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【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい  作者: うどん


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034:祓魔師に仲間は集う

 ガタガタと激しく揺れる機内――爆発音が連続して響く。


 破壊音に甲高い生き物の鳴き声。

 空間が激しく振動し、乗り心地は最悪を超えて吐き気すら覚えるほどだ。

 生徒たちは目に涙を浮かべながら、必死にシートにへばりついていた。


「せせせせせ先生!? ここここれは大丈夫なんですかぁぁ!!?」

「あわわわわ!! おおおお落ちないよねぇ!? ねぇ!!?」

「あわ、あわ、慌てるには早い。お、お菓子を食べて、おち、落ちつい」

「エルナ!? それおお菓子じゃなくてシャーペンだよ!?」

「ああああぁぁやっぱりじゃねぇぇかぁぁ!!?」

「ヤン!! 恨むぞぉぉ!!?」

「悪かったぁぁぁ!! でも、こんなの予想できねぇよぉぉ!!」

「ひゅー!! ひゅー!! わ、私の、カーストへの道が、な、奈落に――うおぇぇぇ!!」


 慌てふためく生徒たち。

 根暗女に至っては持参した袋の中に盛大に吐き出していた。

 尋常じゃない揺れに生徒たちは今にも墜落すると思っている――が、実際はそうではない。

 

 確かに“攻撃”は機体に何発かは喰らっているが。

 実際には機体に張り付けるように展開した結界に当たっているだけだ。

 だからこそ、機体自体には一切ダメージは通っていない。

 揺れているのはその攻撃による余波によるもので。

 そう説明してやったが生徒たちは完全に恐慌状態になっていた……はぁ、クソが。


 まぁ説明していなかった俺にも非はあるが。

 此処まで取り乱すとは思っていなかった。

 大人組は至って冷静であり、デボラは息子を心配そうに見つめていた。


「マスター、それにしても今回は激しいですね……やはり、時期だったんでしょうか?」

《まぁそうですね。“魔物”たちも活発になっている頃でしょうし……それにしては、此方への攻撃が激しいですがね》


 今、俺たちはニンドゥへと最短で行く為に。

 国際機関が定めた“危険地帯”の上を飛行している。

 地上には魔物と呼ばれる地獄で生息していた凶暴な生物たちが闊歩している。

 いや、地上だけでなく窓から視線を外に向ければ、まるで翼竜のような姿をした灰色の何かが此方に向かって炎のブレスを吐いていた。

 こいつらは非常に好戦的であり、縄張りに入るものは何であれ攻撃してくる。

 その上、繁殖力も高く。今では地上に元々存在していた幾つかの国を呑み込み。

 その生態圏を伸ばしていっているらしい。

 ロニアの領土の一部も魔物に支配されていて、飛行機によって外国へ行くにも危険地帯を大きく迂回していくしかない。

 海で行くのが最も安全だが、最近では海に生息する魔物も出てきているらしい。


 高度を上げれば安全だと思うだろうが。

 実際には高度を上げ過ぎれば、地上からビームのようなものを放ってくる魔物もいる。

 そいつらの攻撃は魔術のような特性があり。

 距離が遠ければ遠いほどに強力無比なものになってくる。

 それに数も多いから、そんな攻撃を何発も喰らっていれば流石に機体にも影響が出る。

 だからこそ、地上が見える範囲での通常の飛行でなければならない。


 本来、安全を喫してニンドゥへと行くのであれば。

 最低でも三日は要するだろう。

 完全なる回り道であり、危険地帯を迂回する事が常だ。

 が、そんなに時間を掛けている暇もないので。

 今回は軍曹の腕を頼り、俺たちはたった一日でニンドゥへ着くように最短の空路で向かっていた。


 最短距離だからこそ魔物の脅威はあるが。

 俺の結界で安全だけは保障する。

 後は、軍曹の腕次第であり、彼であればそう簡単に魔物に後れを取る事も無い。

 そんな事を考えながらも、やけに此方を狙ってくる魔物の動きに違和感を抱く。


 ……攻撃性は変わらない……だが、何故、これを執拗に狙っているんだ?


 俺は妙な違和感を抱いた。

 まるで、魔物全体が殺気立っているようだ。

 だからこそ、クルトに命じて念の為に索敵をさせる。

 クルトはすぐに頷いて、機体の窓に触れて目を閉じる。


「……! 強い魔力反応があります。地上に四つ……いえ、“五つ”――此方に向かってきますッ!」


 クルトは叫ぶ。

 瞬間、凄まじい勢いで地上から炎が舞い上がる。

 巨大な炎の柱であり、それらが揺らめき機体に触れようとした。

 炎の勢いによって機体が僅かに傾き、生徒たちは悲鳴をあげる。

 軍曹は炎が噴き上がる一瞬を感じ取って速やかに機体を動かしていた。

 

 俺は機体を軍曹に任せて、魔術を起動し“透視”を発動させた。

 外の景色を確認すれば――戦っているな。


 四体の影。それは間違いなく悪魔であり。

 魔力の高さとその動きから、軽く最上級以上だと判断した。

 奴らは魔術を使って、まるで流星群のように炎の塊を連射する。

 それが空を覆い隠し、輸送機は激しく動いてそれらを躱していく。

 まるで蛇のように無数の炎が激しく動き、姿の見えぬ敵を喰らおうと襲い掛かる。

 他の悪魔たちも魔術を発動し、海と空を繋ぐように巨大な竜巻を発せさせていた。

 それが合計で三つであり――まずいな。


 操縦席との通信が繋がれ、軍曹が危機を感じて叫ぶ。


《先生!! これはいかんぞ!! 何とかできんか!?》

「……」


 俺は席から立ち上がる。

 そうして、運転席への通信機を取り彼にすぐにハッチを開くように指示する。

 彼はすぐにハッチを展開し――走る。


 後ろから生徒たちが叫んでいたが無視。

 そのまま無数の炎と竜巻が発生する空を舞う。

 俺は刻印を起動しながら、空を蹴って移動する。


 空は炎の音の燃え盛る音と風の切り裂くような音ででうるさいほどで。

 結界や魔力で防御を固めていなければ熱と風圧だけでずたずただろう。

 大嵐の中のようであり、火災旋風も発生していた。

 地上の木々が根っこから舞い上がり、地上の魔物も空を舞っていた。

 

「……」

 

 指を静かに構える。

 狙いは竜巻を発生させている悪魔たちで。

 此方に気づいていない悪魔共を殺そうと――!!


 

 魔力弾を放つ寸前――“空間が、ズレる”。


 

 まるで、背景そのものをカッターで切断した様になり。

 瞬の内に目に映ったズレが戻ったかと思えば、竜巻は意図も容易く消し飛んでいた。

 一瞬にして竜巻たちは消えて、それを発生させていた悪魔の体も――“両断された”。


「――!!」

 

 悪魔は叫ぶ。

 自らの体を確認し、滝のような汗を流していた。

 体を藻掻かせるが、体を再生させる事も出来ず。

 そのまま奴らはパラパラと蒸気を発しながら消えていった。


 空中を舞いながら見れば、悪魔を殺した何かが空を翔けていた。

 凄まじいスピードであり、蒼い魔力を発するそれはまるで流星のようだった。


 二体の悪魔が応戦しに向かう。

 が、その姿を捉えきれていない。

 連続して放つ魔力弾は触れる事も出来ずに躱され。

 流星の如き速さで駆けるそれは空に軌跡を作っていった。

 

 奴らは強大な魔力頼りの広範囲攻撃を行う。

 電気のように体を激しくスパークし、内に溜めた魔力を――全力で解き放った。

 

 特異能力によるものだろう。

 雷鳴のようなものが轟き、辺り一帯を焼け焦がすほどの稲妻が走る。

 それらは輸送機にも触れて、激しく火花が散っていた。

 が、アレは魔力同士がぶつかって発生するものだ機体にはダメージは無い。

 大きく傾いたものの、軍曹は自らの腕を遺憾なく発揮しすぐに機体の体勢を戻す。

 俺はそのまま悪魔が発する稲妻を片手で弾き――又、空間が歪む。

 

 音は無い。

 無音であり、流星が煌めいた瞬間に一筋の線が空間に広がった。

 視界そのものがズレるように見えている。

 が、それは奴の――“太刀筋が見せる幻”だ。

 

 何もかもが歪んだように見える。

 空を翔けていた稲妻が奴の斬撃によって大きく裂かれて行った。

 空間も、雷も、奴の前では等しく“切断される”。

 そうして、一瞬の間の不思議な光景が――瞬で元に戻る。


 その時には、二体の悪魔たちも消えてなくなっていた。

 最後に残った炎を操る悪魔は、そのまま自身を炎と一体化させる。

 アレも特異能力であり、炎そのものと一体化するものだろう。

 

 まるで巨大な炎の鳥となったように動く。

 それらは空中から降り注ぐ炎を全て吸収し。

 炎の鳥の翼は一気に空を覆い隠していく。

 空が真っ赤に輝いているように見えて、とてつもない熱量が海面から蒸気を発させていた。

 地上の森林地帯からは火の手が上がり、空を飛んでいた魔物たちは一瞬で蒸発する。

 自分の体を見れば、薄っすらと煙が出ていた……ほぉ。


 魔力だけじゃない、結界そのものを貫通するほどの熱量。

 俺が以前に相対した最上級の悪魔と同等――いや、それ以上だな。


 俺は一瞬にして移動し。

 輸送機の上に乗る。

 そうして、結界を更に強固なものにする……三重ってところだな。


 四重までは不要だ。

 念には念を入れて、輸送機の表面に冷気を浸透させておいた。

 判断を下し、俺自身も魔力の層を更に厚くする。

 熱さは消えたが、息苦しさは無くならない。

 俺は輸送機の上に座りながら、炎の鳥が全てを焼き尽くそうとしているのを見て――“詰み”、だな。


 奴が奇妙な鳴き声を響かせた瞬間。

 凄まじいスピードで動いていた流星が――消える。


 

 否、消えたのではない――“駆け抜けた”。


 

 瞬きほども無い一瞬。

 光とも言っても過言ではないスピードで空を翔けたそれ。

 一筋の蒼き光が、俺の目には一瞬にして無数に分裂したように見えた。

 まるで、白いキャンパスに絵の具を飛び散らせたかのように“光が激しく迸った”。

 そうして、奴は手にした刀を振るい――奴の体をミリ単位で切り刻んだ。


 流星が空で動きを止める。

 そうして、静かに息を吐き、手にした刀を白鞘に納める。

 

 

 

 音は無い――“何処までも静かで、何処までもゼロに近い”。

 

 

 

「――――ッ!! ――ッ――………………」

 

 

 

 刀を鞘に納めた瞬間――炎の鳥の体に無数の線が走る。


 悪魔は気づいていない。自らが斬られた事も、自らが――既に“死んでいる事”も。

 

 そうして、一瞬にしてそれが霧散し――“悪魔の魂は消滅した”。


「……」

 

 最上級を超えるほどの悪魔が四体。

 恐らく、あの炎と一体化できる奴に至っては異名付きだっただろう。

 それらがなすすべも無く俺の前で殺された。

 こんな事を出来るのは俺が知る中でも限られている。

 使っている武器が刀型の聖刃であるのなら……“アイツ”だけだ。


 空で止まっていた奴。

 が、一瞬にしてその姿が消えた。

 

「……」

「……」

 

 背後に何者かが立つ。

 音も無く立ったそれ。

 気配を完全に殺していて、意識していなければ気づきもしないだろう。

 そいつは無言で俺を見つめていた。


 俺は小さくため息を零す。そうして、そいつを見る事も無く言葉を発した。

 

《気配を殺して人の後ろに立つ癖……いい加減、治してくれませんか?》

「……それ、何……声?」

《……そこですか。まぁはい、そうですよ……何故此処に――“ゾーヤ・ロマノフ”》

「仕事……貴方は?」


 ゆっくりと振り返る。

 すると、無造作に伸ばした白い髪に。

 170を超えるすらっとした身長に目が完全に死んでいる女が立っていた。

 顔の半分に傷を負った血のように赤い目の女だ。

 対魔局から支給される筈の白い隊服は着ず。

 自らの意向で作らせた普通の黒いスーツの戦闘服を着て。

 その腰には白鞘の刀を装着していた。

 細身でありながらも、その服の下は鋼のような肉体で。

 白兵戦においてはあのクラーラ以上に厄介な存在だと俺は記憶している。


 俺は立ち上がる。

 そうして、適当に仕事だと伝えた。

 奴は納得した様に声を出す。

 俺はそんな奴を無視して輸送機を軽く蹴って空を舞う。

 

 輸送機のケツに戻り、軽く三回ほど機体を叩く。

 すると、ハッチが展開されて行って俺はその中に入る。

 生徒たちは汗だくであり、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で笑っていた……きたねぇな。


 俺は肩を鳴らしながら席に座る。

 そうして、疲れたからと煙草を吸おうとする。

 すると、エゴンが恐る恐ると言った様子で手を上げて質問をしてきた。


「その……そちらの、方は?」

「……?」


 俺は視線をゆっくりと横に向ける。

 すると、俺の隣に無表情で座る女がいた……は?


《え、何で乗ってるんですか? 終わったのなら帰ったらいいでしょう?》

「終わった。だから、次に行く」

《え、は? 意味が分からないんですが?》

「悪魔は殺した。貴方が態々、向かわされる場所なら、もっと強い存在がいる。だから、ついて行く」

「……」


 俺は目の前のバトルジャンキーに頗る嫌な顔をしてやった。

 こいつは誰よりも仕事熱心な奴だが。

 その実、強い存在との戦いを望んでいるだけのジャンキーでしかない。

 正義感も無ければ、誰かを守りたいなんて崇高な思いも微塵もない。

 ともすれば金が欲しいとか、もっと偉くなりたいとかの普通の欲すらも無い。


 ただ戦いたいだけで――ただ殺し合いがしたいだけのサイコだ。

 

 相手が強ければ強いほどに喜ぶド変態であり。

 誰よりも率先して悪魔を殺しに行くやべぇ奴なのだ。

 こいつとの出会いからして最悪なものだったが、こいつは今でも強い存在を求めている。

 まるで、辻斬りであり、本来であれば全くと言っていいほど関わり合いたくは無いが……まぁいいか。


 こいつの腕は本物だ。

 今さっきの悪魔を殺して本当にフリーであるのなら。

 何かしらの理由をつけて生徒たちの護衛を任せてもいい。

 俺はあのクズを探すので忙しくなるから、最悪の場合、“アレ”を使おうとも思っていたが。

 こいつとクラーラと……おまけ程度にデボラがいるのであれば、並大抵の悪魔くらいならどうという事は無い。


 俺は一秒にも満たない思考で判断を下す。


《分かりました。ですが、私の言う事は守ってください》

「……守らなかったら?」

《えぇ勿論――殺しますよ》

「そう。じゃ――“守らない”」


 奴は真顔で自殺志願者も真っ青な言葉を吐く……はぁぁぁ!!

 

 これだから嫌なんだ。

 こいつにとって脅しとは戦いをする為のチケットでしかない。

 殺すなんて言えば、平気でそうなるように仕向けるのがこいつだ。

 俺はそれを失念していて、こいつへの対応を間違えた。

 俺は呼吸を正しながら、笑みを浮かべて訂正する。


《間違えました。約束を破れば――貴方を犬のように撫でまわします。それはもうぅんと可愛がりますよ》

「…………分かった。約束は守る」

「……」


 奴は眉を顰めながら了承する。

 俺はうんうんと頷いて、鼻息の荒いバカ二人をチラリと見た。


「犬みたいに……ああ、あぁ……いい、かも」

「ダーリンが可愛がってくれる。ダーリンが愛してくれる……うううぅぅ!!」


 俺は盛大に舌を鳴らす――どうしろって言うんだよォォォ!!!


 俺は一気に頭痛の種が増えた事に苛立ちを爆発させる。

 すると、すかさずクルトが水筒を取り出し。

 俺はそれをひったくるように奪い中身をがぶがぶと飲んでいく……ふぅ。


 強制的に気持ちを落ち着かせる。

 そうして、悟りでも開いたような顔をしながら。

 俺はもうどうにでもなれといった顔をする。


 馬鹿三人、見知らぬ土地だ。

 何かが起きて当然であり、何も起きないなんて事は無い。

 例え何かが起きても俺は知らん。

 何処で野垂れ死のうとも、何処で殺しをしでかそうとも俺は無視だ。


 俺の目的はカスの回収で。

 こいつらの御守りでは決してない。

 そうだ、そうなんだ……はは、ははははは!!


「……マスター……お労しい。私がついていますから」

「「……ッ」」


 クルトは俺の腕を摩る。

 そんな時に何かを噛み砕くような音が聞こえた。

 殺気を放つ頭痛の種が二人。

 そして、そんな殺気に反応し嬉々として刀を抜こうとするドアホ。

 胃がキリキリとしているような気がして、俺は静かに涙を流した。

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