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【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい  作者: うどん


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017:祓魔師は仕事に掛かる(side:ケビン→ランベルト)

 窓も無い部屋。

 多くのものが積まれて少し狭く感じる場所。

 掃除もあまりしていないせいか埃っぽくてじめじめとしている。

 それは此処に人があまり来ない事を示していた。


 ほのかに灯った蝋燭の火。

 それを頼りに、僕は手を動かし続けた。

 

 此処は物を隠すにはうってつけで。

 いじめっ子のジミーたちでも此処に隠した僕のお宝は盗る事は出来ない。

 僕は五年もの間、ずっと耐えて来た。

 パパとママが悪魔によって殺されて、入りたくも無い孤児院に入れられて。

 それでも、僕はずっとずっと耐えて来たんだ。


 全てはプラチナム・シビレマメを食べる為だ。


『パパ! ママ! 見て! また当たったよ!』

『すごいぞケビン! お前はやっぱり世界で一番のラッキーボーイだ!』

『ケビンがもし大人になったら、お金持ちになってるかもしれないわねぇ。ふふ』

『その時は、僕が二人の為にいーっぱい、プレゼントを買ってあげるからね!』

『ふふ、えぇ楽しみにしているわ』

『パパも楽しみにしているぞ! でも、もっと楽しみなのは――ケビンの成長だけどな』

 

 パパはそう言って僕の頭を優しく撫でてくれた。

 ママも僕の頬を優しく撫でてくれて……大丈夫。


 僕は生きている。

 僕は世界で一番運が良いんだ。

 だから、だから……何があっても生き残るからね。


 僕の両目から涙が零れる。

 僕はそれを乱暴に拭った。

 そうして、最後のシールを紙に貼っていく。

 

「……これと、これで……よし! 出来たぞ!」


 皆が寝静まった時間。

 僕はベッドから抜け出して、物置部屋にやって来た。

 そこで大切に保管しておいたシールの枚数を確認し。

 それらをハッピーライフ社に持っていく為の専用の紙に貼れば――完成だ。


 合計で二百ポイントを少し超えるほどのポイント数。

 ギリギリだったけど、それでもポイントは溜まった。

 これで、おじさんとの約束は果たせそうだけど……おじさんは約束を守ってくれるのかな?


 最初に会った時は、僕を出し抜こうとする感じがした。

 お世辞にも信用していいような人には見えなかった。

 けど、少しの間、おじさんと一緒にいて……少しは信用していいと思えた。


 すごく怖いし、恐ろしく見えるけど。

 根は真面目な人で、僕たちの事もよく見ていた。

 孤児院の人たちはこういったら何だけど……すごく適当だから。


 お世話をしてくれる人たちはお金を貰う為に嫌々来ていると分かる感じで。

 僕たちの事についてはあまり関心は無い。

 院長先生も、よくやって来る州首長と話してる時はご機嫌だ。

 お客さんが来た時も大抵は笑顔で対応している。

 他の人にとったら評判は良いかもしれないけど。

 あの人は気に入らない事があれば、僕たちにあたる癖がある。

 難癖付けてお仕置き部屋へと連れて行って、僕たちに対して棒で叩くような事をする。

 逃げ出す子もいたにはいたけど、すぐに連れ戻されてもっとひどい目に遭わされるんだ。


 ……誰もあの人には逆らえない。大人たちは頼りにならない。


 でも、僕は我慢できる。

 孤児院にずっといなくてはならない事は無いんだ。

 引き取ってくれる人が現れなくても。

 働ける歳になれば、そのまま独り立ち出来るんだから。

 だからこそ、それまでは院長先生にとっての良い子を演じていればいい。


 シール集めもバレていない。

 パパとママの形見だって取られてはいないんだ。

 だから、僕はまだまだ頑張れる。


「……?」


 それにしても、さっきから妙な音が聞こえる。

 微かに人の声が聞こえていたような気がした。

 此処は物置部屋であり、物が多く置いてあるせいで外の音は聞こえにくくなっている。

 この前は千人もいて騒いでいたから声は聞こえていたけど、今は僕たちだけだ。

 

 もしかして、誰かが起きて僕がベッドにいない事を院長先生に報告したのか……それなら、すぐ戻らないと!


 僕はシールを箱の中に隠そうと……いや、ダメだ。


 もしも、此処から僕が出てきたことがバレたら。

 絶対に院長先生は怪しんでここを探す筈だ。

 そうなったら、僕のシールは絶対に没収される。

 院長先生の事だから、すぐにこのシールが何か調べるだろう。

 価値があるものだと分かれば、院長先生は間違いなく売ってしまうかもしれない。

 そうなったら、最悪の場合、僕はもう二度とシビレマメが買えなくなる……それだけは嫌だ。


「……先ずは、様子を見ておこう」


 もしも、探していないのであれば箱に戻す。

 探しているのなら、持って行って別の場所に隠そうか。

 そんな事を思いながら、僕は立ち上がり、扉の方に近寄っていった。


 

 扉へと近づけば、どんどん声がハッキリと聞こえてくる……?


 声というよりは――“悲鳴”?


 

 誰なのかは分からないけど。

 泣き叫ぶような声だった。

 そう認識した瞬間に、僕の心臓の鼓動はどんどん早くなっていく。

 呼吸が苦しくなっていき、僕は紙を握りしめないようにしながら。

 ゆっくり、ゆっくりと扉に近づいて……ゆっくりと外の様子を――ッ!?


「あ、ああぁ、く、来るな。来るな――あああぁぁ!!!?」

「……っ!」


 扉の隙間から見えた光景。

 それはいじめっこのジミーが彼の取り巻きに――“食べられる姿だった”。


 取り巻きたちは一心不乱にジミーの太った体に噛みつく。

 そうして、子供とは思えないような力でジミーの肉を噛みちぎっていた。

 彼は恐怖と痛みから絶叫し、口から血の泡を吹いていた。

 必死に手足をばたつかせていたが、徐々にそれが小さくなって……完全に静かになる。


 僕は両手で口を押えながらその光景を見ていた。

 やがて、取り巻きたちが離れたかと思えば。

 死んだはずのジミーが体をバキバキとさせながら立ち上がる。

 その口からは涎を垂らしていて、目は完全に焦点が定まっていない。


 ……知っている。見た事がある……アレは、“ゾンビ”だ。


 映画のポスターで見たゾンビそのものだ。

 生きている人間に襲い掛かって、そいつを食べて。

 食べられた人間はゾンビになって蘇る。

 ゾンビは数を増やしながら、次々に生存者を襲うんだ。


 ゾンビになった彼らは別のところから聞こえた悲鳴に反応し奇妙な動きで走っていった。

 僕は慌てて扉を閉めてから、一体何が起きているのかを考えた。


 ゾンビなんてフィクションの世界のものだと思っていた……いや、でも、あり得る話ではある。


 悪魔がいて、奴らの中には死体を蘇らせる事が出来る存在もいるらしい。

 だったら、ゾンビとして使役する事だって無理な話じゃない……てことは、あれは悪魔の仕業なのか?


 悪魔が孤児院を襲った。

 そうして、恐らくだけど僕以外の生き残りは……頭を左右に振る。


 兎に角、此処を動かない方が良い。

 すぐに祓魔師が気づいてくれる筈だ。

 悪魔たちの事はあの人たちが一番詳しいんだ。

 きっと祓魔師さんたちが悪魔を退治してくれる。

 僕はそれまで此処から動かない方が良い。

 下手に動けば、さっきのジミーのようになってしまう……僕は、まだ死ぬわけにはいかないんだ。


 生きて、プラチナム・シビレマメを食べに行く。

 約束したんだ、おじさんと!


 僕はシールの紙を両手で守る。

 命を懸けてでも守るんだ。

 僕はそう思いながら、ゆっくりと扉から離れて――


 

 

「――おやおや、こんな所にも一匹いましたか」

「え?」


 

 

 僕はゆっくりと後ろを振り返って――勢いよく何かが当たる。


 瞬間、僕に触れた何かが勢いよく弾かれた。

 僕はゆっくりと目を開けて……あ、あぁ。


「ほぉ結界ですか。それもかなりの……やはり、情報は正しかったようですねぇ」

「あ、ああ、ぁぁ……あく、ま」


 目の前に立つ男。

 見かけは濃い青色のスーツに赤いネクタイをつけた老紳士だ。

 銀色の恐怖で叫んでいるような人間の表情を象った持ち手の黒いステッキを持っている。

 皺があり、髪も髭も白いが、優しそうな笑みを浮かべていた。

 でも、僕は一目見た瞬間に理解した――これは悪魔だと。


 笑みを浮かべているのに。

 僕を見る視線は完全に家畜を見るように冷たい。

 そして、片手から出ている赤黒い電気のようなものは僕を殺せる何かだ。

 何が起きたのかは分からないけど、僕を何かが守ってくれた。

 悪魔はそれを認識して、ステッキに両手を置きながら興味深そうに見ていた。


「貴方、もしや……血濡れの天使と面識があるんじゃないですか?」

「ち、血濡れの天使……? そ、そうだよ! だから、僕に指一本でも触れようものなら……そ、その……た、たたじゃ済まないよ!」


 僕は威勢よく奴を脅す……本当は嘘だ。


 多くの孤児院があの人から多くの寄付金を貰っているそうだけど。

 あの人が孤児院に顔を出した事は一度も無い。

 僕だって動画とかで見るくらいで会った事なんて無いんだ。

 でも、この悪魔は何故か、僕が彼と知り合いだと勘違いをしている。

 悪魔たちはあの人の事を恐れているんだ。だからこそ、知り合いだと言えばこの悪魔も――奴は大きく笑う。


「そうですか、そうですか……それなら良かった」

「え? な、何が……っ!!」


 奴が手を振る。

 瞬間、僕の体に触れようとしてまた何かが遮る。

 バチバチと音を立てながら、悪魔の手はどんどん焼かれて行く。

 僕は恐怖を感じながらも、もしかしたらと思って――僕の頭を悪魔の手が触れた。


 

「まさか、自分は安全だ……そう思いましたか?」

「……っ!!?」


 

 悪魔の手はボロボロだ。

 でも、一瞬でその手が元通りになる。


「探知も兼ねていたようですが、私に掛かれば悟られずに破壊する事など造作もありません」

「あ、あぁ、ぁぁ、い、いや、だぁ」

「安心してください。貴方はすぐには殺しません。貴方には重要な――役目がありますからね」



 悪魔は笑う。

 そうして、僕の頭の中に何かが流れ込んでくるのが分かった。

 僕はただただ恐怖で震えながら、此処にはいないおじさんの顔を思い浮かべた――――…………


 

 〇

 

 

「……っ!」


 やべぇ――興奮して眠れねぇ!


 いよいよだ。

 いよいよ、明日になれば俺が求めていたものを味わえる。

 伝説の料理人が遺したレシピの一つ。

 それを更に進化させた神の一品だ……あぁ考えただけで涎が止まらねぇな。


 俺はベッドに横になりながら天井を見つめる。

 アレからずっと考えていた。

 もしも、プラチナム・シビレマメを食べたら……その後はどうするかを。


 人生で一度きりの体験になるだろう。

 一度食べれば俺は満足してしまうからな。

 そうして、幸福を手に入れた後……その後は俺を何を目標にすればいい?


 ガキどもの育成は仕事だからやっているだけだ。

 修道院での生活には満足しているものの。

 それでも、何時かは俺は祓魔師としてまた前線で戦う事になるだろう。

 どれだけいい結果を齎そうとも、この時間を伸ばす事しか出来ない。

 何時かは悪魔も対策を練って再び現世へと大軍を引き連れて来るだろう……それこそ、“スタンピード”のようにな。


 そうなれば、俺はいよいよ教師としては生活できなくなる。

 そう考えるのであれば…………いや、いい。


 未来の事なんて俺には分からねぇ。

 例え、これで目的の一つが無くなったとしても……俺は俺だ。


 どうせ、死ぬ事は無いんだ。

 辛いだけの人生であっても、何時かは幸せが手に入る。

 そう考えられるのであれば、きっとまた、俺は何か小さな事を目標にしちまうんだろう。


 

 

『――!』

「……」


 


 脳裏に過った遥か昔の記憶。

 馬鹿みたいに笑って、馬鹿みたいな話をする男の顔が思い浮かんだ……まだ、覚えてるのかよ。


 アイツの事は忘れたくても忘れられねぇ。

 毎日が幸せだと言わんばかりに笑って。

 最後の最後まで、アイツは幸せそうな面で逝っちまいやがった。

 本当にムカつく野郎であり……偶には愚痴でも聞いてもらうしかねぇな。


 プラチナムを食べた後、久しぶりにアイツに会いに行ってやろう。

 そうして、この事を自慢してやればいい。

 アイツはきっとこんな話でも笑って聞いてくれるんだろう。

 俺はそんな事を考えながら、何度目かになるのか瞼を閉じて眠りに――!


 瞬間、警報が鳴り響く。

 俺は飛び起きてから、すぐに窓の方に駆け寄る。

 ガラガラと開けてから外を確認すれば――悪魔か。


 街に設置されている警報装置。

 それは大規模な災害が発生した場合か悪魔による大規模な侵攻が発生した場合にのみ使用される。

 地震でないのであれば、百パーセント悪魔による侵攻が発生したと言う事で――スマホが鳴る。


 俺はすぐに机に駆け寄る。

 そして、通話を開始すれば鬼畜眼鏡の声が聞こえた。


《すでに気づいているね――すぐに出動して欲しい。行動は君に任せる》


 俺はスマホを一回叩く。

 すると、鬼畜眼鏡は説明を始めた。


《敵の数は不明。が、恐らくは“異名付き(ネームド)”がいる筈だ。謎の力によって市民がゾンビのような状態となり、人々を襲っている。三名のダーメが部隊を指揮して、市民の避難誘導と悪魔とゾンビの討伐にあたっている。ケーニヒ“夢幻躯動(むげんくどう)”も単独で殲滅作業にあたっているよ》

「……」


 サイコ女がいるのなら……殲滅作戦に問題は無い。


 スマホで説明を受けながら、俺は着替えを進めていく。

 本来であれば、戦闘服に着替えるところではあるが。

 あいにくとアレは目立ってしまう。

 悪魔の目的が何かは分からないが。

 あの格好で俺が駆けつければ、悪魔たちはすぐに行動を変える可能性が高い。


 敵の数が不明と態々いったんだ。

 恐らくは、伏兵として市民の中に紛れているのか。

 或いは、何かしらの作戦行動を与えられてこの混乱に乗じて動いている可能性が高い。

 そう考えるのであれば、ただでさえそこに立っているだけで悪魔共の視線を引くあの格好はまずい。

 俺の行動が読まれていないのであれば、普段の教師としての姿で事にあたった方が行動もし易いだろう。


 行動を任せるのであれば、俺は別に殲滅作戦に加わる必要は無いということだ。

 それならば、俺はすぐに敵の司令塔を叩く方に回った方が良い。

 俺はそう結論付けてから、ネクタイを結ぶ事も無く。

 髪を魔術によって金髪に変えた。

 そうして、眼鏡を掛けてから普段の教師姿のまま外に出る。

 視線を向ければ、市民たちが慌てた様子で寝間着姿のまま逃げて行っていた。


《まさか、こんなにもあからさまな襲撃をしてくるなんてね……敵の狙いは君かもしれない。十分に用心してくれ……それじゃ、見当を祈る》

「……」


 俺は通話を切る。

 そうして、チョーカーを起動する。

 耳にはオペレーターとの連絡用の通信機をつけていた。

 それをタップによって起動し――繋がる。


《久しぶりだね。元気だったかい――ろくでなし》

《元気ですよ。貴方もまだくたばっていないようで安心しましたよ、カーラ》


 互いに軽口を言い合う。

 すると、カーラは口笛を吹く。


《それがアンタの声なのかい……まぁ何でもいいさ。それじゃ、仕事と行こうかね》

《頼みましたよ》


 俺はそう答えながら、虚空から愛銃を取り出す。

 マッドブラックのバカでかいオートマチック拳銃。

 対悪魔殲滅兵器――“ツイン・イヴァルディ”。


 俺はそれを両手で持ちながら――大地を蹴る。


 大きく上に飛びながら、確認された悪魔の場所を送るように指示する。

 すると、コンタクト型の小型ディスプレイに敵の位置が表示される。

 それを確認し、カーラの分析を聞き終える前に――加速。


 目に映った景色が一気に変わる。

 そうして、俺はそのままビルの一つへと――突っ込む。


「「「――ッ!?」」」

「……」


 ビルの中には無数の悪魔がいた。

 息を潜めて、そこから街を見下ろしていたようだった。

 最上級が一体に上級が五体――照準を定める。


 間髪入れずに発砲。

 バカでかい爆発音を響かせながら、“12.5mm聖浄徹甲弾”が発射される。

 それは精確に最上級の悪魔の眉間をぶち抜き――頭が破裂した。


 他の悪魔が視線を俺に向けようとしている刹那。

 その間に俺は流れるように銃を乱射し、全て敵の頭部を撃ち抜く。

 奴らは頭を破裂させて、肉片を周りに飛び散らせる。

 一秒にも満たない僅かの間、最上級を含む六体の悪魔の討伐が完了した……が、違う。


《カーラ、敵が多くいる場所は?》

《そこから南東五キロの場所だ》


 俺は彼女の言葉を聞き、割れた窓から外へと出る。

 突風が吹く中で夜の街を見れば、至るところで火災が発生していた。

 昼間のような明るさでは無いが、それでも地獄のようとは言えるかもしれない。

 俺はそんな事を考えながらも、空を蹴って空を翔ける。

 ビルから離れて南東の方向を見れば、複数の爆発が発生していた。

 俺はそれを確認してから、街の中を走る“電車”に視線を向ける。


《カーラ、走行中の電車を発見しました。民間人の反応は?》

《あるよ――が、ダミーだね》


 カーラは俺と同じ考えだった。

 俺はにやりと笑い、そのまま電車に向かって加速した。

 そうして、そのまま電車の上に立ち――弾を発射する。


 電車内にいた人間に擬態した悪魔たち。

 それらの姿を直接見る事無く、精確に急所を撃ち抜く。

 ガスガスと連続して音が響き、窓を破って後方の車両から悪魔が飛んできた。

 そちらに視線を向ける事無く弾丸を発射――が、敵は躱す。


「馬鹿がァァ!!!」

《――貴方がね》


 俺がそう言った瞬間、敵の心臓を――弾丸が撃ち抜く。


 敵は俺の近くを転がっていき、そのまま先頭から転がり落ちて引き潰された。

 俺の弾丸は魔術によってホーミング機能に似た性質を持つ。

 俺がもしも、血濡れの天使だとバレていれば奴も警戒していただろう……まぁ今のは上級だがな。


 最上級は確認できない。

 さきほどのビルの奴が司令塔とも思えなかった。

 アレは最上級ではあるもののなり立てであり。

 経験は浅いように感じた。

 移動する電車内であれば、悪魔を潜伏されていると思ったが……こいつらも司令塔ではない。


 複数のダミーを用意している。

 連絡を取らせない為に速攻で始末はしたが……恐らくは、二回の奇襲で俺が来た事はバレただろう。


 動きが変わった気配はしないが。

 警戒は確実にされた事は分かる。

 ディスプレイを確認しながらカーラの説明を聞けば……やはりか。


 今までは派手に暴れれていた悪魔たち。

 それが動きを変えて、ゾンビによる特攻を主軸に切り替えていた。


《気をつけな。ゾンビになった奴らは動く爆弾だ。その体液を飲んだり、傷口に触れるだけでもお仲間さ……すでに祓魔師の中にも感染者が出ちまっている》

《対防御陣形を組ませて、遠距離からの砲撃で戦うでしょうね》


 聖人の中でも遠距離武装を主軸に戦うだろう。

 が、それでは接近戦をするよりも時間が掛かる……敵の狙いは時間稼ぎか。


 カーラと通信しながらゾンビの動きについて簡単な説明を求める。

 すると、フィクションの世界のようにのろのろと来るのではなく。

 飛んだり跳ねたりするようであり、その動きはかなりトリッキーのようだ。

 肉体の本来持つ動きを可能とさせて、その人間の能力が高ければ高いほどに厄介な存在になる。

 祓魔師のゾンビともなれば、その動きは予測できないほどのもので……なるほど。


 時間稼ぎをしながら、此方の戦力を取り組む。

 狙いは未だに不明ではあるが、おおよその見当はつく……“儀式”だな。


 悪魔が時間稼ぎをする時は。

 大抵が何かを召喚する時である場合が高い。

 召喚ともなれば、呼び出す存在によって時間の掛かり具合は変わって来る。

 時間を掛けて準備をしている訳でも無いのなら、恐らくは――!


 悪魔の気配を察知――そこから飛ぶ。


 空から飛来した黒い魔力の塊。

 それが走行中の電車に当たり――爆発した。


 派手な音を立てて、電車の残骸が散らばる。

 建物にそれらが当たり破壊され、瓦礫が道に転がっていく。

 俺はそれを一瞥しながら、空中でマガジンを排出しそのまま虚空にマガジンを出し流れるように装填した。

 そのまま滑るように交差点の真ん中に着地する。

 すると、俺を上から見下ろす悪魔たちがいた……最上級が三体か。


 周りは上級や中級で固めて……いや、ゾンビも沸いているな。


 最上級たちは完全に俺の事が認識できていた。

 言葉を交わす事も無く――攻撃を始める。


 無数の魔力弾が降り注ぎ、俺は結界を全面に展開。

 瞬間、魔力弾が触れた結界から無数の爆発音とスパーク音が鳴り響く。

 それを確認してから、俺は照準を定めて――放つ。


 俺の結界を弾がすり抜ける。

 そうして、最上級の一体に迫り――奴が躱す。


「追尾してくるぞッ!」

「あぁッ!!」


 奴らは理解しているようだった。

 背後から迫る弾丸を避けたかと思えば。

 そのまま弾丸に向かって魔力弾を放つ。

 それにより、俺の弾丸は破壊された。


 俺はそれを確認してから、結界を解除。

 そのまま雑魚共の中へと突っ込む。

 奴らは恐怖に染まった顔で俺を見ながらも、自らを鼓舞するように叫び――肉片と化す。


 トップスピードで駆け抜ける。

 俺が移動するだけで、奴らは肉片と化していった。

 ゾンビも同じであり、次々と殲滅していく。

 上空の悪魔たちはそんな俺に掌を向けて魔力弾による攻撃を行う。

 が、俺の後ばかりにそれらが当たっていく。


 奴らは舌を鳴らしながら、自らの特異能力を使おうと――させねぇよ。


 俺はそのまま一気に奴らに接近。

 眼前にいた悪魔の一人に向かって照準を合わせて――移動する。


「――ッ!?」


 奴らが俺を誘い込んだ。

 それが分かっていたからこそ、敢えて間合いに入った。

 その瞬間に俺がいた空間が大きくねじ曲がっていくように見えた。

 空間に作用するタイプの能力であるが――弱い。

 

 俺はそのまま奴らの背後に立つ。

 そうして、空中で腕を動かし銃口を悪魔たちに向けて――弾丸を乱射する。


 派手な音を立てながら、強烈なリコイルによって体が揺れるように感じた。

 が、魔術によって体勢を安定させながら俺は撃ち続ける。

 十発放たれた弾丸が奴らの体を精確に射貫く。

 一体は胴体と頭に命中し、確実に爆散した。

 が、残り二体は弾が触れた手足を一瞬で引きちぎった。

 弾が当たった個所は破裂し、奴らが千切った残りの体はそのまま再生――否、“別れて四体の悪魔”となる。


 分裂の能力であり、魔力量は大きく減退していた。

 それでも、奴らは俺の周りを高速で飛び。

 そのまま全力で魔力弾を放つ。

 魔力弾により発生した煙が広がっていき、奴らはそれでも攻撃を続けていた。

 その光景を奴らの“背後”から俺は見ていた。


「――ッ! 兄者ッ!」

「な――ッ!?」

「……」


 俺は無言のまま弾丸を――放つ。


 呆気にとられた悪魔の片割れ。

 その頭部を精確に撃ち抜く。

 瞬間、悪魔の体はぶくぶくと膨れて――爆散した。


 生き残った片割れが逃走を選択する。

 分裂体が俺へと飛び掛かって来て――目の前で潰した。


 重力操作によって空き缶を潰すようにだ。

 そうして、そのまま豆粒ほどになった奴へと照準を定めて――弾を放つ。


 俺の弾丸は真っすぐに飛んでいき。

 そのまま背後を振り返った奴の頭部を撃ち抜いた。

 奴はそのままひらひらと落下し、そのまま破裂した。

 その光景を見届けてから、俺は地上がひどい血だまりになっている事に気づく……支援部隊も大変だな。


 最上級はこれで四体仕留めた。

 が、あの中にも司令塔と思わしきう奴はいない……やっぱ異名付きだな。面倒だな。


 殺せる事は殺せるが。

 奴らが俺と戦おうとする時は、大抵は手の込んだ何かを用意してくる。

 だからこそ、さっさと殺したくても手間が掛かっちまう。

 今回の奴も大方、俺を殺せる何かを用意したんだろうが……くだらねぇな。


 そんなものがあるのなら、俺はとっくに“試していた”だろうさ。

 それでも、生きているのがそれらが無駄であった事の証明で……何だ?


 一瞬、体から違和感を抱いた。

 奴らの血によるものではない。

 毒でも外敵からの魔術によるものでもない……これは、俺がつけた術式によるものだ。


 ガキどもの反応は分かる。

 悪魔とは戦ってはいない。

 危険な状態でもない。

 だとするとケビンであり……僅かに感じるな。


 上手い事、気配を隠している。

 集中しなければ分からないほどで……こいつだな。


 手練れであり、こんな事が出来るのは異名クラスだろう。

 ケビンは死んでいない。死んでいたら、そもそも俺の術も消えている。

 生きているという事は十中八九が……誘っていやがるな。


 俺は危険性を考えたが。

 ケビンの事は見殺しには出来ない。

 いや、ケビンでなくとも仕事であるのなら一般人は助けるのが基本だ。

 相手は俺の術を見破り、ケビンを生かす選択をしたんだろうが。

 一体、どんな面倒な事を企んでいるのか……はぁ。


 俺はため息を吐きそうなのを堪える。

 そうして、カーラと通信を繋ぎ孤児院に敵の最高戦力がいるであろうことを突き止める。

 カーラはすぐに現地の状況を確認し――舌を鳴らす。


《どうやら、当たりみたいだね。サーチを掛けたら、異界化の反応で出たよ》

《面倒ですね……そちらの殲滅が終わり次第、支援部隊を此方に回してください》

《どれくらいだい?》

《――十分で片付けます》


 俺はそう言って通信を切る。

 そうして、俺の睡眠を奪ったカスを殺しに孤児院へと向かった。

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