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【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい  作者: うどん


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81/134

081:祓魔師への愛(side:クラーラ)

 迫り来る敵の影。

 魔物が口を開き獲物を喰らおうとする。

 銃口を向けて弾丸を―放つ。


 マシンガンの弾を呑み込み体が穴だらけになり。

 肉片となったそれが海を穢す。

 船へと殺到する景物共を屠れば、悪魔たちが術を行使した。

 その動きを察知して、空を蹴りつけてそこから飛ぶ。


 炎の塊が飛び、水の弾丸が放たれる。

 風の刃に、高圧電流。

 初歩的な魔術で、上級程度の悪魔の攻撃だ。

 が、数が多すぎるからこそ――鬱陶しい。


「消えろッ!!」

「「「アアアアァァァ――ッ!!!?」」」


 両手の銃口を向けてガラガラと弾丸をばらまく。

 練り上げた魔力を込めれば、弾丸は通常の弾丸の何十倍もの速さで空を翔けた。

 無数の蒼い光の線が蛆のように湧くゴミたちをバラバラにする。

 空では血潮が舞い、肉片がぼとぼとと海に落ち――怖気が走る。

 

「――!」

 

 

 目の前に躍り出る悪魔――デイヴィ・ジョーンズだ。


 

「はははは!!!」

「クゥ――ッ!!!!」

 

 重い一撃が叩きこまれる。

 咄嗟にガードをしたが、腕がべきりと折れ曲がり。

 そのまま空から海へと叩きつけられた。

 それでも止まる事無く海中に沈んでいき――無数の殺気を感じた。

 

「――ッ!!!」

 

 途轍もない速さで水中を移動し。

 一瞬にして迫ってきては乱撃を行ってくる。

 魔力を纏わせて防御をするも、そんなガードを易々と突破してくる。

 全身の骨が砕けて、皮膚が裂けて出血する。

 海水が傷口の痛みを増幅させるが。

 絶え間なく浴びせられる攻撃によって意識が飛びそうになる。

 

 魔力の消耗が激しい。

 連戦に継ぐ連戦で、もう――奴らが吹き飛ぶ。


 海に飛び込んできた白き光。

 それらが私を襲った奴らを一瞬にしてバラバラにした。

 白い炎は海の中でも消える事が無く。

 傷ついた私の体を癒し、その手は海の底から私を上へと連れて行ってくれた。


 水柱を上げながら、海中から飛び出る。

 そうして、呼吸を再開してから私を助けてくれた人に声を掛ける。

 

「――ダーリン!」

「油断するなッ!!」


 ダーリンが手を離す。

 私は頷き空を翔けた。


 ダーリンは白い炎を纏って敵陣に飛び込む。

 その手には魔力の糸を操るグローブ型の聖刃が嵌められていた。

 デイヴィ・ジョーンズとぶつかり数秒の間に激しい攻防が起きる。

 残像が発生していて、今の私ではその動きは捉えきれない。

 

 勝負は一瞬だ。

 瞬きを終える頃には、ダーリンは奴らの体を細切れにしていた。

 そのまま、死体を見る事無くダーリンは別の敵へと向かっていった。

 

 奴らは最期までケタケタと笑っていた。

 そうして、そのまま液体となり海に消えていく……でも、まだだ。


 ダーリンは強い。

 時間が経つにつれてその力は増していっていた。

 奴らは数こそ多いものの、ダーリンの分身を倒せるほどの力は無い。

 十体二十体であろうとも、ダーリンの分身は負けないだろう。

 しかし、奴らの数は尋常じゃない。


 殺しても殺しても、次から次へと分身が作られていく。

 まるで、永久機関でもあるかのように力を使う魔力に底が見えない。

 

 ――“奴らの本体は何処に行った”?

 

 一瞬だ。ほんの一瞬、ダーリンと共に何処かに消えた気がしたが。

 あの一瞬で何処まで行ったというのか。


 オリジナルがいない中で、ずっと能力を行使するなんてダーリンでもない限り出来る筈が無い。

 私も力を使い続ければガス欠を起こすというのに……何か仕掛けがある筈だ。


 私は空を翔けながら、辺りをサーチした。

 あの女ほどのサーチ能力は無くとも。

 私でも周囲の状況を探るくらいの事は出来る……でも、やっぱり駄目だ。


 分身の気配しか感じない。

 おかしい点は何一つとしてない。

 でも、確実に奴の魔力には秘密があり――待って?


 無尽蔵の魔力、本体が離れた状態で分身を生み出し続ける方法――まさか!


 私は水柱に満ちあげられる要救助者たちを見つめる。

 すると、僅かにだが彼らが苦しんでいるような動きを見せている事に気づく。

 既に儀式が完了してしまい、もう用済みである筈のあの人たちは――“生命エネルギーを奪われている”。


 命を削る事で莫大な魔力を生成し。

 オリジナルでなくとも、魔力を供給し続けられるのであれば――アイツは!?


 私は気づいた。

 だからこそ、分身たちの包囲を突破し。

 そのまま歌を歌い続けているあの男の元へ向かう。

 船へと一気に近づき、私はずっと歌を歌う奴に声を掛けた。

 奴は汗をだらだらと流しながらもにかりと笑う……やっぱり!


 儀式に必要となる666人の人間たち。

 そこにこいつが含まれていたのであれば、こいつにも繋がりが出来てしまっている。

 必要以上に魔力を消耗して疲れ切っているのがその証拠だ。

 こいつの事は嫌でも知っているから分かる。

 テレビをつければそこにいて、街を歩けば話が耳に届く。

 

 ぶっ通しで歌い続けられるほどの男がこの程度の時間で疲れを表す筈が無い。

 私は考えるよりも早くに、奴の前に立ち――胸を貫く。


「――ッ!?」

「我慢して――よし」


 奴の胸を貫き、そのまま奴の中に埋め込まれた術式を解く。

 そのまま胸にさした手を引き抜けば、私の細胞によってダテの体は元通りになる。

 ダテは体の状態を一瞬確かめて、そのままニカりと笑い歌を歌い続けた。

 痛みはあった。確実に歌なんて歌える状態じゃなかった。

 それでも歌を止めない姿は……少し尊敬の念を覚える。


 奴の歌のお陰で、私たちは助かっている。

 ジョーンズの分身を含めて、敵たちは動きに纏まりがない。

 一方で此方は意識を極限まで高めて、船への攻撃を仕掛ける存在の排除に徹していた。

 防戦一方ではあるけど、恐らく、まだ誰も死んではいない。


 疲労は感じず、傷の再生も早くなり。

 何時もよりも身軽な体で戦場を舞えている。

 これはダテのお陰であり――今度は私だ。


 私はダテの前から飛ぶ。

 そうして、船の先端に立ち戦場を見つめる。


「スゥ――」


 静かに呼吸をする。

 臭い。火薬や血の臭いしかしない――“戦場の臭い”だ。


 悪魔たちが笑いながら攻撃を仕掛けている。

 それを結界で防ぎながら、祓魔師たちも魔術や魔力による攻撃を行う。

 砲身からはけたたましい音が鳴り響き、耐えず空へと攻撃が行われていた。

 海の中には無数の魔物が蠢いていて、ボブが自らの肉体を強化し蹴散らしていた。

 ゾーヤもデイヴィ・ジョーンズの分身と戦っている。

 アイツの剣は防御不可能であり、暗殺に向いている。

 ダーリンが一瞬でも気を逸らした個体をアイツが一瞬で滅している。

 良い連携であり、嫉妬してしまいそうなほどだ。


 

 私だ――“私はまだ、役に立てていない”。


 

 この戦場にいるケーニヒの中で。

 私が最も、活躍が出来ていなかった。

 それがつまり、ダーリンの期待に応えられていない事を指す。

 最悪の場合、私はダーリンに失望されて離婚になってしまうだろう……そんなのは嫌。


 

 私はケーニヒだ。

 そして、ダーリンの――“妻でもある”。


 

 あの人の隣に立つ女であり。

 あの人の期待を最も受ける立場であり。

 あの人の役に立つ事こそが――“私の存在理由”だ。


「――ダーリン」

 

 無数の音を聞きながら、私はポケットから箱を出す。

 それを開けば、中にはダーリンとのエンゲージリングが入っていた。

 私はそれを取り出し、邪魔なケースは投げ捨てる。


 指輪を静かに指へと嵌めた。

 そうすれば、ドクリと心臓が強く鼓動した。


 

 ドッドッドッドッドッド――あぁ熱い。


 熱い、熱い、熱い、熱い――身を焦がす熱を体の内側から感じる。


 血が、魔力が、想いが――激しく巡っていく。

 

 

「――!」

 

 

 心が昂り、全身の血が沸騰する。

 そうして、私の体から“電気”が放出されて行く。

 バチバチと激しくスパークし、私の体は戦いに特化した形態へと変わっていく。

 歯は鋭くなり、爪は伸びて硬くなる。

 手足の筋肉の密度があがり、髪の毛が長くなっていった。

 眼球を通して見える世界が鮮明になり、遥か遠くの存在すらもハッキリと見えた。

 

 伸び続ける髪。

 それが人の形を成していき、瞬く間に百を超える私を生み出す。

 私たちはどれもが本物であり、その心にはダーリンへの愛しかない。

 例え戦いの終わりに殺し合いがあったとしても、この瞬間だけは誰よりも心強い――仲間になる。


 

 私はゆっくりと手を甲板につく。

 触れただけで頑丈な筈の甲板に罅が入る。

 そうして、獣のような姿勢を作りながら――叫ぶ。


 

 

「――――――ッ!!!!!!!!!!!!」

「「「……っ!?」」」

 

 

 

 空間を震わせるほどの叫び。

 一瞬だけ全ての命が動きを止めた。

 私はそのまま甲板を蹴り上げて、宙を勢いよく駆け抜ける。

 

 景色が一瞬で流れた。

 瞬間移動、それに近しい動き。

 意識が、目が――適応している。

 

「――獣がァァァ!!!!」

 

 デイヴィ・ジョーンズの分身たちが行く手を防ぐ。

 巨大な魔力を全身から放ちながら、サーベルを突き出汁――蹴散らす。


「ああぁぁ!!?」

「――ッ!」

 

 暴力だ。

 理不尽なまでの力で――殺し尽くす。


 すれ違うだけで、敵たちは肉塊と化す。

 爪で引き裂き、牙で噛み殺す。

 邪魔をする全てを破壊する。


 目の前は真っ赤に染まり。

 全身が返り血に塗れる。

 不快な臭いで、気持ちの悪い感触だ。


 嫌で嫌で堪らない。

 ゴキブリよりも醜く。

 糞尿よりも穢れていて――怒りが噴き上がる。


「――――ッ!!!!!!!!」


 獣となり叫ぶ。

 人間ではない。今この瞬間に私は殺意と怒りに染まる獣と化す。

 

 奴らは私への警戒度を跳ね上げて群れを成して襲い来る。

 視界が敵で覆われて、何処にも逃げ場はない。

 

 が、どれだけの数を用意しても――意味は無い。


 全てを屠る。

 暴力となり、嵐となり、全てをなぎ倒す。

 

 

 殺して、殺して、殺して殺して殺して殺し殺し殺し殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺――皆殺しだッ!!!!

 

 

 雷が降り注ぎ、体を貫く――が、逆にその力を取り込む。


 竜巻を発生させて、それを私へとぶつける――魔力の解放により吹き飛ばす。


 傷つき、再生し。

 穴が空き、再生し。

 膨大な魔力を使い、喰らって補給する。


 目に映るものは全て敵だ。

 敵であり――餌である

 

「ひぃああああぁぁ!!!?」

「――――ッ!!」


 視界に映った悪魔。

 此方を見て覚えるそいつの頭を――噛み砕く。


 ガリガリと骨ごと咀嚼し飲み込む。

 臭い、まずい、吐きそうだ。

 食べられたものじゃない、こんなの食べたくない。

 

 でも、この体は欲していた。

 血を、肉を。

 力となるのの全てを――まだだ、まだまだ――“喰らえる”。 

 

 多くの悪魔や魔物を喰らい。

 体が更なる成長を遂げていく。

 背中から羽が生えて、より高速で空を翔ける。

 風を置き去りにし、餌を喰らい尽くしていく。


 ジョーンズの影を感じた。

 視線を向ければ、奴がサーベルを天に掲げていた。

 

「舐めるなァァァ!!!!」

「――!」

 

 突如、巨大な水の塊が奴の頭上に出現する。

 軌道を変えようとするが、一瞬でそれが私を包み込む。

 その中では激しい水流によって渦が発生し。

 私の体を引き裂こうとした。

 

 動けない――動かない。

 

 渦の中には魔物が出現し、その鋭利な牙によって私の服事肉体を引き裂いていく。

 血が噴き出し、水の中は赤に染まり。

 羽は食いちぎられて、体がずたずたになり――私は叫んだ。


「――――ッ!!!!!!!」


 体から発せられるスパーク。

 辺り一帯が強い光に満ちて。

 水の中を泳いでいた魔物たちは蒸発し、水ですらも消し飛んだ。

 ジョーンズの分身体たちが四方から迫り、私の体をサーベルで貫く。

 気持ちの悪い顔で奴らはにやりと笑い――奴らの体を引き裂く。


 爪で引きちぎり、呆然とする奴の顔に噛みついた。

 そうして、そのまま頭事噛みちぎる。

 奴の肉体を咀嚼し飲みこみ――取り込む。


 傷が一瞬で再生する。

 体が急激に変化し、エラや水かきが出来た。

 私はそのまま海へと飛び込み――海の中を泳いでいく。


 空を翔けるよりも速い。

 水中に適した進化、敵の力の解析。

 それにより、奴らですらも追いつけない速度を実現させる。


 私はそのまま水中を泳ぎ。

 水柱を駆け上がり――要救助者を救出する。


「……!」


 奴らが驚いていた。

 理性の無い獣だと思ったか――間抜けだな。


 他の分身たちも要救助者を救出していた。

 ダーリンの分身たちは呆気に取られている奴らを殲滅していった。


 一気に半分近くの人間を救い出せば。

 明らかに分身たちの出現が遅くなる。

 ケーニヒたちはそんな敵たちの動きを敏感に察知して。

 防戦から一転し攻撃を仕掛けていた。


 一気に分身たちが消されて行く。

 そんな奴らの隙をついて私は他の要救助者たちも救出し――船に飛び乗る。


 生成した膜から解放し。

 全員の体の中に髪を突き刺す。


「――ッ――――…………っ」

 

 一瞬、引きつった顔をした。

 術式を解き、髪を抜けば傷は癒える。

 

 顔色も良くなっていた。

 戦場を見れば、デイヴィ・ジョーンズの分身はほとんど消えていた。

 悪魔たちは劣勢であると認識し、明らかに焦っていた。

 中には逃げ出す奴らもいて……此処は、大丈夫だね。


 

「……っ!」


 

 ――“タイムリミットだ”。


 

 全身から力が抜けていく。

 蒸気のようなものが出て、体がしぼんでいく。

 大きくなった体は元のサイズに戻っていった。

 筋肉も元に戻り、悪魔たちの血肉による肉体の変化もなくなっていった。


「……っ……はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 眩暈のようなものを感じて体を揺らす。

 が、何とか持ちこたえて呼吸を整えようとした。


 震える手をあげる。

 そうして、キラキラと輝く指を見つめる。


「……ダーリン、私……役に立てたかな?」


 小さく笑う。

 そうして、奴と共に消えたダーリンを思う。


 大丈夫。

 ダーリンは強いんだ。

 あんな魚に負ける筈が無い。


 世界で一番強くて、世界で一番頼りになって。

 世界で一番――私が愛している人なんだから。


 私はゆっくりと指輪を見つめる。

 そうして、拳を握りしめてまた戦場へ戻る。


 私は信じている。

 誰よりもあの人の事を。

 だから、私たちはあの人の為に――帰るべき場所を守るんだ。

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