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【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい  作者: うどん


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073:祓魔師たちに託されし任務

 教師生活にも慣れてきて、悪魔殺しも熟していたが。

 学生には最も重要で、最も素晴らしいイベントがあった。

 それは長期休みである――“夏休み”だ。


 奴らは三日前からそわそわとしていた。

 そうして、夏休みに入る前の最期の終業式。

 全ての予定を消化し切れば、喝さいを上げて家に帰っていた。

 何故か、ヤンからは母親も同伴で旅行にでも出かけないかと誘われたり。

 エゴンからは秘密の特訓が待っているだと言われる始末……何考えてんだよ。


 ヤンには仕事があるから無理と断りを入れて。

 エゴンには特別メニューになるかは分からなかったが。

 取り敢えず、夏休みが終わるまでに更に肉体を鍛え上げて拳を強化するように言いつけて置いた。

 アデリナはそんな俺たちを見て諦めたように深いため息を零して去っていった……悪いな。


 俺は教師だ。

 夏休み期間中も本来であれば仕事が待っている……が、今回はそちらにかまけていられない。


 本部から直々に仕事が舞い込んできた。

 それは急を要する仕事であり。

 今、世界中で起きている“悪魔事件”が関係している。


 神隠し。又は、霧のランプなどと呼ばれているが……簡単に言えば失踪事件だ。


 世界中で一夜にして多くの人間が行方知れずになっている。

 規則性は無く、女も子供も老人も連れて行かれているらしい。

 既に失踪者の数は一月で百人を超えており、このままでは被害が拡大する事を恐れた上層部が。

 俺にこの件を任せる事を議会で決めて、すぐに俺のところに指令が来たという事だ。


 この件については、実は少し前に知っていた。

 それは食王から得た情報が関係している。


 あの後、暇な時間を見つけて実際に会いに行った。

 すると、そこにはジン・カワシタの弟子はおらず。

 彼を知っている人間に偶然話を聞けば……ある日、突然、姿を消したらしい。


 彼の行方は誰も知らず。

 悪魔事件に関わっているじゃないかとも聞いていたが……まさか、まさかだったな。


 一応は、調査隊が調べた情報には目を通していた。

 失踪者の家などを調べた結果、“謎の火の玉”に襲われたという人間が何名かいた。

 体を調べた結果、手足などに黒い模様が浮かび上がっており。

 すぐにその火の玉の正体が“スークヤント”だと断定した。

 スークヤンとは魔物であり、日中は女の姿に化けて人に紛れているが。

 夜になれば、人の血を吸う為に皮を脱ぎ捨てて民家に侵入する。

 

 主にカリブで名が知れている存在であり。

 残された痕跡から、カリブ海に面した土地に根付いた存在を疑っている。

 魔物が関係しているのであれば、悪魔の仕業だろう。

 それも手口が巧妙な上に、精確な場所まで突き止められないのであれば……ネームド。それも、かなりの存在だな。


 カリブ海といえば海賊だが。

 古い時代から存在する“大物の悪魔”が存在する。

 奴とは戦った事があり、何度も逃がしている。

 判断が早く、不利だと分かればすぐに逃げるクソ悪魔だ。

 それに加えて臆病なほどに慎重で。

 俺がいると分かれば絶対に表には出てこないだろう。


 ……まだ、奴が主犯とは決まっていねぇが……可能性は大いにある。


 そんな事を考えながら、用意を済ませて家を出る。

 何故か、家を出ればカブラギの野郎が突っ立っていやがったがな。

 忙しいからと無視をすれば勝手についてきて。

 流石に空港までは連れて行けないからと足を止めて質問はした。

 すると、奴の父親からの命令で俺の事をもっと観察するように言われたらしい。


 はた迷惑な話だ。

 絶対に嫌であり、俺は奴を気絶させようかとも思った。

 が、奴はすぐに危険を察して鞄から何かの紙切れを出した。

 何だと思いながら見れば、それは祓魔師の仕事に同行を許可するというもので。

 奴は何故か、上層部に掛け合って俺の任務に同行する事を取り付けて来たらしい。


 同行によって命を落としたとしても御咎めなし。

 完全なる自己責任の下での同行であり。

 こいつの親父は超がつくほどのサイコパスではないかと思った……まぁそれ以外も感じたけどな。


 俺はこの時、カブラギの父親と言う存在がひどく不気味に思えた。

 恐らく、上層部は俺の正体については明かしていないだろう。

 しかし、明かさなかったとしても奴の父親の頼みを断れなかったということだ。

 それはつまり、カブラギの父親がかなりの影響力を持つ存在ということで……俺は舌を鳴らす。


 上が決めたのなら仕方がない。

 俺は邪魔はしないようにとだけ伝えて。

 そのまま仲間たちと合流し、飛行機に乗り込んで――“カガナ”へとやって来た。


 荷物を受け取り外へと出れば。

 タクシーなどが待機していて、旅行客や現地民が入り乱れていた。

 プラカードを掲げるガイドや立ち話をする警官たち。

 天気は晴れであり、少し蒸し暑いほどに感じる。

 

「……」

「あっちぃなぁ」

「ダーリン。ペットボトル冷やしておいたよ……えい」

「……鍛錬日和。丁度いい」

「……アンタら、緊張感無いな」


 ボブとクラーラとゾーヤ。

 それぞれが旅行客に扮したラフな服装をしている。

 俺も旅行客として青いアロハシャツと白いズボンに麦わら帽子とサングラスを支給されたが……これ、違くね?


 完全に場違いな装いであり、ジロジロと現地民に見られている。

 俺は眉を顰めながらクラーラが押し付けて来る冷えたペットボトルを押しのけた。

 そうして、時間も無いからと先にホテルのチェックインを済ませて荷物を下ろし。

 それが終われば、先ずは聞き込みなどをそれぞれが別れて始めるように指示を出す。

 ボブを筆頭に返事を返してきて、奴らは荷物を持ってタクシーに乗り込んでいった。

 だらだらと動いているように見えているカブラギ。

 奴は俺たちから何かを学びたいんだろうが……まぁいいさ。


 祓魔師として必要な経験かもしれない。

 実際に起きる悪魔事件の調査なども任される事はある。

 それは調査隊にて調べる事が危険だと判断された場合であり。

 これから嫌でも危険な目に這うだろうが……ま、心配はそんなにしてねぇけど。


 カブラギの実力はかなりのものだ。

 並大抵の悪魔であれば問題ないだろう。

 恐怖の克服に関してもすぐに出来ていたしな。

 俺はそんな事を思いつつ、運転手に荷物を預けて俺もタクシーへと乗り込んだ。


 

 ◇

 


 ホテルへのチェックインを済ませた。

 荷物を置いてきて、早速、俺は聞きこみを開始した。

 先ずは、カガナで活動をしている現地の祓魔師から話を聞いてきた。

 その結果、思っていた通りスークヤントを“あまり見かけなくなった”と言っていた。


 カリブであれば、スークヤントの目撃情報はそれなりにあるだろう。

 アレは脅威度としては低く、現地民たちにとっては蚊が大きくなったようなものだと認識しているらしい。

 まぁそれでも魔物は魔物であり。

 立派に駆除対象ではあるが、奴らは人間に擬態する力を持っている上に。

 活動する時間は夜限定とされていた。

 数はそれなりに多く、見つけ次第、祓ってはいるらしいがカガナでも被害は多かったらしい。


 対処法としては、古い言い伝えで米やマメなどを撒いておく事がある。

 奴らは擬態は上手いが知能は低い。

 故に、そういったものに気を取られてそこに留まり。

 見つかって祓魔師によって祓われるのがお決まりだった。


 ……が、最近はスークヤントの目撃情報は少ない、と。


 人攫いに関連しているのだろう。

 そう思いながら、俺たちは次の聞き込みに向かった。


 次に接触したのは、カリブの魔物や悪魔に詳しい専門家で。

 事前にアポを取っていれば話を聞く時間を設けてくれた。

 彼に話を聞けば、要らない情報もべらべらと貰ってしまったが……有力な情報も手に入れた。


《君は、デイヴィ・ジョーンズの監獄を知っているかな?》


 デイヴィ・ジョーンズ――正に、俺が主犯として怪しんでいる大物悪魔の名だ。


 奴の歴史は古く。

 海賊が存在した時代から奴は生きていた。

 カリブ海だけでなく、世界中の海にて活動していたらしく。

 海難事故を装って船を襲撃し、多くの人間を捕まえては喰らってきた。

 堕天使には至っていないものの、それに準ずる強さを持っていると言ってもいい。

 厄介な奴であり、嫌に知恵の回る悪魔だ。


 そんな奴の話を聞かされたが。

 俺の知らない事を専門家の男は知っていた。

 何でも、デイヴィ・ジョーンズは海の底にて監獄を作っているらしい。

 それも、海難事故などで行方不明になった人間たちを収容する為の監獄で。

 そこでは日夜、何かしらの儀式が行われているようだと彼は言っていた。


 ただの噂話でも伝承でもなく。

 彼が独自に調べた資料を見せてもらたが……信ぴょう性は高いだろう。


 デイヴィ・ジョーンズの出現場所。

 そして、行方不明になった人間たちの共通点。

 海難事故で生き残った人間たちからの聞き込みなど。

 そこから彼が調べて行けば、儀式に関しても幾つか見当がついていたようだった。


《儀式そのものは単純だと思うよ。紅き月、悪魔たちが本来の力を取り戻す日に。力ある666の魂を邪神へと捧げるもの……それにより得られるものは、“力”と“生命”……この世の支配者となる存在への昇格ともいうのか。彼は海に縛られた己を進化させて、地上の王にもなろうとしているのだろう》

「……」


 力ある666の魂……途方もない話だな。


 魂の形などを見分ける事は人間にはほぼ不可能だ。

 だが、悪魔の中には魂を知覚出来る存在もいる。

 奴らの好みとでもいうのか……だが、力あるという定義は曖昧だな。


 力とは何をもってしてなのか。

 あの専門家は才能であると断言はしていたが。

 それだけで力ある魂とは俺には思えなかった。


 あの専門家の資料はよく出来ていたが。

 それでも、アレだけでこの話を儀式の為の誘拐とは断定できない。

 デイヴィ・ジョーンズは頭のキレる悪魔であり。

 こんな簡単な聞き込みだけで己の計画を露見させるような間抜けではない。


 ……つまり、儀式事態に意味は無い……もしくは、儀式そのものがブラフの可能性が?


 まだ、デイヴィ・ジョーンズが関わっているとも言えない状況だ。

 次の紅月が出現するまでの時間を計算すれば……大体、十日ほどだ。


 時間はまだ残っている。

 より調査を進めながら、犯人を特定し。

 速やかに連れて行かれた人間たちの安否を確かめて。

 生存しているのであれば全力で救出する……そう考えれば、十日は少ないか?


 小さなため息を吐く。

 そうして、俺とカブラギは一軒の酒場の前で足を止める……此処だな。


 ボブたちから連絡を受けた。

 奴らも有力な情報を手に入れたようで。

 “バッド・ウルフ”という名前の酒場で合流しようと言われた。


 名前からしてガラの悪そうなのがいそうな気がしたが。

 俺は気のせいだと思ってスイングドアを軽く押して中に入る。

 すると、ぎろりと酒場にいるこれどもかと言わんばかりの悪人面の奴らが俺たちを見る……すげぇ嫌な予感がする。


「「……」」


 俺たちは無言で酒場内を歩く。

 すると、店の奥から声が聞こえた。

 見れば既に出来上がっている状態のボブがひらひらと手を振っていた……殺すぞ?


 何で浴びる程の酒を飲んでいるのかと思ったが。

 俺は今の最悪な空気から何も言わずに奴らのテーブルの席につく。

 不愛想な女の給仕がやってきて無言で注文を聞いて来る。

 酒を飲むのは控えて、ミルクを注文してやれば周りの奴らはくつくつと笑っていた。


 すげぇムカつく笑い方だと思いながらも無視。

 俺は早速、奴らが聞いてきたという情報を聞こうと――背後に気配を感じる。


 がしりと頭を掴まれた。

 俺は何だと思って――テーブルに頭を叩きつけられた。


 ぐしゃりとテーブルを破壊し。

 テーブルに乗っていた酒瓶やジョッキが落ちて中身が飛び散る。

 俺は頭から酒を浴びて、地面に暫く倒れていた。

 すると、俺をこんな目に遭わせた奴は俺の頭を踏んできやがった……はは。


「お嬢ちゃん。此処はオメェが来るような場所じゃねぇんだよ。ママのおっぱいが飲みてぇなら、とっとと家に帰りな」

「「くくく」」」

「……」


 ぐりぐりと頭を踏みつけて来るクソ野郎。

 奴は足を俺の頭からのけて、ペッと唾を俺の頬に掛ける。

 そうして、カウンターに置いてあった酒をひったくりぐびぐびと飲んでいた。

 俺はむくりと立ち上がる。

 頬についた汚ねぇものを拭い。

 カウンターに置かれていた空の瓶を一つ取る。


「お、おい、アンタ?」

「……あぁ? 何だ?」

「……」


 酒場のマスターが止めて来る。

 それを無視して、俺は空の瓶を持ち奴の背後に立つ。

 奴は気配を感じ取って振り返って来た。

 そうして、手に持っていた酒瓶を力任せに振るってきて――半身をずらすだけで避ける。


 そのまま奴の頭に向かって俺は持っていた瓶を――叩きつけた。


「ぐあぁ!!?」


 がしゃんと音がして瓶が砕け散る。

 奴はふらふらと足を動かしてテーブルに手をつく。

 見れば、頭がぱっくりと割れて血が噴き出していた。

 俺はクズへとゆっくりと近づいていった。

 すると、奴は怒りの形相で拳を固めて殴って来た。


 欠伸が出そうなほどにノロいパンチだ。

 それをひらりと躱してやってから奴の足を軽く払う。

 奴は情けない声を出して床に倒れる。

 そうして、奴の腹を強く蹴りつけてやった。


「あごぁ!!?」


 奴は腹を抑えて泡を噴く。

 そんな奴を見下ろしながら、俺はゴキゴキと拳を鳴らす。


《パンチの打ち方を…教えてあげましょう》

「や、やめ――――ッ!!!!!?」


 俺は涙を流しながら命乞いをしようとした奴の顔面に――拳を叩きつけた。


 床板が砕けて、奴の頭がめりこむ。

 顔面の中心を捉えた一撃であり。

 奴は鼻血を噴き出して、拳をのければ顔面にクレーターが出来上がっていた。

 俺は奴の汚ねぇ血を手を振って払う。

 そうして、ゆっくりと周りを見ながら声を掛けた。


《何か……見ましたか?》

「「「……い、いえ。何も……っ」」」


 奴らはそそくそさと目を逸らして酒をちびちびと飲む。

 俺は静かに息を吐き、ぴくぴくと失神する男を奴の仲間に運ばせた。

 面倒な手合いが出て行って、ようやく話し合いが出来る状況が整った。


 俺は仲間たちに顎で無事な席に移るように指示する。

 彼らは店の奥の角へと移り、俺もそちらに移動した。

 席につけば、不愛想だった女店員が引きつった笑みを浮かべながらグラスに入ったミルクを持って来る……さて。


 俺はミルクを一口飲んでから。

 誰から話すのかと目で伝える。

 すると、クラーラが静かに手を上げる。


《……それで? 何か分かりましたか?》

「うん。取り敢えず、デイヴィ・ジョーンズが関わっていそうな事が分かったよ」

《……それは、私たちも聞きました。何でも、儀式を行う為に海底に建てた牢獄に才能ある人間たちを幽閉しているとか》

「……そうなの? それは知らなかった……あ、でも……その、ダーリンが驚きそうな事も聞いたよ」


 クラーラは少しだけ気まずそうな顔をする……何だ?


 クラーラが気まずそうな顔をするほどの事。

 言いにくい話であり、俺が驚くという事からよほどの事かもしれない。

 俺は話してくれと頼めば、クラーラは静かに頷いて話してくれた。


「……最近、カガナでも悪魔事件が発生していたみたいでね? 現地の人が言うには解決したって発表があったらしいけど……それに関わっていたのが“祓魔師”かもしれないらしいよ」

《……まぁあり得ない話でも無いでしょう。祓魔師全てが悪魔を敵だと心から思っている訳でもありませんから。中には、利益に目が眩んで》

「――“白い炎”を操る祓魔師」


 俺は言葉を止める。

 持っていたグラスに力が入り罅が入った。

 俺の様子を見て、クラーラは口を閉ざした……そうか。


 俺は静かに息を吐く。

 そうして、眉間の皺を軽く揉んだ。


《…………まだ、何とも言えません…………ですが、私以外でそれを使えるのは一人だけです》

「……にわかには信じがたい」

「……私も、何となく違うと思うけど」

「……え? パイセン方、どうしたんすか? 何かすげぇ空気が重くなりましたけど?」

「……白い、炎?」

「「「……」」」


 ボブはケーニヒになって日が浅い。

 カブラギはそもそもこの話を理解できないだろう。


 白い炎は特別だ。

 俺は枷を解けば使えるが、普通の人間は勿論。

 悪魔には絶対に使う事が出来ないものだ。

 だが、俺の知る限りで唯一それを使える存在がいる。


 ケーニヒの中で、最も人類を守る存在として在り。

 優れた剣術と類まれなる才能を持っていた。

 そして、俺への憧れだけで魔術を進化させて白い炎を体得した女。




 ――“白光のアルメリア”だ。




 やはり、生きていたのか。

 それとも、奴を騙る何者なのか。

 何方にしても、カガナでいたのなら……この件にも関わっている可能性が高い。


 こんな事で彼女の生存の可能性を知りたくは無かった。

 俺自身が彼女の事を高く評価していたからこそ、だ。


 俺は手をミルクで濡らす。

 クラーラは見かねてハンカチを渡してきた。

 俺はそれを受け取り、中身を飲み干してから口と手を拭う。


 アルメリアの存在と悪魔事件の関与。

 そして、デイヴィ・ジョーンズの影。

 嫌な組み合わせであり……正直、ニンドゥ以上の危険を感じるな。


 奴らがしようとしている事。

 その真実を一刻も早く暴く必要がある。

 俺はそう感じながら、白光の事も含めて仲間たちの情報の共有を始めた。

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