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006:祓魔師からは逃げられない

 授業の終わりを告げる鐘が鳴り響く。

 俺はゆっくりと足を止めた。

 そうして、手に持っていた“ゴミ”を投げ転がす。

 すると、前で走っていた生徒たちもふらふらとしながら倒れるように地面に手をつく。

 死屍累々の光景が広がっていて、全員が全員、青ざめた顔をしていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ――うぅ、うおぇぇぇぇ!!」

「うおぇぇ……うぷ!」

「し、死ぬ……もう、死、死……おえぇぇぇ!!」


 俺の目の前でマーライオンの如くゲロを吐き続ける生徒たち……くせぇな。


 あれから鐘が鳴るまで走り続けて。

 ペナルティを受けた者もいたが、“ほとんど”の生徒は無事に俺のメニューを消化した。

 電撃を一発でも浴びせてやれば、奴らは尻尾の火がついた馬の如く走っていた。

 

 教育において最も効果があるものとは“痛み”だ。

 無知な赤子であろうとも、熱い鉄鍋に触れて痛みを知れば二度と振れようとは思わない。

 こいつらもそうであり、俺が本気で電撃を浴びせると分かれば後は命懸けだ。

 誰であろうとも我が身は可愛いものであり、菓子を食うガキは菓子を捨てて。

 メイクに夢中だったマセガキも途中でメイク道具を投げ捨てていた。

 

 ――ゲームをしながら眺めていたが中々に面白い光景だと思ったよ、はは。

 

 そんな事を考えながら、俺はゲームを一時停止にする。

 そうして、ポケットの中に仕舞っておいた。

 ゲロを吐いてからだらしなく横たわるみっともない生徒たちを冷めた目で見つめる。

 そうして、軽く咳ばらいをしてから次の授業についても事前に知らせておく。


《皆さんお疲れ様です。一時限目はこれにて終了、“十分後に二限目の授業を開始する”のでそれまでに運動場で待機していて下さい。それでは》

「……え? あ、あの……二時限目は、座学じゃ」

《……あぁそう言えば言っていませんでしたね。私から先生方にお願いし、貴方方が暫く行う事は私が担当する授業になりました。一週間もすれば基礎的な体力は身に付き、その後は戦闘》

「ま、待ってよ!! 聞いてない!! そんな事、聞いてないよ!? 意味わかんないから!!」


 女子生徒の一人がキレる。

 若干メイクが剥げており、中々にホラーな顔になっているカスは……確か、アデリナ・バルツァーだったかぁ?


 こいつの他にも不満を表情に出すカスは多い。

 どうやら、未だに学生気分が抜けていないようだ。

 非常に残念であり、俺の手間がまた増える事に苛立ちを覚える。

 が、俺は表面上は教師として振舞う様に脳内お花畑でも分かるように教えてやる。


《意味が分からない、知らなかった……そんな事は社会では通用しません。分かりなさい、理解しなさい。さもなくば、貴方たちは惨たらしく死ぬ事になるでしょう》

「は、はぁぁ!? べ、別に私たちぃ? 祓魔師になるって決めた訳じゃないんですけど! 勝手に将来の事で説教するとかマジでうざいんですけど!!」

「そ、そうだそうだ!! それになぁ!? テメェが何言ったとしてもな!? 結局はこんなの体罰なんだよ!! 今の時代にこんな事してPTAが黙ってねぇぞ!! わ、分かったら俺たちに土下座しろ!! ど・げ・ざ!! ど・げ・ざ!!」

「「「謝れ!! 謝れ!! 謝れ!!!」」」

「……」


 奴らは好き放題に喚く。

 そうかそうか、俺の今までの教育を体罰と言うのか……ほぉ。


 俺は静かにため息を零す。

 そうして、首を左右に振ってから眼鏡を徐にくいっと上げる。

 奴らの顔を見つめながらハッキリと言ってやった。


《――そうですが、何か?》

「……! こ、こいつ認めた上に、開き直りやがって!! 今更後悔してもおせぇぞ!! 今すぐに親に連絡して」

《――手の指は十本ですね》

「……あ、あぁ? な、何言って……っ」


 奴は徐に俺が発言した内容に震えていた。

 俺は真顔のまま淡々とこれからやるかもしれない事を告げる。


《先ず、貴方方を誘拐し、指を一本ずつ潰します。手が終われば足の指をすり潰します。その次は眼球をスプーンで抉ります。その次は、髪の毛を全て手でむしり取り、皮をナイフで剝いで行きます》

「お、脅しかよ……は、は!! そ、そんなの俺たちは怖くねぇぞ!! そんな事お前が」

《何か、勘違いしてますね?》

「ぇ、ぇ?」


 赤髪のクズの表情は真っ青だ。

 気づいていないだろうが震えている。

 見れば、他の生徒たちも同じように震えていた。

 俺はそんな生徒の恐怖を刺激する事を教えてやる。



 

《今のは脅しではなく――“”事前連絡”ですよ?》

「「「……!?」」」




 俺の言葉を聞いた瞬間。

 不良共は腰を抜かす。

 女子生徒に至っては悲鳴を上げたり、ガチガチと歯を鳴らして恐慌状態になっていた。

 唯一、パーカーを着てゲームをずっとしているだけは一切心が乱れていない……アイツは一番見込みがあるな。


 俺はそれだけ教えてやってから、時計を確認する。


《……五分後に再開します……逃げないでくださいね?》

「ぁ、ぁぁ……こ、こんなの……ゆ、め……ぅぁ」


 俺の話など既に聞こえていたない様子の赤髪の不良。

 まぁ聞いていようがいまいが関係ない。

 やる事さえしてくれたのなら俺は多くは求めないのだ。

 そんな事を考えながら、俺は適当に芝生の上に座りゲームを始め……あ、忘れてた。


「……」


 瞳孔が開いていて、口から泡を吹く男。

 焦げ臭い臭いを放ちながらぴくりとも動かないそれ。

 今回の授業で唯一のリタイア者であり、この中で最も使えないゴミだ。

 既に心臓は止まっていて死んでいる状態ではあるが。

 このまま授業で人が死んだことを知られれば、あのデブは絶対に俺を解雇するだろう。

 そうなるのは嫌なので手間であるが蘇生させる事にした。


 俺は倒れるゴミの心臓に手を当てる。

 そうして、調整をした強力な電撃を――放つ。


「――ッ!! がはぁ!! はぁ!! はぁ!! はぁ!! ……ぅぇ?」

《おはようございます。後五分で次の授業なので。それでは》


 おかっぱもやし君は周囲を見ながら状況を飲み込めないでいた。

 俺はそんな彼を無視してゲームを始める……一面だけでもクリアしておこう。


「……そうだ……僕、三回……こんなんじゃ、ダメなのに……僕は、僕は……くぅ!!」

「……」


 近くで悔し気な声を出すおかっぱ。

 黙っていろと思ったが、未だに恐慌状態の生徒もいたので関係なかった。


 


 静かに息を吐く。

 そうして、額に溜まった汗を片手で拭う……よし。


「……」


 何とか俺の巧みな操作によって一面をクリアした。

 達成感を感じながら、時計を確認すれば……やべ、五分も長く休憩を取っちまった。


 俺は立ちあがる。

 そうして、授業を再開しようと周りを見て……あぁ?


 

 誰もいない。

 人っ子一人おらず……いや、二人はいるか。


 

 やる気を漲らせるおかっぱとまだゲームをし続ける陰キャ。

 こいつらだけであり、他の生徒の姿は何処にもない。

 俺は小さくため息を吐き、二人に待機を命じる……手間かけさせやがって……“躾が必要だな”。


 俺は意識を集中させる。

 そうして、魔力の探知を開始した……いたな。


 トイレに籠っている者。

 別の誰かと集団で話している者たち。

 他には何処かを目指して走る……いや、車か?


 それぞれが自発的に行動を起こしていた。

 あのやる気の無かったクズ共にしては上出来だが。

 俺の手を煩わせるのであれば話は別だ。

 先ずは、車で何処かを目指している奴らからだ。

 俺はゆっくりと腰を屈めて――勢いよく飛ぶ。


「……うぇ!!?」

「……」

 

 運動場から一気に離れていく。

 風を切り裂き、俺は宙を翔けた。

 

 まるで、ミサイルのように空中を猛烈な勢いで飛ぶ。

 そうして、車で移動する奴らの進行方向に向かって空中で空気を蹴りつけて更に加速。

 ぐんぐんとスピードを速めて、奴らの上空を通過した瞬間に――下へと急降下する。


 地面に勢いよく着地すれば道路で。

 バキバキと道路に亀裂が走っていった。

 目の前ではタクシーが急停止していて。

 客席には俺の事を間抜けな面で見つめる不良三人組がいた。

 俺はゆっくりとタクシーに近寄り、ドアに手を掛けて――引きちぎる。


 ドアを適当に投げ捨てた。

 そうして、小便でも漏らしそうなほどに震える不良たちに“お願い”をする。


《戻ってください。次は殺します》

「「「ぁ、ぁ、ふぁ、ぁ、ふぁぃ」」」



 ◇


 

《皆さん、お疲れさまでした。まだまだ貴方たちは役に立たないですが。明日からも頑張りましょう。では、解散》

「「「…………」」」


 夕焼け空の下。

 俺の前で目から光を消したずたぼろのゴミ共が整列していた。

 虚ろな瞳で地面を見つめて、ぼそぼそと何かを呟いている奴もいる。

 死んではいないから……ま、いっか!


 車で逃走しようとした者。

 俺の言葉を理解できずに大人を頼ろうとした者。

 トイレで隠れてやり過ごそうとした者。


 俺たちはそいつらを回収し、痛みによる教育を施した。

 すると、最初はあんなに反抗的であった愚か者共も今では従順になっている。

 まだまだ基礎体力はクソ以下ではあるが、俺の指示に従うのであれば完璧な兵器に作り替える事が出来るだろう。


 ……まぁ、奴らはまだマシだが……問題はアイツだなぁ。


 何度も何度も死にやがったクソ。

 愚か者たちの中で最も弱い存在。

 おかっぱ頭のもやし君であり名前は……エゴン・アルホフだったかぁ?


 やる気だけは一丁前だが。

 それに全く実力が伴っていない。

 アレでは何時かは蘇生も間に合わなくなるかもしれない。

 せめて、後少しでも能力があればなぁ……しゃあねぇか。


 浮かない顔のエゴン。

 俺はそいつだけを残らせた。

 奴は首を傾げながらも言われた通り残る。

 俺はそんなカスの前に立ってから奴に対して指令を与えた。


《エゴン・アルホフ君。貴方には特別メニューを与えます》

「……!! と、特別……あ、ありがとうございます!!」

《……これから毎日、朝に一時間のランニング。そして、授業が終わった後に筋トレを行いなさい……私が見ていてあげるので、絶対に欠かす》

「ああああありがとうございます!!! ぼ、僕!!! 絶対にやりますから!!」

《あ、はい……では、早朝の五時に運動場で待機していてください。筋トレは学校にあるトレーニング室で。それでは》

「……ぅぅ!!!」


 奴は何故か嬉しそうな顔で震えていた……マゾなのか?

 

 俺は得体の知れないエゴンから足早に去る。

 本当であれば、奴の事は見捨てても良い気がするが。

 もしも、一人でも担当の生徒を切り捨ててしまえば確実にクビが早まるだろう。

 それだけは回避しなければならないことで。

 例え、朝に早く起きなければならなくなったとしても、今までの徹夜生活を考えれば余裕で我慢できる。


 全ては俺の幸福な生活の為で……その為ならば、嫌な仕事でも全力でやってやるよ。


 あの鬼畜眼鏡の掌の上で踊らされているようでシャクだが。

 この極上の生活だけは手放したくない。

 明日からの授業内容も更に考えなければならない。

 多少心臓が止まったり体が欠損しても構わねぇ。

 兎に角、スピードと効率重視であり……く、くくく。


 思っていたよりも楽しみだよ。

 まるで、育成ゲームをしているようだ。

 最低のクズ共が俺の手によって完璧な兵器となるんだ……やってやるぜぇ。


 俺はくつくつと笑う。

 そうして、部活をする生徒たちから少し怯えたような目を向けられている事に遅れて気づいた……鬱だ。


 


 

「……」

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