表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい  作者: うどん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/134

033:祓魔師たちはニンドゥへ向かう

 時は流れ――連休初日。


 ライツ内のフィルブレン州にある空港。

 朝から人でごった返しており、非常に騒がしかった。

 家族連れに旅行客の一段に、外国人であったりなど……まぁ連休だしな。


 全面ガラス張りの空港内のエントランスからは。

 離陸する飛行機であったり、作業員の姿が見える。

 連休だからこそではなく、彼らは常に大忙しだ。

 視線を他に向ければ、祓魔師の姿もあり。

 悪魔がこの国の領土を踏まないように警戒しているようだった……ま、意味はほとんどねぇがな。


 空港で見つかっちまうような悪魔は所詮は三流だ。

 一流の悪魔ともなれば、自らの姿の偽装はほぼ完ぺきだ。

 どれほどに鍛え抜かれた祓魔師であろうとも見抜く事は難しい。

 

「……」

 

 視線を戻して、前に向ける。

 目の前の奴らはそれぞれの表情を浮かべている。

 楽しみ、不安、熱望……そんなところか。

 

 ターミナルに集まった――“八人”の生徒たち。


 それぞれが個性的な旅行鞄を持ち。

 今から行く旅行先の事を考えてワクワクとしていた。

 が、若干数名は不安を抱いているようで……ふむ。


 まぁ八人も来たならまだマシか。

 出来る限り連れて行きたかったが、強制的に連れて行くのはやめておいた。

 そんな事をすれば、あのクソ上層部と同じだからな。

 俺は授業ではこいつらをしごくが。

 休日を無暗に奪うような真似はしない。

 それが最低限の“マナー”というやつだからだ。


 ……まぁそれにしても八人だけとはな。

 

 当然の結果と言えばそうだ。

 俺が無償で旅行に連れて行くなんて言えば普通なら怪しむだろう。

 奴らにとって俺は悪魔よりも恐ろしい存在だろうからな。

 その結果、ほとんどの生徒は辞退し。

 俺とそれなりに絡みがあるような奴らだけが行く事を決めたようなものだ。


「……ふふ」

 

 スマホを弄るアデリナの装いは白を基調としたワンピースに。

 つばの広い帽子を着用して日除け用のサングラスを掛けている……女優かよ。


「あむ、あむ、あむ……売店でもっと買うべき?」

 

 菓子をバリバリと食べるエルナ。

 空になった菓子の袋を丸めて近くを通った移動式ゴミ箱型ロボの中にそれを捨てる

 青を基調としたラフな服装で。

 それなりにおしゃれはしているが、その視線は売店に向かれていた……デブになりたいのか?

 

「うぅん……悩むな。やっぱ寺院巡りかなぁ。それとも、伝説のヨガマスターに会いに行くかぁ」

「おいおい、ヨガマスターって……あっちってヨガが有名なのか?」

「いや、知らねぇよ……マジで行くのかぁ。大丈夫なのかぁ? はぁぁ不安だぜぇ」

 

 旅行先のガイドブックを呼んでいるヤンと。

 その取り巻きBとC。

 若者特有のチャラついた装いではあるが。

 ヤンのバックの大きさからして、奴の旅行先への想いは本物だろう。

 ヤンは興味津々だが、取り巻きたちは不安そうだ。

 

「は、はは……先生と、旅行……弟子として、新たなステージに……へ、へへへ」

「……」

 

 エゴンのアホは寝ていないのか目の下にクマを作って笑っていた。

 こいつも服装はラフなもので、白いTシャツの下に黒い長そでを着て。

 その下は動きやすそうなカーキ色のカーゴパンツを履いている。

 

 何故か、絶対に来ないと思っていたフードの野郎もいる。

 服装は制服と変わらずフード付きのぼてっとした黒いパーカーだ。

 男のような格好ではあるものの、こいつの性別は未だに謎だ。

 気になって調べてみたが、何故かこいつの性別は宗教上の理由とかで隠されていやがった。


 やはりゲームをしている。

 一体、何のゲームをしているのか気にはなるが……後は。


「……! ふ、ふへ、ふひひ……す、すみません」

《……何で謝るんですか?》

「ご、ごめんなさい……あ、あ、ぁ!」


 俺の近くに立つ挙動不審の女。

 こんな奴いたかと自らの記憶を探れば、確かにいた気がすると思った。

 何時も何時も、自らの気配をゼロにまで落とし。

 俺や他のクラスメイトが認識できないほどに影が薄かった女だ。

 文句は一切言わず、ゲロも吐きながらも授業は熟していたような気がする。

 名は確か……“コルネリア・クンツ”だったか。


 ぼさぼさの黒髪は背中まで伸ばされて。

 目は見えないほどに前髪が下ろされている。

 肌は病的なほどに白く、何時も不気味な笑みを浮かべているのが特徴と言えば特徴だ。

 少し見える目は青色をしているが、他人が見つめていれば蛙みたいな鳴き声を出す癖がありあまりマジマジとは見たくない。

 私服姿を見るのはこれが初めてだが、纏っているのはどう見ても青いジャージだった。

 一応は女である筈なのに、アデリナは勿論の事、エルナよりも服のセンスは壊滅的だ。

 奴は俺がジッと見つめていれば、呼吸も止めて蛙が潰れていくような鳴き声を発していた……はぁ。


 俺は視線を逸らす。

 すると、奴は呼吸を再開してぜぇぜぇと言っている。

 馬鹿しかいないのかと呆れながらも、俺は腕時計を確認する。


「先生、まだ行かないのぉ? てか、どこの飛行機なのぉ?」

「先生の事だから、きっと普通の飛行機じゃない。恐らくは最新のジェット機に違いない」

「はぁ? な訳…………いや、否定できねぇな」

「最新のジェット機で行くって……いやいや、そんな筈ねぇだろ? なぁ?」

「え、いやぁ僕に聞かれても……で、でも! きっとこの旅で僕たちはもっと強くなれると思うよ! あぁぁ先生!」

「……こいつはダメだな。はぁぁ、何で来ちまったかなぁ。本当に大丈夫なのかよぉ、ヤン?」

「……まぁ問題ねぇだろ。いざとなったらアイツがどうにかしてくれる……多分」

「……」

「く、くふ……りょ、旅行……こ、これで、私も、カースト、上位の女に……けひ、けひひ……ごほ! ごへ!」


 それぞれ言いたい事を言っている馬鹿共。

 まぁ予定よりも遅れているのは確かだが……と噂をすればだな。


 視線を向ければ、歩いて来る男がいた。

 とっくに退役しているのに、昔の軍服を身に纏う白髪に立派な白い髭を蓄えた老人。

 身長も老人にしては高く筋骨隆々だ。

 航空帽に専用のゴーグルをつけるそいつを俺は――“軍曹”と呼んでいた。


「カッカッカ! よう来たのぉひよっこ共……はぁ、アンタは昔と変わらんのぉ。“先生”」

《まぁそういう呪いですから……皆さん、此方は軍曹。元軍人の今は人専門の運び屋をしています》

「「「……人専門の……運び屋?」」」

「カッカッカ! そうじゃ私は運び屋。金さえ払ってくれれば何処へでも連れて行く。それも知り合いであれば三割引きでな!」


 軍曹はそう言いながらニカっと笑う。

 相変わらず自信家だと思いつつ。

 今回行く場所へは行けそうかと改めて尋ねておいた。

 すると、軍曹はちょいちょいっと手を動かして耳を近づけるように言ってくる。


「……まぁ全く安全とは言えんが……最短を希望しとったからのぉ。ちょっとばかし“危険地帯”の上を飛ぶことになるぞ……操縦は任せて欲しいが。お前さんも“アレ”頼むぞ?」

「……」


 俺はそれくらいであれば問題ないと軍曹に対して頷く。

 すると、軍曹はそれならいいと納得し。

 生徒たちに顔を向けて顎を動かしてついてくるように言う。

 彼らは少し不安そうな顔をしながらも言われるがままに軍曹についていった。




 乗り物内に乗り込み、全員が神妙な顔をする。

 それもその筈であり、生徒たちは壁に沿う様に座って向き合っていた。

 普通の旅客機では無く、完全に――“軍用の輸送機”である。


「……これ、飛ぶの?」

《飛びますよ。当たり前じゃないですか》


 アデリナが不安そうな目を俺に向ける……まぁ無理もない。


 所々、機体の修復の跡があり。

 塗装も剥げまくっていて見かけは完全におんぼろだ。

 だが、整備はちゃんとしており、見た目ほどにボロといういう訳でもない。

 そんな事を説明しながら、俺はシートベルトを締めようとして――ぶちりと千切れる。


「「「…………」」」

《ははは……大丈夫ですよ》


 俺は安心させるように嘘を吐く。

 そうして、シートベルトを適当に投げ捨てる。

 一気に顔色が青くなっていく生徒たち。

 コルネリアの奴は青を通り越し土色で――


「は、話さなきゃ……ウイットに富んだジョークを……うぶ!」

《吐かないでくださいね。殺しますよ?》

 

 俺は根暗女を威圧する。

 すると、女は両手で口元を抑えながら何度も頷いていた。

 まぁ生徒たちは別にいい。問題なのは……“こいつら”だな。


「ヤン、気分は悪くない? 酔い止め飲んでおく?」

「か、母さん。やめろよ、だ、ダチの前で……っ」

「そ、そうよね。ごめんなさい……先生は飲みますか?」

「そんなもの飲む訳ないでしょ? ダーリンは完璧な存在なの。頭まで脂肪塗れのお前とは違うから」

「あら? 貴方には聞いていないのですが……あぁ、すみません。いたんですね? 全く気付きませんでした」

「あぁ? 殺すぞ――てか、死ね」


 クラーラが銃を生成する。

 すると、デボラはまたしてもナイフを取り出した。

 クラーラは分かるが、デボラは何処に武器を隠していたのか。

 俺は頭痛の種となるクソ共を冷めた目で見ながら、どうしてこいつらも来たのかと本気で戸惑う。


 ……クラーラは仮にもケーニヒだが……まぁこいつの事だから“アレ”を使っているんだろうなぁ。


 自らの力で生み出した“アレ”に仕事をやらせている。

 だからこそ、ケーニヒであるこいつは俺の周りをちょろつけるんだ。

 俺自身も最高に忙しい時は使いそうになるが。

 その結果、最悪の事態を招く事を恐れてこいつのように頻発する事は控えていた。

 

 大きくため息を吐きながら、眉間の皺を揉む。

 すると、運転席側のハッチが開き、スーツ姿のクルトが現れる。

 彼は俺の隣に座り、シートベルトを締めて間もなく離陸できる事を伝えて来た。


 クルトは鞄から筒のようなものを取り出す。

 それの蓋を取り、トクトクと蓋に何かを注ぐ。

 それは少し湯気が出ていて、透明感のある薄い緑色をしていた。

 匂いはフローラルであり、心が落ち着くような気がした。

 

「マスター此方を」

《……これは?》

「気持ちを落ち着かせる飲み物です。“ストレスを溜めていらっしゃる”ようだったので、私が御作りしました」


 クルトははにかむように微笑む。

 俺はそんな彼の心に少し心を和ませる。

 すると、頭痛の種たちがきゃんきゃんと吠え始めた。

 

「ダーリンはそんなの飲まないよ? ねぇダーリン。あ、私がコーヒーを出すね!」

「そ、そんなものよりも酔い止めの方が良いですよ! ね、ね?」


 カス二人は喚いている。

 クルトは涼し気な顔でそれらの声を無視する。

 俺は渡された飲み物の蓋を受け取る。

 そうして、それをゆっくりと飲んでいって……あぁ。


 お茶のような優しい味わい。

 しかし、花のような香りがおしとやかに感じられる。

 落ち着く風味に優しい香りで、俺は薄く笑みを浮かべた。

 体が心から温まっていき、今までの頭痛も嘘のように晴れていく。


《クルト君、ありがとうございます……とても美味しかったです》

「……身に余るお言葉、ありがとうございます」


 クルトの頭を撫でる。

 彼はちらりとカスの方に視線を向けて――カス共がうなり声をあげる。


「殺す殺す殺す殺す殺す――」

「ふ、ふふふふ、ふふふふふぅふぅふぅふぅ!!」

「……ふっ」

「……?」


 バチバチと視線で火花を散らせる三人。

 何をしているのかと首を傾げていれば――軍曹の声が響く。


《準備は整った! シートベルトは閉めたか? さぁ行くぞ――“ニンドゥ、スーシン国際空港へ”!》

「「「……!」」」


 エンジンが始動する。

 そうして、ゆっくりと機体が動き始めた。

 生徒たちは不安そうではあるが、ワクワクともしている。

 ついてきた大人三人もガキどもの表情を察して黙る……さてさて。


 あのゴミカスはあそこにいるのか。

 俺の予想が正しければ、奴は“ニュース”でやっていたあれを探しに行った筈だ。

 晩年金欠であり、対魔局にも莫大な借金がある奴の事だ。

 制限が掛けられて自由に使える金が無いのであれば。

 奴は一獲千金で手に入れた金をまた自分の趣味に継ぎ込む気だろう。

 奴は絶対に借りた金を返そうとはしない。

 真正のクズであり、奴の事なんて時間を使って探しに行きたくも無いが……まぁいい。


 思い出せば、奴にはある事を“頼んでいた”からな。

 あんなクズであろうとも、全く利用できない事も無い。

 もしも、奴が俺の言いつけを守っていたのならそれでいいが。

 忘れていたのなら……ふ、ふふ。


「せ、先生が笑っている……一体、ニンドゥに何が……あぁぁ楽しみだなぁ!」

「……旅行とか言って、騙されてねぇよな? なぁ?」

「……覚悟しただろう。今更言ってもおせぇよ。腹くくれ」

「ニンドゥ限定のお菓子に、ご当地の料理を食べ尽くす。ただそれだけ」

「もぉエルナったら……わ、私は先生と一緒に……ふふ」

「「…………アイツ(あの娘)も?」」

「……ふん」

 

 俺は楽しみに思う。

 そうして、飛行機は離陸し――ニンドゥへ向けて飛び立っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ