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【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい  作者: うどん


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52/134

052:祓魔師としての力(side:ランベルト→エゴン)

 ごろごろと巨大な荷車をボブが引いていく。

 荷台には生徒たちが黙って座っていた。

 誰しもが俺に言われた通りに目隠しをしている。


 車で来た方が楽ではあるが。

 ガソリンなどの臭いによって“奴ら”が活発になれば面倒だった。

 電気自動車であればとも思うが、それはそれで襲われた場合にこちらが後手に回る。

 手押しの荷台であれば、俺も結界を張りやすい上に対処もしやすい。

 まぁそれほどに手こずる奴はいないが、念には念をいれておく。

 

 そうして、暫くの間、荷車は進んでいく。

 進んで、進んで、進んで……手を上げる。


 周囲に敵の姿が無いかサーチをする。

 反応は無く、問題は無いと判断した。


《到着です……皆さん、目隠しを取ってもいいですよ》

「「「……?」」」


 生徒たちはおずおずと目隠しを取る。

 そうして、周りの景色を見て息を飲んでいた。

 それもその筈であり、俺たちが今いる場所は――“森の中”だ。


 それも一般人であれば見た事も無いような巨大な木々が生えており。

 聞いた事も無いような鳴き声の鳥や獣の声が聞こえていた。

 ざわざわと風によって木々がざわめき、誰しもが息を飲む。

 此処は少し広がった空間であるから陽の光もあるが。

 もしも、木々の中へと入れば陽の光も遮られて方向感覚も狂うだろう。


 時刻は昼過ぎであり、菓子で紛らわせていた空腹も戻ってきているだろう。

 生徒たちは荷台から降りながら、じっと木の建物を見つめている……あぁ。


《流石に、テントでは“危ない”ですからね。私が建てておきましたよ。勿論、男女で仕切ってあるのでご安心を》

「……えっと、先生……此処は?」


 エゴンが恐る恐る質問してくる。

 俺は此処はライツ領内の東エリアにあるザムステン州にある特殊な森林地帯であると説明する。

 広大過ぎるが故に、州の三分の一が森と化していて。

 その森は国境を越えた先にも存在している。

 地獄(ゲヘナ)の研究と魔物の研究を名目に存在する場所と説明すればいいのか……まぁそれ自体はもう役割を終えているがな。

 

 間違った方向に進めば、知らず知らずのうちに国境を越えてしまう場合もあるが。

 そっちに行くまでに体力が尽きる方が先だとは思っている。

 故に、不法入国だけはあり得ない……多分だけどな。


 まぁ警備をしている人間もおり。

 間違って侵入しそうになれば、向こうが警告してくるので何の心配も無い。

 

《広さはかなりのものですが。何よりも、この森の中では方向感覚はあってないようなものです。くれぐれも“今は”単独では森に入らないようにとだけ伝えておきます》

「……あのさ、その言い方だと……他にもやばい何かがあるって聞こえるんだけど?」


 ヤンが不安げに聞いてきた。

 俺は笑みを浮かべながら、当然だと伝える。


《獣は勿論の事、此処には“魔物”も放し飼いにされています。本来であれば、魔物は駆除対象ですが。此処で生息する魔物たちは繁殖能力が無いので勝手に増える心配はありません》

「……え? それって、どういう事なの?」


 アデリナは訳が分からないと言った様子だ。


《つまり、此処にいる魔物は人の手で管理されているのですよ。昔の時代には、悪魔のように魔物を使役して戦わせるなどという案も出ていましたからね……まぁ結果から言えば、それは叶わなかった。此処にいる魔物は中途半端に能力を奪われただけの雑魚です。まぁ現在も魔物に関する研究は進められているので、此処は実験場も兼ねているといえばいいでしょうか。環境自体も、地獄に似せているところがありますね。だからこそ、方向感覚が狂うというおかしな現象も発生しています》

「そ、そうなんだ……でも、魔物だから……」

《えぇ人は襲いますし、攻撃性そのものは消えていません。あくまでこの森でのみ生きる事を許されているだけですから》


 俺がそう言ってやれば生徒たちは不安そうにしていた。

 唯一、カブラギだけは何かを考えてやがった。


「……もしかして、此処は祓魔師の“演習場”か?」

「「「……演習場?」」」

《おや? 知っているんですか……えぇそうですよ。此処はライツの保有する第三演習場である“見えざる森”です》


 見えざる森――その名の通り何も見えないように方向感覚を失う魔の森だ。

 

 此処は対魔局が買い取り、祓魔師たちの実力を試す演習場兼魔物の実験場となっている。

 元はただの森林地帯であったのが、劣化版地獄のような感じになっている。

 近隣住民からの苦情もあるにはあったが。

 今まで、此処で放し飼いにされた魔物が居住区に入った事は一度も無い。

 森自体にも、人に害を及ぼすような事も無かった。

 入らない限りは安全であり、その為、我々が厳重に管理している。

 

 演習場としては主に、まだ実戦経験の無い若い祓魔師の力を試す為のもので。

 此処で大体一週間ほど生活する事が我々の中では一般的だ。


 今回は見習いであるからこそ二泊三日で。

 俺たちも一応は監視するので問題は無い。

 上には話を通しており、不当に拘束される心配も無い。

 そう伝えてやれば、全員が全員、やっぱそうなるのかという目で俺を見る。


《そんな目を向けても無駄です。貴方方は祓魔師を目指しているのです。例え林間学校であっても、私は一切手を抜きません。貴方方に死なれれば困りますからね》

「「「……! 先生……」」」


 死なれたら寝覚めは悪いし、俺の評価にも関わる。

 だからこそ、そんな生暖かい目を俺に向けるなと睨む。


《特に、ニンドゥで学んでいない方々は、此処での経験が特に役立つでしょう。よく見て、よく学び、よく生きる……それがこの三日間での課題です》

「……それだけ、ですか? えっと、先生でしたら、もっと……」


 エゴンが不思議そうな顔をしていた。

 言いたい事は何となく分かる。

 俺にしては生ぬるいと思っているんだろう。

 俺はにやりと笑い、今に分かるとだけ伝えてやった。


《さぁ、それでは各自。先ずは荷物を建物の中に置いて来なさい。左の扉は男子生徒の部屋で、右が女子生徒の部屋です。中にはそれぞれ五つずつトイレも作ってあります》

「……トイレが五つずつ……何で、そんなに?」

「……」


 エゴンが首を傾げる。

 カブラギは何かに気づいたようで俺をチラリと見て来た。

 俺は荷物を置きに行った生徒をよそに、近くにいるクルトからタブレットを受け取る。


「……」

「……計画通りに行けば、三日後までには……少々、荒っぽくはなりますが」

《問題ありません。彼らも慣れていますから》

 

 計画表を確認し、タブレットを返す。

 そうして、ぷかぷかと煙を噴くアホと俺たちの家をプラモのように作っているクラーラを呼びつける。

 アホはだるそうに寄ってきクラーラは尻尾でも振るように近づく。


《ボブ、貴方には生徒たちのガイド役を。クラーラ、貴方には周辺の状況の再確認を。何か不審な点があれば各自、私に報告しなさい。もし、各々で対処が可能であれば独断での行動も許します。が、あくまでも生徒を“第一優先”でお願いします》

「へぇい……因みに、此処では何食っても問題ないっすよね?」

《えぇ、問題ありません……言っておきますが、貴方の個人的な趣味を》

「あぁ、分かってますよぉ。ガキにそんな事させませんってぇ……パイセン、何か母ちゃんみたいになっちゃいましたねぇ」

《黙りなさい。埋めますよ?》

「はは、やめてくださいよぉ……ま、仕事は仕事。ちゃんとやりますから」


 ボブは力こぶを作ってにかりと笑う。

 俺は少しだけ不安に思いながらもクラーラを見る。

 すると、クラーラは目にハートでも作ったような熱い視線を俺に向けていた……はぁ、クソ。

 

「私もダーリンの為なら何でもするよ!! 取り敢えず、私たちの愛の巣を作ってベッドはシングルでぇ」

「え、待ってくださいよ。私たちって……俺たちはぁ?」

「……犬小屋」

「はぁぁい! アウトぉぉぉ!! せめて、人間扱いしてくださいよぉぉ!! ねぇクルトちゃん!?」

「……私は別に構いませんよ?」

「「……え?(は?)」」


 クルトの言葉に二人は驚く。

 すると、クルトは儚げな笑みを浮かべながらこう言った。


「マスターがそれでいいのなら、私は何処ででも寝られます……マスターが落ち着ける事、それで私は十分です」

《……クルト君……いえ、そんな事はさせませんよ。犬小屋で寝るとすれば、このカス二人で十分です》

「そ、そんなぁ」

「だ、ダーリン! そいつに騙されないで!! そいつは、そいつはぁ――っ!」


 クルト君の顔を見てクラーラが目を丸くする。

 ボブの奴もちょっと引いていた。

 俺は彼に視線を向けてみたが、普通に笑っているだけだった……?


「殺す……絶対に、何時か……殺して、豚の餌にしてやる」

「……家の組み立ては私が引き継ぎます。クラーラ様、パーツだけ頂けますか?」

「……」

「――“マスターの御手を煩わせますよ”?」

「――チッ!!!!」


 クラーラはパーツを生成し、ぼとぼとと地面に置いていった。

 クルト君はにこりと笑って礼を伝えた。

 俺も手伝う事を申し出れば、彼は最初は断っていたが。

 俺が暇だからと言えば、一緒にしようと言ってくれた。

 クラーラが何かを言ってくるが無視。


《早く行ってください。時間は無いですからね》

「……ぅ、ぅぅ!」

《……仕事が終わったら……生徒たちの調理を見てあげてください》

「……ぅ、ぅぅ、ぅぅぅ!!」

《……終わったら、肩くらいなら揉んであげますから》

「――っ! 分かった!」


 クラーラは笑みを浮かべて納得する……はぁ。

 

 普段の俺であれば、誰かの肩を揉むなんて絶対にしない。

 死ぬほど嫌な事であり、死んでもご免だったが。

 それでもあぁ言わないと動かないと思ったから言っただけだ。

 クラーラはにやりと笑ってクルト君を見ていた……何で張り合うんだよ。


「……」

「ふふ、じゃ行ってきまぁす!」


 そう言って森の中へと走っていくクラーラ。

 俺は小さくため息を吐く。

 クルト君はせっせとパーツを運んで組み立てを始めた。

 チラリと建物を見れば、生徒たちが出てきている。

 ボブに後の説明は任せたと伝えて、俺も建物の組み立てを始めた。


 

 〇

 

 

 建物の中はそれなりの広さだった。

 僕たちのクラスは男女で三十人で。

 男女でバランスが良いから、お互いの部屋の広さも変わりは無いと思う。

 木製の二段ベッドがあって、荷物を管理する為の鍵付きのロッカーもある。

 そこに適当に荷物を仕舞っていれば、何故か……“聖刃”が置いてあった。

 

 最初に気づいたのはヤン君で。

 大きな箱があると思って彼が触れればその箱が展開されて。

 そこに僕たちが使っている武器が入れられていたと分かった。

 何で、林間学校の場所に聖刃があるのか……いや、分かる気はする。


 魔物がいるような場所で。

 悪魔はいないものの、危険は十分にある。

 だったら、森の中を歩くにしても武器が無ければ危ない。

 アレは自分たちの身を守る為のもので……やっぱり普通の林間学校じゃなさそうだなぁ。


 僕たちは戦々恐々としながら、建物の外に出る。

 すると、ベッカー先生とバーデン先生は――“家を作っていた”。


「「「……」」」


 全員でちょっとびっくりしていた。

 僕たちの住む場所は作っていたけど。

 自分たちの家はこれから作るみたいだ。

 それほど、林間学校の準備は間に合っていないかったのか……いや、それとも“別の準備”に時間が掛かっていた?


 可能性はあるけどそれが何かは分からない。

 この中で、先生の正体を知るのは僕だけだ。

 恐らくは、先生と一緒についてきているあの人たちも。

 只者では無く、祓魔師の中では上位の存在に違いない……多分だけど。


「はいはぁい。ガキンチョ共はこっちなぁ。はい、ダッシュ!」

「「「……!」」」


 パンと手を叩いた音が響く。

 すると、そこには先生の友人であるアフロの人が立っていた。

 僕たちは何故か、その人の言葉通りにダッシュで前に立つ。

 アフロの人は納得したように頷いてから、僕たちの姿を見て首を傾げる。


「お前たち……それで行くのか?」

「……えっと……どういう意味ですか?」

「いやいや、丸腰じゃねぇか……武器、いらねぇの?」


 僕たちはハッとした。

 しかし、咄嗟にヤン君が先生からは何も言われていなかったと良い訳をする。

 すると、アフロの人はからからと笑う。


「言われなかったから用意しないってのは――死ぬ奴の言葉だぜぇ?」

「……っ。で、でも!」

「あぁそういうのいいからさぁ。早くしてくれよ? 時間ねぇんだし……無駄は誰だって嫌いだろ?」

「……っ。理不尽じゃねぇか、クソ」


 ヤン君は悪態をつく。

 僕たちは急いで武器を取りに戻った……でも、言っている事は正しい。


 先生だから言っている事だけに従っているけど。

 祓魔師になるのなら、指示に従うだけではダメだ。

 もしも、指揮をする人間が死んだらどうするのか。

 それに、皆が皆、分断されてしまったら命令何て意味をなさない。

 自分で考えて行動しなければ意味がない……きっと、課題を言った時もそういう意図があったのかもしれない。


『特に、ニンドゥで学んでいない方々は、此処での経験が特に役立つでしょう。よく見て、よく学び、よく生きる……それがこの三日間での課題です』


 よく見て、よく学び、よく生きる……考える事が重要なんだ。


 僕たちは知っている。

 ニンドゥで起きた悪魔災害をまじかで見ていたから。

 空を覆い尽くすほどの闇が広がり。

 悪魔たちが僕たちを殺そうとしていた。

 アレほどの悪がもしも、結界を破ってきていたら……僕たちは死んでいただろう。


 ヘルダー様とケーニヒの方々のお陰で僕たちは生きている。

 けど、僕たちも成長すれば守られる側から守る側になるんだ。

 せめて、悪魔との戦いをまじかで見た僕たちだけでも気持ちを切り替えないといけない。

 此処は現役の祓魔師の方も使う演習場で。

 そこで僕たちは三日間生活する。

 きっと危険だらけだけど、此処で学べる事は多い筈だ……よし。


「頑張るぞ……うし!」

「……お前、案外、根性系なんだな」

「え、そうかなぁ? ……でも、ヤン君も最初と違って今は熱血だと思ったけど」

「お、俺はいいんだよ! ……ま、色々あるだろうけど。俺たちが引っ張っていかなきゃな」

「そうそう、俺たちは他の奴らと違って……生で見たからな!」

「正直、下手な映画よりも迫力があってぶるっちまったけど……俺もいずれはケーニヒ様くらいには!」

「……お前じゃ無理だろ?」

「あぁあん!? 何だと!?」

「……ふふ」


 ヤン君たちは喧嘩している。

 それを横目に見ながら、仲間たちで笑っていた。

 すると、外でアフロの人がまだかと言っていた。

 僕たちはハッとしてせっせと聖刃の準備を始めた……頑張るぞぉ!

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