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【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい  作者: うどん


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067:祓魔師は喜び、動き出す黒翼(side:ランベルト→???)

 全てのイベントが終了し。

 俺は買い物を済ませて帰宅した。

 目の前には豪華な料理が並んでおり。

 全てクラーラたちが勝手に作ったものだ。

 

 そこまで広くない机を囲むように座る女ども。

 呼んでもいないのに勝手に人の家に集まりやがって。

 楽しい筈の一日が、殺伐としたものになっちまった……クルト君もいるけども。

 

「……ふっ」

「……ふふ」 

 

 デボラとクラーラは笑みを浮かべながら殺気を放ち。

 アデリナは居心地が悪そうで、クルト君は無言で座っていた。

 俺はぷしゅりとプルタブを開ける。

 そうして、缶の中身をグラスに注ぎそれを上げれば全員が飲み物を持つ。

 

《乾杯》

「「「乾杯」」」


 こつんと突き合わせてから俺はキンキンに冷えたビールを飲む。

 大きな仕事の終了を祝す一杯であり、五臓六腑にしみわたる。

 そのまま、俺はトングで料理をよそっていった。


「あ、それは私が作ったもので……ふふ、お口に合うといいんですが」

「ダーリン! これは私が作ったんだよ? 食べて食べて!」

「……マスター、お酒にはそちらが合うと思います」

「……わ、私の料理も……あ!」

「……」


 女どもはこれも食え食えと煩い。

 俺はむすっとした顔になりながらも。

 文句を言わずに一通りの料理をよそう。

 

 女どもに気を遣う必要は無い。

 俺は適当に美味そうなものを取っただけだ。

 皿には料理が盛りに盛られて。

 俺はそれを静かに食べていった。


 女どもは俺が食べているのを見てホッとし。

 自分たちも料理を食べ始めた。


 さてさて……何とか、防犯教室を終える事が出来た。


 腕輪はちゃんと機能していたようで。

 死体からの蘇生の時も、面倒な事にならずに済んでいた。

 アレがあるないでは大違いであり。

 大掃除の時にゴミが“仕訳けられているか、いないか”くらいは違う。

 

 現役の祓魔師を呼んでの講義も手応えがあった。

 ダーメのガキは復活すればまた俺に突っかかって来て。

 面倒なので縄で縛ってから、迎えに来た職員に預けてやった。

 

 まぁ普段であれば、馬鹿なガキどもは聞き流すような事でも。

 自分たちが死にかけるような目に遭ったのだから集中して聞いていた。

 ゴリたちもメモを取るほどであり、意識の改革は成功したようなものだ。


 ……だが、些か“タカハシ”が目立ち過ぎてしまったな。


 生徒会の奴らはすぐにタカハシの事を俺に聞いてきた。

 俺は当然知らないと答えてやったが。

 奴らはその後もタカハシを捜索していた。

 が、どんなに探そうとも無駄だ。


 生徒名簿にはタカハシなる生徒は存在しない。

 そもそも、特徴と呼べるものもないので。

 一度会って戦った程度では顔だってハッキリとは覚えられないだろう。

 唯一のぼさぼさの無造作ヘアーも、男子生徒の大半がそんな感じの髪型だ。


 生徒会の副会長様はかなりタカハシに執着していた様子だ。

 他の奴らもタカハシの姿を見せられて、己の中で奮起していたような顔をしていた。

 自分はまだまだだとエゴンは呟き、エルナたちもあの領域まで行くと言っていた……すげぇな、タカハシ。

 

 まぁそんなタカハシなる生徒の存在も時が経てば忘れられるだろう。

 今だけであり、すぐにその存在は雲のように散っていく。

 そう、都市伝説や怪談のようにな……ふふ。


 まぁそんな事はどうでもいい。

 一番重要な事は、遂に俺の愛する生徒たちが死の恐怖を乗り越えた事だ。

 常人であれば足を止めて、そのまま挫折していただろうが。

 奴らは恐怖に打ち勝ち、自ら戦場へと向かった。

 どんな動機であろうとも問題ない。

 自らの選択で進んだという事が重要なのだ。


 ……もう、奴らに迷いは無いだろう。


 俺はくすりと笑う。

 そうして、アデリナの方に視線を向ける。

 すると、アデリナは俺の視線に気が付いて目を右往左往させる。


《……アデリナさん。今日の貴方は……とても素敵でしたよ》

「……っ! え、え、え!?」

《今後も一緒に頑張りましょう……私は貴方たちに期待しています》

「え、え、え、え!! えぇ!?」


 アデリナは顔を真っ赤にする。

 照れる事なんて無い。

 頑張った人間を褒める事は当然だ。

 明日からも頑張ってもらいたいからこそで。

 アデリナはそのまま勢いよくジュースを飲んでいった……あれ?


《……アデリナさん、それ……お酒じゃ?》

「えぇぇぇ? 何ぃぃぃぃ? ひっぐ」

《……クラーラ。貴方のそれはジュースでしょう?》

「……あ、本当だ……ごめんね?」


 クラーラは舌をペロッと出して謝る。

 俺はため息を吐きながら、ふらふらと頭を揺らすアデリナを見つめる……どうすんだよ、これ?


 目が据わっている。

 いや、度数にすれば三パー程度だろうにな。

 俺は取り敢えず、デボラに寮まで運ばせようとし――顔が塞がれる。


《……邪魔ですよ》

「ふふふ、良い子ぉ良い子ぉぉ……よしよしよし」

《殺しますよ?》


 奴は俺を抱きしめて脂肪の塊を押し付けて来た。

 すると、クラーラがぶちりと切れた気がした。

 そうして、何故か机の上に置いていたシャンパンの栓を指で弾き飛ばした音がする。

 ごくごくと勢いよく飲む音も聞こえて――引き剥がされた。


 が、またしても脂肪の塊に埋まる。

 クラーラはくつくつと笑っていやがった……殺すぞ?


 そのまま、俺を引っ張り出す二人。

 遂には俺のスーツの袖がビリビリに破かれて。

 何とも言えないファッションになった俺は舌を鳴らす。

 奴らは顔を真っ赤にしながら表に出て行った。

 俺は奴らが出て行った瞬間に家に結界を張っておいた……あぁ、クソ。


 クルト君を見る。

 すると、アデリナが彼の肩にもたれ掛かっていた。

 まるで猫のように喉を鳴らして、クルトはそんな彼女の首をころころと撫でていた……手慣れているな。


「……昔、猫を飼っていたので……撫でますか?」

《……貴方までそんな事、言わないでください》

「……すみません。お酒に当てられたようです……お疲れ様です、マスター」


 彼はにこりと笑う。

 そうして、俺のコップにビールを注いでくれた。

 俺はこくりと頷き、それを静かに飲む……美味い。


 平和だ。

 とても平和であり、ずっとこんな時間が続けばいいと思う。

 平和ボケしたつもりはないが、俺が求めていた時間はこういうものだと思えた。


 くだらない事で騒いで、美味い料理を囲んで酒も飲む。

 男も女も関係なく、ただ楽しむだけで……あぁ、良いな。


 失いたくない。

 奪わせたくはない。

 こういう当たり前の日常こそが――俺にとっての“幸福”だから。


 

 〇



 魔物が鳴き声を上げ、悪魔たちが闘争に明け暮れる。

 赤き空が故郷を包み、狂騒が我らの意識を覚醒させる。

 血は湧き、心は踊り、欲望が我らを突き動かす。


 金など要らない。

 女など不要。

 我らにとっての欲は何処まで行っても――“食”でしかない。


 シンプルであり、混じりけの無い真なる願いだろう。

 美味なるものを求めて、尽きぬ願いを抱えている。

 子供であろうとも同じだ。

 私は目の前の光景を目を細めながら見つめる。

 

 

 地獄に存在する――“血肉の泉”。


 

 ごぼごぼと気泡が発生し。

 それが爆ぜれば亡者たちの叫び声が静かに響く。

 怨念、それに近いものが溜まっていた。

 そんな血肉の泉の周りには、まだ成長途中の悪魔の子が群がっていた。


 誰しもが目の前の餌を掬っている。

 その目はきらきらと輝いていて。

 血肉を啜る事で、幸せの吐息を吐き出す者もいるほどだ。


 悪魔たちが捧げた人間たちの血肉で形成された泉であり。

 力なき悪魔の子たちは此処で育ち、力ある悪魔として成長する。

 人の味を覚え、人を喰らいたいという衝動を刺激し。

 そして、力をつけて現世へと行き――人間どもを喰らう。


 自然な流れであり、これこそが本来の理だ。

 人類とは弱く脆い。そんな奴らを喰らう事は、力ある者たちの務めだ。

 悪ではない、その理を崩す奴らこそが悪なのだ。


 私はくつくつと笑う。

 そうして、血肉の泉に向かって袋ごと中身を投げ込んだ。

 ざばりと泉の中心で血肉が弾けて。

 袋の中に入っていた祓魔師たちの死体が溶けていった。

 全員が全員、苦悶の表情を浮かべている。

 敵である私に救いを求める者もいた。

 家族が、恋人が、そんな妄言を吐いていた気がするが……もう忘れた。


 私は子らを見つめる。

 そうして、奴らに対して言葉を送った。

 

「……喰らい、成長し……次はお前たちが狩りを行うのだ」

「「「……」」」


 子供たちは何も言わない。

 無心で新たな餌を求めて手を動かしていた。

 が、私の声は確かに聞こえていた。


 奴らは黙々と食事を行う。

 それが仕事であり、それが役目だからだ……素晴らしい。

 

 より良い栄養をその身に蓄えろ。

 力を求めて、欲望を滾らせろ。

 

 私は子供たちの成長だけを願う。

 すると、近くに音も無く――“奴らが、降り立つ”。


 

「「「……」」」


 

 ばさりと黒く穢れた翼が広がる。

 漆黒の羽が宙を舞う。

 人間のような姿をした奴らは、皆、危険を感じる程の容貌をしていた。

 美しいではない。恐ろしさすらも感じる程の魔性だ。

 私はそんな奴らを静かに見つめながら、自らの羽も開放する。


 

 私を含めて総勢五名の――“黒翼が集う”。


 

 万人を喰らい。

 更なる成長を遂げた我々は、次の十手の候補に名が上がるほどの強さを有する。

 そんな我々は基本的に群れる事はしない。

 狩りであろうとも、自分たちが好むやり方で行いたいからだ。

 ダーメであろうと、ケーニヒであろうとも――我らの餌でしかない。


 そんな我々が、今この瞬間――同じ地に立った。


 それが意味する事は一つだ。

 互いの利害が一致し、強大な敵を討つ事を意味する。

 餌ではない。我らが宿敵である存在――ランベルト・ヘルダーだ。


 “不滅の加護”をその身に宿し。

 悪魔を狩る事に生涯を捧げた男だ。

 誰よりも我々の事を理解し、誰よりも我々を正しき敵として認識している。

 奴だけだ。奴だけが我々悪魔にとっての脅威で。

 奴を殺せる事が出来るものこそが――“次の魔王へと至れる”。


 魔王様は焦っておられる。

 “カミ”との戦いによりその身を激しく損傷し。

 今は全盛期の力の一パーセントも出せていない状態であると皆は噂する。

 魔王様の状態を知るのは十手のみであり、我々は魔王様が……いや、違うな。


 魔王様の心配などしていない。

 どんなに力が削がれようとも、あの方は我々では足元にも及ばない。

 それほどまでに圧倒的な存在であり。

 我らが偉大なる父であるのだ。

 そんなお方を心配する事は不敬である……が、それでもだ。


 あの方が動けない今。

 十手の方々も、あの方の身を守る事しか出来ない。

 それが十手の役目であり、魔王様の命に従うからこそ“彼のお方の手”なのだ。


 

 ……故に、我々が動く他ない。


 

「……本当にやるのかい? あの男を、僕たちだけで」


 

 一番若い黒翼が疑問を呈する。

 その顔には少なからず恐れの色がある。

 当然だ。如何に力を持った我々であろうとも。

 あの化け物を相手にするのは些かリスクが高い。


 驕り昂ったドォルマンダァも呆気なく殺されて。

 ニンドゥで解き放たれた強大な存在ですらも奴を殺せなかった。

 あの出鱈目な存在に勝てる者がいるとすれば。

 十手か。或いは……魔王様くらいだろう。


 我々はそれを承知している。

 真っ当な方法での戦いでは、殺されるのは我々だ。

 故に、奴を殺せる方法を――私は考えて来た。


「……如何に加護を持っていようとも……奴も所詮は人間だ……永遠の苦痛、眠る事も出来ず、食事も出来ない極限の状況……それが何年も続くようになれば……奴の心は壊れ、奴は力の半分も出せなくなるだろう……この作戦の成功はお前に掛かっている……レナァクヤ」

「……分かっています……ですが、絶対に“三十秒”……稼いで頂きますよ」

「「「……」」」


 白装束に身を包む化粧をした黒髪を黄金の簪で留めた若い女の姿。

 日之国の和服を身に纏うレナァクヤは、口元に手をあてて目を細めて呟く。

 この場にいる誰もが、三十秒という言葉に深く頷く。

 もしも、奴にこの作戦を気取られればそれで全てが終わる。

 奴が本気を出せば、我々では三十秒も保たないだろう。

 奴の全力であれば、星を殺す事も容易いのだ。

 そんな規格外の存在を、我々が殺せるほどになるまで落とすのに三十秒は絶対だ。


 

 何としてでも三十秒……我々が生み出して見せよう。


 

「……決してミスは許されない……さぁ同志諸君――行こうか」

「「「――」」」


 

 我々は魔力を解放する。

 そうして、翼を広げて一気に飛び出す。


 血の空へ向かって飛び立てば。

 既にゲートが開いており、我々は勢いよく飛び込んでいく。

 ぐにゃりと空間が歪んだような感覚。

 それを抜ければ、島の上空だ。


 現世は夜であり。

 目指すべき場所は……問題ない。

 

 我々はそのまま自分たちの体を結界で包む。

 気配を断ち、魔力を結界内で循環させながら。

 敵が待つ地へと飛んでいく。


 目的の地が近づくほどに、奴のプレッシャーを感じる。

 心臓が凍り、毛が逆立つ。

 我々が忘れている恐怖を、奴は呼び覚ます。

 そんな存在を殺す為に、我々は動き出す。


 全ては父である魔王様の為。

 そして、我々が悪魔という種族を――絶対的な支配者にする為だ。

 

 

 ――ランベルト・ヘルダー。貴様に死を送ろう……卑怯とは言うまいな。


 

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