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【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい  作者: うどん


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20/134

020:祓魔師は絶望に沈む

「……」


 破壊された孤児院の中で。

 俺は静かに手を動かす。

 広げた布の上に、かき集めた“灰”を盛っていった。


 集めて、集めて、集めて……声が聞こえる気がした。


 ゆっくりと振り返る。

 すると、俺が生き返らせた餓鬼共と――“ケビン”が何かを言っている。


「――!」

「――!?」

 

 外の方を指さしていて、俺の服を摘まんで揺らしてきた。

 俺は奴らの手を振り払い、また散らばった灰を集めていった。


 時間を掛けて、丁寧に集めていく。

 俺が時間を掛けて集めた全てを。

 灰となった五十年を残す事無く……俺は布を掴む。


 丁寧に降り畳んでからそれを両手で抱えた。

 ゆっくりと立ち上がってから、よろよろと歩き始める。

 ガキどもは俺の前に立ちはだかって止めようとしてくる。

 が、俺はそれを無視して歩いていった。


 辛うじて存在する扉に手を掛ける。

 すると、扉はゆっくりと前に倒れていった。


 派手な音を立てて、砂埃が舞う。

 そのまま煙の中を歩いていけば、目の前で無数のフラッシュが発生した。

 罅だらけの眼鏡越しに周りを見れば、カメラを持った奴らや。

 マイクを持ちながらカメラの前で話している奴もいる。

 その他にも多くの野次馬がいて、俺に対してフラッシュを焚いていた……どうでもいい。


 俺は歩いていく。

 すると、俺に気づいた記者たちが押し寄せて来る。

 奴らは人の心も知らずに、づけづけとマイクを向けて質問をしてくる。


「今回の悪魔災害で孤児院が襲撃を受けて、貴方が此処にいる子供たちを殺害したと知らせを受けましたが?」

「此処にいた悪魔が、今回の事件の首謀者であり貴方がその悪魔を討ち取ったと聞きました。今のお気持ちは?」

「フーゴ・ベッカーさん! 修道院の教員である貴方が、何故、罪の無い子供たちを手に掛けたんですか!」

「子供たちを殺める事しか方法は無かったのですか? また、他の祓魔師の一般人への攻撃に対して、どのようにお考えですか!?」

「……」


 奴らは好きなように俺に質問を投げかける。

 まるで、質問された事は全て答えなければいけないと言わんばかりだ。

 無遠慮に人の心に土足で入り、失った人への心遣いも無い。

 自分たちが被害者で、俺たちが加害者だと言いたいのか……鬱陶しい。


 俺は刻印を起動する。

 そうして、周囲の“酸素”を奪う。

 すると、奴らは喋る事も出来ずに喉を抑えてもがき苦しみ始めた。

 それを見ていた野次馬たちは俺が暴走したと勘違いして。

 悲鳴を上げて逃げていく。

 俺はただただ藻掻いている奴らを冷めた目で見つめる。


「……」


 魔術を解く。

 すると、奴らは必死に呼吸を再開していた。

 俺はそんな奴らを踏み越えていく。


 こんな奴らなんてどうでもいい。

 俺は行かなければならない……俺にはやるべき事がある。


 

 ◇


 清潔感のあるビル内。

 白と青を基調とし、受付の近くにはハッピーライフ社のマスコットの像が立っている。

 出社する人間はまだいないが。

 受付のババアは机を指で叩き、両隣の警備員は面倒そうに欠伸を掻いていた。

 

「……はぁぁ、アンタさぁ? こんな朝っぱらに何ぃ? いやねぇ? うちは二十四時間シールと景品の交換を受け付けてますけどもさぁ。こんな時間にやって来て、灰を盛ってこられても何にも出来ないわけぇ。お分かり?」

「……」


 俺は紙を出す。

 そうして、ペンで字を書いていく。

 手は震えていて、字はすごく滲んでいた。

 それでも、俺はこれでプラチナム・シビレマメを食べさせて欲しいと願う。

 すると、嫌味な事しか言わない受付のババアは舌を鳴らす。


「無理! 無理なの! これの何処がシールなの? こんなので一々取り合ってたら、とっくにうちの会社は破産してるわよ! 詐欺にしても、もっと上手くやりなさいよ。このアンポンタンがぁ!」

「……」


 俺は紙を差し出す。

 震える手で、机の上に置いたそれを指さす。

 すると、ババアは深いため息を零す。


「……無理なものは無理ぃぃ……たく、まぁアンタのその同情を誘う姿は完璧だよ。だから、親切心で一つ、教えてあげるわ」

「……?」


 ババアは耳を貸すように言ってくる。

 俺は今更、何を言うのかと思ったが。

 嫌な予感がしたからこそ、聞かざるを得ないと考えた。


「あのね。プラチナム・シビレマメは……もう“誰も食べられなくなる”んだよ」

「……!」

「何でも材料が仕入れられなくなたっとかでね。残りは上の連中が接待用に取っておくとか何とか会議で決めたらしくてねぇ……今月中にでも発表があるからさ、アンタも詐欺なんかやめて。他の幸せってやつを見つけなぁ?」


 ババアはにたにたと笑いながら言う。

 俺はその話を信じられなかった。

 だからこそ、ペンが折れる程の力で拳を握り。

 ババアに怒りを込めた視線を送る。

 

「……っ」

「ちょっと、何よその顔は……はぁぁ、ほんとこの時間は碌な奴が来ないんだから……ちょっと! アンタたち! ぼけっと突っ立ってないで、さっさと仕事をしな!!」


 受付の近くに立つ警備員二人。

 面倒そうな顔をしながら、二人は俺の脇を抱える。

 俺は抵抗する力も無くし、そのまま会社の外へと連行された。

 そうして、そのまま乱暴に投げ捨てられた。


「次は、ちゃんとシールを集めてきな……集められるだけの金があるのならな?」

「はは、ひっでぇ!」

「……」


 奴らは俺を嘲笑いながら建物の中に戻っていく。

 俺は地面に転がりながら、全身を震わせた。

 何とかなけなしの力を込めて、立ち上がる。

 視線を上に向ければ分厚い雲が掛かっているが……朝の五,六時くらいか。


 街から街を歩いて移動し、ハッピーライフ社がある本社まで来た。

 靴はボロボロで、服も破れまくっている。

 眼鏡は罅塗れで、見れたものではないだろう……もう、いい。


 俺は視線を前に戻す。

 そうして、よろよろと体を揺らしながら何処に行くでもなく歩き出す。

 歩いて、歩いて、歩いて……雨が降り始めた。


 ぽつぽつと降り始める。

 次第に雨脚が強くなっていく。


「――?」

「――!」

「……」

 

 何処かの大通りを歩いていた。

 周りの学生や社会人たちは、俺の姿を不審そうに見ていた。

 俺はそんな視線にも何も思う事無く。

 ただただ地面を見ながら歩いていた。


 歩いて、歩いて、歩いて……通行人と肩がぶつかる。


「あ、大丈夫……っ」

「……」


 スーツを着た男が声を掛けて来た。

 が、俺の目を見て彼は引きつった顔のまま足早に去っていく。


 傘を差す事も無く。

 ボロボロの格好の男が一人で歩いている……さぞ、不気味だろう。


 俺は道の真ん中で、ゆっくりと体を起こす。

 全身が雨に打たれていても、冷たさは感じない。

 息苦しさも熱っぽさも、不快感も怒りも……何も、感じない。

 

 両膝を地面につく。

 そうして、俺は地面を見つめて――天を仰ぎ見た。



 

「――ッ――ッ!! ――ッ――ッ!!!」



 

 声は出ない。

 ただただ掠れた空気の音を漏らしながら。

 俺は雨に打たれ続けた。

 目から流れるのが涙なのか、雨なのかも自分には分からない。


 俺は泣き続けた。

 如何に自分であろうとも、失ったものを取り戻す事は出来ない。

 どんなに悪魔を殺せたとしても、俺の五十年は帰ってこない。

 


 

 必死に生きて、必死に頑張って――こんな“結末”だと?




「――――ッ!!!」


 

 ふざけるな。ふざけるなふざけるなふざけるな――ふざけんじゃねぇッ!!!


 

 何度も何度も地面に拳を打ち付ける。

 何度も何度も怒りと悲しみを乗せた拳を振るう。

 地面には亀裂が走り、周りの人間は短い悲鳴を上げる。

 中には端末を取り出して、写真を撮ったり通報している奴もいる……好きにしろ。


 もう、どうでもいい。

 もう、抵抗する力も無い。


 俺はただただ悲しみに暮れて。

 ただただ自分という存在の無能さに呆れていた。


 

 人類最強? 人類の希望? はは――笑えねぇよ。


 

 どんなに力があっても。

 どんなに強さを磨いたとしても。

 俺が一番大切にしているものは守れやしない。

 俺は奪われ続けて、その度に、涙を流し物にあたる事しか出来ない。


 最強なんかじゃない。

 希望ですらない……俺は、ちっぽけなんだ。


 俺は両手で顔を覆う。

 そうして、雨に打たれ続けて……“雨が、止んだ”。


「……?」


 俺は両手を顔から離し、ゆっくりと顔を上げた。

 すると、俺の前にはピンク色の傘を持った――サイコ女が立っていた。


 奴は笑みを浮かべている。

 そうして、ジッと俺を見つめていた。


「……風邪、引いちゃうよ?」

「……」


 奴の目には俺が映っている。

 何処までも汚く、何処までも惨めな面をしていた。

 そんな俺を見ても、こいつは俺に対する感情を無くさない。

 俺は奴を睨む。怒りのままに殺気を放ち――奴が片手を差し出す。


 

 にこりと笑いながら――奴は言葉を発する。


 

「……帰ろう」

「……」


 

 俺は奴を睨む。

 が、もう怒りすらも湧いてこない。


 俺は奴の手を払いのけた。

 そうして、その場から立ち上がる。

 奴はそんな俺の態度も気に留めずに。

 横で傘を差しながらついてきた。


 俺の心はどんぞこだ。

 今なら、この女が何をしても、俺は碌に抵抗もしないだろう。

 この女もそれを理解している筈だ。

 それなのに、この女は何時ものように自らの欲望を吐き出さない。

 ただ隣に立って歩いているだけだった……何だよ、それ。


 俺を憐れんでいるのか?

 俺がそこまで惨めに見えたか?


 あぁそうだろうさ……どうとでも思えばいい。


 俺は薄く笑う。

 すると、奴は前を見ながら俺にお願いをしてきた。


「家に行ってもいい? ダーリンにプレゼントがあるの」

「……」


 俺は無視する。

 頷く事も否定する事もしない。

 奴はそんな俺を見る事無く笑っていた。

 俺が何と言っても、こいつはついて来るんだろう。

 だったら、これ以上は余計な力を使いたくない。


 俺は色褪せた世界を見つめる。

 あの悪魔の力で感じられた繊細さはとっくに消えていた。

 全てが偽物で、全てが空虚で……俺は全てに絶望していた。

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