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【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい  作者: うどん


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037:祓魔師たちは駒なんだ(side:エゴン→???)

 夕飯を食べて、皆が思い思いの行動を取る。

 日が沈んで空が暗くなっていく中で。

 僕とエルナさんとアデリナさんは建物の近くにある“修練場の一角”にいた。

 

「……先生……だいじょうぶかな?」

「心配なのは分かる。でも、私たちだけじゃどうにもならない。今は兎に角、此処で待つしかできない……あのエゴンですら落ち着いている」


 アデリナさんとエルナさんがベンチに座っていた。

 彼女たちから視線を感じながらも、僕は無心で目の前の岩に向かって拳を打ち付けた。


 何度も何度も何度も……硬いな。


 ニンドゥの警察官たちからの取り調べを皆は受けたけど。

 僕たちは見習いであったからこそすぐに解放された。

 副担任のバーデン先生も、僕たちの引率係であったからこそ解放された。

 ヤン君のお母さんはどうなるのかと思ったけど。

 無事に解放されて皆と再会できた。

 これからどうすべきかと考えていれば、僕たちの前にバスが止まった。

 バーデン先生がすぐに乗るように言って……結果、僕たちはニンドゥの対魔修道院で匿ってもらう事になった。


 此処の先生方が言うには。

 如何に祓魔師としての教育を受ける機関とはいえ。

 子供たちが学ぶ場所までは国もどうこうしようとは思っていないらしい。

 その結果、子供たちを始めとして一部の現役の祓魔師の方々も此処で厄介になっているようだった。


 ……ニンドゥの支部は既に封鎖されているらしいしね。


 何でも、ランベルト・ヘルダー様を始めとしたケーニヒの方々が。

 考えたくもない事ではあるけど、村々を襲って人を沢山殺したという噂が流れている。

 本当にそんな事があったのかは分からない。

 国は事件については公表していないらしいけど、既に一般人の耳にも入っている。

 気になって祓魔師の人にも聞いてみたけど……“事実”ではあるらしい。


 誰だって疑いたくなる。

 いや、そもそもこんなバカげた話を信じる人なんていない。

 そう思っていたからこそ、何故、誰も調べないのかと言ってしまった。

 すると、僕に話しをしてくれた男の人は苦しそうな声で――“調べた結果”だと言った。


 耳を疑いたくなった。

 あり得ない事だ。

 だって、ランベルト・ヘルダーは……先生じゃないのか?


 祓魔師の人たちは誰であれ、ケーニヒを始めとしたトップに君臨するあの方々に敬意を抱いている。

 だからこそ、ニンドゥの支部でも事件の調査をすぐに行ったらしい。

 その結果、そこに残った魔力の残滓や争った時に出たであろうヘルダー様の血痕。

 記録映像から声紋を採取し、瓦礫の一部に残った指紋まで。

 ありとあらゆる情報を分析して――99パーセント以上の確率で本人と一致したらしい。


 如何に人間に擬態する事が出来る悪魔でも。

 本人と全く同じ姿形になり、その上、細部の情報に至るまでコピーする事は出来ない。

 そんな悪魔は今までも存在はしておらず。

 だからこそ、祓魔師の人たちも恐れたような表情をしていたんだ。

 

 情報を提供した本部の人たちも驚いていたらしい。

 いや、一番驚いていたのは他でもない国王自身だったようだ。

 国のトップだ。村人を殺された怒りに震えても。

 正しい情報によって物事を決めるのは当然だ。

 故に、国王からの打診で事件の調査は対魔局に任せていたんだ。

 その結果、彼らは自分自身の働きによって首を絞める結果を招いてしまった。


 動機は何か、何故に此処にいたのか。

 本人たちが何処にいたのかを証明する手立てがあれば良かった。

 が、それを聞く前に王は腹心である大臣の言葉を聞いて。

 それ以来、疑心暗鬼となり暫くの間、ニンドゥでの対魔局の人間たちの動きを制限すると発表した。

 今、自由に外を歩ける祓魔師は何処にもいない。

 全てが国の監視下に入り、修道院の前でも武装した兵士の人たちが張っていた。


「……っ」


 僕は怒りのままに拳を岩に打ち付ける。

 血は出ないが、痛みは感じる。

 今は兎に角、修行していないと落ち着かない。

 打って、打って、打って……先生たちを待つしかない。


 もどかしいさ。

 すごく歯痒い……僕は先生の弟子なのに、指を咥えて待つ事しか出来ない。


 もっと、僕が強かったら。

 せめて、並みの悪魔と真面に戦えるくらいであれば……拳に手が添えられた。


「――ッ!?」

「おっと、すみません……良い拳をしていたので、遂」


 視線を向ければ、そこには線の細い老人が立っていた。

 修道士のような黒い帽子を被り。

 体全体を覆うような黒い服を着た人で。

 彼の腕はとても細かったが、触れた手は皮が厚く硬かった気がした。


「あ、貴方は……?」

「あぁ失念していました……申し遅れましたが、私はこの修道院で校長を務めています。名をラフールといいます。お若いお方、よろしければ名を聞いてもよろしいですかな?」

「あ、ぼ、僕は……エゴン・アルホフです!」

「エゴン・アルホフ……とても良い名だ」


 ラフールさんは顔をくしゃりとさせて笑う。

 とても穏やかな人であり、話しているだけで気持ちが和む。

 僕は名前を褒められた事が嬉しくて笑ってしまった。


「アルホフさんは……強くなりたいのですか?」

「え、あ、はい。それは勿論……でも、僕が出来るのは岩を打つ事だけです。先生からは、それ以上は何も」

「……ほぉ、つまり打岩は師からの言いつけであると……それで此処まで己の拳を……アルホフさんはその師に深い敬意を抱いているのですね。そうでなければ、ここまで至る事は出来ない」

「そ、そう思いますか……へ、へへへ」

「……故に、“非常に残念”でなりません」

「……え? ざ、残念って」


 ラフールさんはゆっくりと掌を岩に当てる。

 大自然から持ち帰った大岩で。

 此処の生徒さんたちもこの大岩に対して打岩をしていると聞いた。

 拳を打ち付けた跡があり、僕も真似をしてやっていたが……。


「本来、打岩とは力だけでどうこう出来るものではありません。心技体、その全てが同じ領域であればこそ、成せるものです……が、アルホフさんは力のみで打岩を成し遂げたのでしょう。故に、勿体なく思うのです……もしも、その力と同じほどに心と技が高まっていれば――ッ!!」

「「「――ッ!!?」」」


 ラフールさんは掌を打ち付けた。

 いや、精確にはそうしたと思ってしまった。

 それほどに大きな音が鳴り、地面が軽く揺れたんだ。

 僕は体を揺らしながらも、ラフールさんと岩を見て――大きく目を見開く。


 

 

 あの大岩に――“掌の形をした穴が開いていた”。



 

 それもくっきりとであり、僕だけじゃなく。

 ベンチに座っていたアデリナさんやエルナさんも驚き目を丸くしていた。


「もしも、心技が高まれば……貴方にも同じことが出来るでしょう」

「……ッ! そうか。僕は力だけを……だから、こんなに手が……ラフールさん! 教えてください! 僕はどうすれば、心と技を鍛える事が出来るんですか!」


 僕はその場に膝をつく。

 そうして、地面に額を当てながら懇願した。

 すると、ラフールさんはその場に膝をついて僕の肩にそっと手を置く。


「顔を上げてください……私は子供たちを教え導く事が仕事です。貴方が頭を下げずとも、私は喜んで私の持つ全てを貴方に教えます……それほど、時間を掛ける事は出来ないでしょう。故に、修行は辛く厳しいものとなりますが。よろしいですかな?」

「――お願いしますッ!!」

「……よろしい。では」

「――ちょっと待ったぁぁぁ!!」

「……ん?」


 視線を向ければ、アデリナさんが掌を向けていた。

 エルナさんもお菓子の袋を置いている。

 どうしたのかと思っていれば――二人は頭を下げた。


「私たちにも――修行をつけて下さい!!」

「お願いします」

「……ほぉ、これはこれは……覚悟しているのですね」

「「はい!!」」


 ラフールさんは笑う。

 僕も笑みを浮かべて二人を見た……いや、まだだ。


 視線を建物の影に向ければ。

 隠れて見ていた他の仲間たちも出て来る。

 ヤン君たちも、コルネリアさんも……でも、一人だけいない。


 まだ、名前も教えてもらっていない仲間。

 何時もゲームをしているあの人はいない。

 それは残念に思ったけど……でも、いいんだ。


 僕たちだけでも強くなる。

 先生に少しでも近づけるように。

 先生の足を引っ張らないように――強くなるんだッ!


 

 〇



「王よ、これにて本日は……失礼、かなり疲労の色が見えますね。医者を待機させております故、今宵は体の隅々までおくつろぎ下さいませ」

「……あぁそうさせてもらおう……ヴィール、そなたには苦労を掛ける……父の代より、お前が大臣としていてくれるお陰で、ニンドゥも……ごほ、ごほ!」

「王よ……私は自らの心に従っているまで。先王と貴方様への忠義のみで私は動いているのです。どうか、私の事など気になさらず。貴方様は王として、この国を導く光であってください。我々はそんな貴方様の影として、常にお傍にいます……さぁお体が冷えてはいけない。お前たち、王をお連れしろ!」

「「――ハッ!!」」


 私は深々と頭を下げる。

 王は静かに頷き執務室より出て行かれた。

 私は静かに顔を上げて――気配を感じて振り返る。


 そこにはいつの間にか大きな体をした男が立っていた。

 王の使うデスクに無礼にも腰を下ろし。

 リンゴを食べる無礼者だ。

 光が一切感じられない黒い瞳に、短く切り揃えられた黒い髪。

 青を基調とした服を纏い、ボロボロの黒いロングコートを羽織っている。

 手足には得体の知れない革製の籠手やグリーブが嵌められていた。

 武装らしきものは無く、男はただただ底冷えるような視線を私に向ける。


 私は奴をキッと睨み。

 何者であるかを問い詰める。


「……あぁ?」

「曲者め――衛兵! 衛兵!」


 私は衛兵を呼ぶ……が、誰も来ない。


 何故だ、何故誰も来ない……まさか!


「貴様、まさか……近衛をたった一人で……くっ!」

「……はぁ、たく……何時までやるんだよ」

「黙れ! こうなれば相打ちとなっても此処で私が――……」


 奴が手を動かす。

 瞬間、奴の食べかけのリンゴが――私の頭を撃ち砕く。


 私は眼球や脳みその残骸を周囲にぶちまける。

 そうして、頭を失った私の体はそのままゆっくりと倒れた。

 私はその光景を眼球を通して見て――“はぁ、ダメだなぁ”。


 僕はそのまま体を再生させる。

 そうして、ヴィールって名のおっさんの顔のまま――“ジュダス”に文句を言う。


「あのさぁ、殺すなら殺すでもっと演じてくれないかなぁ? 折角、僕が大臣になりきってやったんだから、お前もちょっとは悪魔っぽいノリで」

「あぁはいはい。次からは跡形も無くぶっ殺してやるよ……で? そんな事よりも、アイツが来たってのは本当か?」


 ジュダスは僕の話をまるで聞いていなかったが。

 アイツの話をした途端に、満面の笑みを浮かべていた……あぁやだやだ。


「来てる来てる。絶賛、収監中だよ……って言っても、上手く顔は隠したみたいだけどねぇ。本当に、人類最強様は芸達者だよねぇ。アイツ、一体幾つ刻印持ってんの? 数えた事ある?」

「あぁ? んなもんねぇよ……あぁそうか。来ちまったかぁ……良いね良いね。そうでなきゃなぁ」

「……言っておくけどさぁ。戦うのだけは死んでもご免だからね? そもそも、魔王様も僕たちに戦闘して来いなんて言ってないんだからね! 僕たちの仕事は魔王様を守る事で」

「あぁうぜぇうぜぇ!! 知らねぇよ!! 第一、地獄に人間が来る訳ねぇだろうが!! 毎日毎日、来るはずもねぇ敵の警戒ばっかで……俺ぁ溜まってんだよ。国の一つ二つ滅ぼしたって満足は出来ねぇ……アイツだ、あの男だけが俺を満足させてくれるんだぁ……あぁ早く会いてぇなぁ。あの日、アイツとタイマンでやり合った時みてぇな――殺し合いがしてぇよぉ」


 ジュダスは恋する乙女のような顔をする。

 戦いの事ばかり考えていて、強い奴がいるとすぐこれだ。

 “魔王様の手”として存在する僕たちが現世で動かされる事すら稀なのに。

 やって来て考える事があの男との戦いばかりだ……嫌になるのも無理ないよ、全く。


「……兎に角さぁ。絶対に会いに行かないでよ? 今の所、上手く行ってるんだからさぁ。お前が暴れたら元も子も無くなるんだよ? 僕が頑張ってしてきた事が全部ぜぇぇんぶ無駄になるんだからさぁ――殺すよ?」

「……はは、お前如きが俺を止めるってか?」


 僕は奴に対して殺気を放つ。

 すると、ジュダスも僕の殺気に触発されて抑えきれない膨大な殺意を放つ。

 僕たちの殺気で空間が激しく揺れて、壁には大きな亀裂が走る。

 窓ガラスも割れて、宮殿事激しく揺れていた。

 すると、結界の外で人間たちが騒がしくなり……はぁぁ。


 僕は殺気を抑える。

 そうして、両手を上に向けながらもういいと言い放つ。


「やってもいいけど。全てが終わった後にしてよ? 待てなんて犬でも出来る事だからね?」

「……はぁたく、しゃあねぇなぁ……どれくらいで終わるんだ?」

「はぁぁぁぁしぃぃぃらないぃぃぃよぉぉぉぉ!」


 そもそも、普通の人間であればアレを解き放っただけでこの世は終わるんだ。

 あの規格外の化け物が存在しているから、終わったらと言っただけで。

 精確な時間なんて分かる筈が無い。

 僕はいらいらとしながら、長いながぁぁい映画でも見て待っておけば良いと言ってやる。

 すると、単純な思考の奴は映画を借りてくると言って出て行った。

 僕は舌を鳴らして、破壊された部屋を一瞬にして修復した。

 そうして、指を鳴らして結界を解除し――扉が開け放たれる。


「カムダール様!! ご無事ですか!?」

「……あぁ私は大丈夫だ。何があった?」

「いえ、それが私どもも何が起きたのか……ん? リンゴ?」


 食い掛けのリンゴが転がっている……あぁうっかり直しちゃったかぁ。

 

 近衛の一人がそれを拾ってマジマジと見ていた。

 僕はすぐに自分のものであると伝える。


「……カムダール様が、果物をお召しに……?」

「……子供に貰ってな。無下には出来んだろう?」

「あ、も、申し訳ありません! とんだご無礼を」

「良い……それよりも、王の元へ行こう。少し心配だ」

「既に隊長が向かわれています! 我々もお供いたします!」

「助かる。では、行こう」

「「「――ハッ!」」」


 近衛隊を引き連れて、僕は歩いていく。

 好きでも無いジジイの姿をしてるんだ……失敗なんてありえないよ。

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