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【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい  作者: うどん


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013:祓魔師は変態たちに悩む

「「「……」」」


 男二人と女が一人……無言で雑炊を食っていた。


 初めて食べる食い物で。

 出汁でべしょべしょとした米なんか美味いのかと思ったが。

 これはこれで中々に美味いと思った。


 鳥ガラベースの出汁に、醬油などで味を調えて。

 卵を流し込んでから、頃合いを見て混ぜるだけの簡単な料理らしい。

 後は刻んだネギや海苔などを散らしてから、梅なんかも入れたら良いようだった。

 これを作ったのはアデリナであり、あの後、飛び起きるように目覚めたかと思えば。

 俺の枕を撫でて何やら頬を染めていた……何もしてねぇよ。


 そうして、青い作業服の校長がやって来たが。

 彼は最初は部屋の惨状を目の当たりにして大きく取り乱していた。

 説明がくそほど面倒だとは思ったが、取り敢えずは厄介なストーカーがこれをしたとだけ伝えた。

 彼は怯えて震えながらも俺の身を案じていた。

 問題ない事を伝えておけば、取り敢えずは納得して工具などで扉の修復を始めた。

 扉はあっという間に修復されて、強度なども少し上げてみたと言っていた。

 後で自分でやろうと思っていた壁などに飛び散った血の処理もしてくれた……すげぇ。


 アデリナは料理をして。

 元々沢山食べるからと食材を買っていたようで、校長の分も問題なくあった。

 校長は最初は遠慮して帰ろうとしていたが。

 如何に俺という人間がクズであろうとも、ただ働きをさせて帰らせるのは忍びない。

 だからこそ、ビール……は、車を運転していたので断られたのでアデリナの雑炊を食わせてやった……うめぇ。


 梅干しとやらは入っていないが。

 代わりに小さく刻んだ鶏肉が入っている。

 脂身の少ないものなのでそこは不満だが。

 まぁ病人だと思っていたのなら仕方ないと思った。


 後は簡単なサラダであったり、ツマミとなるキュウリの浅漬けとやらだ。


 アデリナはちらちらと俺を見ている。

 校長の方も、俺とアデリナを交互にチラ見していた……はぁ。


《何ですか?》

「「え?」」

《さっきからチラチラ見て……何か聞きたい事があるんですか?》


 俺は飯を食いながら問いかける。

 すると、二人は顔を見合わせてから頷いていた。


「あ、あの……何故、先生の家にアデリナさんが? まさか、そのストーカというのは」

「ち、違います! 私じゃなくて、他の女の人で……て、それだよ!! あの女の人は何者なの!? どういう関係!? 本当に奥さんなの!?」

《叫ばないでください。奥さんではありません。友人でもありません。アレはただの“災い”です》

「……えっと、もしかして、先生にお弁当を届けに来てくれた女性の方ですか? ゴリ先生から聞いていましたが……その方があれを?」


 校長はようやく犯人を理解したようだ。

 対して、アデリナは俺の言葉が信じられないと言った目を向けて来る。

 アイツがいると何時もこれだ。

 場をかき乱すだけかき乱してから何処かに行って。

 戻って来たかと思えば、既成事実を作ろうとしてくる。


《アレは自分を私の妻だと勝手に認識している精神異常者です。現役の祓魔師で、認めたくありませんが……実力はそれなりにあります》

「それなりって……先生が言うくらいだから、トゥルムとか?」

「おぉトゥルム、世界でも五千人ほどしかいないとされる方々ですかぁ」


 二人は勝手に奴をトゥルムだと言う。

 校長はともかく、相対しても実力が理解できないアデリナを冷めた目で俺は見る。

 まぁ学生の上に、まだそれほど実力者を見ていないから仕方ないがな。

 俺は雑炊を食いながら、奴の階級を明かした。



 

《アレはトゥルムではありません――“ケーニヒ”です》

「「…………へ?」」



 

 目を点にし、ポロリとスプーンを落とす二人……汚ねぇな。


 俺は眉を顰めながらもさっさと拾えと二人を睨む。

 が、二人は放心したままであった……そんなに驚く事かぁ?


 俺は無言で雑炊を食う。

 そうして、空になった器に目の前の大なべからお代わりをよそう。

 湯気が昇る熱々の雑炊を口いっぱいに頬張りながら。

 俺は残っていたシビレマメを食べる……うん、良い。


「……ハッ! けけけけケーニヒ!? うううう嘘!? 嘘だよね!? なななな何でそんな人が先生のぉ!!?」

「けけけけぇけぇぇにぃぃひぃぃぃ!!? 血濡れの天使様が現れるまでは祓魔師にとって最高位の地位であったあのケーニヒ!!? 世界で十三人しかいないああああぁぅぁあのおおおお方たちの一人ぃぃぃ!!?」

《はい、ケーニヒです。後、血濡れの天使はトップではありません。一番地位が低い奴隷のようなものです》

「「――――ッ!!!?」」

「……?」


 二人は両手を狭しなく動かす。

 そうして、ジェスチャーで俺に静かにするように言う……あぁ?


「け、ケーニヒはともかく……血濡れの天使様の事を悪く言うのはダメですよ! あの方は人類の希望であり、人類の守護者なのですから……もしも、熱心な彼の崇拝者に聞かれでもしたら、死よりも恐ろしい目に……うぅ」

「私でも分かる事だよ? 小学校とか中学校でも、絶対に一人はあの人の熱心なファンとかはいたしさ……先生が強いって言ってもダメだからね?」

《……? 私は事実を言ったまでですよ?》

「「……はぁ」」


 二人はやれやれと首を左右に振る……ムカつくぜ。


 確かに、公式ではモナートは祓魔師の中でも最高位の階級だ。

 誰しもがそう信じて疑っていないだろう。

 だが、実体はそうではなく名ばかりの地位であり。

 奴隷のようにこき使われて休む暇もなく仕事をさせられる奴がつく階級だ。

 その上、誰よりも高い筈の給金は九十五パーセントも寄付金に回されてるんだぞ?

 支払われるのは高額な保険とかを差っ引いて……まぁ大体三千ユーロにも届かないくらいだな。


 死亡保険なんていらねぇんだよ。

 俺はほぼ死なねぇのに、元が取れる日は絶対に来ない。

 そんなものに月に千ユーロも持っていくなんて馬鹿じゃねぇのか?

 そもそも、俺には配偶者どころか両親や兄弟すらいねぇんだぞ?

 誰に対して支払われる保険なのかと紙に書いて聞いてやれば身寄りの無い子供たちだと抜かしやがったからな。


 事務の奴らは俺の話をまるで聞いていない。

 元々、寄付だってしたくなかったが。

 他の奴らが俺に対して白い目を向けたり文句を言ってくるかもしれないと思ってだ。

 九十五パーセントは残すようにちゃんとした紙に書いて提出した筈だった。

 しかし、蓋を開けてみれば逆にもっていきやがったのだ……マジでぶっ殺すぞ?


 それからは時間も無いからこそ、結んだ契約を変更する事も出来ず。

 金を使う時間もそんなに無いからと俺は諦めていた。

 現在も俺の給料は寄付される事になっているが……もうどうでもいい。


 今更、契約を変更してだ。

 もしも、それが影響して今の職を失うのは嫌だ。

 どうせ妙な思考をする奴らの事だ。

 俺が寄付をやめたいなんて言えば、何かを勘ぐって俺にとって最悪の結果を招く事になるだろう。間違いねぇ。


 考えるだけで胃がむかむかとする。

 俺は乱暴に飯を掻っ込み咀嚼し飲み込む。

 そうして、ビールが空になったので新しいのを取りに行く。


「……まぁ先生が凄い人だって事は分かったよ……先生ってさ。祓魔師として働いていた時ってどうだったの?」

「あぁ、それは私も気になりますね。アントホルンの所属で優秀な方だったと支部長様から聞いていましたがぁ」

「えぇぇ!? あの精鋭ぞろいってニュースでも言われているアントホルンの!? すごいすごい!」


 奴らは俺の過去を知りたがっていた。

 普段であれば面倒くさくて誰にも話さないが。

 今の俺はムカついていたので愚痴のつもりで聞かせてやることにした。


《地獄ですよ。来る日も来る日も悪魔を殺して、悪魔の軍勢とも戦って。心が擦り切れていくのが分かりました。同期たちは全員死んで、残った私だけが永遠に戦う事を強いられる……辞めようかと思った事もありました。が、私は祓魔師としていなければいけなかった……殺して、殺して、殺して。明日の事を考えれば、真面に眠る事も出来ない……新人だったり、この前までいた人間が。次の日にはいなくなっていて……羨ましいと、私は思いました》

「「…………っ」」


 自分で話していてマジもんのブラックだと思った。

 次から次へと任務を言い渡されて世界中を飛び回り。

 終わりの見えない労働に心がどんどん枯れ果てていく。

 同期たちは戦死であったり寿命であったりで死んだしよぉ。

 辞めようって思っても、上層部がすんなり俺を辞めさせる筈がねぇ。

 その上、一応はまだ呪いを解く方法を探しているらしいしなぁ……はぁぁ。


 マジでやっと寝られるって思ってもよぉ。

 目を閉じて開けて、朝になればまた地獄の奴隷生活が幕を開けるって思えば……軽い不眠症にもなるだろうよ。


 新人は殉職でぽっといなくなっちまう奴もいたさ。

 そんな奴らはまぁ運が無くて仕方ねぇとは思うよ?

 だが、生き残った奴で今どきの連中ってのは一度の実戦で大体が怖気づいちまう。

 そのまま退職代行サービスなるものを使って辞める奴らばっかりだよ。

 ベテランの中には怪我や年齢を理由に引退する奴もいたしな。

 最近、アイツら見かけねぇなぁと思ってたら職場恋愛の末に結婚する奴もいて……俺に何も言わずにだぞ?


 妬ましいし腹立たしいし……でも、すげぇ羨ましかった。


 俺も結婚でもして子供を作れば引退できるかと思ったさ。

 けど、俺に好意を抱くような変わりものの女はゼロだ。

 いたとしても、面が良い人間の皮を被ったサイコくらいだからな……やってらんねぇよ。


《でも、今は違う……私は今の仕事が好きです。心からそう思っています……本当に毎日が楽しいです》

「……! 先生……うん、私も楽しいよ!」

「ぅ、ぅぅ……ベッカー先生……あぁダメだ。この歳になってから、どうにも涙もろく……やはり、貴方を迎え入れられた事は間違っていなかった」

《……? そうですよ。当然です》


 何か感動したような生暖かい目を俺に向ける二人。

 この仕事は大好きであり、ガキどもを痛めつける事でストレスを発散。

 そうして、メニューをこなしていくにつれてガキ共の体も兵器として完成されて行く。

 結果を出せば、あの鬼畜眼鏡が俺をどうこうする事は出来ない。

 暇な時間はゲーム三昧の上に、隠れて酒を飲む事も出来ちまう……本当に、毎日が楽しいなぁ。ふはは!


「……でも、大丈夫?」

《何がですか?》

「あの人、また来るって言ってたけど……先生はいいの?」


 アデリナは何か嫌そうな顔をしている。

 恐らくは、奴が頻繁に入り浸り勝手に掃除やら飯やらを作るようになれば。

 自分の仕事を奪われて用済みであると判断される事を恐れているのだろう。


 俺はくすりと笑う。


《心配はいりませんよ。私にとってアレはゴミでしかありません。貴方の代わりには絶対になりませんし、貴方の邪魔もさせません》

「……っ! そ、そっか……へへ、へへへ」

「……ベッカー先生……その、そういう事は……い、いえ。そうですね……私は、何も知らないと言う事で」

「……?」


 急に何を言ってるのかと思う。

 すると、校長は飯と缶ジュースの礼を言って立ち上がる。

 取り敢えずは、あのストーカー女を見かけたらやんわりと帰ってもらうように促すと言ってくれた……良い奴じゃねぇか。


 今まではただのデブだと思っていたが。

 付き合いを重ねる内に、校長という存在が俺にとって癒しのように感じる。

 休むと言ってもあっさりと承諾してくれて、家が破壊されれば時間を作って直してくれる。

 飯も奢ってくれそうな上に、今までで俺に上から発言もしていない……あれ、理想的な上司じゃねぇか?


 校長という存在の株が俺の中で上がった。

 校長はジッと見つめられていて首を傾げていた。

 俺はハッとして、そろそろ帰る校長を一応は見送ろうと立ち上がり――彼が思い出したように声を出す。


「そういえば、先生は新任ですので知らないと思いますが……近々、ちょっとしたイベントがありましてね」

《イベント? 何でしょうか》

「いえ、そこまで難しいイベントではないのですが……修道院では定期的に孤児院にいる子供たちと生徒を触れ合わせるイベントを設けておりましてね。まぁ祓魔師になって市民を守るという心を少しでも高めてくれるようにと……生徒との触れ合いはまだですが。事前にクラス担任の方々には孤児院へと行って貰ってそこの院長さんであったり職員の方々と話し合って貰ったり、子供たちの要望を聞く業務があるんですよ」

《なるほど……それで、触れ合う期間はどれくらいですか?》

「そうですね……今回は三日ほどと考えています。先生方には明日の授業が終了次第、早速、孤児院へと行って貰う事になります……あ、勿論その分の残業代は出るので! えぇ!」

「……」


 また面倒そうなイベントではあるが……まぁいい。

 

 教師として参加しなければならないのなら従う。

 適当に話して適当に要望を叶えてやりゃ十分だろう。

 俺はそう考えながら、去っていく校長を見送った……さて。


 扉を閉めて、鍵を閉める。

 アデリナを見れば、未だににやにやとしていた。

 俺は飯を食って片づけをしたらすぐに帰るように奴に伝える。

 ズボンのポケットから財布を出して今月分の小遣いを出して奴の前に置いてやった。


「……! こ、こんなに……いいの? 私そんなに」

《黙って受け取りなさい。これは命令です》


 先に支払っておけば後々面倒にはならない。

 回を重ねるごとにつけあがる場合もあるが。

 その時は教育的指導によって心を入れ替えさせるだけだ。

 俺が無言の圧を掛ければ、奴は両手で紙幣を握って俺を拝んできた……それでいい。


「……よし! じゃ、片づけをしてから洗濯物も片しておくね……そ、その……下着も……」

《一々言わなくてもいいです。それが貴方の仕事なんですから》

「う、うん…………私の事、女として…………」


 ぶつぶつと小声で文句を言うアデリナ……全く。


 内心では男の下着何て洗うのは嫌だろう。

 俺だって他人の下着を洗うなんて絶対に嫌だ。

 自分のものであろうとも洗濯という行為自体面倒くさい。

 が、奴には既に金を支払っている。

 拒否権は無く、嫌ならば金を返してもらう……いや、ダメだな。


 此処で金を奪い返せば、奴はまたしても深夜帯のバイトを始めるかもしれない。

 下手をすれば、あの時のクソのような存在がこいつに何かをしようと考える場合もある。

 そうなれば絶対に修道院が事情を知り、俺のエデンは……チッ。


 俺はすこぶる嫌そうな顔をして奴を睨む。


《……アデリナさん。嫌だったら、下着だけは私が》

「――ううん!! 嫌じゃないよ!! 嫌じゃない!! 寧ろ嬉しいっ、て……っ!?」

「……」


 何かを言おうとして両手で口を押えた。

 が、顔は耳まで真っ赤で……え、マジかよ。


 こいつは自分よりも年上の野郎のパンツを洗濯するのが好きなのか。

 絶対に寧ろ嬉しいって言った筈で……やべぇな。


 あのおかっぱのエゴンと並ぶほどの変態性。

 ビッチの類かもしれないが、それならもっと飢えた獣の様に振舞うだろう。


 隠れビッチか、下着で興奮するかで……はぁ、何で俺の周りの女はこんなのばっかなんだぁ?


 神が存在するのであれば、これは試練なのか。

 俺の元へとやべぇ存在を集める試練で……だとしたら、俺が神をぶっ殺す。


 そんな事を考えながら、俺は煙草の箱を出す。

 一本出してからマッチで火をつける。

 そうして、軽くふかしていた……はぁ、鬱だ。

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