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【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい  作者: うどん


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040:祓魔師は止められない(side:ゾーヤ→ランベルト)

 魔物である三つ首の猟犬が襲い来る。

 それらの攻撃を見切り、私は刀を握りながら避けていった。

 連続した攻撃であり、それら全ては荒々しかった。


 噛みつきからの横からの前足による叩きつけ。

 後方へと飛んで回避をすれば、床に違和感を感じて跳躍。

 床が槍となって突き出したのを寸前で回避できた。

 が、上へと飛べば猟犬たちも跳躍し襲い掛かって来る。


 それらの軌道を読み、私は空気を蹴りつけ――翔けた。


 歪な空間の宙を舞う。

 獰猛な獣たちが唸り声を上げながら、風の刃となって向かってきた。

 それらを身を翻して避けながら、私は刀に魔力を注ぎ続けた。


 カタカタと刀が震えている。

 私の膨大な魔力を流されて、それを内部で激しく回転させるように練り上げる。

 意識し、高め、練り上げ――“雷と化す”。


「……っ」


 刀となったクラーラは何も言わない。

 普段は饒舌であり、息を吐くように毒を吐く女だが。

 こういった時には喋る事はしない。

 戦闘の妨げにならないように、仕事でミスが発生しないように――律儀な奴だ。


 愛に生きながらも、受けた仕事は熟し。

 傍若無人に見えて、考える時は考えている。

 無駄があるように見えて、とても合理的な時が多々あった。


 クラーラは決して馬鹿ではない。

 誰よりも聡い人間であり、その根幹にヘルダーがいるだけだ。

 奴が関わっていないのであれば、淡々と仕事を熟し。

 奴が関わっていれば、絶対にミスが起きないように徹底する。

 つまるところ、どんな状況であろうとも――こいつは“仕事を投げ出さない”。


 私は薄く笑う。

 自らの歳を忘れそうになるが……今年で三十四だったか。


 ケーニヒとなり、十年以上の時を重ねた。

 生涯を武に捧げると誓い。

 己を鍛錬を課し続けて、ただひたすらに強者との戦闘に明け暮れた。


 敵であればそれでいい。

 強き者であれば尚のこと良い。

 そのどちらでも無いのであれば興味も無い。


 己が肉体を鉄とし、ただひたすらに叩き続けた。

 傷をつけ酷使し、砕けるほどに痛めつけた。

 結果、私は鋼を超える肉体を手にし、人知を超えた存在ともやり合える力を手に入れた。

 

 武者修行に道場破り。

 果ては悪魔殺しを請け負い、強敵を探しては殺してきた。

 そんな私があの男と出会い、完膚なきまでに打ちのめされて――あぁ、そうだ。


 今でも、私の願いは変わらない。

 強さを求めて、その頂きを目指して歩みを進めている。

 故にこそ、その頂きで立つあの男を――“超えるのだ”。


「「「ガアアアァァァ――――ッ!!!!!」」」


 魔物どもが咆哮を上げる。

 空間が大きく揺れて、耳が裂けるほどに痛みを発する。

 衝撃波により体が飛ばされて私は宙を舞った。

 が、私は一切心を乱していない。


 ただ静かに歪な空間の偽りの空を見ていた。

 無数の目が私を見つめている。

 無数の声が私を嘲笑う。

 それらを認識し、それらを感じて――全てを“ゼロ”にする。


 意識が極限まで高まる。

 全ての音が消えて、全ての視線を感じなくなる。

 獣たちは強大な魔力を発して己を強化し。

 私を骨まで喰らい尽くそうと動いていた。

 死の気配を感じる筈で、恐怖が心を支配する筈で――ただひたすらに“無”だった。


「――」


 私は空を見つめる。

 この目に見えているものは赤ではない――“光”だ。


 ただ一つ、たった一つの黒い光。

 弱く、小さく、どうしようもなく頼りの無い黒い輝きで。

 私はそれを見つめながら――“地面を滑る”。


「「「――――ッ!!!?」」」

「――シィィィ」


 宙を舞っていた私は、瞬きの合間に地面を滑る。

 そうして、そのまま刀の周りに魔力の層を形成する。

 鞘が無ければ作ればいい、対象が複数であればその中の“壱”を見極めろ。


 極限まで練り上げた魔力がバチバチとスパーク音を発する。

 その音は高まっていき、まるで雷鳴の中にいるようだった。

 魔力の鞘を掴めば、掌が焼けるような痛みを発していた。

 肉が焼け、皮が剥がれ、血が蒸発していく――どうでもいい。


 私は構える。

 姿勢を低くし――“敵の影”を捉えた。


 奴らは危機を察知し、体を分裂させた。

 五体の猟犬が十体に分裂し。

 奴らは闇に体を溶け込ませて姿を消した。

 殺気や視線で私を惑わそうとしている。

 が、私は呼吸を止めてただ――“時を待つ”。


 あれらは分裂体だ。

 ヘルダーもそれは理解していただろう。

 が、私の目にはその中の光が見えていた。


 魔力は光であり、輝きは対象の存在を表す。

 これらの魔物の力は強大だ。

 ケーニヒであろうとも苦戦を強いられる存在だと言える。

 が、どんなに強い存在だろうとも――無敵ではない。


 黒い光の輝きは小さい。

 が、確かに存在しそれはたった一つでしかない。

 

 決して常人の目では見えず。

 見えたとしても、それは常に動いている。

 魔物の心臓はアレであり、それを破壊する事でこれらの魔物は消滅する。

 が、単に破壊するだけではダメだ。


 生半可な攻撃では再生する。

 他者の命を糧とし蘇るのであれば当然だ。

 一撃だ。一撃で、それを跡形も無く消滅させる。


 ヘルダーは私たちにこの場を任せた。

 奴は理解していた。

 これらの魔物を屠るのに、我々が最適であると――“面白い男”だ。


 最強であり、頂点であり。

 理解しがたい力の権化である癖に――我々をも使うのだ。


 本当に愉快で、本当に人間的な奴だ。

 だからこそ、奴の立つ場所に人が集まり。

 我々は自然と奴を目標にしてしまう。


 憧れか、嫉妬か。

 羨望なのか、恋心か――否、違う。


 私は憧れてなどいない。

 嫉妬なんてものもしたことはない。

 私は奴を異性としては全く見ていない。



 

 私は強きを求める。

 ただひたすらに力が欲しい。

 故にこそ、奴をこの手で――“殺してやりたい”。



 

 私は薄く笑う。

 止めていた呼吸を再開すれば――獣たちが口を開けて襲い来る。


 隙を晒したのだ、攻撃を仕掛けるのは当然だ。

 私のミスであり、私の――誘いだ。



 

「――――――――ッ!!!!」

 

 


 高められた魔力を――解き放つ。


 瞬間、私は床を蹴りつけた。

 爆発的な加速力を手にし、凄まじい重力によって体全体が悲鳴を上げた。

 星となり、赤黒い空で一条の光となった。

 強く歯を食いしばりながら、私は雷鳴を轟かせる刀を――振るう。


 

 

 轟雷――目が潰れてしまいそうになる程の光。


 一瞬の激しい閃光が赤黒い空を光で満たす。


 瞬間、黒き光が姿を晒す――否、最初から見えていた。


 私は天へと昇る竜となり、黒き光へと一瞬で迫る。


 そうして、ビキビキと亀裂を走らせる妖刀を――私は“押し流す”。



 

「――何だよ、それ――チートかよ――本当に、ふざけてるよ――――…………」


 


 少年の声が静かに響く。

 刀に違和は無い。ただ流れるように、水の流れに沿う様に透き通る。

 そうして、我が一太刀は空を舞う小さき星を――消滅させた。


 

 

「――焼星嵐刃(ショウセイランバ)


 


 技の名が、終わりを告げる。

 異界化された空間に大きな亀裂が走る。

 崩壊が始まっており、残すは向こうだけであり……ふふ。


 心配などしていない、お前は文句なしの最強だ。

 我が道の終点にいるお前が、負ける事など許されない。

 お前を負かし、お前を殺すのはこの私だ。

 誰であろうとも、その席を譲る事はしない。


 私は強くなる。

 更に高みへと昇り――お前の屍を超えていく。


 私は笑う。

 そうして、静かに落下していきながら。

 姿を戻したクラーラを抱き寄せる。

 体中から血を吹き出して気絶している……ありがとう。


 これで我らの役目は終わった。

 まだ全ての元凶には会えていないが。

 今はこれで十分だ。

 私は体を翻して着地する。

 そうして、異界化が解除されて行く中で愛刀を回収しに走った。



 〇



「それでそれでぇぇ? 交代したからって何さぁぁ? 状況はまるで好転していないよぉ?」

《それはそうでしょうか? 少なくとも、この幽霊もどきたちは――私は殺せますよ?》


 幽鬼共が襲い来る。

 その数はあっという間に増えていき――千を優に超えるほどだった。


 不気味な空を覆うほどに存在し。

 それらが絶え間なく俺に対して魔力での攻撃を行う。

 休む暇は無く、常に動き回らなければすぐにサンドバックにされるだろう。


 悪魔は俺の言葉を単なる虚勢だと認識したようだった。

 俺は薄く笑みを浮かべながら、その場で足を止めた。

 すると、敵たちは攻撃のチャンスだと思って総攻撃を仕掛けて来た。

 俺はすかさず結界を展開して、その攻撃から身を守った。


 結界に無数の魔力弾が当たり。

 連続して爆発音を奏でていた。

 それらは一発一発が最上級悪魔の必殺に匹敵するほどの威力で。

 結界には亀裂が走り、砕けそうになればすぐに別の結界を展開する。

 悪魔はこれで詰みだと高笑いを浮かべていた……はは。


 俺は笑う。

 機械の声で笑ってやった。

 すると、悪魔の野郎は俺の様子を不審に思っていた。

 何故、笑う。何がおかしい……“おかしいに決まってんだろ”?


 俺はゆっくりと片手を上げる。

 術を行使する上での“セーフティの解除”。

 万が一にも命の危機などを感じた瞬間に体が勝手に反応し。

 これを誘発させないように俺が設定した術を発動する前の予備動作。

 それと同時に、空や魔物どもを覆い隠すほどの大規模な結界を展開する。

 

「結界、お前、何をして――ッ!!!」

《何って、決まっているじゃないですか――皆殺しですよ?》



 

 俺は刻印を――“複数起動した”。


 

 そうして、機械音声の言葉と同時に術を――“発動させる”。



 

 

《――|闇が喰らうは無価値なシュヴァルツェスロッホ

 



 

 術の発動、その瞬間に――空に発生した黒い塊。


 光も何も無く、ただ黒いそれが宙で浮遊していた。

 それらは周りの空間を大きく歪めて――“全てを飲み込んでいく”。

 

「――――はぁ?」

 

 少年の声が間抜けな声を出す。

 が、それすらも一瞬で消えた。

 

 光も魔力も、存在も魂も。

 この世に存在するあらゆるものをアレは喰らう。

 全て等しく喰らっていき、その姿を大きくしていく。


 音は聞こえない、魔物の叫びも奴は喰らう。

 大喰らいであり、俺が止めなければ世界すらも平らげてしまうだろう

 

 悪魔は叫び命令する。

 “喰らうモノ”を消滅させようと全ての魔力を使った攻撃を放たせて――“喰らう”。


 

《喰らうモノ、彼の前では全ては価値なき物になります。喰らい、満たし、何も残らない――故に、“価値が無い”》

「――イカレテいるよ。お前、本当に――何なんだよ、なぁぁぁ!!?」


 

 俺は笑う。

 そうして、この場を支配した気でいたカス共をアレに喰らわせる。

 全てを平らげていく中で、自然と異界化された空間にも影響を及ぼしていく。


 光も、色も、匂いも――奴の腹に吸い込まれて行く。

 

 俺は潮時であると理解し、魔術を解除した。

 瞬間、喰らうモノは食事を終えて自然と消滅していった。


 跡に残ったのは奴が残した食べかすだけだ。

 光は消えて、色は失せて。

 物は消え去り、ただただ不自然なだけの空間が広がる。

 真っ白な世界には、不自然に残った赤だけが存在する。

 その残りカスの風景に亀裂が走り、砕けた外側の空間が露になっていく。

 俺はそれを見つめながら、此処にはいない悪魔に声を掛けた。


《逃げないでくださいね。私は貴方を――殺したいので》

「……ふふ、それはどうかなぁ。少なくとも、僕はお前にだけは――絶対に会いたくはないけどね」


 悪魔はそれだけ言って沈黙する……消えたか。


 このままやり取りを続けて。

 奴の魔力を探知する事も考えたが。

 奴も異界化が解除されれば、それをされると悟って早々に切り上げたようだった。

 正しい判断であり、中々に姑息な野郎だと認識した。


 異界化が解除されて、刑務所に戻り――警報が鳴り響く。


 真っ赤なランプが点灯し、通路の隔壁なども下ろされて行った。

 悪魔からの妨害がある事は認識していたが。

 これほどに時間を掛けさせられるとは思っていなかった。

 俺は舌を鳴らしてから、こうなればセカンドプランだと切り替える。

 隔壁を力で破壊しながら、俺はどんどん出口を目指して進んでいく。


 あぁイライラする。

 クソ以下である悪魔共に翻弄されて。

 真っ当に働いていたこの俺が刑務所にぶちこまれて――フラストレーションが溜まっていく。


《これは高くつきますよ……絶対に、ぶっ殺してやる》


 俺は怒りの炎をぶち上げながら。

 舐めた真似をした悪魔共を殺す事を――“第一目標”にした。

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