の痛みを感じる。

 極限まで力を高めれば、相手の攻撃の軌道が見えて来る。

 俺は僅かな隙間に体を差し込み、縫うようにして弾幕の中を抜けていく。

 が、全てを回避できる訳ではない。

 一部が僅かに体を掠めて――手足が消し飛ぶ。


「――ッ!」

 

 想像を絶する痛みだ。

 傷口からケガレが入り込み、精神汚染まで感じ取る。

 傷口から遅れて白い炎を噴き出し、傷を一瞬で再生させてケガレを払う。

 が、明らかに一瞬遅れた気がして……まずい。


 空を高速で移動しながら攻撃を回避。

 たらりと汗を流しながら、己と相手の現状での力量差を認識する。


 俺の能力が奴の能力よりも劣っている。

 それ故に、治癒もケガレを払う事も遅れていた。

 それも相手にとっては息をするように簡単な攻撃で――肝が冷える。


「――だから、どうしたッ!!!」

 

 俺は恐怖をかき消すように叫ぶ。

 そうして、更に炎を全身から噴出させる。

 痛みを超える。太陽の如き熱が己の意識を極限まで高める。

 

 全ての攻撃を回避。

 回避、回避、回避回避回避回避回避回避回避――加速。


 一瞬にして互いの間合いを詰める。

 殺気を放ちながら、己が肉体から生成した炎を刀に纏わせる。

 魔力でのコーティングを何重にも重ねて、“光”の術式を組み込み光速での循環。

 眩いばかりの光と全てを消し去る熱が刀身から発せられて――全力で振るう。


 奴は回避も防御もせずにそれを生身で受けた。

 勢いよく奴の肩に触れる。

 そうして、肉を焼く音が響き渡り。

 白き光がケガレそのものとなった奴を祓う――“事は無かった”。


「……ほぉ」

「――!」


 奴が俺を見る。

 感嘆の息を漏らし、肩に僅かに食い込む刀身を指でなぞる。

 危機を感じ距離を取ろうとして――全身に奴のケガレに満ちた魔力の波を浴びる。


「うがあぁぁ!!!?」


 勢いよく吹き飛ぶ。

 全身がケガレに包まれる。

 この世のあらゆる苦痛を感じて、心が深いダメージを訴えて来る。

 

 寒い、痛い、苦しい、辛い、乾き、飢え、熱い――炎が噴き出す。


「はぁ――っ!」


 意識を持ち直し、呼吸を再開する。

 一瞬。ほんの一瞬、あの世が見えた気がした。

 かつてないほどのダメージであり、これ以上は命がもたない。

 

 威力が桁違いだ。

 此方の全力で出せる火力を上回っている。

 何よりも恐ろしいのはあのケガレであり、触れただけで即死級だ。

 

 単純な魔力弾だけでも地上に触れた瞬間に地面が消し飛んでいた。

 アレは威力そのものよりは、ケガレによる死に近い。

 生命エネルギーを奪い、大地そのものが死んだんだ。

 ただの魔力弾が、都市ほどの大きさの地形を殺すほどで――背筋が凍る。


 俺は高速で空を翔けて、奴へと接近する。

 奴は空中で動きを止めていて、俺が浴びせた攻撃の個所を撫でていた。

 一瞬にして、現状で出せるだけの分身を生成する。

 全員が刀を手に持ち、その刃に炎を纏わせていた。

 “光”の術式。そして、“重力”の術式だ。

 更に奴を中心として結界を生み出す。

 俺たちはその結界をすり抜けて、術式を組み合わせた刀を――突き刺す。

 

「――爆ぜろッ!!!!」


 刀を回転させる。

 瞬間、奴の中で刀に組み込んだ重力の術式が解き放たれる。

 奴の体は一気に膨らんでいく。

 それを確認し、俺たちは一瞬にして結界の外へと抜け出して――結界内で凄まじい爆発が発生した。


 奴の持つ魔力と俺の魔力が暴発した。

 その威力は今までの攻撃の比では無い。

 その証拠に永遠のように続く爆発の中で。

 俺たちが全力で展開した結界が次々と破られて行っている。

 その威力は恐らくは、星も殺すほどのものだ。


「これなら、どう――――ッ!」


 嫌な気配を感じた。

 瞬間、分身たちが反射的に俺の前に立つ。

 奴らは自分自身の魔力を全て使い。

 結界を展開する。

 その直後に、奴を封じた結界が破壊される音が聞こえて――――…………



 …………――――意識を戻す。


 途切れた時間は数秒だろう。

 が、確実に死んでいた。

 俺はすぐに空中で姿勢を戻し、奴をサーチする。

 すると、奴は何事も無かったように腕を組んだまま空中で静止していた……冗談、だろ。

 

 アレは傷を再生したのか。

 それとも、膨らんだように見えただけで実際は何とも無かったのか。

 何方にせよ、分かる事は――奴が規格外の存在になっちまったという事だ。


 勝てるヴィジョンが見えない。

 今までの攻防で、手応えを感じた瞬間がまるでない。

 高い壁。いや、空に向かって攻撃しているように――途方もない。


 

 強いな――計り知れないほどに。

 

 あの時の奴とは比べ物にならないほどに――強い。


 

 奴はくすりと笑う。

 瞬間、全身の毛が逆立ち――俺は奴から大きく距離を取った。


 手が震える。

 武者震いだと思いたいが、そうとは思えねぇ。

 俺はたらりと汗を流し、薄く笑みを浮かべる。


 奥の手だと刀を逆手に持ち己が心臓に――突き刺す。


《おおぉぉぉ!!?》

「黙ってろォ!!!」


 ブッチャーが俺を支配しようとする。

 が、逆に俺が奴を支配した。

 頭に響く声は完全に消えて、俺の体はブッチャーと一体化する。

 奴の力が己に加わり、何倍にも力を増幅させた。

 俺は笑みを深めながら、全身から魔力を迸らせて――駆ける。


 一瞬にして奴の前に躍り出て――背後に回る。

 

 奴は俺を目で追えていない。

 そんな奴の背中に拳を――叩きつけた。


 奴の体は一瞬で遥か彼方へと飛び。

 俺は白い炎を噴き出し加速。

 そのまま奴の先に移動し、足で奴の体を地面へと叩き落した。


 奴の体は地面にぶつかる。

 大地が砕けて裂けて、バカでかいクレーターが出来るほどだ。

 大地が大きく揺れている。

 奴の体は地表深くまで沈んでいってしまった。

 俺はそんな奴へと両手を向ける。

 そうして、手の前で白い炎を出現させる。


 一瞬にして膨張と圧縮を何百と繰り返す。

 そうして、高密度の白い炎の塊を奴へと――放つ。


 勢いよく飛んでいった白い炎。

 それは奴が埋まっている穴へと飛び込み――炎の柱が立つ。


 亀裂からも白い炎が噴き出し。

 砂の大地に命が芽吹き、自然が広がっていった。

 星そのものが不安定になっていく。

 膨大な生命エネルギーが、星を強く怒らせていた。

 大地には自然が芽吹くが、至るところで火災が発生し始めた。

 火山は噴火し、星の寿命が凄まじい速度で削れていっていた。


「……此処も長くはもたねぇな」


 俺は周りの状況を確認し。

 白い炎が噴き出す場所を見つめた。

 奴の気配はしない。

 奴の魔力反応も消えている。


 ――が、全く安心できない。


 俺は念には念を入れる為に。

 両手を広げて白い炎を生成。

 それらは円を描くように回転する。

 術式を組み込み、光の性質を組み込む事で恐ろしいほどの速度で回転する。

 炎から耳を傷めるほどの高音が鳴り響き。

 それを俺は全力で穴の中へと放つ。


 それらは穴へと入る前に巨大化する。

 そうして、穴の中にいるであろう奴事地面を一瞬で切り裂いていった。

 二つの回転がぶつかり合い、膨大なエネルギー同士の爆発によって当たりが白一色に染まる。

 眩いばかりの光であり、俺はそれを見つめて――




「もう、終わりか?」

「……っ!」



 

 声が聞こえた。

 それも近くで――背後からだ。


 俺はすぐに振り返り蹴りを放つ。

 が、奴の体は微動だにしない。

 俺はそのまま拳を固めてラッシュを叩きこむ。


 何度も何度も何度も何度も何度も――奴が俺の拳を受け止めた。


「ぐぅ――ッ!!!?」


 奴が力を込めた瞬間に拳が砕けた。

 バキバキと意図も容易く砕かれて。

 俺は何とか蹴りを放つ。

 が、それも受け止められて――バキリと折られた。


 奴は俺を冷たい目で見つめる。

 そうして、小さく呟く。


「なら――もういいか」

「……!」


 奴がそう言葉を発した瞬間――俺の腹に重い一撃が放たれた。


 バキバキと骨が砕け散り、勢いのままに空を飛ぶ。

 腹には風穴が空いていて血や臓物が飛び散る。

 傷は一瞬で再生し――頭にも衝撃を――――…………



 

 …………――――再生した。


 目を開ければ、地面に埋まっていた。

 視線の先では、奴が片手を向けている。

 膨大な魔力によって作られた魔力の塊。

 俺は逃れようとした。が、体は不可視の何かによって拘束されていた。

 

 空気か――いや、これは“呪い”か。


 奴は確実に進化していた。

 以前のアイツの力では俺の自由を奪うほどの高位の呪いなどは扱えていなかった筈だ。

 が、アイツは強力な呪いの力も発現している。

 枷を解いた状態の俺の動きを完全に封じているのだ。


「ぐぅぁぁぁああああああぁぁぁ――ッ!!!!!」


 叫ぶ。強く叫んだ。

 全身から血が噴き出し、皮が裂けて筋肉が露になる。

 力づくであり、最大の力で呪いを解こうとし――奴の手から漆黒の光が放たれた。



「――滅べよ。人間もどき」

「――ッ!!! ッ――――…………」


 

 目の前が黒い光で覆われた。

 それは一瞬にして巨大なものとなり。

 俺の体に触れれば、俺の体は焼かれて行く。

 全身の肉が骨が細胞が、一瞬にして消え去っていく。

 叫ぶ事も出来ず、痛みを感じる間もなく。

 俺は跡形も残す事無く消えていった。


 

 

 俺が最期に見る黒い光――

 

 

 

 

 穢れに満ちて救いの無い死の奔流の中で――――

 


 


 

 俺は、奴を、睨ん、で――――――――――…………………………





  

 ▽▽



 

 ――“此処は、何処だ”?



 

 意識が覚醒する。

 気が付けば、何処か分からない場所で立っていた。

 森の中であり、普通の木々が生えていて小動物が草や木の実を食べている。


 分からない。

 何も分からないが……“此処にいてはいけない気がした”。


 俺にはやるべき事がある。

 俺には成すべきことがある。

 そう思っていて――爆発音が響いた。


「……!」


 凄まじい爆発であり、衝撃が森の木々が大きく震わせた。

 俺は何処からだと空を見て――あっちか!


 黒煙が上がっている方向。

 俺は勢いよく駆けだした。

 いてはいけない、戻らなければならない。

 が、もしかしたら誰がか助けを求めているかもしれない。

 祓魔師として最低限、仕事をしなければならなかった。

 そう思ったからこそ全力で駆けていく。


 走って、走って、走って……辿り着いた。


「……ひでぇな」


 そこは村のようだった。

 ひどい有様であり、建物は全て破壊されていた。

 人間だったものは四肢が吹き飛び炭化している。

 何が起きたのかは分からない。

 が、生きている人間はいないかと村の中を歩いていき――見つけてしまう。


 倒壊した建物の中。

 何かが這い出してきていた。

 俺は咄嗟にそれに駆け寄る。

 そうして、そいつの顔を見て俺は大きく目を見開いた。



 

「……“俺”?」

『……っ……!』


 

 死にかけの状態であり、全身が血まみれだった。

 片手と片足は吹き飛び、今にも燃え尽きそうな体で。

 怯え切った目で前を見つめる俺がいた。


 何故、どうして――まさか、此処は?


 改めて周りを見る。

 が、どうしてか故郷である筈の此処に懐かしさを感じない。


 俺は戸惑いを覚えながらも、改めて自分を見る。

 すると、奴は片手を前へと伸ばしていた。

 そこには何も無い。が、俺は何かを呟きながら必死に手を伸ばしていた。


 何が見えている。

 何がそこにある。

 俺の事は見えていないのか。


 そんな事を考えていれば――俺の手はゆっくりと力なく地面に落ちる。


「おい!? おい!!!」


 俺は自分の体に触れようとした。

 が、俺の手は体をすり抜けていく。

 声を掛けても俺の言葉は届いていない……これは俺の記憶なのか?


 

 そんな事を考えて――“何かの気配を感じた”。


 

「――誰だ!?」


 

 俺は周りを見る。

 が、誰もいなかった。

 そんな筈はない、確かに強大な何かを感じ取って――背後から光を感じた。


 慌てて振り返る。

 すると、俺の体が白い光に包まれていた。

 その光は俺の体を癒していく。

 失った手足を再生させて、傷だらけだった体も元に戻っていく。

 そうして、暫くすれば俺の肉体は完全に回復する。


 ゆっくりと俺が目を開く。

 そうして、何事も無かったように立ち上がった。

 手を開け閉めして感覚を確かめている。

 俺はそんな自分自身の姿に――“違和感を抱く”。


 

 こいつは俺だ。

 

 俺自身の筈だ。

 

 が、俺である筈のこいつからは――“全く同じ気配を感じない”。


 

 こいつは誰だ、こいつは何者だ。

 今の俺は誰なんだ。

 そんな事を考えていれば――“奴が言葉を発した”。


『……この状態は……危険だな。“力を封じて、記憶も消すしかない”……“星が滅び”、“世界が死ぬ”……時が必要だ……失敗は許されない。今度こそ、奴をこの手で――滅する』

「……お前は、一体……俺は、誰なんだ……?」


 俺は目を見開きながら頭を押さえる。

 力を封じる意味は枷の事か。

 記憶を消すとはどういう意味だ。

 俺はこの村の人間で、悪魔に呪いを掛けられて、それで、それで…………あ、れ?


 

 

 妙だった。

 奇妙過ぎるほどに、俺の中の故郷は――“ハリボテだった”。


 

 

 ドラマや映画を見ているように。

 映像として知っているだけで。

 そこに住んでいた記憶も、そこで育んだ時間も。

 全てが偽物であり、他人の記憶で――――俺は、もしかして――“ランベルト・ヘルダーじゃないのか”?


 分からない。

 何も、分からない。

 考えても結果何て出てこない。

 悩んだって問題は解決しない。

 此処で留まっていても、何も起きはしないだろう。


 

 ……でも、一つだけ確かな事はあるさ。


 

 俺は頭から手を離す。

 そうして、掌を静かに見つめた。


「……俺は、ランベルト・ヘルダーって人間じゃなかったのかもしれねぇ……宇宙人か。もしくは、とんでもねぇ怪物だったのかもな……何も分からねぇし、理解だって出来てはいねぇ……でも、それでも――俺は、祓魔師だ」


 人類の希望、悪魔を殺す者。

 名前が無くとも、過去の記憶が無くとも――“俺は、俺だ”ッ!!


『――!!』

『――――ッ!!』

『――っ!?』


 声が聞こえる。

 何を言っているのかはさっぱりだ。

 でも、その声は俺がよく知る人間たちの声だ。

 

「……聞こえるぜ……アイツらの声が……“人間たち”の声が……あぁそうだ。止まっている時間も、悩んでいる暇もねぇよな」


 俺は拳を握りしめる。

 そうして、額に静かに当てて目を閉じる。


 今、こうしている間も。

 仲間たちは戦っている。

 必死になって、命を懸けて全力で悪魔共と戦っていた。

 俺が此処で諦めれば、自分の殻に閉じこもっちまえばどうなるか。


 考えなくたって分かる。

 それは詰みであり、人類の終わりを意味する。

 

 記憶が段々と戻って来る。

 俺は戦っていた。

 あのデイヴィ・ジョーンズとサシで戦って――“殺された”。


 跡形も無く消されて。

 完膚なきまでに負けた。

 今此処にあるのは俺の思念だけで――だから、どうしたよ?


 負けたからなんだ。

 殺されたからどうした。

 一度の敗北、一度の死。

 たかが跡形も無く消されちまっただけだ……舐めるなよ、魚野郎。


 

「ランベルト・ヘルダーは消せない。人類の希望の火は、この程度では潰えやしねぇんだよ」


 

 俺は目を開ける。

 すると、周りの景色は一変した。

 

 村の景色は消えた。

 代わりに、周りは闇に包まれる。

 俺はゆっくりと手の平を天に向けた。


「待ってろ。今すぐ戻るからよ――第二ラウンドといこうや」


 俺は笑みを深める。

 すると、何も感じなかった筈の体から強い熱を感じる。

 凄まじい熱であり、それが全身を駆け巡り――“噴き出す”。


 天へと白き炎が立ち昇る。

 まるで、天翔ける竜であり、それが俺を現世へと戻す道となる。

 俺の体は浮き上がり、吸い込まれるようにその道を辿っていく。


 どんどん速さは上がっていく。

 そうして、闇の先には強い光があった。

 俺は笑みを深めながら、闘志を燃やす。


 仲間たちが戦っているんだ。

 大将が負けたんじゃメンツが立たねぇよな。

 

 クラーラにも愛想をつかされて、ボブには鼻で笑われちまうだろう。

 ゾーヤは俺を負け犬だと罵り、ダテはやれやれと首を横に振る。

 クルトは俺を見損ない、生徒たちは俺の元を離れて――――“あぁ、すげぇ嫌だな”。


 過去の事なんかどうでもいい。

 真実らしきものを知っても、俺は立ち治れた。

 が、仲間たちやガキ共の事を考えると――無性に腹が立つ。


 俺が持っているもの全て。

 俺が幸せだと感じたもの全部。

 失っていいと思えるような価値なんかじゃねぇんだよ。


 アイツらの事が――俺はめっぽう好きらしい。

 

 クソほど雑で、クソほどこき使い。

 ぎゃぎゃあと喚いて、死ぬほど面倒で。

 軽くしごいてやれば、文句も言われるし思う様にいかない。

 手間であり、無駄であり、仕事だと思っていたが――“あぁ、好きだね”!


 好きだ。好きに決まっている。

 アイツらは俺の幸せだ。

 アイツらにやった時間は無駄じゃねぇ。

 アイツらが見せてくれた事は全部、俺を幸せにしてくれた。


 

 

 それでいい。それさえありゃ――“十分だろ”?

 

 

「過去何てどうだっていいさぁ!! 俺は俺だ!! 今を全力で生きてる!!! そんな俺から幸せを奪う奴らは許せねぇ!! 悪魔だろうと魔王だろうと!! この手でぶっ殺してやる!!! 俺は祓魔師で、教師で――最強だァァッ!!!!」


 


 馬鹿みたいに笑い、馬鹿みたいな事を叫ぶ。

 闇の世界に俺の笑い声が響き渡る。

 瞬間、光は強くなり全身に力が漲っていき――――…………



 〇〇



 ……終わっちまった。


 人類最強の男、魔王を封印せし存在。

 唯一無二であり、全ての世界の――“王たるモノ”。


 そんな存在を跡形も無く消し去った。

 そこには巨大な穴が出来ている。

 間もなく、この名も無き星は死に絶えるだろう。

 アイツの墓場になったが、それすらも残りはしない。


 もしも、“記憶があり”……“力を完全なもの”にしていれば……いや、考えても仕方がねぇな。


 肉片一つ無く消えたんだ。

 再生する事も、蘇る事も無い。

 俺は小さく息を吐く。

 そうして、この力を魔王様の元に……いや、その前に、掃除が先か。


 少なくとも、礼はしておこう。

 俺の計画の助けをしてくれたんだ。

 そんな奴らに対して敬意を表して俺自らの手で屠ってやろう。

 それが死んだあの男への手向けにもなる。


「……出会いが違っていれば、か……こんな体で生まれちまった不幸を呪っていたが……お前だけが俺に生を感じさせてくたってのによ……残念だ」


 

 俺はそう呟き、地球へと戻ろうと――ッ!!!


 

 全身の皮膚が痙攣した。

 何だ、何が――視線を大地に向ける。


 

 黒く染まった大地。

 視界に映る全てが黒に染まっている中で――小さな白い光が見えた。


 

 豆粒ほどの光。

 が、それは瞬く間に大きくなり――“生まれた”。



「――ッ!!!!?」

「……」



 黄金が――空を舞う。


 

 黄金色のそれは魔力か。

 いや、違う。もっと神秘に満ち、根源にあるものだ。

 悪魔である俺がアレに救いを感じた。

 清らかで力に満ち、美しく――命を感じた。


 ケガレに満ちた世界に命が宿る。

 破壊された大地が蘇り、荒れ果てた世界に色が戻っていく。

 星の怒りが鎮められて、終わりが遠のき時間が――巻き戻っていく。


 破壊を修復し、乱れを正す。

 中心にて立つその存在は、何処までも真っすぐで。

 どんな存在よりも確かにそこにあり――“あぁ、正しかった”。


 魔王様の考えは正しかった。

 あの方を倒し、あの方の力を削ぎ、あの方をこの世界に封じ込めた存在。

 俺は訝しんだ。果たして、それは真実なのか……今、確信した。



 

 全ての世界の王は――“実在した”。



 

「……」

 

 深淵の如き暗き色の髪が長く背中まで伸び。

 黒き装束は形を変えて王たるものの装束に至る。

 白く輝きしマントは不浄を祓い、命を宿し威風堂々とたなびいていた。

 その手には透明な刃の短剣と長剣が握られている。

 か細く折れてしまいそうなほどの嫋やかで――が、どんなものより力に満ちていた。

 

 奴の周りが透明な炎で満ちている。

 それらは全て命であり魂であり、耳を澄ませば歌っているように感じた。

 その微かに響く歌声が、時を巻き戻しているとでもいうのか。

 黄金の神秘がハラハラと舞う中で、奴は静かに目を開けた。


 

 

 見開かれたその双眸は――黄金であった。


 

「黄金の瞳――――あぁ、そうだな。お前なら、そうするよな――あのお方と同じ存在だからなァ!!!」



 

 俺は歓喜に打ち震える。

 まだ終わりじゃない。まだ始まってすらいなかった。

 ワクワクも、感動も――これからじゃねぇか!!


 俺は全身から漆黒の魔力を迸らせる。

 星を蘇らせても意味は無い。

 何度でも殺してやる。

 何度でもこのケガレで終わらせる。


 

 星も、お前も――さぁ、存分に殺し合おうッ!!!


 

 奴は剣を静かに振るう。

 炎が揺れ動き、黄金の粒子が剣に纏われる。



 

「――Sehet(見よ、), |jetzt ist die angenehme Zeit《今は恵みの時、》, |jetzt ist der Tag des Heils《今は救いの日である》」




 奴が祈る。

 姿なき神に――いや、己自身に。


 俺は空を翔ける。

 そうして、手に出現させた禍々しいサーベルを全力で振るう。

 奴はその攻撃を剣で受け止めて――互いの力がぶつかり合う。


 黒と白がぶつかり合う。

 互いを喰らい、互いを殺し。

 互いの存在を押し付け合う。

 力は拮抗し、俺は先ほどよりも遥かに成長した奴に歓喜する。


「ヘルダーッ!!!!!!!」

「……」


 俺は叫ぶ。

 全力で楽しむ。

 今だけは魔王様の事は考えない。

 それは不要であり、今この瞬間だけは――“俺のもの”だ。

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