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007:祓魔師は奇跡を連発する

「ひゅー! ひゅー! こひゅー……えほ! えほ! おぇぇ」

《お疲れ様です。では、また授業で》


 早朝のランニングは終了した。

 ペナルティは無しにしてやったがそれは奴には伝えていない。

 が、死にそうな顔をしながらも奴は最後までくらいついていた。

 やる気と根性だけは、エゴンという生徒は優秀だ……まぁそれでもクソ雑魚だがなぁ。


 俺は挨拶も適当にさっさと職員室へと向かおうとした。

 すると、奴はよろよろと立ち上がって頭を下げて礼を言ってきた……ふっ。


 奴の殊勝な態度に心を良くしながらも。

 そう言えばとふと気になった事を考える。


 ……アイツ、何で手にバンテージみたいなの巻いてんだ?


 

 ◇



《はい、それではホームルームは終わります。皆さん、寄り道せずに帰宅してください。さようなら》

「「「……さようなら」」」



 奴らは死人のような面に掠れた声で挨拶をする。

 俺はそんな奴らの前から去り扉を開けて外に出た。

 そうして、扉を閉めてから歩き出し、持って来ていた機器を出しそこに繋がれたイヤホンを耳に指す。

 すると、あのガキどもの声が話し声がしっかりと聞こえて来た。


《もぉぉ!! ほんと最悪!! アイツ何!? マジでありえないんですけど!! アレの何処が教育なのよ!!?》

《奴は私たちを殺す気……間違いない》

《……なぁ、何とかしてさぁ。アイツを此処から追い出せねぇか? 他のセンコーでダメなら、校長とかさ》

《……いや、前みたいにものすげぇ早い手刀で気絶させられるのがオチだろ。そもそも、次やったらマジで俺たち……ぅぅ》


 ガキどもの会話は筒抜けだ。

 奴らが束になったところで俺は痛くも痒くも無いが。

 手間が増えないように、反逆の目は早めに摘んでおく必要がある。

 この学校で俺の指導を受ける間は、奴らには自由も人権も存在しない。

 俺こそが支配者であり、奴らは手綱に繋がれた飼い犬だ。

 生かすも殺すも俺次第で……いや、殺すのはまずいか。


 今朝の朝礼の前にもデブから言われた。

 E組の生徒が他の職員に相談をしていたと。

 体罰をされたと聞いたと言われたが、俺はそれは違うと言ってやった。


『悪魔と戦うのであれば、私如きの指導で弱音を吐いていれば命が足りませんよ?』

『うーん、それはごもっともですが……まぁ先生を私は信じていますから……ただ、くれぐれも……死人だけは出さないように。悪魔との戦闘での殉職はどうとでもなるでしょうが。見習いである生徒が死んでしまうと……我々の責任問題が問われますのでねぇ』

『善処します』


 ……デブはまだ俺を信じている。が、死人だけは出すなと釘を刺された。


 つまり、俺にとってのゲームオーバーは生徒が死ぬ事だ。

 いや、目の前でくたばるのならまだいい。

 俺の魔術を使えば、一時間以内であれば後遺症も無く蘇生は出来るからな。

 だが、俺の目の届かないところで死なれでもしたら詰みだ。

 それだけは避けなければならない事で……まぁ対策は既にしておいた。


 奴らの体の中に、上位の悪魔であろうとも気づくことが難しい探知用の術を仕込んでおいた。

 もしも、奴らの身体に異常が出た場合や近くに悪魔がいた時には俺に信号として知らせが届く。

 その時は面倒ではあるものの、全力で奴らを助けに行かなくてはならない……はぁ、だりぃ。


 何故に、プライベート時間であろうとも働かなくてはならないのか。

 先ほどはすぐに帰るように言ってやったが。

 あの様子であれば俺の話なんて聞く耳を持たないだろう……特にあの女子二名はやばそうだ。


 確か、資料で見た限りでは銀髪がCで青髪がBだったか。

 適性がC以上ともなれば、そこそこ力を持った悪魔にとっては極上の餌だろう。

 強い悪魔ほどグルメであり、より質の良い餌を求めると俺たちは知っている。

 都市伝説では祓魔師や聖職者は狙われにくいなんてあるが……アレは真っ赤な嘘だ。


 逆なのだ。

 そういう輩の方が狙われやすい。

 力が強いのであれば、確かに下級にとっては毒なのだが。

 それを克服できるような奴らにとってはA5ランクの霜降りステーキのようなものだろう。

 だからこそ、俺はずっと悪魔の中でも力のある奴らから命を狙われ続けて来た。

 部下をフルで使い、俺を捧げよなんて命令されてたんだろう……クソが。

 

 まぁ奴らも何かしら手を打たないと俺には絶対に勝てないと悟ったのか。

 最上級などは見かけなくはなっていたが、アイツらはまだ見習いで才能しかない。


 修道院にいる間は問題ねぇけど。

 街をうろついている時は修道院の結界も及ばねぇしな。

 あまり遠くには行かないで欲しいが、ガキってのは遠出が好きなんだよなぁ……はぁ、やだやだ。


 俺はため息を零し首を左右に振る。

 そうして、これ以上はガキどもの愚痴を聞いても何も進展は無いと悟る。

 機器の電源を切り、イヤホンを外してポケットに戻す。


 ……取り敢えず、次は個人レッスンの続きだ……一週間でアイツらに追いつきゃいいけど……マジで頼むぜ?


 ◇


 個人レッスンが終わり。

 足腰がガタガタになった老人のような姿のアイツを見かねて軽く治癒の魔術を施した。

 これで明日に響くような筋肉痛にはならねぇだろう、そう安心し業務を終えて帰宅した。

 

 シャワーは後回しで、夕飯の準備を始める。

 この時を心待ちにしていたからこそスーツを脱ぐ時間も惜しかった。

 ビールを冷蔵庫から出して、それを飲みながら調理を勧めていく。

 スーパーで安売りしていた新鮮なトマトを半分に切り。

 それを大きな業務用ミキサーで潰す。

 そうして、これまた何故安売りしているのかも分からないフォンデュを楽しむ為の機械を帰り道の途中でやってたフリマで買ったので。

 その中に潰したトマトをドバドバと入れていく。

 軽く塩コショウで味付けしてやり、適当に用意したチーズやソーセージを竹串に刺し……よし。


「……!」


 瓶底眼鏡越しに熱い視線を送る。

 これが夢にまで見たトマトフォンデュだ。

 本来は溶かしたチーズだが、それはくどい気がして今回はトマトにした。

 血のように赤いトマトから酸っぱい匂いがして。

 ソーセージは太くぷりぷりとしている。

 チーズも奮発してホールのものから買って来た。


 今日は宴だ……俺の自由を祝う宴なのだ。


 そんな事を考えながら、二本目のビールを開ける。

 そうして、テレビをつけて……お、アニメの再放送だ。


 探偵もののアニメであり、これは酒の肴に丁度いい。

 俺はそれを見つめながら軽くビールを飲む……あぁうめぇぇ!


 スイッチをオンにする。

 すると、液体が吸い上げられて……おぉ!!

 

 上から螺旋状になったところに垂れ流されて行く。

 まるで噴水のようであり、使い古しの中古にしては動くじゃないかと感動していた。

 俺は早速と串に刺したソーセージをトマトの中でディップし、取り出してから頬張る……うめぇぇ!!


 俺は生きてて良かったと思っていた。

 すると、誰かから電話が掛かって来る……んだよぉ。


 電話の主はデブ校長で、俺は渋々応答する。


《あ、ベッカー先生ですか? 私です》

《どうかしましたか?》

《いえ、そのぉ……先生の生徒であるバルツァーさんとバッヘムさんの事でお聞きしたいのですが……今二人と一緒ですか?》


 こいつ何言ってんだ……?


 仮にも教師である俺が女子生徒二名を侍らせていると思ったのか。

 幾ら自分がどうしようもねぇクズだと思っていても。

 そこまで常識がねぇとは思われたくない。

 俺は真顔のまま一人である事を伝える。

 すると、デブ校長は何故か少し残念そうに言う……あぁ?


《あぁいえ、そういう意味ではなく……実は、この時間になってもお二人が寮に帰ってきていないと寮母さんから連絡がありまして……もし可能であれば、先生も捜索のお手伝いを……いけますか?》

《…………分かりました》

《あぁ良かった。先生がおられるのならこれで》



 俺はぶちりと通話を切る。

 そうして、デカいため息を吐く……カス共がぁ。


 またしても、俺の手間を増やしやがった。

 これから至福の時間だったと言うのにガキを探せだと……ふざけやがって。


 俺はすぐに二人の反応を探る。

 すると、何故かかなり距離が離れた場所にいると分かる……あぁ? 車で移動しているのか?


 暫く反応を探っていれば、二人の反応が動きを止める。

 そうして今度は歩きのようになった……何やってんだ?


 奴らのいる場所を脳内マップに当てはめる。

 しかし、そこにはガキが遊べるような施設はない。

 大きな倉庫が密集しているくらいで……はは、まさかな。


 嫌な予感をさせていれば、また誰かが電話を掛けて来た。

 すぐに出れば電話の主は鬼畜眼鏡だった。


《やぁ久しぶりだね……元気かい?》

《要件をどうぞ》

《はは、相変わらずだね……急で悪いけど仕事を頼みたい。いけるかな?》

《…………はい》


 少々迷ったが大丈夫であると伝える。

 先にガキどもを確保してから仕事に行けばいい。

 そう思っていれば、奴は驚くべき事を言う。


《君の今いる場所近辺で、最近、人攫いが確認されている……それも、才能ある若者たちが連れ去られれているようなんだ》

《……続きを》

《此方でも囮を用意したりしたけど、奴らは中々に狡猾でね。此方の罠に敏感で中々、餌に食いつかないんだ。恐らく、奴らのバックには悪魔がいる……もしかしたら、最上級の可能性もある……手の空いていたダーメにも出動要請を出したが。奴らの尻尾を掴む事に難航していてね……これ以上は時間をかけられないと僕が独断で判断し。君であれば、もしかしたらと思ったんだ》

「……」


 俺は考える……何か、こぅ……点と点がねぇ……繋がりそうになってね?


 何も知らなかった。

 ただ単に生徒が勝手に死なねぇように発信機のようなものを仕込んだ。

 そしたら、デブから生徒が帰ってこないと連絡が来て。

 アイツらはいかにもな倉庫の中を歩いていやがる。

 鬼畜眼鏡は人攫いがいて、そのバックには隠れ潜むのが上手い最上級悪魔がいると言って……は、はは。


《…………分かりました》

《うん、頼むよ。何かあったらすぐに連絡してくれ。此方も支援部隊をすぐに派遣するから》


 俺は適当に相槌を打ってから切る。

 これも祓魔師としての宿命なのか。

 俺はデカいため息を零しながらも宴は一時中断だからと電源を切ろうとする。

 

「……?」


 電源をオフにする。

 が、機械は止まらない。

 何度もカチカチとするが止まらず。

 俺は故障かと思って軽く機械を叩いた。

 すると、機械から妙な音がしバチバチとスパークし――うぁ!?


 勢いよく爆発した。

 すると、中に入っていたトマトが部屋中に散らばる。

 俺のスーツにもべったりであり……マジかぁ、これクリーニングで落ちるかぁ?


 俺はスーツを摘まみながら心配する。

 取り敢えず、このままでは出かけられないからと着替えようと――は?


 信号が生徒の異常を検知する。

 それも、近くに強そうな悪魔の反応があると告げていた。

 生徒は問題の女子生徒二人で――あぁもぉぉ!! 何だよもぉぉぉ!!!


 俺は家の扉をぶち破る。

 そうして、絶賛危機の真っただ中の奴らを救いに街を駆けていった――チキショォォォォォ!!!

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