019:祓魔師は敵を殺す(side:ランベルト→ドォルマンダァ)
「……」
苛立ちを隠す事も無く、舌を鳴らす。
その間にも、敵は“鏡の中を移動し”攻撃を仕掛けて来る……ムカつくな。
異界化された孤児院へと侵入すれば。
一瞬にして、俺の周りは無数の鏡が浮かぶ異質な空間に変わった。
迷路のようなものではない。
この空間はそれを作り出した悪魔の戦闘スタイルに合わせたものだ。
その証拠に、異名付きと思わしき悪魔は俺に姿を晒す事無く攻撃を繰り返していた。
攻撃手段は魔力弾によるものや。
魔力で作り上げた細い糸のようなものを放つだけだ。
気配を断ち、死角からの攻撃が多いが。
それ自体は脅威ではない。
本気を出せば、周囲の鏡ごと潰す事だって出来る――が、今は出来ない。
「――!!」
「――!?」
「……」
無数の鏡が浮かび上がる空間で。
悪魔以外の存在を確認した。
それは孤児院のガキどもであり、奴にとっての人質だった。
ガキどもは鏡を叩きながら何かを喚いていた。
が、声は完全に遮断されているようで口の動きだけで何を言っているのかを予想するしか出来ない。
まぁ助けてであったり死にたくないくらいなので戦いには関係ない。
全員ではないが、確実に人質として使う為に生かしておいたんだろう。
荒っぽい方法を使えばすぐに助け出せない事も無いが……それも出来ない。
《――!!》
「……っ」
ガキの中には、ケビンがいた。
それも奴は真っすぐに俺を見ながらシールの張られた紙を持っている。
――そう、シールをアイツが持っているんだ。
もしも、俺が荒っぽい方法で奴を救出しようものなら。
確実にシールは原型を留めていないだろう。
死んだ奴なら蘇生できるが、破壊されたモノの修復だけは俺には出来ない。
悪魔が笑う。
瞬間、俺の四方八方から糸が放たれた。
それが俺の体に纏わりつき、俺の体を一気に締め付けて――それらを引きちぎる。
《ほぉ、やはり出来ますね……そうでなくては、面白くないッ!》
《そう言うのなら、さっさと出てきてください。そして、子供たちを解放してください》
《はは、それは出来ませんねぇ。何せ、彼らは貴方の動きを制限する枷なのですからねぇ》
俺は舌を鳴らす。
すると、鏡の中の奴が消える。
そうして、鏡たちが一斉に輝き始めた。
俺は目を瞑り、目潰しであろう光を遮る。
気配を感じた。
鏡の中から何かが飛び出した気配で。
俺はその動きに合わせるように動く。
獣のような動きで、それらの攻撃を紙一重で回避。
そのまま銃を持った手で地面に触れて縦に回転する。
そうして、飛び上がりながら銃口を敵に向けて――!
攻撃を中断する。
そうして、そのまま背後から迫った敵の攻撃を腕を振って弾く。
そのまま足で蹴りつけて吹き飛ばした。
俺は地面に着地しゆっくりと目を開けた……はぁ、マジかよ。
「あ、あぁ……たす、けて……」
「い、たい、よぉ……い、だぃ」
「こ、わぃ……ご、あぃ、よぉ……」
視線を周りに向ければ、嫌でも目に付く。
見た事がある顔であるが、そのどれもが異様な姿をしていた。
頭が三つであったり、手足が異様に長かったり。
狼のようなものと一体化している者や蜘蛛のような姿になり果てた者もいる……餓鬼共だ。
奴らは殺された。
体を食い破られた者もいて。
だらりと床に自らの臓物をぶちまけていやがる。
こいつらをこんな目に遭わせた畜生は、俺の反応が愉快だと言わんばかりに笑っていた……胸糞クソ悪りぃなぁ。
俺はゆっくりと銃口を向ける。
すると、俺が銃口を向けるガキの屍はたらりと涙を流す。
死にたくない、助けて……違うな。
アレはあの餓鬼の言葉じゃない。
アレは死体から音を出しているだけだ。
あの中には魂は無く、アレはただの動く肉人形でしかない。
《我が傀儡たちよ……その男を殺して見せなさい》
「「「あ、あぁ、ぁぁ……アアァァ――ッ!!」」」
屍たちが動き出す――速いな。
一瞬にして背後を取られた。
爪を伸ばして俺の心臓を狙い――回避。
残像を貫いた敵。
その頭部に銃口を向けて――その場にしゃがむ。
頭に向かって飛んできた弾丸。
それは屍の一人が飛ばしたものだ。
口からバレルのようなものが伸びていて――閃光が迸る。
多量の光の弾が飛ぶ。
横へと転がるように回避。
そのまま地面を滑りながら、敵に向かって銃弾を放つ。
が、俺の放った弾丸は敵の体をすり抜けた――否、触れる筈の個所に穴が開いていた。
まるで、スライムだ。
ぐにゃりと体を変形させながら、奴らはすぐに体を作り直す。
人面の狼となり、奴らは唸り声を上げながら俺を追いかけて来た。
そんな奴らに向かって銃口を向けて弾丸を放つ。
奴らは俺の弾丸を飛んで回避し、そのまま回転しながら襲い掛かって来た。
銃をクロスさせて一体目の攻撃を防ぐ。
ギャリギャリと銃の表面を削り取ろうとするほどの衝撃だ。
そのまま敵を力任せに弾き、続く二体目三体目は横へと飛ぶ事で避けた。
屍たちはそのまま地面を高速で移動する。
俺も移動しながら――危機を感じ上を見る。
蜘蛛の糸のようなものが吐かれていた。
それらが俺の視界を覆うように広がっていった。
俺は刻印の一つを起動し、体から炎を発生させた。
それらが蜘蛛の糸を全て焼き切り、死角から襲い掛かってこようとした屍をも燃やす。
そのまま思考で炎を操り、蛇のように動くそれで屍たちを攻撃した。
奴らは逃げる事も出来ずに、その体を燃やされて行った。
悲鳴が聞こえる。
ガキどもの声であり、痛みや苦しみを訴えかけている。
俺らはそれらを静かに見つめながら。
「――」
声の出ない口を動かす。そうして、心の中で祈りを紡ぐ。
そうして、軸足を基点に回転し一発の銃弾を放つ。
放たれた弾丸は円を描くように飛ぶ。
そうして、燃えて苦しんでいる屍たちの頭部を貫通していった。
屍たちは頭部を破裂させて、そのまま沈黙する。
俺は息をつく間もなく、銃口を鏡の中の悪魔へと向けて――引き金を引く。
マズルフラッシュと共に放たれた銀弾。
それは鏡の中で笑っていた悪魔の眉間を精確に撃ち抜く。
奴は驚きの表情のまま、破片となってバラバラになる。
瞬間、全身の毛が逆立ったように感じた。
《そういう事ですか》
《ふ、ふふ……流石に理解が早い》
此処からでは外の様子は伺い知れない。
が、奴の儀式によって紅月が召喚されたのは分かった。
用意された贄は、この街で死んだ人間の魂やこの悪魔が連れて来た仲間たちだろう。
俺と戦いながらも、儀式を進めていたのか。
恐らくは、鏡の中でこそこそとしていたのも儀式を悟られない為で……抜け目がねぇな。
奴の狙いは最初からそれだ。
紅月を出す事で己の能力を高める事が目的だった。
その証拠に、鏡の中にいる奴の目は真っ赤に輝き内包する魔力も溢れ出していた。
……まぁ、関係ない……殺し方はもう――“分かった”から。
俺はだらりと両手を下げる。
そうして、刻印の一つを発動させようとして――自然と奴の手に視線が吸い込まれて行く。
鏡の中の奴が持つ木箱。
奴は邪悪な笑みを浮かべながら、それを力任せに破壊する。
そうして、現れたのは奇妙な形をした短剣だった。
が、それを見た瞬間にその異様な力を理解した――いや、俺は“アレを知っている”。
《英雄殺し、これさえあれば不滅の存在であろうとも――等しく殺せる》
《無駄ですよ。それに意味は無い》
《さぁそれはどうですかね――“鏡合わせ”》
奴が呪文を唱えた。
そうして、奴が持っている武器が動き出し――鏡の中の人質のガキの体に刺さる。
《――!!!?》
「……?」
ガキは痛みからもだえ苦しむ。
が、それが何の意味があるのかと見て――ガキの体から赤黒い光が発せられた。
途轍もない魔力の流れであり。
鏡が砕け散り、光の発信源となったガキが宙に浮く。
それが異界化された空間を破壊し、光の奔流が天に昇っていく。
そうして、天には奇妙な文様が広がっていって……っ!
「……っ!」
心臓を抑える。
すると、奇妙な違和感を俺は抱いていた。
心臓の鼓動は正常だ。
脳も思考できるので問題ない。
違和感の正体は――“死を感じる”事だ。
吸い込む空気の味が鮮明で。
見る景色の光景が鮮やかで。
体が発するほのかな熱が確かに感じられる……あぁ、なるほど。
これは確かに、俺を殺せるだけのものかもしれない。
不滅であろうとも有効的だろう。
俺はたらりと汗を流して視線を悪魔に向ける。
奴はくつくつと笑いながら、ゆっくりと指を動かし――光を発するガキの腕に魔力の線を放つ。
腕を貫かれたガキ。
血が噴き出していて、それと同時に俺の腕にも穴が開いて血が噴き出した……これは!
《我が能力は死人を操る力……そして、我が魔術は鏡の世界の支配者となるもの……そに二つを合わせれば、目に見えぬ世界――“
魂の世界”を繋ぐ力へとなる》
《感覚の同期……いえ、二つを一つに繋ぐものですか》
恐らく、奴の特異能力と魔術だけでは俺を殺す事は出来ない。
が、英雄殺しというアイテムを使う事によって。
不死をも殺せるという力を自らの力に上書きし――俺を殺せるものへと昇華させた。
何処にでもいるガキと俺の魂が同じになる事は無い。
だからこそ、通常の手段では二つが重なる事なんてある筈もない。
が、奴はそれを理解した上でアレを用意していた――が、それでも関係ない。
俺はこれから奴が行うであろう事を無視する。
魔術を発動させて掛かる時間はおよそ五秒ほどだろう。
俺はすぐに刻印を起動しようと――!!
またしても意識が削がれる。
それもその筈であり、今度は英雄殺しを使っていない筈のケビンたちからも赤黒い光が発せられていた。
奴はにたりと笑いながら、ガキどもを解放し、ゆっくりと自分の鏡の前に集めた。
《一人でも十分でしょう。ですが、相手は他でもない貴方だ――“保険”は大事でしょう?》
「……!」
俺は瞬時に奴が何をしようとしているのかを理解した。
だからこそ、俺は瞬時に刻印を起動し魔術を――ぐぅ!!?
ガキどもの足が一斉に捻じ曲げられた。
瞬間、俺の足がぶちぶちと引きちぎられた。
血が噴き出し、その場に俺は転がる。
痛みはガキの分だけ上乗せさせられて、再生の力も封じられた。
俺はそれでも銃口を奴へと向けて――ガキどもの腕が捻じ曲げられた。
銃を持っていた腕が吹き飛ばされた。
くるくると愛銃が宙を舞い。
一瞬にしてもう片方も同じ方法で吹き飛ばされた。
再生が出来ない。当然だ、感覚が同じなのだから今の状態では再生は不可能だ。
俺は血反吐を吐きながらも地面に転がる。
そうして、目を大きく見開きながらケビンを見る。
アイツはあんな状態でも、シールの紙を口で噛んでいた。
絶対に離さないように、絶対に無くさないように。
俺との約束を記憶しており、必死であり――奴の手がケビンの頭に触れる。
俺は怒りのままに叫ぶ。
《その子に触れるなッ!!!》
「ははは、そこまでしてこの子の事を……血濡れの天使が愛する子がどういう存在であるかは気になりますが……これ以上は時間の無駄ですね」
「う、うう、う、ううう、おじ、さ、ん……っ! アアアアアアァァァ――ッ!!!!」
ケビンの体から火が出た。
それは一気にケビンの体を包み込む。
それと同時に、俺の体からも火が噴き出した。
熱い、熱い、熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い――あぁ、俺たちのシールがッ!!
俺は限界まで見開いた目でケビンとシールを見つめる。
もはや、チョーカーは壊れて音も出ない。
俺はただただ絶望の表情でケビンたちを見つめていた。
口から離れたシールの紙には炎が燃え移り、それがハラハラと宙を舞う。
まるで、枯れ葉のように目の前に落ちて、灰となって……あ、あぁ、そんな……嘘だ……あ、ああぁぁ。
「く、ふふふ――ハハハハハハハ!!! 良い!! 良い!! その顔が――見たかったんだァ!!」
奴はケビンの頭を乱暴に掴む。
そうして、ギリギリと力を込めていった。
俺は激しい頭の痛みを感じながら、ただただケビンを見つめていた。
視界が赤色に染まり、悪魔は邪悪な笑みで俺を見つめていて――あぁ、やっぱりだ。
“俺が幸せを掴む時”――“何時だってお前たちが俺を邪魔する”。
“俺が報われる時”――“何時だってお前たちが全てを奪っていく”。
“俺が掴むはずだった成功”――“お前たちが台無しにするんだ”。
悪魔が、悪魔も、悪魔こそ、悪魔だから――――あぁ、そうだな。
お前たちはこの世に――――“存在してはいけないんだ”。
〇
ぶちゅりと人間の子供の頭が潰れる。
瞬間、他の子どもの頭も潰れて――血濡れの天使は絶命した。
頭が無くなり、ゆっくりとその場に倒れる。
ぴくぴくと痙攣した後――沈黙した。
子供の死体がべしゃりと地面に打ち付けられる。
私は手を顔の前に持っていき、舌で血を舐めとる……まずいな。
混ぜり物の味だ。飲めたものではない。
私は唾と共に吐き捨てる。
そうして、ゆっくりと地面に降りていった。
地面に足をつけてからコツコツと靴の音を鳴らしながら死体に近づいた。
死体の前に立つ。
「……ふっ」
視線を死体に向ける――死んでいる。
死体は動かない。
再生する予兆も無い。
転がっているだけで、既に魂すらもそこにはない。
完全に消えていて、完全に――死に絶えていた。
私はゆっくりと片手で顔を覆う。
笑みが零れそうで、抑えきれない感情が噴き出して――天を仰ぎ見た。
「ハハハハハハハ!!! この、私が!!! この私こそが――人類を絶望に叩き落したのだッ!!!」
私は勝利を宣言する。
血濡れの天使は死んだ。
もう奴が蘇る事は無い。
それを成したのは十手でも黒翼でもない――この死軍のドォルマンダァ様だァ!!
愉快痛快――全身が震える。
これほどまでに喜びを感じた事は未だかつてない。
それもその筈であり、この男を殺す事がどれほどの偉業かは悪魔たちであれば誰でも分かる。
無数の悪魔がこいつに挑んで、羽虫を落とすように殺された事か……が、私は違った。
私は勝った。
圧倒的で、完璧に――“この男を殺した”。
「私が、私こそが――新時代の悪魔を統べる王に相応しいのだァ!!」
あぁ、ダメだ。
魔王様に聞かれれば私は殺されてしまう。
が、自然と口が動いてしまう。
今という瞬間が、私の心を大きくしてしまっている。
私は必死に自らの体を掻き抱きながら。
漏れ出す感情を押さえつける。
何度か呼吸をし……もう、いいだろう。
この街で出来る事は十分にした。
これ以上、此処でする事は何も無い。
残った悪魔たちに命を下し、急ぎ此処を離れる。
そうして、地獄へと帰還し、この事を報告せねば……ふ、ふふふ。
私は顔をニヤつかせながら、死体から背を向けて異界化を解こうと……?
手を上げた。
そうして、異界化を解こうとして――違和感を抱く。
何が、どれが……“手が、震えていた”。
いや、手だけじゃない……“足も、体も、震えている”。
何故なのか。高揚から来るものか……いや、違う。
先ほどまで感じていたのは確かな高揚感だった。
が、今感じているのはそれではない。
熱を感じていた心は一気に凍り付き、大きくなっていた心は縮み上がる。
何故、何故、何故、何故何故何故何故何故何故何故何故――私はゆっくりと振り返った。
「…………ぇ?」
そこには無い。何も――――“いなかった”。
私は呆気にとられながら、自らの眼を擦ろうと――出来なかった。
視線を腕に向ければ――半ばから切り落とされていた。
「――ウガアアァァァ!!? な、何が――ッ!!?」
気配のする方向に視線を向ける。
すると、底冷えするような冷たい目で私を見つめる――“死”がそこにいた。
奴の手には私の腕が握られている。
私は瞬時に鏡の中に逃れようとした――が、出来ない。
鏡には障壁があるようで。
私の体は勢いよく弾かれた。
これは魔術によるもので――まさか!?
私は異界化を解こうとした。
が、異界化は解けない。
これは私が作り出したものではなく――奴が“書き換えた結界”だ。
私は腕を再生する。
そうして、人間の擬態から悪魔本来の体に変わる。
雄叫びを上げながら、私は奴へと飛び掛かり――心臓が跳ねる。
奴はジッと私を見つめていた。
そのまま私は奴の体を押しつぶそうとして――空を切る。
「――グゥゥッ!!?」
否、両手が一瞬にして――“切断された”。
鮮血が噴き出し、私は痛みに表情を曇らせた。
奴に視線を向ければ、その手にはいつの間にか二つの短剣を握っている。
奴は表情一つ変えない。ただ私を冷たい目で見つめて――あぁ、そうだ。
何故、私は気づけなかった。
いや、気づいていた筈なのに、それを無視した。
こいつは“死”だ――“死、そのものだ”。
死という概念を殺せる筈が無い。
死という存在が、私如きで消せる筈が無い。
心臓の鼓動が早くなっていく。
全身から汗が吹き出し、呼吸が荒くなっていく。
目の前の存在は殺気を放つ訳でもなく。
静かに私を見つめていて――私は叫んだ。
「アアアアアアァァァァァ――ッ!!!!!」
「……」
高速で移動する。
残像が無数に出現し、ケーニヒであろうとも捉えきれない速度で駆ける。
そうして、四方八方から奴に向かって拳を打ち付けた。
肉を打つ音、骨が破壊される音。
確かな手応えであり、確実に死ぬほどのダメージを与えていた。
奴の体から血が噴き出し、がふりと吐血していた。
私は笑みを深めながら、更に攻撃のスピードを高める。
全力であり、必死であり――――あぁ?
視線が動く。
目線が低くなっていて――理解した。
今まで見ていたものは――“幻”だと。
私が見たかっただけの――“あり得ない世界”だと。
恐怖と絶望が――私に“残酷な夢”を見せていたのだと。
「アガァァ――――ッ!!!?」
全身に焼けるような痛みが走る。
私は瞬時に体を再生させて――背後を振り返る。
おぞましいほどの存在感。
殺気は放っていない。私の事もその目は見ていない。
闇よりも暗い瞳には何も映ってはいない。
奴は無表情で、静かに武器を持っていた。
恐怖だ。底の見えない恐怖が――心を沈めていく。
見えない。否、見たくはない。
が、奴から視線を逸らせない。逸らした瞬間に――私は終わる。
「――っ」
「……」
奴は短剣を強く握る。
そうして、その腕が消えて――私の体が一瞬で細切れにされた。
無数の斬撃。私よりも何十倍も速い速度。
目では捉えきれない。回避しようにも逃れられない。
再生しようとも間に合わない。
再生した瞬間に、瞬時に解体される。
再生、切断、再生、切断切断再生切断切断再生切断切断切断切断切切切切切――何も感じない。
私は何度も何度も奴の斬撃によって体をバラバラにされた。
心が死んでいくのが分かる中で――魔力を一気に解き放つ。
奴の動きが一瞬だけ止まる。
その隙を見逃す事無く後ろに飛ぶ。
そうして、地面を滑りながら後退し、両手を奴に向けた。
「この死にぞこないがァァァァ――――ッ!!!!!」
「……」
奴に向かって魔力弾による攻撃を放つ。
連続して放てば奴に当たり、凄まじい爆風を発生させていた。
私は必死に奴が死ぬことを願う。
何度も何度も願いながら、魔力弾を放ち続けた。
強く、叫ぶ。
喉が破けるほどの叫ぶ。
叫んで叫んで――叫び続けた。
何度も、何度も、何度も――
何度も何度も何度も何度も何度も何度も――――
何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度何度――――――
「――黙れ」
声が、聞こえた。
低い男の声で、それを聞いた瞬間に――“全身の力が抜けた”。
ゆっくりと倒れていく。
否、視線が地面に近づいていく。
そうして、手をつく事も出来ずに私は地面を転がった。
ころころと玉のように転がり――それが見えた。
私の体が蒸気を発している。
そうして、砂の城のようにぽろぽろと崩れて行っていた。
万を超える斬撃と、心が死に絶えるほどの苦痛。
それが私を、この私を――死へと導いた。
コツ、コツ、コツと靴の音が聞こえる。
私は表情を引きつらせながら、ゆっくりと視線を上に向けた。
ゆっくり、ゆっくりと。
すると、そこには――暗い瞳をした男が立っていた。
「あ、ああ、ぁぁ、あぁ……お前は、お前、は……一体、何なんだ……お前が、人間で、ある筈が」
奴はその場に屈む。
そうして、私の顔を上に向けた。
ゆっくりと私の目に短剣を向けながら近づけて来る。
眼球に短剣が触れて、強い痛みと共に視界が真っ赤に染まり――
「人間だ。そして――お前たちを殺す存在だ」
「あがぁ、ああぁぁ、ぁああ――――…………」
私は涙を流す。
そうして、最期に見る男の顔を記憶する。
勝てない。否、戦ってはいけない。
こいつは次元が違う。
こいつは人間でも悪魔でもない。
こいつは、この男は、我々にとって、の――――…………




