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【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい  作者: うどん


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064:祓魔師は来ず、殺戮者のエントリー(side:生徒会メンバー)

 端末を取り出し、外部との連絡を“再度”試みる。

 静かに端末を耳に当てて待ち……ゆっくりと下げる。


 ……ダメだ。やはり、“連絡が出来ない”。


 外部との連絡が突然途絶えた。

 現在の状況を報告するという流れを汲んで。

 その連絡役として俺が祓魔師と通信を行っていたが。

 途中でぶつりと連絡が切れて、何事と外の状況を確認した……どうなっているんだ、これは。

 

 予定では、現役の祓魔師の到着によって悪魔役の教員を倒してこのイベントは終了する筈だった。

 そして、その後にその教員と現役の祓魔師たちから生徒たちに向けて説明を予定していた。

 悪魔災害発生時の適切な動きや悪魔を見つけた場合の連絡の方法など――が、既にこのイベントは“破綻していた”。

 

 教員の方々の中で、連絡がつかなくなった人も多い。

 特にゲート前の方々とはもう三十分以上も前から通信が途絶していた。

 そもそも、このイベントを主導しているという教員の方も通話に応じない。


 何が起きている。

 いや、何をしようとしているのか……何も分からない。

 

 だが、通信が繋がらなくなった原因はすぐに分かった。

 窓の方に視線を向ける。巨大な透明の壁のようなものが薄っすらと見える。

 内部からでのみそれを見る事が出来るが。

 外部からは何も起きていないように見えているだろう。

 巨大なそれが敷地内全体を覆うように展開されていた……“この規模の大きい結界を、誰が”?


「……っ」


 修道院の窓から見える空。

 いや、厳密には“この敷地全体を覆う様に展開された結界”を通して見える空だ。

 そう、結界だ。何故か、大規模な結界が展開された事によって外部との連絡を強制的に遮断された。

 その結果、もう到着している筈であろう祓魔師たちも中には入れていない。

 恐らくは、通信と出入りを制限する為のものであり……何て高度な結界なんだ。

 

 祓魔師の中でも、これほどまでの規模と効果を持つ結界を張れる人間がいるなんて知らない。

 何度か、特別に現役の祓魔師と同行し悪魔の討伐作戦にもサポート役として参加している我々生徒会メンバーたち。

 直接的な戦闘はまだだが。それでも、悪魔と戦った経験はある。

 そんな中で、我々の事を守り指導をしてくださった先輩方。

 ロイファーやトゥルムは勿論。たった一度だけだが、ダーメの方も見かけたが……っ。

 

 

 そんな方々であっても、これは……っ。

 

 

 いや、そもそも、これを行っているのは人なのか。

 人ならざる悪魔であるのなら、こんな芸当も可能だろう。

 もしくは、魔術に特化した力を有するケーニヒであれば或いは、な。

 先生方からの通達で、今回、本部からの要請で防犯教室……とは名ばかりの演習を行うのは知っていた。


 だからこそ、我々は持ち場について待機していた。

 が、今、この修道院で起こっている事は明らかな異常事態だ。

 ゲートにいたであろう先生方との連絡は何度も試していたが、全く繋がらない状態で。

 何が起きているのかまるで分からない。

 本当に今、起こっている事はデモンストレーションなのか。それとも……!


 誰かが俺の肩を叩く。

 視線を向ければ会長であり、彼は俺の不安を心配してくれているようだった……いけないな。


 少なくとも、俺たちは悪魔との戦闘経験がある。

 下級生は勿論の事、一部の上級生ですらも俺たちにとっては守るべき存在だ。

 勿論、教員の方々であろうとも俺たちは守るさ。


 これがデモンストレーションでは無く。

 本当に起きた悪魔による事件であるのなら。

 俺たちはこの聖刃を使って対象となる悪魔を――滅するだけだ。


「……会長、すみません……もう、大丈夫です」

「……そうか……心配するな。既に上級生たちに結界の解除に向かわせている。これほどの大規模なものであれば、部分的なところに集中して解除を施せば、な? 大丈夫。今頃はきっと……っ!」

「「「……ッ!」」」

 

 

 音が――聞こえる。


 

 ギャリギャリと金属が擦れる耳障りな音。

 そして、ぼたぼたと何かが滴り落ちる音だ。

 一歩踏み出せば、肉を潰すような音もしている……何だ、これは。


 心臓の鼓動が強くなる。

 呼吸が苦しくなっていった。

 まるで、本能が向かってくる何かに――恐怖を抱いているようだった。

 

 ゆっくりと廊下の曲がり角から何かが近づいてきている。

 一歩、一歩、ゆっくりと近づいて来る。

 まるで、俺たちという存在に恐れを抱かせるように。

 

 俺たちは姿の見えぬ“敵”を警戒する。

 たらりと汗を流しながらも、手にした聖刃を強く握りしめて構える。

 そうして、静かに敵を待ち――心が、一気に凍り付いた。


「……ぅ!」

「まさか……っ!」

「そ、んな……ぅぅ!」


 

 曲がり角から現れたのは――“血濡れの鎧騎士”だった。

 

 

 全身が返り血によって真っ赤に染まっている。

 ぼたぼたと鮮血が滴り落ちているからこそ。

 ついさっきまで戦闘をしていたのだと嫌でも分かる。

 その手には肉片がこびりついた大剣を引きずっていた。

 床と擦れる度に火花が散っていて、刃によって床が抉れていた。

 とてもじゃないが、魔力による強化無しで常人が振るう事が出来ないほどの質量で。

 いや、そんな事よりも俺たちが驚いたのは奴が片手に持っている――“上半身だけになった死体”だ。


 虚ろな目で、鼻と口から血を流し。

 奴に乱暴に髪を掴まれて、ぷらぷらと揺れていた。

 断面から出た内臓が床で擦れている。


 仲間の無残な姿を見せられて、後輩たちが一歩下がる。

 女子に至っては目に涙を溜めて恐怖に呑まれそうだった。

 奴の狙いが殺戮なのかは分からないが。

 戦闘経験の浅い彼女たちにとっては効果は抜群だ。

 

「……何て、ことだ」

 

 無残な姿の死体。

 俺たちと同じ制服を着ているそれは――“上級生の一人だった”。

 

 結界の解除に向かわせた生徒の一人で。

 連絡が来ず、まさかとは思っていたが。

 彼が死んでいるという事は、恐らくは他の上級生たちも……くっ!


「――――」


 不気味な空気音を出し、カタカタとヘルムを揺らしている。

 ゆっくりと此方を見れば、瞳が見える筈の穴からは青い炎が揺らめいていた。

 

 

 殺気。いや、違う。これは――“ただの気配”だ。


 

 存在感とも呼べる。

 隠す隠さないに関わらず、自然と放たれるもので。

 あの鎧騎士が放つ空気は、異様なほどに――重かった。


 格が違う。

 俺たちが今まで戦ってきた悪魔たちは。

 奴に比べれば前座とも呼べないほどに――下だった。


 本能が、すぐにそう理解した。

 勝てない。否、戦うこと自体が間違いだ。

 今この瞬間に、誰もがそれを理解し――会長が魔力を全力解放する。

 

「――っ!」 


 会長はすぐに攻撃を開始した。

 彼による魔力弾が勢いよく放たれる。

 それにより、止まっていた奴は狭い廊下で避ける事も出来ず全ての弾に被弾した。

 加減なんかしない、全力での攻撃であり。

 まるで、ミニガンによる斉射攻撃のようだった。


 青い魔力が閃光を放ち。

 煙が発生し、奴は悲鳴も出す事無く――何かが飛んできた。


「「「……っ!」」」


 それは上級生の死体で。

 会長はそれを咄嗟に避ける。

 死体は床に転がり、内臓をぶちまける。

 

 一瞬だ。

 俺たちの視線は後方に向き、会長も攻撃の手が止まり――奴が飛び出す。


 刺突の姿勢で大剣を突き出している。

 会長は悪魔の攻撃を見つめて――爆発音が響く。


「――!」


 一瞬の強い閃光――悪魔の横腹から迫った何かが奴の横腹を打つ。

 

 それが瞬間的に魔力の爆発を発生させた。

 練り上げられて圧縮された魔力が、一気に爆ぜたのだ。

 奴の鎧はミシミシと音を立てて変形し。

 そのまま廊下の壁を突き破り、最上階から吹き飛ばされて行った。

 

 ガラガラと残骸が落ちる。

 パラパラと埃が舞っていた。

 全員が心臓をバクバクと鼓動させているだろう。

 

「……!」

 

 俺はハッとする。

 そうして、拳を突き出した状態で息を吐く――副会長に声を出した。

 

「副会長!」

「……シィ」 

 

 副会長による悪魔の隙をついた一撃必殺の攻撃。

 恐らく、会長が全力解放で奴の注意を引き。

 その隙に気配を殺した副会長が、王を取りに来た奴の隙を使って攻撃をした。

 副会長の拳打は相当な破壊力がある。

 岩をも砕き、鋼鉄であろうとも風穴が空くほどだ。

 その一撃を無防備な体に受けたのならば、如何にあの化け物であろうとも……っ!



「「「――ッ!?」」」 


 

 全員が震えた。

 殺気だ。初めてあの化け物が殺気を発した。

 冷たい手で心臓を掴まれたような感覚で。

 俺はすぐに壁を突き破って下に落ちた奴を見て――ッ!


 奴は立ち上がろうとしていた。

 その体はボロボロで。

 手足はあらぬ方向に曲がっていた。

 かなりのダメージで、普通なら歩けない程だろう。

 が、奴はゆっくりと立ち上がり――奴の手足が不気味な音を立てて元に戻る。


 傷の再生。いや、そんな生易しいものじゃない。

 アレはダメージそのものを無かったことにしている。

 その証拠に奴の内包する魔力に変化は――“ない”。


 奴のヘルムの口の部分がガバリと――開いた。

 

 

「――――ッ!!!!!!!」


 

 奴が叫ぶ。

 それによる凄まじい衝撃波は発生した。

 全員が歯を食いしばってその衝撃に耐えようと足を踏ん張る。


 鼓膜が裂けそうになるほどの声量。

 不快な音の集合音であるかのようで、聞いているだけで脳が痛みを発する。

 空気が激しく振動しており、奴が降り立った地面には奴を中心として亀裂が走る。

 内包する魔力が荒々しく解き放たれて。

 真っ黒な魔力が奴の殺気に呼応し、その瞳を炎を――赤黒く変貌させた。


 

 

「――全員、逃げろッ!!!」

「「「――ッ!!!」」」


 

 

 会長が叫ぶ。

 俺たちはその命令の意味を一瞬で理解した。

 故に、奴との戦いを放棄し――逃走を選択する。


 唯一、会長と副会長だけが奴に向かって戦闘を仕掛ける。

 勢いよく廊下から飛び出し、奴に向かって飛び掛かった。

 会長たちが囮となり、奴を引き付ける。

 俺たちはその間に、気配を断ち、奴から逃れなければならない。

 合理的だ。合理的ではあるが――何処に行けばいいッ!?


 結界によって外部とは完全に遮断された。

 逃げようにも、不用意に結界を調べようものなら。

 奴はすぐにそれを察知して俺たちを殺しに来る。

 たった一度の戦闘で、嫌でもあの化け物の異常性は理解できた。


 枯渇しそうな気配のしない魔力量。

 肉弾戦しか仕掛けては来ないが。

 それだけでも並みの祓魔師では太刀打ちできないほどの戦闘力を秘めている。

 もしも、アレで魔術を使う様になれば手に負えない。

 その上、副会長の一撃を受けても、そのダメージを消してしまうほどの強靭さ。


 勝てない。倒せるイメージがまるで湧かない。

 戦う事がどれほど愚かなのか……やはり、現役の祓魔師を呼ぶ他には……っ。


「ど、どうします? このままじゃ、私たち……っ」

「……作戦を立てる。速やかに、俺たちもシェルターに向かうぞ……あの中であれば、悪魔であろうとも見つける事は出来ない。万が一にも見つかれば……頑張っても一時間が限界だろうがな」

「「「……っ」」」


 全員が表情を曇らせる。

 そんな中でも、俺たちは風となり校舎内を移動する。

 最上階の廊下を駆け抜けて、そのまま曲がり角を曲がり。

 階段に着き、そのまま滑るように降りていく。

 

 降りて、降りて、走って――っ!


 何度も何度も破壊音が聞こえていた。

 校舎全体が大きく揺れている。

 戦闘音が聞こえる限りは、まだ会長たちが善戦していると分かる。

 が、如何に会長たちであろうともあの化け物相手では……っ。

 

 俺は弱きになる自分の心を奮い立たせようとした。

 自らの頬を拳で殴る。

 周りの奴らがどうしたのかと視線で訴えかけてくる……よし。

 

「なんでもない……大丈夫だ」

 

 魔力を極限まで抑えている。

 気配も殺して移動をし……よし。


 最上階から、一階までは来れた。

 そのまま、俺たちはシェルターを目指して……?


 そういえば、あの時、妙な違和感があった。

 それは逃走する時に見た廊下の状態だ。

 あの化け物は死体を持っていて、会長に向かってそれを投げた。

 俺たちもそれを見ていて、死体は臓物をぶちまけて床に転がっていた筈だ。

 しかし、逃げる時に邪魔になるであろうそれは――“消えていた”。


 

 微かに“血の跡は残っていた”が。

 “臓物も、肝心の上半身の死体も消えていた”……何故だ?


 

 それが奴の魔術によるものなのか。

 いや、死体を消す事が魔術であるのなら。

 何故、態々、そんな事をする必要があるというのか。

 そんな必要は無い筈だが……まさか、回収した死体を後で食うとでも?


 奴が本当に悪魔であるのなら、その可能性は高い。

 が、それならば奴は先ず最初に俺たちを殺し尽くし。

 後でゆっくりと食事をするという合理的な思考を持っている事になる。

 それでは時間稼ぎという方法もあまり有効的ではない上に。

 下手をすれば、その時の戦闘すらも無視して優先度を決めて行動をする可能性が高い。


 ……恐らく、危険度から言えば俺たちの方が上だった筈だが……結界に行った上級生たちを優先して殺したのであれば、その可能性が高いだろう。


 間違いなく、奴には食欲を超えた高い知能がある。

 言葉を発する事無く、獣のような動きを演じているだけだ……何て狡猾な悪魔なんだッ!


 恐ろしい。

 知性のある殺戮者ほど恐ろしいものは無い。

 このままシェルターに逃げようとも。

 奴は確実にシェルターを見つけ出して。

 確実に俺たちの事を殺しに来るだろう。

 そうなれば詰みであり……どうする?


 シェルターには行く。

 今は兎に角、態勢を整える必要がある。

 あの中で、まだ動かせるだけの人員が残っている可能性は低いが……いや、そうだ!


 いるじゃないか。

 件の教師の教え子である彼らが。

 

 噂には聞いていた。

 件の教師が行う過激な授業を乗り越えて。

 対魔式身体操術を既に身に着けているとも。

 会長もそんな逸材がいるのであれば生徒会に招きたいとも言っていた。

 あの方が認めるほどであれば、或いは……よし。


 シェルターへと行き。

 彼らと話をして、もしも、件の教師と連絡が取れるのならばよし。

 もしも、それが出来なかったとしても。

 彼らを戦力としてカウントし、どうにかして外部の人間をこの中に入れる方法を考えよう。

 俺一人ではダメでも、力のある人間が何人もいるのなら、きっと……。

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