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【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい  作者: うどん


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032:祓魔師は計画を立てる

 早朝の時間。

 小鳥たちが囀り、鳥たちが鳴き声を上げて離れていく。

 金属同士がぶつかり合う音が響き、片手に新聞の朝刊を握りながら。

 俺はボケっと目の前で繰り広げられる化け物たちの争いを眺めていた。

 

 のどかな筈の新居の前では――激しく火花が散っていた。


 片やピンク色のエプロンを纏う桃色の髪のサイコ女、名を“クラーラ”という。

 奴は手にしたナタのようなものを激しく振り回し、目の前の女を切り刻もうとする。

 現役のケーニヒであり、その攻撃に迷いがないからこそ常人であれば捉える事も難しいだろう。

 が、相手の女はその攻撃の軌道を予測し自らの武器でその攻撃の軌道を逸らしていた。

 

 片や赤髪を背中まで伸ばして胸元が空いた黒い服を着る元殺し屋の母親、名を“デボラ”という。

 長い純白のスカートをはためかせながら、奴は踊るように舞っていた。

 奴は何処からか取り出した特殊な素材のアーミーナイフを振るい、奴の攻撃を全て捌いていた。

 とても速く、無駄の無い動きであり、流石は元殺し屋だとは思った……はぁ、クソがぁ。


「殺す殺す殺す殺す殺す――殺してやる」

「あらあら、随分とまぁ――お盛んですね」

「……」


 クラーラは目を大きく見開き殺気を放つ。

 デボラの方も笑みは浮かべているがその目だけは一切笑っていない。

 何故、ようやく立て直した俺の新築の前でこいつらは殺し合っているのか。


 思い出せば頭痛がひどくなる。

 チャイムを鳴らされたので出ればデボラの奴が立っていやがった。

 笑みを浮かべながら、引っ越しの挨拶だと抜かして。

 何故か、隣の空き家に引っ越してきやがった。


 放火事件よりも前の悪魔による街の襲撃。

 あれによって危険を感じた多くの住人が引っ越していった。

 隣の奴もそうであり、空き家にはなっていたが、まさかヤンの母親が引っ越して来るとは思わなかった。

 手土産に定番の高級タオルセットを持ってきやがった。

 まぁ一応は礼を伝えたが……態とだよなぁ?

 

 俺はすこぶる面倒な気配を感じたが、取り敢えずはスルーした。

 そうして、奴をさっさと帰らそうとすれば、朝飯はまだかと聞かれて。

 パジャマだから分かるだろうと視線で伝えれば、奴はもじもじとしながら朝飯を作りたいなどと言ってきた。

 

 別にそれはいい。

 何故か、引っ越し祝いと一緒に食材の入った袋を持っていたのもスルーだ。

 だが、その後にやって来たサイコ女と勝手にもめたのは見過ごせない。

 サイコな平常運転で俺の妻を名乗り、デボラの奴はそれを速攻で否定した。


『奥さんには見えませんが……誰かと間違っていませんか?』

『間違ってないよ? 私は奥さんだもん。お前は何? 嫌らしいメスの臭いをさせながらダーリンに近づかないで?』

『あらあら、脳内がお花畑の人には言われたくないですねぇ……頭の病院、紹介しましょうか? “自称”奥さん』

『――』


 そこからは一瞬だ。

 ブチぎれたクラーラが武器を生成し。

 デボラも武器を出して応戦を始めた。

 一応は、俺の家を破壊しないように離れてはいるが……うぜぇ。


 殺し合いなら場所を選んで欲しい。

 何故に俺の家の前でするのか意味不明だ。

 俺はそんな事を考えて……あ?


 奴らの戦闘を見る事無く。

 脇を通って歩いて来る人間がいた。

 器用に攻撃の余波を躱して歩いて来る姿はプロそのものだ。

 そいつは俺の家の敷地に入り、そのまま俺の前に立って――頭を下げた。


「マスター、お久しぶりです……これは、新居のお祝いです。どうぞ」

《ありがとうございます……で、何故ここに? クルト君》


 目の前の中世的な顔立ちの男……男だよな?


 クルトは戸惑っていた。

 鬼畜眼鏡から連絡が行っていなかったか聞かれて……あぁ。


《確か、私の補佐として修道院に……別に挨拶なんてしなくても良かったんですよ?》

「いえ、それはダメです。マスターがいらっしゃるのであれば、必ず挨拶をするのが常識です。マスターは偉大なるお方であり、粗相があってはなりません……どこぞのアホ共のように振舞えば、マスターの品位にも関わりますから」

《クルト君……君だけですよ。同じ祓魔師で私にストレスを掛けないのは》

「いえ、私なんて……ふふ」


 俺はクルトの頭を撫でる。

 すると、こいつは目を細めて嬉しそうに笑っていた。

 瞬間、二つの視線を感じてそちらを見れば……はぁぁ。


《もう気は済みましたか? だったら、早く私の前から消えなさい。殺しますよ?》

「……あの、そちらの方は? どういった……ご関係で?」

「……また、こいつだ……こいつさえ、消えれば……私が……」


 デボラは薄い笑みを浮かべ、クラーラはぶつぶつと何かを言っていた。

 俺はデボラにはただの仕事仲間である事を伝える。

 クラーラは放置であり、俺は取り敢えずは中で話そうとクルトを招き入れる。


「え、あ、私は!?」

「ダーリン!!」

《今日は帰ってください。じゃ》


 俺は面倒な奴らに別れを告げる。

 そうして、ゆっくりと扉を閉めていき――

 

「……ふっ」

「「――ッ!!」」


 扉を閉める一瞬、奴らが大きく目を見開いて殺気立っていたが。

 俺は無視をして扉を閉める。

 外ではアホ共がまた苛立ちを露にするように叫んでいたが。

 俺はそれを無視して、念の為に家に結界を張っておいた。

 ガンガンと結界を壊そうとしているのが分かるが無駄だ。

 簡単にやぶれるものではない……さて。


 クルトを適当に椅子に座らせる。

 俺も適当に座ってから、クルトの土産が何かを見て見た。

 紙袋の中に入っているのは豪華そうな木箱で――これはッ!


《日之国の純米大吟醸――大雪山ッ!!》

「マスターの御口にあえばいいのですが」

《あいますよ。えぇ、勿論です……ですが、これは一本で数千ユーロはすると聞きましたが》

「……マスターが喜んでいただけるのなら、お金など気にはなりませんから」

《クルト君……ありがとうございます。君はやはり、誰よりも私の事を理解してくれている》

「……っ! そ、そう言って頂けるだけで……う、嬉しいです。ふふ」


 クルトはにへらと笑う。

 その笑みはまるで女のようだが、こいつは男だ。

 本当にもったいないと思いつつ、俺は上等な酒を木箱に戻す。

 そうして、誰にも奪われないようにこっそりとベッドの下に隠しておいた……よし。


《それで、私の補佐の件ですが……そうですね。早速》

「――マスター、その前に支部長からお話が」

《…………また、仕事ですか? この前も、悪魔の群れを討伐した筈ですが》


 借りを返さなければと思って黙って仕事はしていたさ。

 しかし、昨日の今日でまた仕事とは穏やかじゃない。

 俺は今度は何かと不安に思いつつ、クルトに話すように言う。

 すると、奴は厳密には仕事では無いと前置きをし……あぁ?


「その、ケーニヒの……“ボブ・アーモンド”氏とマスターはお知り合いで」

《――違います。あの史上最低のゴミカスなんて記憶にも存在しませんよ。死んだんですか? それなら朗報ですね》

「……えっと、死んではいないと思いますが……アーモンド様が、三日前に消息を絶ちまして……支部長様が、マスターの力で何処にいるのかだけでも探してくれないかという……お願いを……はい」

「……」


 俺は舌を鳴らす……何で、俺が態々、あのカスを探しに行かないといけないのか。


 アイツは俺に対して不利益だけは送って来るが。

 利益となる事は一度たりとも齎した事は無い。


 ボブ・アーモンドというふざけた名前も“偽名”であり。

 奴の出身は元々は日之国だった。

 情報では会社員をしていたらしいが、会社の金を横領し警察に追われていた。

 元々、裏で運び屋のバイトもしていたから自業自得ではある。

 が、奴は才能だけはあり、独学で悪魔殺しの術を身に着けて。

 悪魔を殺しては契約を結んで金を搾り取り、殺す事を繰り返していた異常者だ。

 遂には奴の召喚に悪魔たちは応える事が無くなり、俺たちは奴を“ブラックリスト”と呼んでいた。


 俺が奴を引っ張ってきたが。

 それは適当に有能な人材を連れて来いと命令されたからで。

 面倒だから適当にアイツを対魔局に渡してやっただけだ。

 その結果、奴は金払いの良い祓魔師という職業を気に入り。

 ケーニヒの一人が殉職したこともあって、自らがその後釜についたという訳だ。


《……公園にはいなかったんですか? それか、奴が通っている“高級カジノ”は?》

「いえ、何処にもいませんでした……何故、彼は連絡用の端末を持っていないのですか?」

《いえ、元々は上から支給はされていましたが。アイツは自分の好きな事をする為ならば、他人の私物であろうとも平気で金に換えるクズですから……言っている意味は分かりますね?》

「はい、理解しました……ですが、彼は一体何処に……」


 クルトは顎に指を添えて考える……まぁ、多分“あそこ”だな。


《……良い機会ですから。彼らも連れて行きましょうか……“六連休”も近いですしね》

「……? 彼らとは……もしかして……」


 クルトは俺が誰を連れて行くのが分かったようだ。

 まぁ流石に何処に行くのかは分かっていないようだが……さて。


 そうと決まれば、色々と準備が必要だろう。

 校長への連絡もそうであり、生徒たちへの説明も必要だ。

 奴らの事だから、休みの日くらいは休ませろなどとほざくだろうが……俺には考えがある。


 どんなにぐーたらな馬であろうとも。

 目の前に極上のにんじんを垂らしてやれば、必死に走るものだ。

 教育は飴と鞭であり、俺は奴らにとって最高の飴を用意するだけだ。


 ……まぁテストの結果が散々で、文句も言ってたから息抜きには丁度いい。


 そんな事を考えながら、俺は朝飯の準備をしようとした。

 が、クルトはそれを察知して俺に待つように言う。


「私が御作りしますので、マスターは出勤の準備を」

《クルト君……本当に君はよく出来た人ですよ。あのクズにも君の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいです》


 クルトはにこりと笑ってデボラが置いていった食材の入った袋を取る。

 そうして、キッチンに立ってから調理器具の確認をして……まぁ俺も準備をするか。


 俺はパジャマのボタンを外す。

 そうして、上着を脱いでからそのまま下を脱ごうと……?


 視線を感じた。

 キッチンの方に目を向ければ、クルトは此方を見ていない。

 いや、一瞬顔がこっちを向いていた気がするが……気のせいだな。


 俺は下も脱いでパンツ一丁になる。

 そうして、脇腹を掻きながらスーツに着替えに行く。


「……ふふ」

「……?」


 振り返る……んあ?


 笑い声が聞こえた気がしたが。

 クルトは料理に掛かっている。

 俺は不気味の悪さを感じながらも、スーツに着替えていく。


 奴を探しにあの場所へ行く事になるが。

 そうなれば飛行機のチケット代が高くつくが……まぁ問題はない。

 

 知り合いに伝手がある。

 奴には貸しがあり、俺の頼みであれば断らないだろう。

 ちゃんと金は払うが、幾分かは安くしてもらう。

 そんな事を考えながら、俺はこれも考えようによってはバカンスだと思っておくことにした。

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