063:祓魔師による愉快な防犯教室(side:ランベルト→ゴリ)
カタカタとキーボードを叩いていく。
鬼畜眼鏡と上層部御一行への報告書を作成し――送りつける。
悪魔との戦いでの気づきなどを纏めたレポートであり。
定期的に送っておかないと色々とうるさいのだ。
本来であれば自宅で作って送るのだが、昨日はバタバタとして送れていなかった。
今日も朝からやる事はあったが、隙を見つけて手早く作成しておいた。
ついでになるが、“これから行う事の計画書”も同封しておいたので問題は無い。
後出しじゃんけんのようになってしまったが、言われた通りに送ったので文句を言われる筋合いはない。
そもそも、期限を設定していなかった奴らの責任で……いや、これも鬼畜眼鏡の策略だろう。
アイツであれば、俺が何をするのかの見当もついている筈だ。
最悪、上層部に止められでもしたら俺のクビも危ういが。
まぁそれは奴自身の進退にも関わるので、奴がどうにかするだろう。
もしも、奴らが中断するように言って来れば……知らなかった事にするか。
静かに息を吐き、すっかり冷めてしまったコーヒーに口をつける……あぁ、まずい。
「……」
優雅にコーヒーを飲む。
徹夜というほどではないが。
色々と綿密な準備をしていたので死ぬほど疲れている。
特に、生徒や職員に対する“命の安全を保障する”為に苦労した……はぁ。
夜なべして作った腕輪。
アレさえつけていれば、一先ずは問題は無いが……まぁ此方でも相対したらすぐに確認はするがな。
クルトへの連絡は終えており。
彼も既に配置についたと知らせが来ていた。
クラスの事は別の教員が引き継いでくれているので……存分に仕事が出来る。
何時もと変わらぬ一日……いや、今日は“大事なイベント”がある。
時間を掛けて準備をしていた防犯教室を披露する日であり。
事前に、今日行う事を教師たちは全員知っていた。
奴らはニコニコとしていて、心の底から、俺という存在がどんな防犯教室をするのかを楽しみにしていた。
特にゴリの野郎はかなり浮かれている。
何でも、格好よく悪魔を取り押さえる姿を見せて、若い女教員たちにアピールしたいとか……ははは。
俺も楽しみだったよ。
楽しみで、楽しみで――“笑みが止まらないな”。
腑抜けている。
防犯教室というものが本来、どういうものかを忘れているのだ。
犯罪に対する危機感を持ち、有事の際にも適切な行動がとれるようにする為のデモンストレーション。
火災であれ、不審者であれ、学校ではよく行う事であり――だからこそ、“誰もがだらけ切っていた”。
……いや、はき違えていると言ってもいい。
ただのデモンストレーション。
本当に犯罪者が来る訳でもない。
ましてや悪魔なんて来ないだろう。
此処は修道院であり、悪魔に対する防護は整っていると――あめぇんだよ、カスが。
悪魔は必ず来る。
祓魔師の適正があり、それでいて弱い温室育ちの坊ちゃん嬢ちゃんが此処にはたんまりいるんだ。
奴らにとっては肥え太って脂の載った家畜がごろごろいるようなもので。
今までは対魔局の中でも、エリートたちがその近くにいたから襲わなかっただけだ。
そして、上位の存在であれば態々、中途半端な存在を狙わずとも最上級の餌を求めるからな。
故に、奇跡的に襲われなかっただけだ。
だが、現在の状況で言えば――襲われる可能性も出てきている。
ニンドゥでの一件があった事で。
悪魔も国を揺るがすほどの行動を取るようになったと皆が認識した。
王を操り、知略を巡らせるなんて今まででは考えられない。
餌を求めるだけの行動からは逸脱しているのだ。
つまり、奴らは食欲以外でも行動を起こすという事がその一件で分かってしまった。
修道院であろうとも、狙われない保証は無い。
何かしらの計画の段階で襲撃に遭う可能性もある。
少なくとも、奴らの行動パターンが複雑化した今。
目に見える脅威は広がっていると考えておいた方が良い。
例え、デモンストレーションであろうとも。
校長や上層部が俺に仕事を任せたのであれば――“全力でやってやるよ”。
憎まれ役は慣れている。
恨まれる事なんて今に始まった事じゃねぇ。
俺は俺のやり方で、奴らに対して悪魔への危機感を植え付ける。
人間が学ぶ時は、何時だって“痛み”と“恐怖”が関係している。
俺はそれを強制的に刺激してやるだけだ……くくく。
俺がにたりと笑えば、奴らは勘違いをしてくすりと笑う。
大方、俺が悪魔になり切る練習をしていると思っているのだろう――ちげぇよ、ボケが。
悪魔になり切る必要なんかねぇ。
俺は悪魔という存在を知り尽くしている。
奴らの行動も、奴らの思考も――態々、真似しようとする必要なんかねぇんだよ。
「……頑張りましょうね!」
「そうですね! 私たちは初めてですから……頑張るぞぉ」
「……」
女どもがはしゃいでいやがる。
俺はそれを冷めた目で見つめていた。
野郎どもにとっては女たちに良い所を見せる為のイベント。
新任の奴らにとっては晴れの舞台のようなイベント。
子供たちを教員たちがきちんと避難誘導出来ているという事を対魔局にアピールする為のイベント。
俺という人間が仮装パーティーよろしく、どんな姿で現れるのかを楽しみにするイベント。
イベント、イベント、イベント……あぁそうだな。イベントだ――“鏖殺という名”の、な。
笑えるだろう。
こんなにも愉快な事は早々ない。
愉快で、痛快で――“自然と力が入っちまうよ”。
今日の俺は――“マジだ”。
校長直々の命令であり。
上の奴らも俺に期待をしていやがる。
どんな結果になって、校舎が朽ち果てようとも。
責任を持つのは奴らであり、俺は俺独自の計画で――“鏖殺”を進めてやる。
浮かれているのなら、今の内に存分に浮かれていればいい。
きゃぴきゃぴと学生のようにはしゃげ。
俺は別に止めはしないし、興味も無いからな。
そんな事を考えていれば、扉を開けて職員室に――ゴリが入って来た。
奴は俺を見つけるなり、片手を上げて近寄って来る。
俺は残りのコーヒーを飲み干してから、カップを机に置きゴリを見つめる。
「ベッカー先生! ご指示通り、我々は勿論の事、生徒たち全員に“例の腕輪”をつけさせてきましたよ! ……して、あれは何ですかな? 絶対に着けないといけないものと校長からは聞いていますが……先生?」
《えぇつけて下さい。でないと――命の補償は出来ませんから》
「……っ! そこまでのものとは……ふふ、先生はやる気ですね。でしたら、私も本気で臨みますよ。なぁに、こう見えても“演技”は得意な方なのでね!」
《ほぉ演技、ですか。それはそれは……そうですか。それはとても楽しみですね。“どこまで演技を続けられるのか”……楽しみにしていますよ》
俺はそれだけ言って席から立ち上がる。
何時もよりも早い時間に修道院に一人で来て。
運動場には俺が業者に運ばせたバカでかいコンテナのようなものが置かれている。
アレも重要なものであり、今日という日はきっと生徒たちにとって――忘れられない日になるだろう。
防犯教室を行う時間を教えてやったのはせめてもの“情け”だ。
本来であれば、悪魔が襲撃してくるタイミング何て誰にも分からない。
それを態々、教えてやったようなものだから……精々、頑張って抗って欲しいな。
俺はゴリに最後の準備に行く事を伝えて職員室を出る。
全員がニコニコと笑って、俺を応援してくる……馬鹿が。
俺を応援するのは敵に塩を送るのと同義だ。
防犯教室では俺は悪魔となり、お前たちの敵となる。
そんな存在を能天気に応援できるだけの余裕は――果たして、どれだけ保つかなぁ?
俺は笑みを深める。
他人から見れば、恐ろしいほどに邪悪な笑みを浮かべているのだろう。
今回は一切の手心は無い、何故ならば――
完全なる悪魔に俺はなり――――“皆殺しだからだぁ”。
〇
生徒たちへの避難誘導は……既に始まっているだろうな。
我々は悪魔を迎え撃つ為の人員であり。
命を懸けてでも、悪魔と戦う。
何も勝てなくてもいい、現役の祓魔師の方々が来るまでの時間稼ぎで。
設定ではプロの方々が此方に向けて既に移動しいていて、到着するまで精々が十分やそこらだろう。
我々は愛する生徒たちを守る盾であり、戦う為の矛でもある……“あぁ、格好良いな”。
今の自分の状況にうっとりする。
憧れていたヒーローのようであり。
此処でもしも、悪魔に扮するベッカー先生を倒してしまっても――別に構わない筈だ、ふふ。
近くには新任教師であるシーナ先生がいる。
彼女に良い所を見せれば、きっと……ふふふ!
そんな事を考えていれば、シーナ先生たちの話し声が聞こえて来た。
「ふふ、ベッカー先生。どんな格好で来るのか……楽しみですね」
「えぇ確かに。ベッカー先生はロイファーですから、きっとすごく凝った演出で登場するかもしれませんね。ふふ」
楽しそうに会話する女性陣。
俺は此処だとその会話に何とか入ろうとした。
「そうかもしれませんねぇ。いやぁ楽しみだなぁ……と、ところで。んん! そ、その、シーナ先生……今日の仕事が終わったら、わ、私と一緒に、しょ、食事」
「……! ゴリ先生! あれじゃないですか!」
「え、あ、あぁ……! おぉ」
修道院のゲート前。
我々は街に悪魔が襲来し、修道院に悪魔が攻めてきているという知らせを聞いたという設定で警戒をしていた。
ベッカー先生もそれでいいと言っていて、現在はクラスを受け持っている方々が生徒の避難誘導を行っている。
そして、上級生の中でも戦闘経験のある人間や生徒会のメンバーたちは悪魔との戦闘も出来るように校舎内で待機している。
ベッカー先生はそろそろ来るだろうと思っていれば――それは音も無く現れた。
「――」
まるで、空から舞い降りるように。
何も無い空間から現れたそれは静かに地面に足を下ろす。
黒よりも黒い漆黒のフルプレートの鎧。
戦いの記憶を演出するように、その鎧には無数の傷が刻まれていた。
ボロボロの赤黒いマントはまるで敵や仲間の血を浴びたような存在感を放ち。
それが風によってはためくだけで緊張を感じる。
ヘルムはまるで、骸骨のような恐ろしい形状をしていてねじれた二本の角を生やしているように見えた。
目の部分にはどういう仕掛けなのか青い炎が見えている。
その背には無骨な身の丈ほどある大剣が背負われていた。
材質は鉄……いや、鋼か……とんでもない質量がありそうだ。
「……すごく、凝ってますね……正直、震えちゃいます」
「えぇ、私もです……これは、ベッカー先生の言う通り“殺す気”でいかないといけませんな」
ベッカー先生はこのイベントが始まる三日前から皆に言っていた。
本気であり、殺す気で来るようにと。
最初はただの発破の意味合いかと思ったが。
正真正銘、彼も“本気”で来るようだ……ならば、此方も言うとおりにする他ない。
「――」
「「「……っ」」」
ヘルムの隙間から空気が漏れ出すような音が聞こえる。
口のようになった部分はカタカタと揺れていた。
笑っている。いや、嘲笑っているつもりか。
歩くたびに金属同士が擦れる音が響き、地面が揺れているような感覚を覚えて……凄い、威圧感だなぁ。
見ているだけで震えあがりそうだ。
もしも、ベッカー先生と知らなければ完全に悪魔だと思い込んでしまいそうだ。
俺はたらりと汗を流しながらも、ニッと笑って聖刃を構える。
他の先生方もそれぞれの得物を構えて挑戦的な笑みを浮かべていた。
殺す気ではいく……が、これはただの演習だ。
本気で命の奪い合いはしない。
先生もそれを理解しているだろう。
あくまでも全力で戦うようにするだけだ。
そう思えるからこそ、どんなに威圧感があろうとも余裕はある。
此処で、先生方のリーダー役として存在感を出したい。
そう思った俺は、しっかりとした足取り地を踏みつけた。
俺は先生方の一歩前に出て声高らかに奴に対して警告を放つ。
「悪魔めッ!! これ以上先には通さんッ!! 戦うのであれば――死を覚悟しろッ!!」
「「「……っ!」」」
ふ、決まったな……同僚たちからの熱い視線を感じる。
ベッカー先生は確かに、ロイファーの祓魔師だ。
最初の時に見せてもらった生徒との模擬戦でもその実力は分かっている……だが、我々も祓魔師の端くれだ。
例え、階級は一番下だろうとも。
我々は生徒よりも強く経験は豊富だ。
教師として多くの生徒を育てて来たからこその自信がある。
俺一人ではベッカー先生と“五分”であろうとも。
此処で俺が彼の注意を引き、その隙に後衛の方々が動けばそれでいい。
如何に現役の祓魔師でろうとも、数の暴力には抗えない筈だ……ふふ、完璧だな。
先生には申し訳ないが。
俺は教師としても男としても、彼を此処で完膚なきまでに叩きのめさなければならない。
此処で早々に悪魔には――“退場してもらおうッ!!”
「行くぞッ!! オオオオオォォォ――ッ!!!!」
俺は剣を鞘から抜き放ち上段に構える。
そうして、自らを鼓舞する為に雄叫びをあげた。
地を蹴りつけて一気に間合いを詰める。
後衛の先生方も魔力を操る。
俺が注意を引き、隙を作りだし。
そこから一気に此方の火力で――――ッ!
「――クゥ!!」
突如、突風が吹く。
一瞬、瞬きをしてしまう。
次に目を開ければ――“消えた”。
「――は?」
目の前を見つめる……“先生が、いない”?
いや、何処に……て、あ、れ……何で、視線が下に……足が、動かない?
あ、れ、何で……あ、れ……感覚が、おかしい……?
「――ツゥ!?」
私は地面と熱烈なキスをする。
震える手で鼻に手をやり。
何が起きたのかとゆっくりと足を確認して――血の気が引く。
「あ、あぁ、ああぁぁ――足があああぁぁぁ!!!??」
足が。いや、下半身が――“転がっていた”。
熱い、熱い、熱い熱い熱い熱い熱熱熱熱熱熱熱熱熱――イダイィィッ!!??
血だまりであり、痛みが遅れて襲い掛かる。
強烈な痛みはまるで、熱した鉄を傷口にあてているようで。
とても熱く、とても耐えられる痛みじゃない。
私は必死に声を押し殺しながら、震える手で何とかしようとする。
が、切り傷などなら抑えてもこれではどうしようもない。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!!」
軽いパニック状態。
とてもじゃないが真面な思考なんて出来ない。
そんな中で視線を動かして先生方に助けを求めようとした。
「た、たすけ――ぇ?」
「あ――――…………」
私の状態をようやく認識した先生方は悲鳴――を、あげる間もなく両断される。
大剣をまるで、木の枝を振るう様に。
それによって先生方の体は一緒で両断されて行く。
スローモーションに感じる中で、眼前で血しぶきが派手に舞っていた。
宙では間の抜けた顔をする同僚が目を大きく見開き此方を見ていた。
下半身は吹き飛ばされて、上半身が宙を舞い――ぼとりと落ちた。
空を舞った血が俺の顔に掛かる。
顔に掛かったそれに指で触れて、俺は呼吸も忘れるほどに苦しさを感じた。
両目を限界まで見開けば、途切れそうになった意識が“戻ってしまう”。
悪魔は同僚の返り血を浴びてカタカタと笑う。
そうして、放心状態の先生方を――静かに見つめた。
「――!」
残った先生方は対処をしようとした。
杖を振るい魔力による攻撃をしようとした。
が、悪魔はそれをいとも容易く避ける。
暴風の如き荒々しさで剣を振るって、彼らを木っ端みじんにする。
質量による攻撃が、まるでダンプカーにでも引かれたかのように同僚たちを肉塊に変える。
ぼとぼとと肉が辺り一帯に飛び散る。
「――クソッ!!」
「……」
短剣で背後を狙った先生は――決まるッ!!
が、悪魔はその攻撃を見る事も無く半身をずらすだけで回避した。
呆気なく攻撃を躱された。同僚は目を大きく見開いている。
そうして、そのまま悪魔は片腕を勢いよくを突き出して――同僚の心臓を貫く。
「ごふ――あ、あぁ――――…………」
「ひ、ひぃ!!」
心臓を貫かれた。
彼は血を吐き出し、震えながらもシーナ先生に手を伸ばす。
悪魔はそんな彼の穴から手を抜き放ち。
死体は無残に地面に吐き捨てられた。
「い、いやぁ、あ、あぁ、こな、い、でぇ――ご、り、せん、せぇ!」
「……! や、め!」
シーナ先生が恐怖で腰を抜かす。
彼女はまだ息がある俺に助けを求める。
俺は必死に手を動かして彼女の元へと這いずっていく。
が、悪魔はシーナ先生に狙いを定めた。
ゆっくりゆっくりと近づいていく。
シーナ先生はメイスを振るって攻撃をするが。
悪魔はまるで意にも介していない。
そのまま彼女の頭を片手で掴む。
ギリギリと腕に力を込めていくのが分かった……あ、あぁぁ。
「や、め――いだぃいだぃいだぃいだぁいだぃぃぃぃ!! あ、あぁあああぁぁぁ!!? ――ッ――――…………」
途中で水の音がした。
先生のスーツの下は濡れていた。
そして、そのまま悪魔は先生の頭をトマトのようにぶちゅりと握りつぶす。
彼女の四肢は痙攣し、砕けた頭からはぴゅーぴゅーと血が出ていた。
そのまま力が抜けて四肢はぷらぷらと揺れる。
悪魔はそんな彼女に興味を無くし……投げ捨てる。
「ひぃ――!」
俺の近くに頭が潰れたシーナ先生の死体が降って来た。
俺は情けなくも悲鳴を出し、必死でそれを遠ざけようとする。
が、既にもう力は残っていない。
冷たい死が――“間近に迫っていた”。
「――?」
「あ、あぁ、ひぅ、ぅぁ」
悪魔は返り血を全身に浴びていた。
恐ろしい。直視できないほどに――恐怖を感じる。
それはゆっくりと此方を見て首を傾げている。
まるで、どうしたのかと言わんばかりだ。
その姿は、ベッカー先生ではない。
口が悪くて、あまり話をしてくれなくとも。
優しさがあり、頼み事も聞いてくれるあの人ではない。
完全なる悪魔。
人間の血肉を喰らう魔性の姿で――心が急速に冷えていく。
痛みが消えていき、心が死んでいく。
意識が消えそうになりながら、俺は両目から涙を流す。
必死に神に助けを求めながら、ガチガチと歯を打ち鳴らす。
奴は、動かない。
ただジッと俺を見つめていて……震える口で必死に俺は言葉を紡いだ。
「ベッカー、先生? せん、せい……あ、あぁ、ちが……あ、あなた、は……おま、え、は……ああぁぁ」
「――」
教師たちの死体を“踏み潰し”。
奴は此方に視線を向けて歩いて来る。
ゆっくり、ゆっくりと近づいて来る。
その足音を聞くだけで、俺は恐怖に耐え切れずに小便をまき散らした。
俺の前に立てばゆっくりと悪魔は大剣を頭上に掲げた……ああ、ああぁ、ぁぁあ!
「悪魔、悪魔悪魔悪魔――ああああぁぁぁぁ!!!!!」
「――!!!」
悪魔はカタカタと笑う。
そうして、一切の慈悲も無く――得物を振り下ろす。
私は鋼鉄の塊に潰される。
パンを力任せに上から押しつぶすように。
そのままテレビの電源を切るように、俺の意識はぶつりと――――…………




